Mr. Future【第二章開始】   作:塵山ちくわ

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先輩として先生として、負けた後の言葉って難しいですよね。

その点、ハイキューの先輩たち先生たちは敗戦後の声がけが上手だなぁと思わされますね。


そんな感じの第十二話です!

例のごとく後々修正するかもしれませんが、アナウンスのない修正はたいてい助詞の修正などなのでご安心ください。


1.12 雪ヶ丘中学男子バレーボール部

「さて、ミーティングを始めましょうか」

 

 試合が終わり、撤収作業の完了した雪ヶ丘中学バレーボール部は、場所を移して試合後のミーティングを始めていた。

 

「と、言っても具体的な話は学校に帰ってから、女バレの子たちが撮ってくれてる映像を確認しながらだけどね」

 

 そう言って周りを見渡す日下部は、どこか困っているようだった。それもそのはず、キャプテンである日向翔陽を除いたすべてのメンバーが泣いているのだ。その中には、助っ人三年生である泉と関向も含まれている。

 

「……先生、俺からいいすか?」

 

 一足早く落ち着きを取り戻した関向が、日下部へ尋ねた。本来部外者である自分が発言してもいいのか、と。

 

「もちろん!」

 

 日下部の了承を得て、ポツポツと話し出す。最初はひとり言のようだった言葉は次第に力強くなっていった。

 

「俺はサッカー部だし、助っ人だし」

「正直バレーボールは翔陽がやってなかったらルールも知らなかったと思う」

 

 一旦、言葉を切って息を吸う。

 

「でもさ、めっちゃ悔しいんだ」

「いま、めちゃくちゃ悔しいんだよ」

 

 吐き出す言葉は悔しさに満ちていた。

 

「練習も大してしてないのにおかしいよな」

「たぶん、一・二年は俺よりもっと悔しいんだと思う」

 

 残っていた涙を拭きとり、下級生の方を見て続ける。

 

だから(・・・)、安心してるんだ」

 

 関向の言葉に、下級生たちは戸惑いが隠せなかった。

 

「安心、ですか?」

 

 先輩の言葉を最も素早く飲み込んだ太白が、下級生を代表して疑問を投げかける。それに続くようにして、同じ二年生である名取や広瀬も声には出さないが理解のできないという表情を浮かべた。

 

「あぁ、たぶん他の三年もそう思ってるよ」

 

 関向が目配せすると、泉や日向も頷く。しかし、太白をはじめとした下級生たちは心底理解できないという表情でそれに反対した。

 

「どこがですか?!」

「僕らのどこに安心できるところがあるっていうんですか!」

 

 関向が言葉を続ける前に、太白が声を上げる。

 

「僕は今日まで、日向先輩の強さの尺度を勘違いしてました」

「じっさい、桁が二つくらい違う強さでした」

 

 後輩からの唐突な褒め言葉に、日向は照れ笑いをしながら頭をかいていた。その姿を横目に、太白はさらに続ける。

 

「今の今まで、先輩が “囮” にこだわる理由を理解していませんでした」

「今日、僕にできたのは……」

 

 一度言葉を切り、他の一・二年の様子を窺うが、意を決して最後まで言い切った。

 

僕ら(・・)にできたのは、日向先輩の足を引っ張ることだけです」

「その結果が、一回戦敗退なんですよ!」

 

 太白のその言葉に、その叫びに、最初に反応したのは意外にも泉だった。

 

「うーん、そう言いたくなる気持ちもわかるんだけどさ」

「……翔ちゃんってほら、変わってるでしょ?」

 

 いきなり悪口のようなものを吐かれた日向は抗議のモーションをするが、関向に制止され大人しくさせられる。にぎやかな同級生の姿を視界の端に収めつつ、泉から後輩たちへ言葉が送られる。

 

「小六のときに突然バレーボールに目覚めてさ」

「毎日中学の、しかも女子バレーボール部の練習に参加して」

「中学に上がったら一人で部活を立ち上げて」

「めげずに練習を続けて」

 

 「……でも」と、泉は少し申し訳なさそうな顔をしながら続きを語る。

 

「翔ちゃんの代は、つまり今の三年生の代は誰も翔ちゃんについて行けなかったんだよね」

「すごいやつだってのはみんな気づいていて」

だからこそ(・・・・・)、翔ちゃんはずっと独りぼっちだったんだ」

 

 独りでバレーボールに打ち込む日向、その姿を想像して後輩たちは黙り込んでいた。

 

「だからこそ、大会に出場している翔ちゃんが見られて、本当に嬉しいんだ!」

「さっきコージーが言ってた “他の三年” っていうのはさ」

「この場にいない人たちも含めたウチの学年全員のことだよ」

 

「みんな、本当にありがとう!」

 

 負けたのに、負けさせてしまったのに、先輩たちから伝えられるのは安心と感謝で、それを飲み込めずにいるうちに、日向が話し始める。

 

「イズミン、そんな風に思ってたのか……」

「褒められて嬉しいような、変人扱いされて悲しいような」

「複雑な気分です……」

 

 今まで知らなかった泉からの評価のことを考えて情けない表情を見せる日向だったが、すぐに切り替えて後輩たちと向き合っていた。

 

「遠きに行くは必ず邇きよりす」

 

 日向の口から出たその言葉に、見守ることに徹していた日下部が勢いよく反応して、その懐かしい言葉の意味を呟く。

 

「……なにかを成すには、一歩一歩順を追って進まねばならない」

 

 他の生徒が初見の言葉に面を食らう中、日下部だけはどこか訝しげな、難しい顔をしていた。

 

「知ってるんですね、先生!」

 

 そんな日下部の様子に気が付いていない日向は、恩師の言葉を目の前にいる第二の恩師が知っていることに感動していた。

 

「え、えぇ……、話の腰を折っちゃってごめんなさい」

 

 まだ、なにかが気になるような様子の日下部だったが、ひとまず自身の戸惑いは飲み込み、日向へ続きを話すよう促す。

 

「この言葉はお世話になった人の受け売りで、意味は日下部先生の言ってくれた通りなんだけど……」

「なんていうかさ、遠くまで来ちゃったなぁって」

 

 その言葉に一同首をかしげてしまう。なぜなら、こういう言葉は全国大会の前などに出てくるのが普通だからだ。少なくとも、県予選一回戦敗退後に出てくる言葉ではない。

 

「あれ、おれ変なこと言ってる?」

 

 首をかしげている周りの様子に、日向自身も首をかしげるが、まぁいいやと言わんばかりに首を振って話を続ける。

 

「……一回戦敗退は悔しいよ」

「勝ちたかった、って今でも本気で思ってる」

 

「でも、ちゃんと(・・・・)一回戦敗退できたんだ」

「おれの初めての公式戦が、みんなとの試合で本当によかったって思うんだ」

 

 普段見せない真面目な、どこか寂しそうな笑顔を浮かべる日向に、その場の全員が飲み込まれ、押し黙ってしまった。

 

「バレーボールって独りじゃできない競技だからさ」

 

 その空気に耐えられなかった関向が思わず茶々を入れてしまう。

 

「なんか、死んじゃいそうだな」

 

「あはは、バレーボールじゃ人は死なないよ」

 

 関向と泉の軽口の応酬に後輩たちはようやく少し笑ったが、反面、日向自身は目をそらして気まずい顔をしていた。

 

「……ソウダネ」

 

 三年生からの話が終わったのを見計らって日下部が元気に手を挙げる。

 

「じゃあ私からも!」

 

 明るくよく通るその声に、生徒たちは姿勢を正して日下部の方へ向き直った。

 

「きっとね、いつかみんなもこの中学生活を懐かしく思う日が来ると思うの」

「終わってしまえば何もかもあっという間だった、夢のように過ぎてしまった」

「……そんなふうに思うときがね」

 

 ってこの言葉も受け売りなんだけどね、とおどけながら続ける。

 

「これは高校も大学も同じで」

「ううん、たぶん高校とか大学の方がもっとあっという間かな?」

「だからね、だからこそ今日という日を忘れないで欲しいんです」

「負けた悔しさも、ブロックの絶望も、サーブの怖さも」

「得点の喜びも、スパイクの快感も、仲間の安心感も」

「そしてなにより、バレーボールの面白さを」

「試合に初めて出た、今日という日をずっと覚えていてください」

 

 学生時代はあっという間だという日下部の言葉は、まだまだ中学生の彼らには実感のないものだったが、たしかに生徒たちの心に刻まれたのだった。

 

 ある者は相手のブロックが日向()につられてフリーで打った時の景色を、ある者は背中を守護ってくれていた日向(守護神)との連携を、またある者はブロックアウトで点を奪う日向(エース)の横顔を思い出していた。

 

「じゃあ、帰りましょう!」

 

 

 

 雪ヶ丘中学、最初で最後の夏が終わった。

 

 いまだ燃え尽きぬ闘志をそれぞれの胸に宿して。

 




ちなみに、一年生たちは号泣、ケガ人である名取は男泣き、寡黙な広瀬はほとんど無音で泣いていました。
太白だけは元々冷静なところがあるからか、セッターとしての責任感からか喋る余裕があったみたいです。

前回に引き続きオリキャラである日下部が目立つ回でしたが、彼女の出番もおおよそ中学編まで。
高校編に入っても時おり登場する彼女のことを邪険にせず、見守っていただけると嬉しいです。


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