Mr. Future【第二章開始】   作:塵山ちくわ

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これにて第一章完結です!

よろしくお願いします!



2025年6月24日12時
夏と冬の描写を加筆しました。
2100字程度の大幅加筆です。



1.16 巣立ち

 夏が終わる。

 

 二人の体験入部は良くも悪くも烏野高校へ大きな影響を与えたが、突然始まったこの交流が終わるのも唐突だった。烏養監督が入院してしまったのだ。

 

 元々烏養を求めて、という体で彼らがやってきていたという面もあるが、それ以上に、監督者がいなくなることが大問題だった。つまり、烏養がいなくなる以上、烏野高校での練習を見る大人はいなくなり、そんな状況で他校の生徒、それもまだ中学生である日向と影山を預かることはできないと判断が下されたのだ。

 

 この決定を特に残念がったのは、意外にも烏野高校の生徒たちの方だった。初めこそどこかよそよそしいところのあった高校生たちにとって、いつの間にかに日向たちがかけがえのない仲間になっていたのだ。もちろん、烏養と中学生たちの練習風景についていけなくなった部員もチラホラと現れていたが、そこは部内の問題として受け止められ、日向たちへ悪感情が向けられることはなかった。

 

 別れの日、日向と影山は烏野高校第二体育館で盛大に見送られた。まず目につくのは、後輩という存在に、あるいは先輩という呼ばれ方に憧れのあった田中と西谷が大げさに悲しんでいる様子だ。

 

「ひなたぁ~!」

 

 涙ぐみ、両手で日向の肩を掴む田中は今にも頬ずりしそうな勢いだった。

 

「田中先輩(・・)、暑いです……」

 

 東北と言えど、夏は暑い。目の前に暑苦しい男がいればなおさらだ。

 

「せん、ぱい……」

 

 日向の先輩呼びに感激する田中の後ろから跳びあがった西谷が、田中に肩車をさせながら日向に顔を近づけた。

 

「俺にも!」

「俺のことも呼んでくれ、翔陽!」

 

 もしかしたら、彼らは日向たちとの別れを悲しんでいるのではなく、先輩呼びとの別れを惜しんでいるのかもしれない。

 

「はい!」

「西谷先輩!!」

 

 涙を浮かべながら感動する西谷。その涙はどう見ても悲しみから来るものではなかった。

 

「あっちぃよ、西谷(ノヤ)!」

 

 本気で暑がっているのか、「ノヤっさん」と呼ばず呼び捨てにする田中と、それを笑い飛ばす西谷、二人にもみくちゃにされる日向がワイワイと騒いでいる一方で、影山は二年生たちへ挨拶をしていた。

 

 影山にとって、烏野の先輩たちほど頼りになる、頼りにしても良い先輩の存在は生まれて初めてのものだったのだ。

 

キャプテン(・・・・・)!」

「一か月、お世話になりました!」

 

 初めは「澤村さん」だった呼び方が、いつの間にかに変わっていることに苦笑しつつ、この一か月を振り返って澤村は疲れた顔をする。

 

「本当に、一時期はどうなるかと思ったけど……」

 

 思い出すのは、影山と現一年生との衝突だった。

 

「いやー、あれは本当に大変だった」

 

 遠い目をする澤村と菅原を前にして、影山は平身低頭になっていた。

 

「はは!」

「まぁ頑張りなさいよ、色々と」

 

 申し訳なさそうに謝り倒す影山を見て澤村が笑う。

 

「がんばれよー」

「まずは受験だけどな!」

 

 ニコニコと爽やかな笑顔で、菅原が影山の肩を叩いた。影山は何を根拠にか、胸を張り自信に満ちた顔で返事をする。

 

「オッス!!!」

 

 そこへ、私服の男と制服を着た男が駆けつけてきた。

 

「お、間に合ったな!」

 

「っすね」

 

 卒業したはずの前々主将である田代と、引退したはずの前主将である黒川がわざわざ顔を出しに来たのだ。

 

「集合!」

 

 先輩がやってきたことに気づいた澤村が全体へ号令をかける。

 

「田代さん、主将!」

「来てくれたんですね!」

 

 そう言って頭を下げる澤村に続いて、日向たちを含む全員が礼をした。

 

「澤村、俺はもう主将じゃない」

「まぁ、進路が決まればまた部にも顔を出す予定だがな」

 

 何人か殺めていそうないつもの無表情で澤村と話す黒川。

 

「日向くん、影山くん」

「これからの烏野を頼むよ!」

 

 卒業生と中学生だからか、少しよそよそしい呼び方をする田代。

 

「田代さん、あざっす!」

 

 OBの彼らも、この夏ときおり顔を出し烏野の未来の軸となるであろう二人の中学生と交流しており、彼らにとっても日向たちは一緒に練習した後輩となっていたのである。

 

「そうだ、黒川! 忘れないうちに!」

 

 田代が黒川に声をかけ、持ってもらっていた荷物を出すよう指示する。

 

「っす」

「溶けないうちに食べてくれ」

 

 黒川が取り出したのは、袋いっぱいのアイスキャンディーだった。

 

「おぉ~~~!!」

「ありがとうございます!!」

 

 わかりやすく歓声をあげるのは日向・田中・西谷の三人だったが、彼らが喜びの舞を踊っている横で、たしかに影山の目もキラキラと輝いていた。アイスを食べながらいつまでも騒いでいる日向・田中・西谷を澤村が叱り、別れを惜しんでいるようであまり表情の変わらない影山の頭を菅原がくしゃくしゃにし、そんな様子を見て東峰と清水が笑っていた。

 

 そこにはたしかに、烏野高校排球部が存在した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 秋が来た。

 

 つまり中学三年生にとっては本格的な受験勉強の季節がやってきたということになるが、この期に及んで愛すべきバレー馬鹿たちはバレーボールにいそしんでいた。

 

「影山先輩!」

 

 太白の上げた教本通りのトスに合わせて、影山がスパイクを打つ。

 

「甘ぇ!」

 

 ブロックに跳ぶのは二年生MBの名取だった。名取がギリギリで触ったボールの下へ日向が走り込み、ネット際まで高くレシーブする。

 

「ゆっくりでいいぞ!」

楽していこう(・・・・・・)!」

 

 日向の掛け声を聞きながら、名取がぎこちなくも丁寧なトスを上げる。

 

「頼みます!」

 

 すかさず影山がブロックに跳ぶが、それを巧みに避けてボールはコートに叩きこまれた。

 

「クソ……!」

 

 悔しそうに悪態をつく影山の声は、直後に聞こえてきた黄色い歓声にかき消される。

 

「日向せんぱ~い!」

 

 日向ガールズと揶揄されることもある、日向の追っかけの歓声だった。

 

「あ、こっち見てくれた!」

「笑顔かわいい」

「いや、かっこいいでしょ」

「ボールになりたい」

「一年!撮影は禁止だよ!」

 

 騒々しい彼女たちの声援だったが、その声量に比して悪影響は小さい。なぜなら、そこで練習している人の数が今までとは違ったからだ。

 

「太白先輩!あとでトス上げてください!」

 

「名取先輩、ブロックのコツ教えてほしいッス」

 

 そこには、夏前まではいなかった新入部員の姿があった。県予選での活躍を見聞きして集まった部員は六名で、現在雪ヶ丘中学男子バレーボール部は総勢十三名というそれなりの人数となっていた。

 

「日向先輩、さすがです!」

 

 一年生の森がタオルを手渡しながら日向を褒める。しかし、それは二対二で決めたスパイクについてではなく、日向ガールズの歓声についてだった。

 

「ちょっと恥ずかしいけどな……」

 

 タオルで汗拭きながら、照れたように笑っている日向に影山が呟く。

 

「……及川さんみてーだな」

 

「それ、褒めてるのか?!」

 

 顔を赤くしながら抗議する日向と、褒めているつもりだったためそんな日向の様子を見て首をかしげる影山という、平和な世界がそこには存在した。

 

「まぁいいか」

「影山、アレ(・・)の練習しようぜ!」

 

 挑戦的な笑みを浮かべながら放たれた日向のその言葉に、影山もニヤリと笑って頷く。

 

「おう!」

 

 アレ(・・)とは当然、マイナス・テンポのことである。といってもそれは、県予選で使用した雪ヶ丘バージョンではなく、いつでもどこからでも使用できるオリジナルバージョンのことだったが。

 

 

 

「ところで、影山先輩」

 

 練習がひとしきり終わり、クールダウンをしている頃、神妙な面持ちの太白が影山に尋ねた。

 

「なんでいるんですか、という疑問はとりあえず置いておきますが」

 

 なんだかんだ言っても北川第一に影山の居場所はないのだ。というかそもそも三年生は引退している頃である。

 

「受験勉強の方は大丈夫なんですか?」

 

 大変申し上げにくいのですが、と枕詞が付きそうな太白の疑問が影山に向けられた。

 

「大丈夫なんじゃねーの?」

 

 同じく勉強していない日向を見ながら答える影山に、さらに言いにくそうに太白が続ける。

 

「あの、日向先輩って意外と成績悪くないんですよ」

 

「え?」

 

 その言葉を耳にした日向が「意外とはなんだ、意外とは!」と猛抗議をし、平謝りをする太白の横で、影山は呆然としていた。大丈夫だろうと謎の自信をもって今まで受験勉強を欠片もしてこなかったからだ。

 

「おい!!!」

 

 影山の大声が体育館に響きわたり、その場が一瞬にして静まりかえる。

 

「勉強を、教えてくれ……!」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 冬が始まった。

 

 十二月に入り、本格的に寒さが厳しくなってきた頃、日向と影山は一緒に勉強をしていた。三月上旬に控えた宮城県立高校入試まで、残り三か月を切っていたが、影山の成績が地を這いつくばっていたからだ。

 

「泉先生!」

「ダニエルってだれだ?!」

 

 影山が理科のテキストを睨みつけながら泉へ質問する。

 

「ダニエル……?」

「あー、理科か」

 

 一瞬、「ダニエルだけじゃわからない」と思った泉だったが、テキスト名を見て電池の話だと察した。

 

「なんでこれ、進行形にならないんだ?」

 

 英文法につまづく関向に日向がアドバイスする。

 

「んー、今すぐやめられないやつは進行形にならないからだな!」

 

 日向家で行われている勉強会には、影山と日向に加えて助っ人三年生として活躍した泉と関向も参加していた。初めこそ、「こいつと勉強すんのか……?」と戸惑っていた関向たちだったが、数回もすれば慣れて順調に進むようになっていた。

 

「イズミーン!」

「数学教えてくれ!」

 

 英語は日向が、国語と理数系は泉が、そして社会科は関向が先生役をやり、それでもわからないところは学校の先生に質問するという形式を取っていた。

 

 そう、影山は完全にお荷物だった。

 

「アァ~~!!」

 

 土曜日の朝からすでに数時間、早くも限界がきた影山の悲鳴が轟く。

 

「バレー、やろう」

 

 日向の部屋に転がっていたバレーのボールを手に持ち、三人に宣言した。しかし、反応は芳しくない。

 

「影山……」

 

「バレー馬鹿だな」

 

「せめてこの単元終わらせてからにしよう、な」

 

 堂々と勉強から逃げようとする相棒の姿に日向が目をそらし、意外と愉快な奴だったと思っている関向が面白がり、世話焼きの泉が影山にペンを握らせる。白目をむく影山のところへ小さな太陽が現れた。

 

「とびおくん、バレーおしえて!」

 

 日向翔陽の妹、日向夏だ。

 

「おう、任せろ!」

 

 目にも止まらぬ素早さで夏のところまで移動した影山がボールを片手に部屋を出ようとする。

 

「お、おい……!」

 

 慌てた日向が妹と相棒を止めようとするが、その手は空を切った。

 

「じゃあな、先に行くぜ」

 

 ニヤリと笑って部屋を出ていく影山を、困った顔の日向が急いで追いかける。まるで、妹の夏に加えて大きな、本当に大きな弟ができたようだった。

 

 影山は勝ち誇った顔をしていたが、しかしながら、この受験戦争において最も遅れを取っているのが彼自身であるのは言うまでもないことである。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 冬が去り、春が来る。 

 

 四月、宮城県立烏野高校第二体育館前。

 

 そこに、一人の黒髪の少年が立っていた。

 

 

 

 

 

 ―-目の前に立ちはだかる、高い高い壁

 

 

 影山は思い出す。

 

 

 ―-その向こうはどんな眺めだろうか

 

 

 中学での挫折を。

 

 

 ―-どんなふうに見えるのだろうか

 

 

 独りよがりだった自分を。

 

 

 ―-独りでは決して見ることのない景色

 

 

 扉を開く。

 

 

 ―-でも、独りではないのなら

 

 

 目の前にいる相棒へ声をかける。

 

 

 ―-見えるかもしれない、 "頂の景色"

 

 

 

 

「バレー、やろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 




少し駆け足で終わってしまったため、今後加筆修正するかもしれませんが、そのときはアナウンスをします。

これで第一章は完結です!
今後は何本か番外編を挟み、第二章へ進みます。

(予定)
番外編1 それぞれの卒業式
番外編2 「先輩」への憧れ、田中龍之介という男
番外編3 和久谷の怪談
(書いてみてボツにする可能性アリ)

リクエストは受け付けていますので、その場合は感想欄以外の方法でメッセージをください。


みなさんの応援のおかげで第一章、無事完結できました!
今後も応援、感想、高評価のほどよろしくお願いします!!
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