Mr. Future【第二章開始】   作:塵山ちくわ

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今日から新学期の小中学生、模試を終えた高校生、まだまだ夏休みの大学生、そもそも夏休みなんてない社会人、みなさんお疲れ様です。
夏休みの宿題のつもりで書きました。

【用語】
WS→ウイングスパイカー(メインの攻撃をする、アウトサイドヒッターとも言いOHと略すがOPと混ざるのでたぶん使わない)
MB→ミドルブロッカー(ブロックの軸、速攻が多い)
OP→オポジット(ローテーションでセッターの対角にいる)


バレーボールのルールを勉強しながら書いています......。
訂正があれば教えてください!



そんな感じの第七話です。
どうぞ!


1.07 跳躍

 

 中学総合体育大会男子バレーボール、その予選の初戦が行われようとしているここ、仙台市市民体育館の一角は異様な熱気に包まれていた。それもそのはず、本来閑散とするはずの初戦、それを戦う一校である雪ヶ丘中学校の応援団が群れをなしているのである。

 

 その最前線には、選手の父兄をはじめとして、雪ヶ丘イレブンや雪ヶ丘ナインの面々、女子バレーボール部の部員たちがいた。そして、日向翔陽ファンクラブがその周りを囲うように陣取り、総勢五十名超の雪ヶ丘応援団を形成しているのであった。これがこの三年と数ヶ月、日向翔陽が築き上げてきたものであり、一つの結果といえるのかもしれない。

 

 それに対して、北川第一中学の観客席はがらんどうである。しかし、これは影山をはじめとした北一バレーボール部の不人気を意味しているわけではない。強豪である彼らが初戦で敗退するとは誰も思っておらず、それどころか苦戦すらしないだろうと考えられていることの証左なのだ。とはいえ、影山たちへ視線を送る者も観客席にいる。それは、かの天才セッターの偵察に来た敵チームや、あるいは、来年度以降を見越して様子を見に来た高校生たちである。

 

「おっ、ちょうど始まりますよ!」

「大地さん、スガさん!」

 

 たとえば、烏野高校バレーボール部の面々。

 

「おい及川」

「見るなら見る、見ねェなら見ねェではっきりしろ」

 

 たとえば、青葉城西の二人。

 

 まだ出会っていない未来のライバルが、未だ交わることなくそこにいた。烏野の三人は噂のコート上の王様を一目見るために、青葉城西の二人は後輩たちの初公式戦を見るために。

 

「それにしても"王様"の対戦相手はどこだァ?」

「MBっぽいのはともかく、それ以外は小学生みたいなナリしてますね!」

 

 一年生WSの田中龍之介が素朴な反応をする。

 

「たしかに……」

「ってか、対戦校の方はあの小さい1番からサーブなんだな」

 

 二年生セッターである菅原孝支が、セッターならではの疑問を口にする。

 

「アップだと眼鏡の2番がセッターっぽい感じだったけど……」

 

 未来の主将である澤村大地が、いわゆるS4ローテーションの可能性を示唆する。つまり、セッター(S)がフロントレフトの位置におり、バックライト(後衛右)から数えて四番目の位置にいるローテーションなのではないか、と考えたのだ。

 

「珍しいッスよね」

 

 相槌を打った田中が違和感に気がつく。

 

「……ん?つーかあの1番、サーブの助走」

 

 

「なんか、長くないッスか?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 前方へ高めのサーブトスを上げ、長めの助走から、ジャンプ。

 

 次の瞬間。

 

 ボールは相手コートに突き刺さっていた。

 

「んなっ?!」

 

 ノータッチエースを許した影山は驚愕する。なぜなら、ほんの数ヵ月前まで日向翔陽のサーブはジャンプサーブではなかったからだ。

 

「おい、少し下がれ!」

 

 チームメイトに命令するように指示を、いやまさに命令を下し、次のサーブにそなえる。影山の耳には雪ヶ丘の応援が鳴り響いており、日向の活躍に大盛り上がりなのが嫌でも伝わってきた。そして、再びホイッスルが鳴り、ジャンプサーブが放たれる。

 

 着弾。

 

 本日二度目、二回連続のノータッチエースだった。

 

「クソが!」

「ボケっとすんな、取れないボールじゃねェだろうが!」

 

 チームメイトへ怒号を飛ばし、周りの表情に気が付かないまま、影山は次のサーブに備える。三度目のホイッスルが鳴り、三度目のジャンプサーブが発射された。

 

「オラッ!」

 

 北川第一の三年生が気合いで上げ、落下地点へ影山が入る。影山が相手コートに視線をやると、雪ヶ丘のライトが浮き足立っているのが目に入った。おそらく、この春に入部した一年だろうと検討をつけ、レフトへ高速トスを上げる。それは、一刻も早く日向のサーブを切りたいという気持ちのあらわれだったのかもしれない。

 

「レフトッ!」

 

 影山のやや速いトスに対して、打ちづらそうな顔をしつつもWSである国見英がしっかりと合わせる。視界の右側では、雪ヶ丘の二年生MBとセッターがクロス側を固めるブロックを作り上げようとしている。正面にいる一年生WSは高さが足りないのか、タイミングが悪いのか、壁として機能していない。つまり、ストレートはがら空き、クロスも完全には塞げていないザルブロックだった。

 

 そう判断しストレートを打ち抜いた国見のスパイクだったが、それが雪ヶ丘のコートに落ちることはなかった。なぜなら、スパイクの先には来ることがわかっていたかのように、日向翔陽がいたからだ。

 

「ユヅ!」

 

 ブロックに跳んでいた二年生セッター太白弓弦が素早くボール下に入り、トスを上げる。先ほどの影山の高速トスとは対照的な、ゆったりとしたオープントスだった。そして、跳躍。あるいは飛翔とも呼べるようなハイジャンプからのバックアタックが放たれる。そう、レシーブを上げた日向翔陽がそのままスパイクを打ったのだ。

 

 場内はその跳躍力にどよめくが、余裕のあるトスは北川第一にも余裕を与えていた。さらに、ネット際での攻撃よりも高さと威力が要求される一方で、まだまだパワーのない日向のそれは、相対的にブロックしやすいものとなっていた。

 

 が、しかし。

 

 完全にとらえていたはずのボールはブロッカーの指先にあたり、コート外へ落ちる。ブロックアウトだ。そうして三連続得点を許した北川第一のコートには、焦りと恐れ、そして苛立ちが漂い始めていた。

 

「最後まで追えよ!!」

 

 コートの外、視界の遥か先で落ちようとするボールを見送った選手へ、影山の怒鳴り声が飛ぶ。

 

「待てよ、影山」

「今のはどうせ追いつけなかったし、あそこで無理に突っ込んでも……」

 

 見かねた金田一が止めに入るが、影山は彼の言葉を最後まで聞かずに続ける。

 

「じゃあお前らが本気でやるのはいつだよ!」

「明日か?明後日か?決勝か?!」

日向(あいつ)は今、本気で俺たちに勝ちに来てんだぞ!!」

 

 同じコートにいる仲間を睨みつける。まるで、敵であるかのように。

 

「止せ、影山。試合中だ」

 

 静観していた主将がようやく声をかけ、同時に監督へ視線を飛ばす。試合開始数分、早めのタイムアウトだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「空気わっる~」

 

 北川第一側の観客席で見ていた及川徹が半笑いで呟く。

 

「たしかにな」

「それよりもあのサーブ、日向のやついつの間にジャンプサーブを……」

 

 言外に「お前が教えたのか?」と聞いているような岩泉の言葉に、及川が表情を変える。

 

「いやいや、岩ちゃん。俺のこと買いかぶりすぎだって~」

 

 おちょくるような及川の反応に怒りを滲ませる岩泉を見て、及川が態度を変える。

 

「ごめんって、怒らないでよ」

「雪ヶ丘の監督、見える?」

 

 そう言いながら及川は雪ヶ丘中学バレーボール部顧問である日下部翼を指さす。

 

「あぁ、相変わらずスゲェ美人だがそれがどうした?」

 

 中学の合同練習ぶりに見る日下部だが、練習に参加していなかった彼女のことは容姿以外よく知らないのだ。

 

「あの後気になって調べたんだけどさ」

「あの人……昔、月バリで特集組まれてたよ」

「”バレー小町”ってあだ名、覚えてない?」

 

 バレー小町、つまり美人の代名詞である小野小町にあやかったあだ名である。

 

「あー、いたな」

「俺たちが小学生のころ、新山女子が全国に行ったときか」

 

 その特徴的なあだ名に記憶が掘り起こされたのか、岩泉も合点がいったような顔をした。

 

「そゆこと」

「そんでもって、そのときの正セッターは強力なサーブが武器だった」

 

 当時の記事や記憶に残る試合映像から、及川が日下部の説明をする。

 

「なるほどな」

「つまり、日向のあのサーブは、その”バレー小町”に教わったってことか」

 

 当初の疑問の答えが見つかり納得する岩泉を横目に、及川はさらなる予想を口にする。

 

「まぁ、教わったのがサーブだけ(・・)とは限らないけどね」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 第一セットは雪ヶ丘中学が優勢、に思えたが、セット中盤に差し掛かる頃には形勢は北川第一に傾き始めていた。その原因は大きく三つある。一つ目は影山のトスだ。北川第一セッター・影山飛雄の高速トスが、雪ヶ丘のブロックを機能停止に追い込んでいた。さらに、雪ヶ丘の一年生のブロックやサーブのレベルの低さが雪ヶ丘の失点を生んでいた。もちろん彼らもまったくの素人ではないが、北川第一のスタメンには遠く及ばず、北川第一のベンチメンバーにも届いていない程度の力しかないのが現実だった。そして、最も大きな原因は雪ヶ丘の攻撃のワンパターンさである。

 

「小さい方の攻撃、ワンパターンなんだよなァ!」

 

 観客席で試合を見ている田中が頭をかきながら呟き、隣にいる澤村もそれに同調する。

 

「ここまでの攻撃全部、あの1番のオープンだからな」

「あれじゃあ決まるもんも決まらない」

 

 仲間の言葉を聞きながら考え込んでいるのは、烏野高校のセッターである菅原である。それを見た澤村たちの不思議そうな視線を受けて、菅原が考えを言葉にする。

 

「いや、今のところファーストタッチが全部セッター以外だけど」

「もしセッターが最初に触ったらどーすんだろうって」

「……あっ!」

 

 その言葉の言霊か偶然か、菅原が話しているまさにそのとき、後衛にいた太白弓弦がサーブを上げた。高く上がったそのボールに飛び込むのは、雪ヶ丘のエースである日向翔陽である。

 

「ツーで打つのか……?」

「でもブロックの完成早い!」

 

 そう口にする菅原と、すでに跳び始めた北川第一のブロッカーをあざ笑うかのように、日向がトスを上げる。これまで使ってこなかった、MBによる速攻だ。

 

「スパイクモーションからのセットアップっ?!」

 

 日向に完全に釣られていたブロックは空を切り、二年生MB名取蹴斗のスパイクが北川第一のコートに突き刺さった。

 

「しかも今のクイック、かなり完成度が高い」

 

 驚く菅原の横で、澤村が感心している。コートの中では日向と名取がハイタッチをしていた。

 

「でもなんでここまで使ってこなかったんすかね……?」

 

 田中が口にした当然の疑問に、澤村が「たぶん……」と前置きをして考えを述べる。

 

「この状況を作りたかったんじゃないか?」

「北川第一も、観客の多くもあの1番に注目して、皆あいつが打つって思ったところに別の攻撃だ」

「ここからは1番以外の攻撃も警戒しなきゃならない」

 

「……それって普通の攻撃じゃないですか?」

 

 田中のさらなる疑問に対して、今度は菅原が返答する。

 

「雪ヶ丘は今、セッターとOPの疑似ツーセッターだから」

「俺たちのやる普通の攻撃より選択肢が多いんだ」

「そこに、あの1番の存在感だ」

「どうしてもあっちに注意が向いちゃうんじゃないかな」

 

「それじゃあ第一セット半分使って、あの1番を囮にしたってことですか?!」

 

 田中が観客席で驚いているころ、コートでは再び雪ヶ丘の速攻が決まっていた。先ほどとは異なり、セッターである太白とMB名取の速攻だ。

 

「ほら、釣られてる」

 

 北川第一のブロッカーたちは、囮として大きくジャンプしていた日向翔陽に釣られ、またしても抜かれていた。澤村がその様子を田中に示していたが、説明をする彼の額には冷や汗が滲んでいた。

 

「これって本当に予選っスか……?」

 

 田中龍之介の頭には疑問符ばかりが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 




試合の描写難しい〜〜!
ハイキューのセッターってビッグサーバー多いなぁと思って確認したらそんな事ありませんでした。
影山、及川、宮侑、白鳥沢の瀬見くらいですかね?
もし他にもいたらぜひ教えてください!

ローテーションについては『ハイキュー!!』の中だとS1ローテーションから始まる試合が多いという印象で、そのイメージのまま書いています。

【ポジション】
WS(OP)日向翔陽
S太白弓弦
MB名取蹴斗
MB広瀬球司
WS川島正次朗
WS鈴木貫太朗
WS森喜郎(ベンチ)


オリキャラなので大したことではありませんが、一応日下部翼先生の見た目について。
彼女の見た目は『詭弁学派、四ッ谷先輩の怪談。』(古舘先生の最初の連載、和久南の中島の妹が主人公)の小町先生をイメージしています。




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