中三の夏は受験の夏、そんな感じの第十五話です!
よろしくお願いします!
今後数年は語り継がれるだろう激戦が繰り広げられた、県予選第一回戦から数週間が経った。予選を勝ち抜き全国へ駒を進めたチーム以外のほとんどの三年生は部活を引退している頃だ。もちろん、中高一貫の白鳥沢学園中学などでは三年生も引退せず、高校ゼロ年生として部に残り続けている。とはいえ、多くの公立中学では三年生が引退していた。
なぜなら、彼らはこれから過酷な受験戦争に立ち向かわなければならないからである。そして、ここにそんな状況に置かれた中学三年生が二人集まっていた。
「決勝、惜しかったな」
雪ヶ丘中学の体育館で、日向が影山とトス練習をしながら話をしている。話題は県予選決勝についてだった。
「惜しくても、負けは負けだ」
敗北を思い出したからか険しい表情になりながら、影山が日向へ返球する。
「まぁでも影山も大活躍だったじゃん」
実際に見に行ったときの影山の活躍を思い出しながら、日向が明るい声で応答した。あの一回戦の後、影山がきちんとバレーボールと、チームメイトと向き合ってくれたことがわかって嬉しかったのだ。
「…………」
日向の言葉に、影山はどこか居心地が悪そうにする。
「
「影山のピンサーがなかったらデュースまでいかなかっただろ」
たしかに、日向の言う通りだった。地味だが堅実な二年生セッターによる攻撃と、影山の派手なサーブ、そしてアタッカーとしての影山の強烈なスパイクによって北川第一は決勝最終セットのデュースまで戦えたのだ。少なくとも、あの時点での北川第一が取れる最善の策だったことは間違いないだろう。
「それでも!」
「俺は!!」
日向からの返球を、アンダーハンドで自分の頭上へ高く上げ、オーバーハンドの構えを取りながら跳ぶ。
「セッターだ!!!」
弱い自分を振り払うような激しいジャンプから放たれた、美しくも鋭いトスを見て、日向が笑いながら跳び込んだ。
床を踏み込む大きな音が轟き、一拍置いてボールが床を撃ち抜いた衝突音が鳴り響いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なぁ、影山」
ひとしきり汗を流した二人が休憩していると、おもむろに日向が尋ねる。
「高校ってどこ行く?」
そう、なんのかんのと言っても彼らは受験生なのだ。
「……白鳥沢」
少し考えた後に目を逸らしながら影山が答えた。
「推薦は?」
「きてない」
「勉強は?」
「してない」
「???」
まるで行く気のないような影山の返答に、日向は思わず困った顔をしながら首を傾げてしまう。日向の様子を見て観念した影山が立ち上がり、顔を背けながら本当の志望校を答える。
「烏野高校」
「最近、烏養監督も復帰したらしいしな」
顔を背け、少し早口で聞かれてもいない理由まで答える影山は何か言い訳をしているようだった。
「一緒じゃん!」
もし違う高校名を言われたら説得するつもりでいた日向は、安心して笑顔になる。
「なんで最初はごまかしたんだ?」
そして、当然気になる疑問を影山へぶつけた。別に自分たちの仲で隠すようなことじゃないだろう、と。
「チッ……」
背中を向けたままでいた影山が舌打ちをしながら振り返る。
「真似したみたいになるだろうが!!」
「俺が、お前のことを!」
そう言って怒鳴る影山の顔を少し赤い。
「へ……?」
思ってもいなかった影山の答えに日向は唖然としてしまう。白鳥沢の牛島からの誘いを断り、そんな牛島をバカにしながら青葉城西へ誘った及川までもバッサリ斬った場面は、多くの人たちに目撃されていたのだ。当然、影山も知っていた。
「そ、そんな理由で?」
この理由は、「やり直し」が始まって以降慌てることの少なくなっていた日向のことを、容易に動揺させていた。こんな理由で志望校を誤魔化されるとは思ってもいなかったからだ。
「クソが……」
恥ずかしさからか苛立ちからか赤面しながら悪態をつく影山に、混乱から復帰した日向が笑って声をかける。
「一緒に烏野行こうぜ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……って」
「今から行くやつがあるか?!」
クールなイメージを持たれることの多い影山が、珍しくツッコミを入れる。彼と日向が立っているのは、宮城県立烏野高校の正門前だった。
「いや、行くって言ってたじゃんか」
そんな影山に日向は異議を申し立てる。「さっき一緒に烏野に行くって言ったよな?」と。
「それは、志望校の話だろうが!」
影山が声を荒らげて至極真っ当な返答をする。おそらく、十人中十一人が影山のことを支持するだろう。誰があのセリフを聞いて、進路の話ではなく物理的な移動の話だと思うというのか。
「大丈夫!」
「話は通ってるはずだから!」
困惑する影山を安心させるように日向が親指を立てる。しかし、影山が困っているのはアポイントの部分ではなく、日向の言動自体に対してである。
「あー、君らかな?」
「今日来るっていう中学生は?」
じゃれあいのような言い争いをする二人のもとへ、忙しそうに額の汗を拭う男性が現れた。
「はい!」
「雪ヶ丘中学三年の日向と、北川第一中学三年の影山です!」
これが武田先生の前の顧問の先生か、と初めて顔を合わせる男性教師を前に日向が少し固くなりながら答える。
「うんうん、元気があってよろしい」
「話は聞いてるからね、ついてきなさい」
顧問の先生に招かれて二人は校内を進んでいく。影山は物珍しそうに周りをキョロキョロと見渡しながら、日向は三年振りの母校を懐かしく思いながら。
そして、彼らはたどり着く。
本来の歴史よりも半年近く早く。
彼らの青春の巣、烏野高校第二体育館へ。
「それでは、終わったらまた来ますんでね」
「本日もよろしくお願いします、烏養監督」
顧問の先生がそう言って仕事に戻ると、日向と影山の二人は、開け放たれた体育館の扉から噴き出す熱気に包まれた。
「お前らか」
「入部希望の雛烏たちってのは」
入口に立つ日向たちのところへ烏養監督がやってくる。まだ夏だってのに気が早えやつらもいたもんだ、と苦笑いする烏養だったが、特に嫌がっている素振りは見せない。
「そういう活きの良いやつは嫌いじゃねえ」
むしろ……、と背後で汗だくになりながら転がっている一年生たちをチラリと見てため息をつきそうになる。
「よろしくお願いします!」
「おう、とりあえず中入れや」
いつまでも入口で話していてもしょうがないと、烏養が二人を体育館の中に上げる。
「これが、烏野高校バレーボール部か……」
体育館の中に入った影山が、中を見渡しながら呟く。地面に転がる部員を見て一瞬顔をしかめるが、エースらしき部員の強烈なスパイクと、それを完璧に上げたリベロらしき部員を見て口角を上げた。
「一旦手ェ、止めろ!」
烏養が部員たちに声をかけると、代が替わり主将となった澤村が「全員集合!」と全体へ号令をかける。そして、澤村と、そしてその横に駆け足で寄ってきた菅原は、そこに立っている少年たちを見て目を見開いた。
「あー、紹介する」
「このクソ暑い中、
全員が集まると、烏養が簡単な説明をし、日向たちを顎で指し示した。自己紹介を促されたと察した日向が一歩前に出て声を張り上げる。
「雪ヶ丘中学校から来ました!」
「中学三年の日向翔陽です!」
「ポジションは
続けて、影山も一歩踏み出した。
「北川第一中学三年、影山飛雄です!」
「ポジションはセッターです!!!」
そして、打ち合わせもなしに息を合わせて挨拶をする。
「よろしくお願いします!!!」
その姿を見て、澤村と菅原は口をあんぐりと開けて驚いてしまう。そして、こちらのコンビも息ぴったりに叫び出す。
「本当に来たァァ?!?!」
この日、十羽の雛烏たちは本来よりも半年近く早く出会うことになった。
この夏の出会いが、未来へどう影響を及ぼすかは、まだ誰も知らない。
しかし、忘れてはならない。
日向と影山は受験生だということを!
田中は一拍遅れて叫んだらしいです。
日向には根回しすりゃ何してもいいわけじゃないぞって言いたくなりますね〜。
いつも応援ありがとうございます。
感想も楽しく読ませてもらっています。
お気に入り登録、感想、高評価お待ちしております!
【次回予告】
次回第十六話、第一章完結!(予定)
最終話 巣立ち
お楽しみに!
ちなみに、志望校のくだりは以下のようになるかと思ったのですが、心の中のリトル日向(日向は心の中じゃなくても小さい)が「影山はこんなこと言わない!」と鳥肌を立てていたので存在しない世界線となりました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「烏野高校」
「最近、烏養監督も復帰したらしいしな」
「それに……」
顔を背け、少し早口で聞かれてもいない理由まで答える影山は何か言い訳をしているようだった。
「一緒じゃん!」
もし違う高校名を言われたら説得するつもりでいた日向は、安心して笑顔になる。
「ん?」
「それに?」
日向の素朴な疑問に影山が振り返って答えた。
「……お前が行くっ
「へ……?」
赤面しながら怒鳴る影山の答えを聞いて唖然とする日向だったが、すぐに影山に近づいて額に手を当てる。
「熱い!!」
「熱があるぞ、お前?!」
「運動したからだろうが、ボケ日向!」