「スタート!」
ミッドナイト先生の合図で騎馬戦が始まった。当然、他の騎馬は出久の騎馬を狙いに行く。消耗してくれるなら願ったり叶ったりだが、少々飛ばしすぎな気もする。
「行くぞA組!」
早速B組の騎馬が仕掛けてくるが、心操くんの問いかけに何も知らない騎馬はうっかり応答して行動停止。横を通り過ぎ様にハチマキを奪取する。
「ほとんど緑谷追ってる。どうするの千刃?」
「前半は出久以外を狙う。今あれに混じっても動きにくいだけだ。取りすぎないよう気をつけながらいこう」
「了解」
こちらに気付いた騎馬は刃鱗で足を止めて心操くんが個性を使う。同じことの繰り返しだが、みんなは1000万狙いを変えられなくて視野が狭くなっている。稼げるだけ稼がせてもらうよ。
――――
『7分経過した現在のランクをスクリーンに表示するぜ!』
7分経過で私達の順位は2位。狩れそうな奴は狩り尽くした。ここからが大立ち回り、本番だ。
『あら? ちょっと待てこれ……。A組緑谷以外パッとしねえってか……爆豪? アレェ?!』
勝己がB組の騎馬にハチマキを奪われてるが、関係ない。これからの狙いは1000万。1位を獲りに行く。
「1000万取りに行くぞ……あー」
スパートをかけたのは私達だけじゃなかったらしい。焦凍が緑谷チームを氷で囲んで逃げ場を無くしている。丁度反対側に居たからか、焦凍の氷壁の中に入り損ねた。刃鱗で壊しても間に合うかどうか時間ギリギリ。その間他の騎馬に狙われる可能性もある。でも……
「響香は周囲警戒! 心操くんは敵襲の対処を!」
「狙うんだな?」
「もちろん。ここで1位を狙えなきゃヒーローになれない!」
襲い来る他チームから防衛しながら、やっと氷壁を突破する。同時にスクリーンを見て順位確認。1000万は焦凍が持ってる。位置は運良く焦凍の真後ろにつけた。まだ気付かれてない。本当に時間ギリギリ、間に合うか!?
「響香!」
「了解!」
イヤホンジャックで首のハチマキ奪取成功。複数あったがちゃんと1000万だ。残り時間は10秒きってる。
「っ、後ろか!」
「翼野郎!!」
「待て!」
完全な不意打ちだったが3人とも反応して私に迫る。だけど、私には届かない。3人の手が私に触れる前に、終了のブザーは鳴り響いた。
『タイムアーップ!!!』
結果は1位通過。満足のいく結果となった。最終種目に進むのは上位4組。焦凍、勝己、出久、私のチームが駒を進めることとなった。
――――
「お疲れ様」
「おう、おつかれ。いやー、最後はやられたぜ千刃」
「電気がショートしててよかったよ。運勝ちみたいな所はあるけど、勝ちは勝ちだ」
「私は負けちゃった~」
「ドンマイドンマイ」
午前の部は終了し、昼休憩の時間。今日は皆と学食で食べる約束をしている。響香と電気と透とで学食に向かってると、焦凍が呼び止めてきた。
「英護、ちょっといいか?」
「……また?」
「すまん。そう時間は取らせねえ」
響香達を見れば、さっさと行ってこいって顔してる。
「わかった」
「悪ぃな」
2人で人気の無い場所まで移動する。焦凍は朝と同じ憎み顔で、この話がそう軽いものではないと予感させた。
「俺の父親は万年No.2ヒーロー、エンデヴァーだ。俺は……お前に勝たなきゃいけねえ」
「……」
「個性婚って知ってるか? 自身の個性をより強化して子供に継がせる為だけに配偶者を選び、結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想。実績と金だけはある男だ。親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった」
……覚悟はしてたが、想像以上に重たい話だった。万年No.2である劣等感、より力を求める向上心の化身、狂気に満ちた倫理観。轟 焦凍という人間を今の形に歪ませたバックボーン。
「そんな屑の道具にはならねえ」
顔の左側にある火傷跡を抑えて、焦凍は呪詛を唱えるように言う。
「記憶の中の母はいつも泣いてる。お前の左側が醜いと、母は俺に煮え湯を浴びせた」
地獄のような家庭環境で育ち、元凶である父を強く怨んだヒーローの卵。不透明だった焦凍の輪郭が、だんだんとハッキリしていくのがわかった。
「ざっと話したが、俺が1番に拘るのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざなくたって……使わず1番になることで、奴を完全否定する」
ここまで全てを話したのは、私に話す必要があると判断したからだろう。このことをどう捉えても、私には持て余してしまう。
「……このことを他の人には?」
「緑谷には話した」
「そっか。……私はね、記憶喪失なんだ」
彼に誠意を見せるのならば、私も自分のことを話そう。その上で、私は君と戦いたい。
「自分の名前も、親の顔も私は知らない。あったのは
「何を……」
「医者によると私は異常なんだとさ。1つは異形型の複合個性、1つは今まで類を見ない個性。出生も血筋も不明、私自身のことを私が1番知らないんだ。でも、私にはヒーローという道があった。だから、誰であろうと私の邪魔はさせないぞ、焦凍」
「何、言ってんだ?」
「要は……ヒーローになる為に君に勝つ、だ」
「……そうか、時間取らせたな」
個性と呼ばれる超常能力。その闇は、想像より身近で、ドス黒いものなのかもしれない。
――――
「おい英護」
「ちょっといいか?」
「ん?」
食堂で響香達と合流し、食事を受け取りに行った時、実と電気に呼び止められた。
「クラスで特に真面目で信頼のあるお前にしか頼めないんだ」
「なんだよ」
「その前に、あのチアリーダーを見てどう思う?」
実が指差す先には、本番アメリカから呼び寄せたチアリーダーの集団。活発な印象を受ける衣装をフリフリと着こなしてて可愛い。
「すごく……可愛いです」
「だよなあ? クラスの女子連中にも着てほしいよなあ?」
「……まさか?!」
「そのまさかよ! お願いだ! 俺たちだけじゃ聞いてくれるかわからねえんだ」
「いや、でも……」
まさかこの2人、何かしら嘘ついてクラスの女子にチア服を着せようと言うのか!? 正直言えばとても見たいが……騙すような真似はできない。
「すまないが」
「今日見れなかったらきっと一生見れないぜ?」
「恥ずかしそうにしながらも健気に応援する姿を想像してみろよ! こんなチャンス滅多にねえんだ!」
頭の中で欲求と理性が天秤で争っている。見たくないと言えば当然嘘となる。しかし、彼女たちを騙すのは心苦しい。体育祭のチア姿……いやでも……百なら創造で……いやいやいやいや…………
――――
「峰田さん、上鳴さん、英護さん、騙しましたね!!!」
「「ウッヒョー!」」
すまないみんな。欲求には勝てなかったよ。
「英護さんも言うから信じましたのに……」
「ごめん百。どうしても見たかったんだ」
オレンジのチア服を着たクラス女子はお腹や生足を露出させている。見目麗しい女子は何着ても似合いすぎて素晴らしくて感動する。こうして見ると、A組の女子って凄い可愛い。目の保養が過ぎて可愛いのオーバードーズ。副作用で心拍数が狂っちまうよ。
「アホだろこいつら」
あ、響香が恥ずかしさのあまりポンポン捨てちゃった……。……そうだよな、響香そういうの苦手そうだったもんな。苦手なことを強要するのはよくないよな。
「おーい耳郎、見ろよ英護の顔を。英護のこーんな顔見てなんも思わないわけ? こんな子犬みたいな英護とか俺初めて見たぜ。ついてないのに耳や尻尾が垂れてるのがわかりやすいくらいにはな」
「うぐっ」
「まあ、本戦まで時間空くし、張り詰めててもしんどいしさー。やったろーよ! 耳郎ちゃん!」
「ええっ!?」
ありがとう透! 君がナンバーワンだ。実と電気と固い握手を交わす。私だって健全な思春期男子、可愛い女子に興味津々なのさ。
この後は最終種目の組み合わせを決めて、レクリエーションでは十分に目の保養をしましたとさ。