自己犠牲こそヒーローの意義なんだって!   作:アールワイ

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終わらせました。
体育祭は難しいです。


タイマンはヒーローの心の勝負なんだって!

 

 

 レクリエーションも終え、遂に最終種目の時間がやってくる。最終種目はトーナメント形式のタイマンガチンコ勝負。余りの1枠には5位チームのB組の鉄哲くんが繰り上がり、組み合わせが決定される。ちなみに、私の最初の相手は電気になった。

 

 

「うっわ英護かよ!」

「まじか」

 

 これは厄介な相手になったもんだ。電気の個性の電撃は私の1番の弱点。相性最悪の難敵、相手にとって不足なし。

 試合前、控え室で刃鱗を出し入れして削り合わせる。元々殺傷能力が高い個性だ、刃を潰しておかないと大怪我を負わせる危険がある。

 

 

 

「刃鱗があるとは言え、使いすぎると後々がなぁ」

 

 USJでの件以降、相澤先生に個性の使いすぎには注意するよう言われてる。特に、“自己犠牲”は使った瞬間抹消するとまで言われる始末。本当は除籍処分したいんだが、事情により監視という形をとるらしい。この処分は雄英が握る私に関する情報によるものなんだとか。本人も知らない情報で本人に処分下すとかおかしなこった。

 

 心は未だ燃えない。どれだけ熱しても石は発火しないように、単に燃える心がないんだと思う。でも、それでもいい。

 

 

『続きましてはあ! こいつらだぁ!』

 

 入場と共に歓声が会場を包む。視察に来たプロヒーロー、祭りごとを楽しむ一般市民、1年の注目度も相まって盛り上がりは最高潮。

 

『これまで全て1位通過! 圧倒的強さに為す術なし! ヒーロー科、英護 千刃! VS、ビリビリ痺れるぜスパーキング! 同じくヒーロー科、上鳴 電気!』

 

 

 

『さてさて行くぜぇ! 試合スタート!』

 

 

「いくぜ速攻! 無差別放電130万ボルトぉ!」

「おま、嘘だろ!」

 

 指向性のない無差別の電流がステージ上に走り滾る。空に逃げたが、少し喰らってしまった。脚の感覚がない、義足がやられた。

 

「……危なかった」

「ウェイ!?」

 

 紙一重の勝負だった。もし私がモロに喰らってたらそれで行動不能。しかし、私が回避できれば電気は事実上行動不能。飛び道具がある私に距離を取らせたら負ける。相性を考えた上での虚をついた速攻、見事だったよ。

 

「でも詰めが甘かった……なっ!」

「ウェーイ?!」

 

 上限オーバーでショートした電気はただのカカシも同然。首根っこを掴んで場外に下ろすだけの簡単なお仕事だ。

 

「上鳴くん場外! 英護くん2回戦進出!」

『一瞬の攻防! 流石1位の男、咄嗟の攻撃に難なく対処、瞬殺!』

 

 

――――

 

 

 1回戦の結果が出揃う。出久が心操くんに勝利、次は焦凍とあたる。鋭児郎と鉄哲くんの漢らしいカチカチ勝負は鋭児郎に軍配が上がった。踏陰は百に安牌に勝利。お茶子と勝己の死闘は、最後まで警戒を崩さなかった勝己の勝利。順調に戦闘が得意な面子が揃った。ちなみに、私の次の相手は天哉になる。

 

 ……意外だったのが。

 

「…………」

「…………」

 

 響香が三奈にかなり健闘したってことだ。サポートアイテムが使えない試合では遠距離攻撃が無い響香に、三奈は酸を飛ばして距離感を調整、優れた身体能力によるインファイトで三奈が勝利した。

 

「……頑張ったな」

「……うるさい」

 

 隣でずっと落ち込まれると流石に気まずい。今は時間が必要だけだろう。試合に集中する。

 2回戦の出久VS焦凍はもう始まってる。氷の速攻を出久は指犠牲の数打ち超パワーでやり過ごし、焦凍は苛烈な猛攻で攻める。

 

 トドメと言わんばかりの大氷結を出久は壊れた指でまだ抗う。出久の覚悟が、観客席にいる私にも伝わってくる。グツグツと胸から感情を置いて、試合の展開は次へと進む。

 

(遅くなってる?)

 

 焦凍の動きが明らかに鈍い。あれは低体温の障害、氷の連続使用による体温低下、あれが焦凍の弱点か!

 

「1発入った!」

「ここで攻勢に出るのか!」

 

 壊れた腕を更に壊して攻撃する出久。遠くから見ても青黒く変色してるのがわかる。激痛に悶えて泣き叫んでいてもおかしくないはずなのに。出久の顔は、怒ってる。

 

(出久と……焦凍……)

 

 2人の会話内容はここでは聞こえない。でも、きっと焦凍の家庭のことだ。どこまでもヒーローな出久は、今、焦凍に手を伸ばしている。我が身を考えず、目の前の人を必死に助けようとしてる。

 

「君の、力じゃないか!!!」

「……力、か」

 

 現世に蔓延る個性の闇を、出久が勝手に踏み込んだ。破滅的なお人好しのヒーロー。いいね、素敵だよ出久。

 

「凄い炎だ!」

「左を……」

 

 燃え盛る炎は眩しく踊る。燻っていた想いが解き放たれ、凍っていた過去をゆっくりと溶かす。お互いの気迫が会場を揺らす。勝負は一瞬だ、決着はすぐそこに!

 全身を酷使する超パワーに、大氷結と炎熱が混ざり合った膨張、大爆発。セメントス先生が居なければ熱波と衝撃に会場が半壊してた威力だった。

 

「轟くん、3回戦進出!」

 

 

 あんだけひねくれてた焦凍に左を使わせた。出久……君は凄いよ。焦凍はいいなー、ちょっとだけだとしても助ける為に手を出してもらえて。いつか私の過去もどうにかしてくれないかー……なんてね。

 

 

――――

 

 

「前々から気になってたんだ」

「なんだい英護くん?」

「天哉と私、どっちの方が速いのかって」

 

『スタート!!』

 

 天哉戦は速度の押し付け合い。刃鱗で牽制しながら宙を翻る私と、避けながら反撃の隙を伺う天哉。

 

「速いな」

「くっ、空を飛ばれると何もできん……うわっ!」

 

 破裂した刃鱗が天哉のマフラーに傷をつける。気を取られた隙に天哉の首根っこを掴もうとして、視界が揺れた。

 

「レシプロバースト!」

『おぉーっと! これはいいのが入った!』

 

 蹴りが首に入った。呼吸と三半規管に異常が出るが、思考は続けられる。逆に首根っこを掴まれ、場外目掛けて引き摺られる。

 

「この隙に!」

 

 天哉に対空手段が無いと油断してた。でも、天哉は少し勘違いをしている。

 私が場外に投げ出される直前、尻尾で天哉の脚を捕まえて翼を広げる。文字通り足元をすくわれた天哉は宙ぶらりんと、離せば場外は私ではなく天哉だ。

 

「何だとおおおおおおお!?」

「こう見えて私の身体は常人の数倍強い……らしい。場外ではなく絞め落とそうとすればまだチャンスだったと思うよ」

「くっ、拘束術は習っていたはずなのに……」

「いい試合だった。レシプロ見えなかったよ。流石は最速」

「ありがとう。次も頑張ってくれ」

 

 試合後に握手なんてしてみたら、会場が沸く。青臭い祭りごとだもんね。観客の需要がわかった気がした。

 

 

 

 

 そして訪れた準決勝、焦凍戦。

 

 

「他人の家庭環境勝手聞かされて、それでも出久はお前に手を伸ばした」

「それがどうした?」

「浮かない顔してるよ。助けられた気分はどう?」

「……今、色々悩んでんだ」

「それは良かった」

 

 試合前の焦凍は明らか前と違っていた。憎しみが消えたわけじゃないだろうけど、憑き物が落ちてスッキリしてる。ああ、羨ましいな。

 

「悪いけど全力でいくよ」

「ああ……」

 

「スタート!!」

 

 私は体育祭に心を燃やしてない。それはまだ変わってくれない。お茶子が良い例だった。沢山の傷にまみれてドロドロに汚れても消えない闘志。彼女も羨ましかった。あんなに必死に試合ができたらきっと楽しいだろう。

 焦凍は私の同類だと思ってた。焦凍もこの行事をただの踏み台として見てた。それがどうだ? 焦凍は出久に手を伸ばしてもらい、私は心は未だヒーローになる理由すら求めているのに、何故ヒーローになりたいか知る為にヒーローになるなんてほざいてる。心にあるはずの理由を外に求めてる!

 

 

 焦凍は変わらずの開幕ブッパ。大氷結に囚われる。

 

「変わり映えしないな」

 

 自傷を許容した刃鱗破裂で肉体の自由を取り戻す。空中の私に氷柱で攻撃してくるが、全て躱していく。急降下で拳を叩き込めば、思いの外吹っ飛んだ。

 

「炎……使ってたな」

「……ああ」

「別に使えって言ってるんじゃない。焦凍の話を聞いてたから少しくらいはわかる。出久がお前の悩み突っ込んで何かしたことくらい」

 

 焦凍にあの時の気迫はない。むしろ炎は唸りを引いたみたいに冷めてる。

 

「結局、ヒーローになるんだろ?」

「ああ……」

「私に負けてもいいのか?」

「……」

 

 拳を握り、マウントポジションをとる。

 

「出久に! 何か! 言われたんだろ!」

 

 癇癪を起こす子供みたいに乱雑な拳だった。

 

「やる気がないのはお前の勝手だ。私に失礼だなんて思わなくていい。ただ!」

 

 氷結されても無理やり殴る。パキパキと肌が割れていく、針が刺さるような痛みに気にならない。義足なんてボロボロだ、スペアを使わないともう歩けない。

 

「この場に立てなかった人の思いを踏み躙るのは、違うんじゃないのか!? ここに立ちたかった出久の想いは、悩みでいっぱいいっぱいだからと受け取らなくていいのか!? その問題にこれから向き合うんだったら、今は出久のことだけ考えてろ!」

 

「全力で、かかってこい!」

 

 私達はせめて、取り繕わなきゃいけない。どんなバックボーンに苦しめられても、それを悟られてはいけない。より強く握った拳が振り下ろされる瞬間、爆発が私を弾き飛ばした。焦凍の左は、出久との決着時のように滾っている。

 

「使うのか」

「……悩んでるほど暇じゃなくなったんでな」

 

 空を駆け上がり、刃鱗を操る。義足は動かないから纏うのは腕だ。氷と炎の熱膨張爆発それに真正面から突っ込む。衝撃が収まり、充満していた煙が晴れた頃には、ステージ上には勝者しかいなかった。

 

「英護くん、決勝進出!」

 

 

「ほんと……羨ましい」

 

 

――――

 

 

「決勝おめでと」

「ありがとう響香」

 

 椅子に座った私に跪くような形で響香は私の脚に触る。私は1人でも義足取り付け出来るが、響香が押しかけてウチにやらせろと言って聞かなかった。前から感じてたが、響香はまだ私が欠損したことに負い目を感じている。気にするなと言葉で伝えるのは非常に簡単だが、それで納得するような人じゃない。

 

「……」

「これでよしっと」

 

 ちなみに今回が初めてじゃない。ことある事に響香は義足の調子を聞いてくる。階段では手を貸してくれたり、段差があれば言ってくれたりと些細な気遣いもあれば、「代わりに脚をあげれたらいいのに……」とか平気な顔で言ってくる。勘弁してくれ。本物のヒーローは見返りなんて求めない。響香が生きてくれたらそれで満足なんだけどなあ。

 

 

―バァン!

 

 扉が豪快な音で開かれる。なんだと見てみれば勝己が扉を足蹴にしたようだ。お前の控え室ここじゃないんだわ。

 

「あ? あれなんでテメェがここに? 控え室……ここ2の方かクソが」

「取り敢えず、脚で扉開けるの行儀悪いからやめな?」

「うっせえぞ翼野郎!」

「キレんなや」

 

 そういえば、勝己は出久の幼馴染なんだっけ? 出久は幼い頃からあんなのだったのか、気になる。

 

「勝己」

「アア?!」

「出久って、前からああなの?」

「……っ。あんなクソナードどうでもいいんだよ! テメェは黙って俺にボコられろや!」

「んな理不尽な」

 

 大股に踵を返す勝己を見送って、私も椅子から立つ。

 

「行ってくる」

「千刃」

 

 響香は儚げに、ふわりとした雰囲気だった。口角を優しく上げて、心配そうな顔で声援を口にする。

 

「頑張れ」

 

 本当に、私は君達が無事ならいいんだ……。

 

 

――――

 

 

『決勝だぜ、エビバディ! 今日のラストバトル、これで1年の頂点が決まるぜ! ヒーロー科、英護 千刃VSヒーロー科、爆豪 勝己。今、スタート!!』

 

 熱狂する会場とは反して、2人の試合は冷静だった。その性格から速攻を仕掛けると思われていた勝己は意外にも相手の出方を伺い、千刃も翼を広げはするがすぐに飛ぶ気配はない。先手を打ったのは飛び道具を持つ千刃。

 

「効かねえよクソがァ!」

 

 刃鱗攻撃を爆破で防ぐ勝己。その勢いのまま距離を詰めるべく走り出した。これに千刃は退避ではなく迎撃を選ぶ。両者の距離は瞬く間に無くなり、両者の攻撃が交差した。勝己の爆破を刃鱗で受けながら刃鱗で補強した拳を叩き込む。真正面からの殴り合いは千刃に分があった。

 

「お前も硬ぇのかよ、クソが」

「効いてるよ」

 

『いきなりガチンコ殴り合い! 決勝らしい熱さじゃねえか!』

 

 刃鱗が盾になってるとはいえ、痛いのは痛い。スロースターターな勝己相手に長期戦は不利と考え、刃鱗破裂で距離をとる。裂傷は小さいがそれでも痛みは生まれる。戦闘センスがクラスで群を抜いてる勝己に下手な搦手は通じない。大空に飛び、義足破損覚悟の蹴りを放つ。

 

「ナメんなぁ!!」

 

 避けられないと判断したのか、高威力爆破で抵抗される。案の定義足は破損し、身体にも少なくないダメージを受ける。やっぱり、“個性”を使わないと勝てない。この場で初披露なら、相澤先生も許してくれるだろう。

 

「凄いよ勝己」

「アァん!」

「強いね」

 

 破損した義足を外す。鱗が脚から伸びるように生えていく。その中を肉と骨が満たし、外郭が形成された。失った脚は“千刃竜”で変形した。千の刃を纏う竜の脚。鉤爪は鋭く大きく、車も鷲掴みに出来るほど大きい。失った脚の異形化に、会場はザワつく。

 

「あれは……」

「個性なのか?」

「彼に脚はなかったはずでは」

「生やしたとでも言うのか……」

 

『おい相澤、ありゃ何だ?』

『……千刃の個性だ。あいつ、とうとう使いやがったな。それだけ爆豪が追い詰めたんだろ』

 

「なんだそりゃ?」

「全力、だよ!」

 

 戦いは完全な空中戦に移行する。理性を削って飛竜の姿をより現世に写し出したことで飛行能力は格段に飛躍した。勝己のターボも速くて不規則。しかし、空は私のモノだ。

 

「ちっ!」

 

 高速機動から繰り出される刃鱗とインファイト。勝己の目が私を追いきれてない。

 

閃光弾(スタングレネード)!!」

 

 堪らなくなったのか閃光目潰しで着地した勝己。予備動作から備えてたから墜落を防げたが、体勢を整える時間ができてしまった。しぶとい……スロースターターに十分な時間を与えてしまった。動きもますます良くなってる。

 天と地の睨み合い。お互い、次で終わらせる気だ。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!!」

「シューティングスター!」

 

 錐揉み回転で突撃し、特大火力の大爆破を放つ勝己。今度の脚は壊れない強靭で凶暴な蹴りと、今日1の爆破が衝突する。

 

「ああああああああぁぁぁ!!!」

 

 勝己……君は眩しいなあ。出久とはまた違う輝きだ。真摯で、真っ直ぐで、憧れを越えようと必死だ。この体育祭で1番上を目指していたのは君だ。心を燃やして、全力以上の力を引き出した。だから、君には私の全力で答えるよ。

 

 

「ああああああああぁぁぁ!!!」

「はぁっ!」

 

 

 君と戦ってると私まで純粋になった気がして、とても楽しかったよ。

 

 

「爆豪くん場外! よって、英護くんの勝ち!!」

 

 

 ……だから暴れるのやめてくれない? あちょ、再戦はまた今度な! 負けず嫌いは嫌いじゃないよ!

 

 

――――

 

 

 体育祭も大〆、表彰式が行われる。終わりなのだからもっと穏やかなものだと思ってたんだが。私の一段下の勝己、暴れはしないが目線が怖い。殺意も隠す気なくてほぼヴィランじゃん。一応負けは認めるのか、手が出ることは無い。

 

1位、私。

2位、爆豪勝己。

3位、轟焦凍、常闇踏陰。

 

「それではメダル授与よ! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!」

「ハァーハッハッハー!!」

 

 あの独特なシルエットは!?

 

「とうっ!私がメダルを「我らがヒーロー、オールマイト」来た!」

 

 か、被った……。微妙な空気のまま授与式が始まる。メダルの授与は3位から行われる。メダルを受け取って、オールマイトにハグされる。何あれ凄い。

 

「英護少年。おめでとう」

「ありがとうございます」

「凄いな君は。まだまだそこが見えない。ただ、義足を軽んじて壊してしまうのはよくないな。まだ自分の身を軽く見てしまう癖がある。自分を大切に思ってくれる人のことを知りなさい」

「……壊したくて壊してるんじゃないんですが」

「ハッハッハ」

 

 いや何笑ってんですか。この義足も急造してくれたやつだからクッソ歩きづらいんですけど。

 

「最後に一言。皆さんご唱和ください!せーのっ、

「「「プルスウルトラ!!」」」お疲れ様でしたぁ!」

 

 しまんないなー。もうめちゃくちゃだよー。

 

 

 

 これで、私達の……私の最後の体育祭は終わった。

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