雄英体育祭当日、本日の雄英はどんちゃん騒ぎ。多くの人々が学校に押し寄せる。私達は体操服着用で控え室でまだかまだかとその時を待つ。
「皆! 準備はできてるか? もうじき入場だ!」
委員長が呼びに来たので椅子から立ち、軽く伸びをする。この日の為に調整した義足も大丈夫そうだ。
「英護」
「なに、焦凍?」
「俺は今日、お前に勝つ」
こういう行事ごとでも、浮ついた雰囲気なく落ち着いてると思ってた焦凍からの宣戦布告。結構意外だ。
「あと、緑谷もだ。お前、オールマイトに目かけられてるよな。お前には勝つぞ」
「っ!」
何故か緑谷にも飛び火した。私に宣戦布告したのに別の誰か宣戦布告したからって何も思わないが。……私から目を逸らしてもいいものか?
「目移りが激しいな、焦凍」
「……」
「かかってこいよ。此処に居る全員を倒して、私は1番になる。鎬を削り合おう。折角の祭典だ」
皆の目付きが険しくなる。そうさ、私達はヒーローになる為に此処に居る。なら上を目指そうじゃないか。素晴らしいヒーローライフの為に。
――――
『どうせアレだろ、コイツらだろ! 敵の襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星、1年A組だろぉ!』
耳を塞ぎたくなるほどの歓声に身を震わせながらの入場。主審のミッドナイト先生が壇上に上がって選手宣誓が始まる。高校に18禁ヒーロー……? 妙だな?
「選手代表、1年A組、英護 千刃!」
「はい」
色んな視線が身に刺さる。1年生の代表、良くも悪くも見られてしまう。特に普通科からの視線が痛い。君達に恨まれる覚えはないんだが。
「宣誓、私達選手一同は、ヒーローシップに則り、正々堂々と競い合うことを誓います。選手代表、英護 千刃」
普通の宣誓を終え、歓声と拍手が鳴り響く。雄英体育祭、開幕だ。
――――
運命の第一種目は、障害物競走。全員参加でコースはスタジアムの外周約4kmの長距離。コースを守れば何しても良し。個性の使用、妨害、あと考えられるのはコース状況の変更。基礎力だけでなく、柔軟な立ち回りが要求されそうだ。
「位置に着きまくりなさい!」
私達全員はスタジアム内のスタート前に集まる。大きな通路だが、どう見ても選手全員が通れる幅じゃない。あれではスタート直後揉み合いになってしまう。
埋もれないよう最後方に移動してスタート合図を待つ。ランプが一つ、また一つと消え、最後の一つも消えた。
「スタート!!」
合図と共に大群が走り出す、同時に翼を広げて空を駆ける。幸い通路の上方向には余裕があった。全員の意識が地上の混雑にある隙に少しでもリードを稼ぐ。
「待てや翼野郎!!」
私の飛び出しに1番早く反応したのは勝己。私の尻尾を掴まんと爆破で追いかけて来る。次に、焦凍は氷で周りを氷結させた。クラスメイトと一部の人は回避したが、それでも大多数を拘束した。
順位は私、轟、爆豪を先頭に進んでいく。
「やっぱり2人はそう来るよな」
「逃がさねえよ」
スタートは上々。予想通りの展開だ。何も無いコースを進み、少し開けた場所に出る。
『さあ、いきなり障害物だ! まずは手始め。第一関門! ロボインフェルノ!!』
今日の実況、解説はプレゼントマイク先生とイレイザーヘッド先生だ。陽気な実況がスピーカーから流れる。
入試の時の仮想敵ロボットが所狭しと並び立つ。0Pの仮想敵も椀飯振る舞いに障害物として設置されてる。国立の予算は計り知れないな。
私は速度を維持したまま刃鱗を飛ばし、刺さった刃鱗は破裂して裂傷を残す。脚の刃鱗を強固に展開して仮想敵の中枢部に蹴りを放つ。入試の時より若干強化したシューティングスターは、容易く仮想敵を爆散させた。
『1A英護、トップスピードのまま仮想敵をぶっ壊し突破! 他の追随を許さない攻略スピード、これは速え!』
『攻撃に移る前の速度の微調整が巧い。速度を乗せて進行方向のみを突き進む判断は合理的だ』
解説は私に注目してるが、既に焦凍と勝己は突破して私の後ろを追走している。蹴りの衝撃で義足が壊れてることもなかった。個性で強化してるとはいえ義足は義足、壊れる心配をしなくてはいけないのがネックになる。
『第二関門、落ちればアウト、それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!!』
「これ飛べる奴有利すぎないか?」
奈落が見える綱渡りである第二関門は飛んでるだけで突破。2番手は焦凍だが、3番手の勝己が調子を上げてきた。スロースターターか。何起動の個性だ? 体温……脈……発汗か?
「テメェコラ待ちやがれ翼野郎!!」
『さあ早くも最終関門、一面地雷原! 地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞ!』
「いやこれ……飛べる奴有利なんてもんじゃないぞ?」
「ここで止める!」
焦凍の氷壁が立ち塞がる。しまった、射程内だったか。でも、1位の私の前に氷壁を出すのは自分もタイムロスになるだろ。勝己も追い付いた。3人がお互いを妨害し合う三つ巴戦だ。
「ぶっ殺す!」
「ここで抜かす!」
開始前に煽ったけど、実は私はこの2人にそんな有利取れてる訳じゃない。勝己の機動力と攻撃力は私とやり合えるし、焦凍は弱点の氷と高火力の炎を使う。個性の使い方で言えば私より上。
「まだ抜かされる訳にはいかない」
氷壁に突っ込むのは無し、迂回するしかない。問題はどう避けるかだ。勝己の爆撃を避けながら焦凍の氷を警戒する。続々と後続も来ている、時間をかけられない。
―BOOOOOOOM!!!
「っ!」
「緑谷!」
「出久?!」
後方で大爆発が起こる。爆煙から飛び出した影に私達は驚愕し、足が止まる。出久だ……出久が仮想敵の装甲に乗って爆発の反動で飛んだんだ。かなりの速度で氷壁を越え、私達3人は一斉に動き出す。
『これには堪らず元先頭の3人、脚の引っ張り合いを止め緑谷を追う!』
私は上、焦凍と勝己は左右に別れた。爆風の推進力を失い失速した出久にはすぐ追い付けるが、出久の気迫にまだ何かあると本能で察した私は近付かず1歩手前で出久の着地を待つ。
出久が地面とぶつかる瞬間、2度目の爆発。出久は着地直前、装甲を地雷に叩きつけた。出久を抜こうとした2人は爆発をもろに受ける。アレに巻き込まれてたら私は出久を抜けなかっただろう。
「負けない」
「くぅ……!」
流石だよ出久。機転の利く奴だとは思ってたけど、クレバーに攻めることもできるのか。でも、この勝負は私の勝ちだ。加速して出久の上を通過する。出久は土を上に投げてくるが、それでは私を止められない。軽く横に避ける。
「先に行kガッ!」
前からの強烈な衝撃に呻き声を上げる。顔面を強くぶつけ、鼻血も少し出てる。前には何も無かった。なんだ? 何にぶつかった?
『油断大敵ぃ! 最後の不意打ち、コース上空に設置された強化ガラス! ゴール前だからって気ぃ緩めんな!』
『注意深く見れば気付いたはずだ。気が緩んでたな』
しまった! あの雄英が何の対策もしてない訳がなかった。人は勝利を確信した時が最も油断する。気が緩んでた!
怯んでる間にも出久は前へと走り進む。私が飛ぶ高度には他にも強化ガラスが乱雑に設置されてる。これでは速度を出せない。一度降りて地を思い切り蹴って低空飛行で追いかける。
『雄英体育祭1年ステージ! 序盤の展開からこの結末を誰が予想できた!? 今、スタジアムに帰ってきたその男―』
『緑谷出久の存在を!!』
「ハア……ハア……」
ゴールギリギリでアタマ差まで詰めれたが、それまで。結果は僅差の2位となった。悔しいけど認めよう。負けた。素直に賞賛するよ、出久。
「出久」
「英護くん……」
「1位おめでとう。やられたよ」
「ううん、たまたまだよ。最後、英護くんがガラスにぶつからなければ僕は抜かされていた」
「そう。次は勝つから」
一言二言交わして出久から離れる。悔しい……けどなんだ? 上っ面の言葉ではいくらでも焚き付けられるのに、心のどこかでは穴が空いてる感覚。あの日、病室で相澤先生と話した時からだ。湧き上がる気持ちが穴から抜け漏れてくようになったのは。
教室でみんなを煽ったのも、無理やり自分のやる気を奮い立たせたかったからだ。真剣勝負に身を投じたら何か変わると思ったけど、そう上手くはいかないなあ。
――――
「予選通過は上位42名。残念ながら落ちちゃった人も安心なさい。まだ見せ場は用意されてるわ。そして次からいよいよ本戦よ! ここからは取材陣も白熱してくるよ、気張りなさい!」
第二種目は騎馬戦。2人から4人のチームを自由に組んで騎馬を作る。第一種目の結果に伴ったポイントが振り分けられ、各々が持つポイントの合計がチームのポイントとなる。そして、1位に与えられるポイントは、
「1000万!」
上位の者ほど狙われる下克上のサバイバル・バトルロイヤル。どんな順位だろうと、1位の騎馬を落とせば1位になれる。
臨機応変なチームワークが求められる。チームを組む相手は選ばないと。今回必要なのは、ハチマキの奪取能力、相手の攻撃から守る防御力、相手の騎馬を行動不能にする制圧力だろう。なら、組みたい人は……
「響香、組もう!」
「……OK、いいよ。他の人は?」
「良さげな人がいる」
響香のイヤホンジャックは索敵、精密性の奇襲攻撃。チームを組むなら欲しい能力を持ってる。交流もあるからチームワークも大丈夫なはず。
周りを見れば、ほとんどの人が同じ組で固まってる。でも、私は序盤にゴールしたから知ってる。
「心操くん、君の力を貸してくれないか?」
「……あ?」
怖い、声掛けたら睨まれたんだけど。私が見たところ、彼の個性は応答した人を行動不能にして操作する個性。相手の足を止めるにはもってこいの個性だ。問題は……
「なんで俺がお前らに協力しなきゃいけないんだ?」
「……」
「……俺の個性知ってんのかよ」
無言で手を差し出す。クラスの人に教えてもらった。普通科の生徒がわざわざ教室まで来て宣戦布告したってな。ヒーロー科を落ちて普通科に行ったヒーロー志望、それが彼だ。
「……わかった。組んでやる」
観念したように手を取ってくれた。個性を使ってくる様子もないから、口を開く。
「ヒーローになるんだろ? 勝つぞ」
「……。ハッ、俺にそんなこと言う奴は初めてだ」
初めて……か。誰であれ、力の使い方一つでヒーローにもヴィランにもなれてしまう超人社会。だから私達は正しい力の使い方を知らなくてはいけない。この体育祭で結果を残してヒーロー科へ編入したいなら、仲良くしてほしいもんだね。
「ねえ、大丈夫なの?」
「より安全に勝てるなら彼も仲良くしてくれるさ。だろ?」
「俺一人の力でもやれる」
「お前が適当な人を操っても、細かな動きは出来なさそうだった。なら索敵が得意な響香と、牽制で近付かせない私で組めば穴は無くなる。君は私達を操るメリットがない。強い個性なんだから、もっと有用に使おうよ」
心操くんは少し驚いた顔をして、目を伏せた。拳を強く握り、歯軋りする。
「お前は俺の個性がヴィランみたいだとは思わないのか?」
「……? 思わない」
「……そうか」
何はともあれ、これで3人の騎馬が作れる。チームは4人までだが……
「あと1人はどうすんの?」
「いけるなら3人でいきたい。他の人は既にチームを作り終えてる。チームは最低2人から、無理に増やさなくていい」
「誰が騎手をするんだ?」
「私が騎手をする。前は心操くん、後ろは響香でお願い。いける?」
試しに騎馬を作ってみる。義足に付いた土や砂を払い落として、2人が組んだ足場にそっと体重を乗せる。
「ヒッ……」
「響香?」
「……大丈夫……大丈夫だから」
響香の手が震えてる。心なしか顔色も悪い。義足はそんなに重くないと思うけど、響香からしたら重いのかもしれない。
「無理しなくていい」
「大丈夫っ!」
泣きそうな顔で縋るように叫ぶ響香に気圧される。一体何に恐怖しているんだ?
――――
千刃の義足は思ったより軽かった。人肌なんかより断然冷たい。あったはずの温もりをウチが奪ったという現実を突きつけられるみたいで吐き気がする。ずっとヘラヘラして、気にする素振りすらしないくせに。歩きづらいことに顔を顰めるのが嫌。この体育祭だって、色んなこと考えながら参加してるのも知ってる。だからせめて、彼の脚の代わりが果たせるなら。
「いける。勝つよ千刃」
精一杯、虚勢を張りたい。
体育祭が1番難しい気がする。