Mr. Future【第二章開始】   作:塵山ちくわ

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お久しぶりです。
月一投稿くらいのつもりが気がつけば二ヶ月経っていました。

一応、バレーボールのルールをパラパラと見ながら書き進めましたが、明らかに間違っているところがあればご指摘ください!

雪ヶ丘中学校 vs 北川第一中学校、再開です!


この話で一番悩んだのはタイトルです。
一応、ひとひねりあるつもりで設定しています!



1.08 全部一人で

 雪ヶ丘対北川第一、第一セットも終盤に差し掛かりスコアは22-24。そう、北川第一のセットポイントである。しかし、雪ヶ丘は現在日向が前衛にいるローテーションであり、攻撃力の高いローテーションだった。もちろん、それは防御の弱いローテーションであることを意味しているのだが。

 

 北川第一のサーバーが狙うのは当然、雪ヶ丘の一年生WSであり、狙い通りの強力なサーブが彼を襲った。その一年生WSも狙われるとわかっていたのか、覚悟を決めた顔でボールに飛びつき、なんとかボールを上げる。大きく乱れたレシーブを上げる先は日向かと思われたが、実際にそのボールをスパイクしたのは前衛にいた一年生WSだった。レフトにいる日向の存在感や二年生MBからの攻撃に気を取られた北川第一のブロッカーたちは、辛うじてワンタッチを取ったものの、ボールはコート外に落ちてしまう。これでスコアは23-24。デュースまであと1点である。

 

 得点ボードを睨みながら、影山が舌打ちをする。それでも暴言を吐かないのは、自分自身も日向の動きに意識を割きすぎていた自覚があったからだった。すぐ後ろまで追いついてきた雪ヶ丘の得点、あと1点でこのセットが取れる自分たちの得点、それらに集中を乱されながらも影山は次の攻撃に備える。幸い、サーバーは日向以外の選手だった。

 

「このセット取りきるぞ!」

 

 周りを鼓舞するような自陣の主将の声を耳に入れつつも、余裕のない影山は黙ったままだ。それは、周りから見ればチームメイトの声を無視しているように見えているわけだが、影山はそれに気づかない。いや、気づけない。さらに広がるチームメイトとの溝に気が付かぬまま、笛の音が響く。なんとか入ったサーブを、北川第一のWSが難なく上げる。そのAパスからこれまでのように影山が高速トスを放つが、ギリギリで合わせたスパイクは日向を中心とした雪ヶ丘ブロッカーたちに阻まれる。

 

「チャンスボール!」

 

 ブロックからそのまま北川第一のコートへ返ってきたボールを上手くレシーブし、影山が高速トスで繋げる。今度はさらに速い攻撃としてMB金田一による速攻を選択するが、雪ヶ丘も負けじとワンタッチを取る。コート外に落ちかけたボールをセッターである太白がなんとか上げ、落下地点には日向が入る。今度はWSかMBかどっちが攻撃してくるのか、と考えるブロッカーの意表を突くように、ファーストタッチを上げたセッター太白によるバックアタックが放たれた。

 

 やや反応が遅れる金田一をおいて、影山が一人でブロックに跳び、ワンタッチを得る。

 

「ブロック反応遅ぇよ!」

 

 この試合何度目かになる怒声が響く中、後衛にいた国見がボールを拾う。今度はAパスとはならなかったが、影山はすばやく落下地点へ入り込み、レフトへこの日最速のトスを上げる。そう、最高ではなく最速。

 

「……!」

 

 会場が一瞬静まり返る。北川第一WSのスパイクはボールをとらえることなく、空を切っていた。空振りである。デュースに盛り上がる雪ヶ丘応援団とは対照的に、北川第一陣営は痛いほど静かだった。それをネット越しに見つめる日向の顔もどこか辛そうである。

 

 影山か、金田一か、誰かが何かを言う前に笛が鳴るが、タイムアウトではない。すでにこのセット、北川第一はタイムアウトを使い切っていた。つまり、サーブの合図だったが、タイムアウトがもうないことを当然知っていた彼らは重たい沈黙の中、各々レセプションのポジションについていた。再びギリギリ入ったサーブを先ほどと同じく国見が上げる。

 

 綺麗に上がったそのレシーブに、前衛セッターである影山がジャンプをして合わせる。今度はどこに上げるのか。今しがた失敗したレフトか、一番速いMB金田一の速攻か、はたまたWS国見のバックアタックか。そう思考を巡らせる日向たちを嘲笑うかのように、影山は誰にもトスを上げなかった。つまり、ツーアタック。これまで見せていなかった手札に裏をかかれた雪ヶ丘陣営は悔しがり、影山は一人ガッツポーズを取る。彼の目に、トスの上がらなかったスパイカーたちの表情は見えていない。

 

 北川第一が得点したことにより、ローテーションが一つ回り、先ほどまで前衛にいた影山が後衛に下がる。影山のサーブである。雪ヶ丘のローテーションに動きはないため、当然日向はいまだ前衛にいる。つまり、サーブとレセプションの攻防関係において、最も北川第一有利のローテーションだった。

 

 笛が鳴る。一呼吸置いたのち、影山のサーブが放たれた。コート中央付近のWSを狙ったであろうそのサーブは、やや軌道が逸れる。それになんとか太白が反応するが、その手に弾かれたボールはコート外に落ちてしまった。影山飛雄のサービスエースである。

 

 スコアは24-26。第一セットを制したのは北川第一中学だった。

 

 自身のツーアタックからのサービスエースによる連続得点でセットポイントを奪取した影山は、大きくガッツポーズを取って喜んでいたが、その一方でチームメイトたちは面白くなさそうな顔でベンチに戻っていた。そして、観客席にももう一人、面白くなさそうな顔をしている男がいた。

 

「……それでいいのか、飛雄?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 プレー中はもちろん、セット間においても雪ヶ丘と北川第一は対照的だった。 というのも、北川第一のベンチでは必要最低限の会話以外は話されていないのに対して、雪ヶ丘の方では顧問の日下部を中心に第二セットに向けての会話が飛び交っているのだ。そして当然、その中にいて日向翔陽が黙っているはずがなかった。

 

「ユヅ、次のセットなんだけどさ」

「アレやろう!」

 

 第一セットをギリギリのところで落としてしまったとは思えないほど、ワクワクした声音で日向が太白へ話しかける。一見すると誘っているように見えるその言葉は、しかし、すでに彼の中では決定事項のようである。

 

「……アレって、アレ(・・)ですか?」

 

 本当にやる気なのか、と少し呆れた表情で太白が返事をする。しかし、呆れているように見えるのは表層だけで、その眼は誰よりも燃えていた。

 

「そう、アレだ!」

 

 大きく宣言すると同時にチームメイト全体へ声をかけ、第二セットの作戦を話し出す。とはいえ、実際に言葉にするのはセッターである太白や顧問の日下部であり、日向は主にメンタル面の鼓舞を担当しているのだが。

 

 

 

 

 

 そして始まる第二セット、運命の分かれ道。

 

 

 消えない傷痕を残す、絶望の第二セットが始まる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「膠着状態だな……」

 

 観客席から観戦している澤村が呟く。たしかに、第二セットが始まって数分は経ったが点差は生まれず、まさに膠着状態に陥っていた。

 

「雪ヶ丘の方はキャプテンが頑張ってるよなー」

 

 澤村の言葉に付け足すように菅原が雪ヶ丘に対するコメントをする。

 

「それってさっきの疑似ツーセッターのことッスか?」

 

 先輩たちの会話を聞きながら、唯一の一年生である田中龍之介が質問する。田中の言う通り、第一セットと同様に日向がセッターとして動くことで攻撃枚数を増やしている場面は何度か見られた。

 

「いや、それもそうなんだけどさ」

「後衛にいるときはレセプション、ディグ、バックアタック、それとサーブも」

「前衛にいるときはアタックはもちろんブロックとしても機能しているし、前衛後衛に関わらず状況に応じてセッターとしても働いてるだろ?」

 

 菅原が田中へ雪ヶ丘キャプテンの動きを細かく伝えると、田中も合点がいったように頷く。

 

「それじゃあアイツだけでWSもMBもセッターもリベロもやってるみたいッスね!」

 

 あ、あとピンサーもか!と呑気に指折り数える田中をよそに、冷や汗を流した澤村が口を開く。

 

「そう、全部(・・)できるんだ」

「そして、それでいて一人でプレーしていない」

「……それが一番恐ろしい」

 

 澤村が戦慄していたのは、日向のプレイの完成度もさることながら、その上でチームプレーを成り立たせている点に対してだった。普通、あれだけ動ける中学生がいれば協調性に欠けたプレーをするものだが、雪ヶ丘にその様子は全くなかったのだ。

 

「逆に、北川第一のセッターはそういう意味では普通だな」

 

 菅原のこの言葉に、澤村が首肯し答える。

 

「あぁ、影山はまるで一人で戦っているみたいだ」

 

 先輩たちの真剣な表情を見て、田中もその顔から呑気さを消す。

 

「でも、どうして点差が広がらないんですかね?」

 

 雪ヶ丘にあるチームワークが北川第一にはない。にもかかわらず点差が広がらず膠着状態に陥っているのはなぜか。

 

「まぁたぶん、慣れたんだろう」

「雪ヶ丘のあの攻撃スタイルに、北川第一が」

 

 もちろんそもそもの地力の差もあるだろうが、と注釈をつけながら澤村が続ける。

 

「たしかに疑似ツーセッターでの三枚攻撃は面白いし、キャプテン兼エースのオープン攻撃は脅威だが……」

「それでもちゃんとボールを見てからブロックすれば止められない攻撃じゃあない」

 

 そう、相手がもし中堅クラスのチームであれば通じたかもしれないが、北川第一は腐っても強豪、いつまでも同じ攻撃に翻弄され続けるわけがないのである。

 

「と、言ってもその北川第一もミスが多くてみすみすチャンスボールを渡しちゃってるんだよなー」

 

 菅原が苦笑しながら北川第一の欠点を述べたとき、タイミングよく北川第一のトスミスが生じる。北川第一WSがなんとか合わせたボールはギリギリ雪ヶ丘コートに返るが、チャンスボールとなってしまう。

 

「せっかくのチャンスボールでも……」

 

 いつの間にか雪ヶ丘に肩入れしていた田中は、けっきょく北川第一のブロックに阻まれてしまうのではないかと不安げな表情をする。その頃にはボールはセッターである太白のもとに返っており、日向翔陽はすでに踏み切り動作を完了させていた。

 

 そう、日向はすでに踏み切り動作を完了(・・)させていたのである。

 

 直後に響くのは、北川第一のコートを割る日向のスパイクの音。一拍おいて雪ヶ丘応援団の大歓声が体育館中に響き渡った。

 

 観客席の田中は不安げな表情から一転、驚きと呆然の混ざったような形容しがたい顔になっていた。衝撃を受けているのは澤村も菅原も同じだったが、それゆえ、彼らから少し離れた席で突然立ち上がった男の存在には欠片も気づいていなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「及川」

「後ろの邪魔になるだろうが、座れ」

 

 突然立ち上がった男の横にいた男、岩泉一はいつものように相棒にブレーキをかけるが、その声にいつもの勢いはない。なぜなら、岩泉自身もまた強い衝撃を受けていたからだ。

 

「……今のはまさか」

 

 目の前で起こったことに心を奪われながらも岩泉の言葉は耳に入っていたのか、及川は座り直し、顎に手を添えて沈黙する。

 

「すげぇ速かったな、今の攻撃」

 

 考え込む及川を横目に岩泉が呟く。

 

「そうだね、ずいぶんと早い(・・)攻撃だったね」

 

 考えがまとまったのか放棄したのか、顔を上げいつものように笑う及川だったが、その頬には冷や汗が浮かんでいた。

 

「翔陽のあの攻撃はたぶん、いわゆるマイナス・テンポってやつだろうね」

 

 そもそも、普通の速攻であるファースト・テンポとは、セットアップよりも前に助走を開始しセットアップの後にジャンプする攻撃である。それに対してマイナス・テンポは、セットアップよりも前にジャンプし始めている攻撃である。つまり、マイナス・テンポとは普通の速攻よりも一段階タイミングの早い攻撃なのだ。

 

「ぶっちゃけ俺にはできない攻撃だ」

 

 いつになく真剣な表情で「できない」と言い切る及川に対して、岩泉がツッコミを入れる。

 

「じゃあ、なんだ」

「あの二年生セッターは影山みたいな天才セッターなのかよ」

 

 それに対して及川は笑って切り返す。

 

「いやー、たしかに中二にしては優秀だけど天才ってほどじゃないよ」

「ていうか岩ちゃんもわかってるよね?」

「あの攻撃を成り立たせているのは、あの超速攻をギリギリ攻撃の形にしているのは、スパイカーである翔陽の方だよ」

 

 及川の顔から笑顔が消え、再び真剣な表情になって話を続ける。

 

「たぶん、自分の最高到達点付近(・・)に上がったトスに、無理やりタイミングを合わせているんだと思う」

 

 及川の予測に対して岩泉がさらなる疑問を浮かべる。

 

「そんな便利な攻撃なんでここまで使ってこなかった……いや、使えなかったのか?」

 

 岩泉の言う通り、実のところ雪ヶ丘式マイナス・テンポには大きな欠陥がある。この攻撃が可能なのは、セッターである太白にAパスが返っている場合、かつ、スパイカーである日向がレフト側にいる場合に限られるのだ。もちろん、そんなこと当の本人たち以外知る由もないが。

 

「まぁ、おおかたセッターくんの方になんか条件があるとかじゃない?」

「じゃなきゃ使わない理由がないしね」

「とはいえ、そんなの関係なくなってくる」

 

 たった数プレーで及川が雪ヶ丘式マイナス・テンポの欠陥と最大の有用性に気が付く。

 

「そうだな」

「一度か二度成功させれば、それでもう影山たちはマイナス・テンポを警戒し続けることになるからな」

 

 岩泉がその有用性を口にする。

 

「そ、これでもう翔陽という最大(・・)の囮から飛雄たちは目が離せなくなるってこと」

 

 

 

 

「……さて、このままだと負けるぞ」

 

 

 

 

 点差はジワジワと広がり、天秤は雪ヶ丘側に傾き始めていた。

 

 

 




難産難産、難産大学でした!!!

試合途中なのでいつもの人物の所感はいったんなしにしておきます。
次の話は早ければ今日中に出すのでお楽しみに!



タイトルの意図に気づいた方がいたらぜひ教えてください!!(たぶん色々な解釈があります)


高評価、感想お待ちしております!
よろしくお願いします!!!!
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