Mr. Future【第二章開始】   作:塵山ちくわ

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英語の難易度って
英検準1級≧大学受験≧英検2級>高校学校内容≧英検準2級≧高校受験>英検3級>中学学校内容
これくらいだと思ってるんですが、実際どうなんでしょう?

今は中学生でも仮定法までやるらしいので少し違うのかもしれませんが。
あと大学受験も大学のレベル次第ではありますよね。


といったところで、第二話です!



1.02 筋肉

 バレーボーラー、日向翔陽の朝は早い。

 

 五時半には起床し、家族全員分の朝食を用意する。朝ご飯を息子が用意することについて、両親は難色を示したが、息子の説得に負けてまだ小学生の彼に家事を一部担ってもらうことにうなづいた。本人曰く、これからバレーボール関係で色々と迷惑をかけるから、とのことだったが、子供はそんなこと気にしなくて良いというのが両親の偽らざる本心だった。しかし、今年から幼稚園児になった娘の身支度や、サラリーマンである夫の弁当作りを考えたとき、朝食の支度だけでもしてもらえるだけでもありがたいのはたしかだった。

 

 朝ご飯を用意した日向翔陽は、まず自分の分を食べ切り、使用した食器類を洗う。その後自分の顔も洗い、運動着に着替えた彼は、バレーボールを持って外へ出る。もちろん、バレーボールの練習のためだが、これにも両親は難色を示していた。特に、母は今でも少し不安を抱いている。というのも、人通りの少ない早朝の路地を、まだ小学生でかつ身体も小さな息子が一人で出歩くことに抵抗があったからだ。この問題は、父親が同行すると宣言することで解決した。当然、両親の負担を増やしたくなかった本人は反対したが、有無を言わせぬ態度の両親に押し切られてしまっていた。

 

 日向翔陽が庭で柔軟を終わらせる頃、同じく朝食と洗顔を済ませ服を着替えた父親がやってくる。アラフォーに差し掛かった彼にとって早朝の運動は中々堪えるものがあったが、彼の妻はむしろ嬉々として送り出していた。健康診断の結果が年々悪くなっているからだ。そうして、日向家の親子はまだ寒さの残る4月の仙台の朝を走り、ときには息子に教わる形でトス練習をし、ときには住宅街から離れてスパイク練習をする。練習をする度、父は息子のレベルの高さに舌を巻くが、息子は息子で日を追うごとに形になっていく父親の姿に感服していた。

 

 ひとしきり汗を流した親子は、ついでに朝刊を回収しながら家へ戻る。交代でシャワーを浴びた二人は、それぞれ父は会社へ、息子は学校へ出発する。父親は妻お手製の弁当を片手に、息子の方はウェアの入った巾着袋を抱えて。見送る妻であり母である彼女は、一ヶ月前までは考えられなかったスムーズな朝に思わず苦笑してしまう。あれだけ苦労していたのはなんだったのか。すでに生活の一部となった、足もとに転がるバレーボールに感謝しながら、彼女の一日も始まる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 バレーボーラー、日向翔陽の一日は忙しい。

 

 なぜなら、朝はバレーボールの練習が、日中は小学校が、放課後は中学校でのバレーボールの練習があるからだ。ついこの間まで高校生だった彼にとって小学校の授業は余裕、と言いたいところだが、実のところかなり苦戦していた。国語・社会・理科の暗記分野はまったく初見と言っても過言ではないような難度だったのだ。また、多少できた算数については、いわゆる「先生係」に任じられてしまったことも、小学校生活の忙しさに拍車をかけていた。

 

 なお、元高校生である彼と純粋な小学六年生である同級生との間に精神的な隔たりはなかったが、それが日向翔陽の幼さの証左であることに本人が思い至らなかったことは幸福だったのかもしれない。また、小学生たちに対して無意識の内に兄のように接している日向翔陽を見て、同級生女子の態度が変わったことに男子の誰も気が付かなかったことも少なくとも日向翔陽本人にとっては幸福だった。

 

 放課後はランドセルのまま雪ヶ丘中学校の体育館へ行く。ウェアは巾着袋に入れており、バレーシューズは厚意で置きっぱなしにさせてもらっている。練習に参加した日向翔陽は、すぐに他の部員の追随を許さない集中と覇気に包まれた。最初こそ遠巻きに見ていた部員たちだったが、今では彼につられて、彼に負けじと練習に精を出している。中には、彼にジャンプやスパイク、レシーブのコツを聞く者も現れるほど、日向翔陽は女子バレーボール部に馴染んでいた。

 

 ちなみに、公立中学校であり特に強豪でもない雪ヶ丘中学校女子バレーボール部の活動は週に三回、月・水・金曜日にしかない。それでは、火・木曜日の日向翔陽は一人で練習しているのかと言うと、そうではなかった。なんと、顧問である日下部が面倒を見てくれているのだった。公立中学校の教師の大変さを知っている彼の両親はその申し訳なさから恐縮し、そこまで迷惑はかけられないと遠慮したが、むしろ日下部の強い要望によって放課後練習は行われることとなった。彼女にとってこれは先行投資であり、才能を潰さないために為すべき当然の行いだったのだ。

 

 この練習の内容は、対人パス練習やサーブ練習など、二人以下で行うことのできる普通の練習であり、特筆すべきことはない。もし、特筆すべきことがあるとすれば、日下部が不在の時についてだった。日下部は学校の先生であって、放課後の時間すべてを日向翔陽に捧げることはできない。そのため、どうしても監督者である日下部のいない時間が生まれてしまう。その時間に彼が怪我をしたり、なにか事件事故に巻き込まれることは、関係者全員の望まないことだった。

 

 日下部不在時の日向翔陽の扱いについて悩んでいる時、その解決法をもたらしたのは日向翔陽彼自身だった。彼が言ったのだ、英語の勉強がしたい、と。これにはそれを聞いた全ての関係者が驚いた。日下部はその向上心の高さと小学生に有るまじき勤勉さに驚いた。両親は自分たちの息子に有るまじき真面目さに慄いた。若干、恐怖さえ感じていた。人が変わったような息子に驚きつつ、それならと了承した両親は、改めてバレーボールに感謝をし、日下部先生への謝礼を検討し始めたのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 バレーボーラー、日向翔陽の夜は早い。

 

 強い選手になるためには、ちゃんとした食事としっかりとした休息が必要だということを彼は知っているからだ。休息の重要性を、その身をもって知っているのだ。とはいえ、帰ってすぐ寝るわけではない。夕ご飯を食べ、お風呂に入り、妹と遊ぶ。小学校の宿題があれば早めに終わらせ、日下部先生から出ている英語の課題を進める。未来のチームメイトたちが見れば目を疑うような文武両道っぷりを見せる息子を見て、両親は再びバレーボールに感謝を捧げる。彼の妹がバレーボールを始めるのも時間の問題だった。

 

 そんな日々が続いていく。一週間、二週間と時間はあっという間に過ぎ、すぐに春が終わった。誕生日には家族でプロの試合を見に行き、日下部先生からは英語の参考書をもらった。中学卒業レベルの参考書だった。一学期が終わり、夏休みに入ると、女子バレーボール部での練習の密度が上がった。この頃になるともはや日向翔陽よりも強い部員は一人もいなくなっていたが、だからといって彼の居場所が無くなることはなかった。むしろ、以前にも増して教えを乞われる機会が増え、それが日向翔陽の実力向上の一助となっていた。

 

 夏が終わるとすぐに秋が過ぎた。冬休みに入り、日向翔陽は練習半分、指導半分という立ち位置になっていた。そのことに対して、日下部は申し訳なく思っていたが、それは彼が中学生になることで解決する問題だった。そう、日向翔陽の考えた名案が水面下にて動き出したのだ。多くのことが順調に進む中、クリスマスがやってきた。サンタクロースからは栄養学やスポーツ科学の本をもらい、ついでに頼んでもいないゲームももらった。そして、日下部先生からは英語の参考書をもらった。高校受験レベルの参考書だった。

 

 年が明け、三学期が始まると卒業式の練習が始まった。全く眼中になかったバレンタインデーでは、何かの間違いではないかというほど多くのチョコをもらった。大部分は女子バレーボール部の部員からで、一部小学校の同級生や下級生からのものもあった。日下部先生からは英語の参考書をもらった。英検準二級レベルの参考書だった。ほかの学期よりも登校日数の少ない三学期はやはり瞬く間に終わり、日向翔陽は小学校を卒業した。女子バレーボール部の世話になっていることをからかってきていた男子たち、勉強を教えていた同級生たち、バレンタインデーにチョコをくれた女子たち、なぜかいる女子バレーボール部の部員たち、雪ヶ丘中学校と連絡を取り合ってくれた先生たち。どうせほとんどの同級生は一緒に雪ヶ丘中学校へ進学するのに、みんな泣いていた。日向翔陽も泣いていた。

 

 思い出は、筋肉になっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 今年は激動の一年だった、と振り返って思う。そしてその中心には常に日向くんがいた、とも。

 

「今年も一年、お疲れさまでした!!」

 

 そう言って乾杯の音頭を取るのは、日向くんの元担任の先生だ。この場には、雪ヶ丘中学校と小学校の教員の一部が集まっている。この場の全員が、日向くんに振り回された大人だった。

 

「いやー、彼もついに中学生ですか〜」

「時が経つのは早いもんですな〜」

 

 感慨深げに呟くのは、小学校の教頭先生だった。彼は主に渉外として中学校と小学校を繋いでくれていた。元々、非公式に練習に参加するはずだった日向くんだったが、彼の存在が大きくなるに連れて内々に済ませられなくなってしまったのだ。

 

「おかげさまで退屈しない一年でしたね……」

 

 苦笑してこちらを見てくるのは、私と同じ英語科の先輩教員だった。彼女には、私が日向くんに付きっきりで溜まってしまった仕事を一緒に片付けてもらっていた。

 

「その節はどうも申し訳ありませんでした!!」

 

 そして、元気よく謝っているのが、私、日下部翼だった。

 

「えぇ、本当にね〜」

「せめて保護者の方に連絡する前に話を通してくれていればもっとやりようはあったんですがな〜」

 

 チクチクと刺すように責めてくる教頭先生に、再び頭を下げる。そう、私が早とちりをして日向家へ電話をかけてしまったがために、日向くんの練習への潜りが、学校と保護者間で公式のものとなってしまったのだ。一度やると伝えてしまうと、それを覆すのは難しい、ということだった。

 

「まぁまぁ、教頭先生も途中から楽しんでいたでしょう?」

「でなきゃ彼発案の例の件に協力なんてしてないはずですよね?」

 

 元担任の先生が助け舟を出してくれる。そう、例の名案のために動いているのは私だけではない。むしろ日向くんの前籍となる小学校の先生の方が主導となって動いてくれているのだ。

 

「えぇ、だから彼を練習に参加させたこと自体は間違いだったとは思っていませんとも」

「あれほどの選手が埋もれるのはもったいないと、素人目にもわかりましたとも」

「ですが、あんなトラブルメイカーだとはな〜」

 

 日向くんとの思い出を肴に、お酒が進んでいく。しかし、今の発言は聞き捨てならないものだった。たしかに彼はトラブルの中心にいたが、実際トラブルを起こしていたのは彼の周りの人間だからだ。

 

「お言葉ですが、教頭先生?」

「日向くんがトラブルを起こしたことはないんじゃないでしょうか?」

 

 直属の上司であれば気後れするところだが、あくまで他校の教頭。日向くん係としてはむしろ同僚であるとさえ思っているため、遠慮なく反論する。

 

「まぁまぁ、日下部さんも落ち着いて」

「たしかに、【修学旅行バスの席取り合い事件】も、【バレンタイン日向ファンクラブ事件】も、【英語小テスト流出事件】も、【小学校卒業式中学生乱入事件】も、ほかの事件も全部、日向くんのせいではありませんでしたが……」

 

 事件の詳細を省きつつわかりやすい事件名を付けた先輩が、私の味方をしてくれる。

 

「翔陽があんなにモテるとはなぁ」

「僕なんか全然わかってませんでしたよ」

 

 元担任の先生が笑いながら言う。

 

「というか本人もわかっていなさそうですよね……」

 

 先輩もそれに続けて話す。どうやら、直接会ったことのない先輩から見ても日向くんの鈍感さは明らかだったらしい。

 

「まぁ日向くんはあの通り、バレー一筋ですからね!」

 

 私が大きく頷きながら同意をすると、どこか咎めるような視線を教頭先生から感じる。

 

「む、今挙がった事件のうち、半分は日下部さんのせいではありませんかな〜?」

「【英語小テスト流出事件】は、日下部さんが日向くん向けに作ったテスト問題を授業で流用したのが原因だったらしいですし」

「【小学校卒業式中学生乱入事件】も、女子バレーボール部の部員が日向くん見たさに中庭まで来ていたという事件でしょう?」

 

 あわわ、あわわ。

 助けを求めて周りを見渡すが、元担任の先生は誤魔化すように店員さんへ追加の注文をし、先輩はむしろ怒りの視線をこちらへ向けていた。

 

「そうですね……」

「日下部さんの日向くんへの入れ込み具合はある程度理解しているつもりでしたが……」

「だからといって他のことを疎かにして良いということにはならないと、そう伝えていましたよね……?」

 

 あわわ、あわわわわ。

 

「いや、ですが先輩!」

「あれはあくまで小テストであって、定期テストなどではなくてですね……!」

 

 慌てて言い訳をするが、自分の誤りに気がつく。ここで言い訳をすることは、火に油を注ぐも同義だった。

 

「当たり前です!!!!」

「あれが定期テストだったら懲戒物ですよ!!!!」

 

 普段は覇気のない先輩が、髪を逆立てて怒っている。そう慌てていると、今度は先ほどまで私をチクチクと責めていた教頭先生が仲裁に入る。

 

「まぁまぁ、お店ですから、落ち着いてくださいな」

「今日はお互い責め合う日ではなく、労う日でしょう?」

「そうでしょうとも、トラブルの話は忘れて、彼の活躍についてお話しましょう?」

 

 トラブルの話をし始めたのは教頭先生だろう、と思いつつ、その助け舟に乗る。先輩も本気で怒っているわけではなく、というよりすでに職員会議において本気で怒られていたので、教頭先生の言葉を聞いて怒りをおさめてくれた。

 

「そうですね!」

「それでは僭越ながら私、日下部翼が、日向翔陽くんのすごさを語らせていただきます!!」

 

 ノリの良い元担任の先生が拍手をしてくれる。教頭先生はなぜか大きなミスに気がついたような顔をしており、先輩もまた、なぜか顔を引き攣らせている。

 

「ではまず、バレーボールのポジションと最高到達点の話から……」

 

 長い、長い夜が始まった。 

 

 

 

 




〇オリキャラ
日下部翼(25)
→英語教師。日向翔陽のファン一号。
日下部の先輩(37)
→英語教師。日向翔陽と直接の面識はないが、練習風景を見て圧倒され、遠巻きに見守っている。
日向翔陽の元担任(29)
→新婚。日向翔陽のモテ具合を見て正直引いている。
小学校の教頭(58)
→渉外担当。バレーボールは素人だが、日向翔陽の凄さは理解出来てしまった。


〇日向翔陽への人物評価など
・母
いつのまにかこんな良い子に……?英語の参考書のレベルを見て我が目をうたがった。
・父
いつのまにかこんな良い子に……?バレンタインのチョコの数を見て我が目をうたがった。
・妹
にいちゃん!がんばれ!
・同級生(男子)
付き合いが悪くなったが、前より頼りになる気がして話しかける機会は増えた。
・同級生(女子)
勉強も運動できて、どこか大人の余裕を見せていてかっこよく見える。ファンクラブが出来つつある。中学校女子を警戒している。
・女子バレーボール部員
最初は可愛い子かと思っていたが、めちゃくちゃかっこよかった。邪な狙いで日向翔陽へ教えを乞う部員は三年生にキルブロックされている。
・日下部先生
小学生なのに電話でアポイントが取れて敬語が使えて礼儀正しいし、勉強も自分から始めるその向上心と勤勉さが素晴らしい。しかも気持ちだけでなく、きちんと勉強が身についているのも素晴らしい。調子に乗ってレベルの高い参考書を買ってしまったが、それもこなしているようで感動している。(ちなみに、今のところは他校の生徒とはいえ、自腹で参考書をプレゼントしていることがバレるとまた怒られる。)
日向翔陽はいずれ世界が注目する選手だと確信しており、海外でも活躍することになると考えている。それゆえの英語教育であり、サービス残業だった。むしろ嬉々として日向翔陽のために英語とバレーボールについて勉強し直している。卒業式の日に日向翔陽から手紙をもらって号泣した。まだ中学校の卒業式が残っているのに。ちなみにショタコンではない。彼氏はいない。先輩からは警戒の目で見られていることに気がついていない。


恋愛なし(モテないとは言ってない)
とはいえ、バレー一筋なのでいわゆるラブコメ展開はないです。


感想、高評価待ってます!!!!!
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