Mr. Future【第二章開始】   作:塵山ちくわ

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本当は午前か午後の8:19に予約投稿したかったんですが、せっかく日向の誕生日なので出来上がり次第投稿しました!

さて、思いのほか出番の多い日下部先生ですが新山女子はいつから名門だったのか、、
オリキャラである日下部先生の出番が多いのでタグを追加しました!



といったところで第三話です!


1.03 名案の明暗

 セッターから優しく上げられた高めのトスを、日向翔陽が打ち抜く。ブロックの上から叩き込まれたそのスパイクが、誰に触れられることなく相手コートに突き刺さった。得点ボードは25-16、日向翔陽のいるチームの勝利を示していた。

 

「ありがとうございました!」

「さすが、ナイストスでした!」

 

 日向翔陽が差し出すその手を握るのは、先の紅白戦でのセッターだった。

 

「こちらこそ、良いスパイクだったよ」

「翔陽ちゃん」

 

 北川第一中学男子バレーボール部キャプテン、及川徹その人だった。彼の頬に滴る汗は運動によるものか、目の前の怪物に対する冷や汗か。握り返された手の小ささを感じながら、及川は今朝のことを思い出していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 北川第一中学校の体育館には、周りと異なるジャージ、他校のジャージを着ている者が紛れ込んでいた。新入生はそういうものかと遠巻きに眺め、上級生はこの異常事態に戸惑っていた。いや、中には他校生の横にいる背の高い美人に目を奪われている部員もいたかもしれない。そんな中、始業のチャイムが鳴り、バレーボール部の休日練習が始まった。

 

「えー、お前らも気づいているだろうが、今日はお客さんが来ている」

「雪ヶ丘中学校の日下部先生と、一年生の日向翔陽くんだ」

 

 時間通りに集合し体育座りで話を聞く部員たちに対して、バレーボール部の監督が伝達しなければならないことを伝える。

 

「今日から彼らと、雪ヶ丘中学校バレーボール部と合同練習を行う!」

「といっても、今日みたいな休日練習のあるときだけだが、これから毎週のように顔を合わせることになるだろう」

「……仲良くするように」

 

 部員たちの目に浮かぶのは困惑の色だった。今年突然始まった合同練習に対して、合同練習をするには少なすぎる他校生の人数に対して、そして、150㎝に満たない目の前の少年に対して、多くの困惑が部員たちを襲っていた。

 

「ご紹介にあずかりました、雪ヶ丘中学校バレーボール部顧問の日下部と申します」

「普段は女子バレーボール部の顧問をしていますが、今年から男子の方も担当することになり、今日、こちらへお邪魔させていただいています」

「一応、ポジションは元セッターです。よろしくお願いします!」

 

 北川第一の監督からバトンを受けた日下部が自己紹介をする。彼女はあくまで引率であり選手ではなかったが、バレーボール部の慣習としてポジションまで紹介していた。

 

「ちなみに、彼女は学生時代、新山女子で正セッターを務めていたこともあるそうだ」

 

 監督の言葉に照れる日下部をよそに、部員たちのざわめきが広がる。新山女子のバレーボール部といえば全国クラスの名門であり、そこの正セッターとは自動的に全国クラスの力を持っているということだからだ。部員たちの驚きを前にしつつ、日向翔陽も驚きを露わにしていた。

 

「先生って新山女子だったの、だったんですか?!」

「しかも正セッター!」

「どうりですげー打ちやすいんですね」

 

 納得し何度も頷く日向と、褒められてにやける口元をごまかす日下部がそこにいた。

 部員たちが静かになり、日向たちの会話が終わる頃を見計らって監督が話を進める。

 

「それじゃあ、次……日向くん」

 

 今度は、日向の番だった。

 

「今日からお世話になります!」

「雪ヶ丘中学一年の日向翔陽です!」

「一応バレーボール部の部長です、っていっても部員はおれしかいないんですけど……」

 

 苦笑しつつ頬をかいて少しだけ自虐をする日向だったが、気合を入れ直して自己紹介を続ける。その瞳に少しの希望を乗せて。

 

「ポジションはMB……?……最近は何でもやってます!」

「最高到達点は291㎝です!」

「よろしくお願いしあーす!」

 

 再び広がるざわめきは、先ほどのものよりも大きかった。信じられなかったのだ。目の前の少年が3m近く跳ぶということが。もちろん、中学生でも全国代表チームであれば3m以上跳ぶ選手なぞざらにいる。しかし、日向翔陽は見るからに140㎝台前半であり、この場の誰よりも身長が低いのだ。

 

「お前らの考えていることは何となくわかるが、事実だ」

「俺だって実際にこの目で見るまでは冗談だと思っていたからな」

 

 この言葉からわかる通り、監督はすでに顔合わせを済ませていた。これは当然、日向の出身小学校と雪ヶ丘中学校との打ち合わせのためだったが、なによりも日向翔陽の成長の証左だった。今から数えて三年後、そこで開かれる疑似ユース強化合宿でのトラブルから彼は学んだのだ。突然他校へ押しかけることは、多くの大人に迷惑をかけてしまうということを。

 

 それゆえの(小六時の)日下部へのアポイントであり、丸々一年かけた今回の合同練習への準備だった。そう、日向翔陽は事前の根回しという大人の技術を身につけていた。つまり、昨年度から準備していた彼の名案とは、北川第一中学の練習に混ざる、というものだったのだ。

 

「よし、じゃあ練習始めるぞ!」

「及川、なんか言いたそうだがとりあえずアップに入れ」

 

 雑に進行を渡された及川徹は、たしかになにかしらを言いたげな顔をしていた。彼の脳裏にあったのは、先日入部した一人の後輩セッターだった。今日も視界の端にいる、見たくもない才能を見せつけてくる天才セッターと、目の前の少年を重ねてしまっていた。もし、本当にそこまで跳べるのなら、その上である程度以上の技術があるとしたら、それはあの後輩以上の怪物なのではないか、と。

 

「はい、監督」

「じゃあみんな、アップ始めていくよ~」

「ほら、日向くんも混ざって、混ざって!」

 

 「日向くん」という呼び方に、自己紹介のときに抱いていた淡い希望が失われたことを知る。もしかしたら、自分以外にも過去の記憶を持つ人がいるのではないか、と期待していたのだ。しかし、大王様こと及川徹の呼び方や少し離れたところにいる彼の態度から、少なくとも彼らに過去の記憶はないのだとわかってしまった。

 

「おっす!」

「よろしくお願いしあーす!」

 

 それでも、そんなことは関係ない。日向翔陽が今日ここに来たのは、思い出に会うためではない。今日、今ここに日向翔陽がいるのは、バレーボールをするためだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 北川第一中学バレーボール部の部員たちが日向翔陽に対して最初に思ったのは、ボールの扱いが上手い、ということだった。アップのあとに行われた簡単な対人パス練習の中で、日向翔陽はそのボールコントロール力の高さを示していた。及川徹の眉間にしわが寄った。

 

 次に、注目したのは、そのレシーブ力の高さだった。練習が進むにつれて、ディグ練習(スパイクを受ける練習)やレセプション練習(サーブを受ける練習)が行われたが、そこで抜群の活躍をしたのだ。及川徹の顔が引きつっていた。

 

 最後に、やはりジャンプ力の高さに驚愕させられた。申告通り、3m近く跳んでいたのだ。ブロック練習やスパイク練習の中心には日向翔陽がいた。また、彼が「ブロックが見えている」選手だということに気が付いたのはごく少数だったが、それに気付いた者たちは、さらなる驚愕を味わっていた。及川徹は奥歯を噛みしめていた。

 

 練習の最後、紅白試合をすることになったとき、日向翔陽は及川のチームに入れられていた。本来、強豪校である北川第一のレギュラーメンバーが行う紅白戦にレギュラーではない一年生が入ることはない。今日初めて練習に参加した他校の一年生であればなおさらである。しかし、日向翔陽はコートに立っていた。他の部員を、中には三年生もいたが、そのすべて差し置いて、日向翔陽がコートに立っていた。しかし、部員たちもすでに納得していた。彼が紅白戦のメンバーに選ばれることに、そして、彼がいるからこそ部員一名の他校のバレーボール部と合同練習をすることになったということに。

 

 そうして、冒頭のシーンに戻る。紅白戦ではひとまずMBを任された日向翔陽は、破竹の勢いで活躍した。サーブとトスこそ普通だったが、それ以外が異常だった。いや、サーブとトスも普通に上手いと言えるレベルにあったが、それ以外の部分のレベルの高さから、相対的に評価を下げられていた。及川率いる白チームの得点のうち、およそ半分にあたる11点が日向翔陽のアタックによって獲得されていた。ブロックにおける貢献度を考えると、半分以上の得点が日向によってもたらされていたのだ。

 

「日下部先生、あなた方があれほど熱心に交渉してこなければ、今日の合同練習は実現しませんでした」

「そして、あなた方の熱意があったからこそ、我々は日向翔陽に出会うことができたのでしょう」

「ありがとう、彼を連れてきてくれて」

 

 整理体操をする部員たちを見つめながら感謝を述べる監督に、慌てて日下部も頭を下げる。

 

「いえいえ!」

「こちらこそ貴重な休日練習に混ぜていただき、感謝しかありません!」

 

 強豪校である北川第一中学のバレーボール部には、そうではない雪ヶ丘中学女子バレーボール部と違い、休日練習があったが、それは時間が余っているということを意味しない。むしろ、時間に余裕がないからこそ休日にも練習しているのだ。本当であれば、部員一名の学校を混ぜる余裕などないのだ。

 

「山を一つ超えた先にある中学校とこうして縁を持つことになるとは思ってもみなかったが……」

「二人の都合がつくのなら、平日の練習に来てもらっても構わないと考えています」

「どうせ、今日のように日下部先生が引率で来るんでしょう?」

 

 気難しい監督にしてはめずらしく、少し口角を上げながら歓迎の意を示す。その言葉に対して日下部は目を丸くして驚く。

 

「どうしてわかったんですか?」

「平日であれ、今後も私が日向くんの引率をするって」

 

「そりゃ、見てれば分かりますよ」

 

 雪ヶ丘中学校の学区が山を一つ超えた先にあり、中学一年生が一人で通うには遠すぎるという事情や、放課後であれば顧問が引率するだろうという推測もあったが、なにより、彼女の表情を見ていればわかったのだ。日下部翼が、日向翔陽のバレーを愛し、応援しているということは。

 

「というか、そもそも今日だってあなたは休日出勤でしょうに」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その日、生まれて初めて自分より強い同級生に出会った。名前は日向翔陽というらしい。身長は自分よりも頭一つ分以上は低かったが、プレーはバレー部の中で頭一つ以上飛びぬけていたと思う。いつからバレーをやっているのか、どこまでバレーができるのか、気になることに考えを巡らせつつ、彼との会話を思い出す。

 それは、練習が始まってすぐの、アップをしている最中だった。

 

「か、影山!」

 

 数秒の沈黙。

 

「……こんにちわ!!」

 

 突然話しかけられたことに驚きつつ、返事をする。

 

「コンニチワ……?」

「ん?なんで俺の名前知ってんだ」 

 

 そう、日向自身は自己紹介をしていたが、自分たちはまだ名前を名乗っていなかったはずだった。

 

「あ、やべ……」

 

 なにを焦っているのか目を泳がす日向を不思議に思っていると、すぐに何かを思いついたように言葉をつづけた。

 

「あー!!ジャージだよ、ジャージ!」

「名前書いてあるじゃん!」

 

 そう言われてたしかに、と思う。それにしても様子が変だと思ったが、そんなことはどうでもよかった。バレーを除いて、難しいことを考えるのは苦手だった。

 

「それで、何か用か?」

 

 人と話すのはあまり得意でないため、少しぶっきらぼうになりながら日向へ尋ねる。自分の言葉を聞いた日向は、持っていたバレーボールを両手で差し出しながら言った。

 

「対人パス、付き合ってくれよ!」

 

 その後は流れるように時間が過ぎていった。対人パス中の日向の「やっぱ、上手いんだな!」という言葉に照れつつ、「やっぱり」ってなんだと思いつつ、そんなくだらない疑問を忘れる勢いで練習にのめりこんだ。特に、サーブ練習は衝撃的だった。あの及川先輩のサーブをAパスで上げたのだ。及川をはじめとした三年生は難しい顔をしていたが、自分を中心とした一年生たちは盛り上がっていた。

 

 ディグも上手だった日向はきっと良いリベロになるだろう、と思っていた自分の考えを変えたのは、ブロック練習とスパイク練習だった。たしかに、自己紹介のときにMBだと言っていたことを思い出させられる風景だった。最後の紅白戦については言わずもがな、いつもは騒がしい金田一も、いつもはボーっとしている国見も、そして自分自身も、日向のプレーに釘付けになっていた。

 

「飛雄、なんかイイことあったの?」

 

 考え事をしているうちに病室に着いていたらしい。ベッドに横たわる祖父へ、今日のことを伝える。

 

「うん」

「……一与さん、たしかに現れたよ」

 

 自分の言葉の先を察したのか、祖父はこちらへ笑顔を向けて続きをうながしてくる。

 

「ほう、誰が現れたんだい?」

 

 

 ――強くなれば、絶っっっ対に、もっと強い誰かが現れる。

 

 

「もっと強い誰か」

 

 その言葉を聞いた祖父の笑顔を、忘れることは決してないだろう。

 

 その後、病床の祖父とたくさん話をした。バレーのことを話したが、日向についてばかり話していたと思う。この日、祖父が「また明日でもいい?」と聞くことはなかった。

 

 帰りが遅いことを心配して迎えにきた姉に祖父と共に怒られるまで、二人の会話は続いた。

 

 

 

 

 

 




〇日向翔陽への印象など

・影山飛雄
→祖父である一与の言う通り、「もっと強い誰か」が現れて興奮している。まだ祖父も存命でトス無視も起きていないため擦れていない。ただ、生来の気質として口ベタではある。
・北川第一の三年生
→日向の超人具合に白鳥沢の絶対エース、牛島若利を思い出している。ウシワカとはまったく方向性の違う超人だが、ちょっと怖い。及川は特に脅威に感じており、「チビちゃん」なんて呼べなかった。
・北川第一の下級生
→すげー、と素直に感心している。
・北川第一の監督
→雪ヶ丘側の教師陣の熱意に負けてたった一人のバレー部との合同練習を認めた人。何度か雪ヶ丘での日向を見ており実力の高さは知っていたが、これほどとは思っていなかった。なんとか転校させられないかと考えている。休日にわざわざ車を出して隣町まで引率をする日下部のことを少し尊敬している。
・日下部先生
→県内有数の名門校である北川第一でもまったく見劣りしない日向を見て、やはり自分の目に狂いはなかった、と内心ガッツポーズを取っていた人。ちなみに日向が活躍する度、全然普通にガッツポーズを取っていた。経歴の通り、地元がここらへんのため実家住み。親に頭を下げて実家の車を借りて日向の引率をかってでた。どうせ合同練習をさせてもらうなら白鳥沢が良いのでは?と思っていたが、日向の強い意志を見て北川第一と連絡を取った。大人たちの間では、全国常連の白鳥沢よりは許可が得やすいだろうという狙いもあった。
・日向翔陽の両親
→息子が他校まで行ってバレーの練習をすると聞いて驚いた。その計画を小学生の頃から立てて、周りの大人を巻き込んで根回ししていたと知ってさらに驚いた。休日にもかかわらず日下部先生が引率として隣町まで車を出してくれると聞いてもっと驚いた。日下部先生への謝礼を真剣に検討している。
・影山飛雄の祖父(一与さん)
→孫に「もっと強い誰か」が現れたと聞いて安心している。もう思い残すことはないとさえ思ったが、噂の日向くんとやらに会いたいなぁ〜なんて思ってもいる。



ハイキューの魅力は色々ありますが、部活はスタメンだけで成り立っているわけじゃない、というのがわかるところが特に好きです。
ベンチのメンバー、マネージャー、顧問やコーチ、それ以外の周りの大人たち。
日向の周りには善性の大人たちがたくさんいて、彼らの支えがあってこそのハイキューだと考えています。


感想、高評価待ってます!!!

誕生日おめでとう、日向翔陽!!!

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