地獄発、地獄行き   作:有森

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単の絶望の終着点

空が、崩壊していく。

 

見知った子が、世界を攻撃し始めた。

今まさに、私に銃口を向けているように。

…死の神となった、友人が。

瓦礫に打ち付けられて、もう身動きすら取れなくて、全身から血を流してるような私にさえ…変色して刺々しくなったヘイローから身を縮こませるような悪寒を放って。

すっかり窶れて果ててしまったその姿で。

…それでいて、無表情を装って、悲しみを、感情を心の箱に仕舞いこんで。

…最後に放った弾丸も、バレルに少しの傷を残すだけとなってしまった。弾はもう無い。…正真正銘、詰みだ。

 

どこで…間違ったんだろう?

 

誰の、せいだろう?

 

私?それとも…貴女?それか…

 

…ううん、あの人のせいには…したくない。恨む、べきは…

 

「ッ…!」

喉元まで鉄臭い匂いがせり上がってきて、思考を中断する。

…ああ、そういえば元々、ここでは死が特に忌避されるんだったっけな…ヘイローがあるから、銃弾があたっても少々攻撃を受けても死ぬことはそう無い…

だから…死生観が達観する…はずなんだけど。

…ああ…それ込みでももう無理だ…どう考えても致命傷だし……あと…ゲヘナ…トリニティ…ミレニアム…アビドス……誰が残ってたっけ…?

俯こうとして、やめる。

まあどうせ死ぬんだろうけど、今下を向いたらそれこそすぐに死ぬ…血を、流しすぎたかな…

 

「は、ハハ…っ゙ッ」

久しぶりに…もう何ヶ月ぶりかに笑おうとして、今度は匂いだけじゃなくて味も口の中に染み出てきた。

…流石に、もう駄目だな…

先生、大丈夫かな…ううん、大丈夫じゃないか……もう一回、会いたかったな…

 

「──?───!───!」

かすかに鼓膜が揺れた。

すりガラスに包まれた世界に映っている彼女を、誰かが遮った。それが、何かを叫んでいた。…ここにはいないはずの人の登場に、彼女も動きを止めていた。

…幻覚?いや、まさか……こんなときに、貴女は……

 

「…ん、せ…」

最後に、的確に…簡潔に…伝えるべきことを、伝える…

 

「…りが、と…ご、ぁ…」

優しく、抱きとめられた。

…ああ、ずるい。

今そんなことをされたら、拒めないじゃないですか。

…諦められなく、なるじゃないですか…

 

「ぇ、んせ…」

温かい水が滑って、冷たくなる。視界が、すりガラス越しの視界が、あんてんする。

 

わたしは、うまく…やれてましたか?

あなたのとなりに…たてていましたか?

 

わたしは………いいえ。

 

 

あのこ、を…──────…

 

 

 

…もし、ゆるされる、の、なら…───────────…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は、」

光が、正面から降ってきた。

 

「…え…」

ふと開いた目に入り込んできた青々とした天井から別け隔てなく降り注ぐ光に、一瞬怯む。

ここが…天国?私は…死んじゃった、と思うけど。

体に触れる服の肩の部分を見て、変わらず連邦捜査部、S.C.H.A.L.E.(シャーレ)の制服を着ていることに気付いた。幸い…というべきか、損傷はそこまで大きくなかったからそこら辺の銃撃戦に巻き込まれたくらいにはなってる。ただ体についた傷とかは完全に無くなって元に戻ってる。

一緒に、無意識的に握っていた愛銃も確認してから上半身を起こす。

世界が、傾いた。

 

「…ここ、見たことあるな…」

じゃあ、何か?

ここは私が作り出した妄想の世界とでも言うの?私の欲が夢でも魅せているとでも?

…うん、あり得るかな。人が死んだあとどうなるのかなんて生きている間は誰にもわからないし…まあ、分からなくて良い。それに夢だとしたら、もう起きる必要がないんだから堪能したい気分でもある。

 

「…にしても…」

 

ガヤガヤ、ガヤガヤ。

 

行き交うオートマタや動物の姿をした人(キヴォトス住民)達。今まさに感じているようなまでに感じる、リアルな肌に当たる風の感覚。

向こうの方から聞こえてくる銃声…は、まあ…キヴォトスらしいといえばらしいけど、いや待って?

ん?

 

「あぁ!?ンだお前等喧嘩売ってんのか、あ゙ぁ゙!?」

「いい度胸じゃねえか、キャハハ!」

…不良──あの制服はゲヘナ生かな?五人くらい──と、またこっちも不良──こっちは十位のオートマタ──が喧嘩を始めようとしてた。

…うん、まあ…風物詩というか…ってか、ゲヘナ生がここにいるってことはここゲヘナ学園近く?それかブラックマーケットらへん…あ、ブラックマーケットの入り口辺りだ。見覚えある。…何でわざわざそこに?

 

『良い度胸はそっちだるぉ!?そぉら喰らえぇ!!』

と、オートマタの右腕が変形して機関銃のようになり、連続射撃。ゲヘナ生達の方にも当たりはするけど…

 

「っハハハ!そんなもん効かねぇっての!!」

「ちょっと痛いくらいなんだよなァ!」

…うん。

生徒はみんな‘ヘイロー’を持つ。

模様や色、形は人それぞれで同じヘイローを持つ人はまず居ない。

その効果の一つで、自身の身体に与えられるダメージを相当量軽減させることができる。それこそ、死というものが基本的に排除されるくらい。

 

「…ちょっと離れないといけないね」

割と近くといえば近くだし、下手すると巻き込まれかねない距離だ。

…まだ少しふわふわとする頭を振って愛銃を背負い直し、その場から一旦離れる。後方で雄叫びとかが聞こえてくるけど…まあ、大方ゲヘナ生達のほうが勝つでしょう。キヴォトス人と一般オートマタじゃ、ほぼ同数の正面衝突の戦闘で後者には勝ち目はほとんどない。

 

「……にしても」

妙にリアルな感覚。

やけにリアルな生活。

不気味なまでにリアルな、この世界。

見渡す限りに広がる、見覚えのある世界。

 

…おとぎ話のような、それこそ突拍子もないような考えだけれど。まさか、これは夢じゃなく…

 

「…時間、遡行……?」

あの地獄から、そっくりそのまま時間が巻き戻ったと言えるような、この()の状況。

…まあ、だとしても今がいつかもわからないし…そもそも、本当にそんな非現実的な事があり得るのかと言われると………ゲマトリア関連ならもしかしたら、程度かな?いや、どうだろう…色彩が侵入してきてゲマトリア崩壊したらしいし、そもそも正直そこまであの人達に詳しいわけじゃないんだよね。先生の補佐として色々情報収集とかはしてたから普通の生徒よりかは知識もあるとは思うけど。

どこかの天才ハッカーさんくらいの頭があったら今の状況も…なんて考えもするけど、無い物ねだりをしてもしかたない。私は私でしかない。

 

「…どうした、ものかな」

喧騒に背を向けて、ひとまず足を動かすことにした。

 

…まずはここ、キヴォトスの心臓部、サンクトゥムタワー周辺へ。

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