Mr. Future【第二章開始】   作:塵山ちくわ

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がんばれ!!
雪ヶ丘中学!!!
負けるな!!
雪ヶ丘中学!!!

そんな第十一話です。

夏至に合わせて慌てて書き上げたのでそのうち修正を入れるかもしれません。
それと、第一話の加筆修正をしました。
日向の葛藤をわかりやすく描写し直しました。
かなり良くなっていると思いますので、ぜひご確認ください。


1.11 燃え尽きるまで

 なんとなくバレーボールをやっていた。小学校低学年のとき、背が高いというだけの理由で始めて、中学では部活が必須だったからとりあえずバレーボール部に入った。勝つのは楽しかったから高校でもバレーボール部に入った。名門、新山女子高校に入れたのは幸運だったと思う。

 

 当時は春高が三月開催で三年生はインターハイ後には引退していたけど、そのおかげもあって一年生の秋からレギュラーになっていた。特に辞める理由もないし、やはり勝つのは楽しかったから引退まで毎日バレー漬けの日々を送った。そして、ついに高校バレー引退の日がやってきた。それはつまり、高校卒業後の進路を決める日ということだった。

 

 なんとなく、バレーボールを辞めることにした。いや、インターハイで準々決勝まで勝ち上がったこと、そこで悔いの残らないプレイができたこと、その年がバレーボールを始めてちょうど十年の節目だったこと、探せば理由はたくさんあったのだ。まぁ、よく言えば満足しきっていたし、悪く言えばもうお腹いっぱいだった。つまるところ、あの夏、あのインターハイで私は燃え尽きていたのだ。

 

 久々に味わう暇な休日、目的もなく市内をさまよっていると、見知らぬ男性に声をかけられた。どうやら私が道に迷っていると勘違いしたらしいその人は、誤解に気づくと慌てて弁明し始めた。

 

「近くの大学でボランティアサークルをやっている者で……」

 

 しどろもどろに自己開示をするその人の様子は、ナンパにしては下手すぎて、その必死な様子は思わず吹き出してしまうほどだった。私の笑う様子に安心したのか、彼はどんどん話し続けた。

 

「……それで、つい先日サークルを作ったのですがまだ部員は僕しかいなくて……」

 

 相づちを打ち続けていると、道案内から始まった立ち話はなぜかサークルへの勧誘のようになっていたが、私には彼の話を止めることができずにいた。その熱量に圧倒されていたかといえばそうではなく、むしろどこか懐かしさを感じていたのだ。たぶん、あの夏、ネット越しに感じていた熱だった。

 

「あ……。すみません!!」

「突然話しかけた上に長々と身の上話を……!」

 

 そう言って平身低頭になる彼はしかし、その野暮ったい眼鏡の奥を静かに燃え上がらせていた。そんな彼に、こんなことを言ってしまったのはなぜだろうか。

 

「……じゃあ先輩(・・)、副部長の席は空けておいてくださいね」

 

 当然、この時点では進学先が決まっているはずもなかったし、今日初めて会った赤の他人に伝えるような言葉でもなかった。しかし、なんとなくここで宣言した方が面白いと思って、啖呵を切ってやった。たぶん、熱に浮かされていたのだ。

 

 呆然とする未来の先輩をおいて、私の受験勉強が始まった。

 

 

 

 親の反対を押し切り、見事、宮城県最大学閥である仙台教育大学に合格した私を待っていたのは、まさに人生の夏休みだった。もちろん、授業には真剣に打ち込んだし、教員採用試験(教採)に向けて神経をすり減らすような日々も過ごした。とはいえ、ボランティアサークルでの日常、後輩と揃って美人三姉妹なんて呼ばれたこと、留学先での経験、そんな思い出で彩られた大学生活は、いつしか何にも変え難い宝物となっていた。

 

 そう、たしかに楽しい大学生活だった。出会いに恵まれ、目標も叶えた。そんな楽しいモラトリアムは終わりを告げ、卒業(現実)が迫ってきていた。それ自体は苦しくもなければ怖くもなかった。ただ、どこか物足りなさを感じていた。なにかが燻っているのを感じていた。

 

 

 

 教員になって数年、私はバレーボール部の顧問になっていた。

 

 久々に触るボールは、記憶より冷たかった。

 

 

 

 

 

 そんな燃えかす(大人)になった私の目の前に日向くん(太陽)が現れたのは、まだ肌寒さの残る東北の四月、その初めだった。

 

 そのスパイクを見たとき、久しぶりにトスを上げたいという気持ちが湧き上がってきた。

 

 

 

 

 ずっと昔に燃え尽きたはずだった。

 

 もう、燃え残しなどないと思っていた。

 

 しかし、

 

 その日、燻っていた心に再び火がついた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「今日が人生最後の試合でも後悔しない、そんな試合にしましょう」

 

 ほんの少しの間、目を閉じていた日下部が生徒たちへこの試合最後の言葉を伝える。

 

「みんな、まだ燃え尽きてませんよね?」

 

 その言葉通り、雪ヶ丘の面々の闘志は燃え盛っていた。スコアボードが示すのは北川第一のマッチポイント。敗色濃厚なその場面にあって、彼らの顔に絶望の色はなかった。

 

「"凡事徹底"」

「サーブもスパイクもレシーブも、いつも通りを貫いてください」

「みんなのバレーをもっと見せてあげましょう!」

 

 生徒たちが元気よく返事をすると、試合再開のホイッスルが鳴る。

 

 選手たちがコートに入ると、場内の気温が数度上昇したのではないかと錯覚するほどの熱気に包まれた。その原因は第一に、雪ヶ丘応援団の声援にあった。誰もが喉を枯らし唾を飛ばし、応援で相手ブロックを吹き飛ばすつもりか、と思うほど必死に声を張り上げていた。そして熱気のもう一つの原因は、噂を聞きつけて観戦の輪を重ねた他校の選手たちだった。

 

「まるで、県大会決勝のような熱気だな」

 

 烏野高校や青葉城西のバレー部員たちがいる北川第一の観客席とは逆側、雪ヶ丘中学の観客席の最後尾に彼らは来ていた。

 

「若利君が練習の後、残らないなんて珍しいなって思ってついてきちゃったけど」

「なぁに、アレ?」

 

 県内最強、白鳥沢学園高校バレーボール部において二年生にしてエースの座を不動のものとしている、絶対王者(・・・・)牛島若利と、同じく二年生にしてレギュラーの座を獲得したゲスブロッカー(・・・・・・・)天童覚の二人が試合を観戦していた。

 

「天童は、高校からだったか」

「日向翔陽、来年以降白鳥沢に立ち塞がるだろう選手だ」

 

 中学時代の合同練習で日向のことを知った牛島が、その場にいなかった天童へ簡単な紹介をする。

 

「ふーん」

「ほんと、珍しいこともあったもんだね」

 

 常日頃表情を変えない牛島の、その瞳に闘志が燃えていることに気づいた天童は面白そうにコートへ目を向ける。

 

「たしかにすごいけどさ~?」

白鳥沢(ウチ)に来るかもしれないじゃん?」

 

 中高一貫ではあるが外進生を受け入れている白鳥沢であれば、日向が進学してくる可能性はあるのだ。

 

「……中学のときに声をかけた」

 

 当時のことを思い出した牛島が眉間にしわ寄せる。その顔を見て察しのついた天童が、牛島の言葉に被せるように続けた。

 

「振られちゃったんだ?」

 

 このときの牛島の表情を、天童はしばらく忘れられなかったという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 スコアボードは19-24。

 

 雪ヶ丘が選手交代をした時点での点差が6点だったことを考えると、助っ人を交えたチームでありながら大健闘していると言えるだろう。

 

「サッカー部なめんな!」

 

 今も、こぼれ球をサッカー部員の関向がスライディングで滑り込み、なんとか上げている。そこに走りこむのは後衛セッターの太白だった。

 

「日向先輩っ!」

 

 最後に頼られるのがエースであり、そして、

 

「全てのボールを打ち切るべし……!」

 

 ここで決められるのが日向翔陽というエースだった。その小さくも大きな背中にチームメイトたちは鼓舞される。

 

「すまん、次は止める!」

 

 両手の真ん中を抜かれた金田一がチームメイトへ謝罪をする。

 

「金田一、ストレートしっかり閉めといてよ」

 

 そんな金田一へ、珍しく息を切らした国見が注文を付ける。

 

「あぁ、わかってるよ」

 

 それぞれのチームで情報共有がされながら、ゲームは進んでいく。

 

 スコアボードは20-24。

 

 ついに20点台の大台に乗った雪ヶ丘からサーブが放たれた。

 

「チャンスボール!」

 

 なんとか入った緩やかなサーブを丁寧に上げ、北川第一二年生セッターが繋ぐ。選ばれたのはMB金田一との速攻だった。

 

「よし……っ!」

 

 そこへすかさず日向が跳びつきワンタッチを得るが、ブロックアウト気味に高く弾かれたボールはコート外へ向かって落ちていった。雪ヶ丘応援団も、北川第一のメンバーも、勝負がついたと思った瞬間、そこへ飛び込む影があった。

 

「まだ、まだ落ちてない!」

「まだ……!」

 

 捨て身で飛び込んだのは、後衛にいたセッター太白弓弦だ。

 

 太白のつないだボールへ飛び込むのは日向、ではなく助っ人の一人である泉だった。

 

「行けぇ!」

「翔ちゃん!!!」

 

 ボコッと鈍い音とともに上がった歪なトスは、それでも友情の証で、日向翔陽の努力が生んだつながり(・・・・)だった。

 

「負けるかよ!」

 

 そこへ金田一がブロックに跳びあがるが、ストレートを閉めた金田一の腕を避けて、ボールはクロス方向へ叩き込まれた。

 

 

 

 

 

「サンキュー、金田一」

 

 わかっていたかのように飛び出した国見が腕をぶつける。彼にしては珍しい、捨て身フライングレシーブだった。そして、互いのチームの想いを背負って衝突したボールは、そのままネットを超えてコートへ落ちた。

 

 

 

 スコアボードは20-25。

 

 

 

 試合終了のホイッスルが鳴る。

 




試合、終了!!

日向翔陽、誕生日おめでとう!!


原作のオマージュがあるなぁ~となったら、ニヤニヤしながら感想等で教えていただけると嬉しいです。
感想見ながらニヤニヤします。

応援、感想、高評価お待ちしております!
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