地獄発、地獄行き   作:有森

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えっ…そんなの知らない…

その後。

先生と別れて一旦シャーレに戻ろう…として、携帯が鳴った。

交友関係はたしかに広いけど、ほんとに顔見知り程度の人が多い中で私に電話をかけてくる人なんてホントにひと握りもいない。一体誰からかと思えば、例の()()()()からみたいで。

 

「…いきなり何の用ですか、黒服さん」

電話に出ると、スピーカーの奥から特徴的な笑い声が聞こえてきた。

 

『アビドスに到着されたようで…久々に貴女の戦っている所を拝見させていただきましたよ』

見られてたんだね。

なんか前に言ってたね…戦闘が始まったら自動で電源が入って、終わったら切れる機能のついたドローンを追従させてるって言ってたっけ…何その無駄なオーバーテクノロジー。しかも何?目に見えないように光学迷彩機能もつけたうえで戦闘に巻き込まれないように上空300mから俯瞰して見てるんだっけ?

ミレニアムのエンジニア部もそうだけど、作ろうと思ったらとんでもないもの作るよね…

 

「それは結構。これから嫌でももっと見ることになりますよ」

『私個人としましては例の状態で戦って欲しいのですが…』

「ただの生徒相手にあんなの使ったら死にますよ。それに、そんなにおいそれと使えるものじゃないという事は既に説明したと思いますが」

神秘の蓄積は便利に見えて結構制約が多い。

まず、()()()()()()()は自分の体に流れる神秘量が極端に減るから、基本的にただの人…それこそ先生とかとほぼ同じ耐久になる。蓄積と使用を両立できないわけだ。

それに、溜まる速度も非常に遅い。

単純な神秘総量も周りと比べればかなり多い私でもほぼ丸3日溜めたとしてもホシノさんレベルの神秘解放を数分維持することすらできない。まあそれだけホシノさんが異常ってのもあるし、確かに今は2年間分溜めてるからその比じゃないけど少し使った分の補填をするのにどれだけまた溜めないといけないことか。

あと、使()()量の調節がほぼできない。ひねり口の壊れた蛇口に近いかな。だから閉めるだけなら元栓を閉めればいいけど一旦使うとなったら勢いよく流れ出すからそれをほとんど調節できない。

まあ頑張れば多少絞るくらいはできるし、蓄積量が少ないとそもそも流れ出る勢いも弱いからアレで済んでたんだけど…今使ったらまあとんでもないことになるよね。

 

「それで、わざわざそんな事を連絡しに来たんですか」

『いえいえ、アイスブレイクですよ。それよりも…()()()()()は気に入っていただけましたか?』

「………プレゼント?」

『ええ』

「……何のですか?」

『…はい?』

プレゼント…?ほんとに何だろ…?アレかな?ヘルメット団のことをプレゼントなんて称してる…わけないか。嫌味にしても度合いが弱すぎるしそもそも黒服さんならそんなもの使わなくても普通にオートマタけしかけてくるか。それにあのヘルメット団カイザーが雇ってる奴ららしいし。

 

『…本当に記憶にないのですか?』

「残念ながら何も…え?」

『……アビドスの借金』

「…はい、9億6132万円ですね…?」

『…???何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?』

うわ壊れた。

とか思ってたら、黒服さんは爆弾発言を残してくれた。

 

『…2年前、一億円ほど肩代わりをしたはずだったのですが』

「…は?何で…まさか、ユメさんかホシノさんと契約を…!」

『いえいえ、違いますよ。言ったでしょう、これはあなたへのプレゼントです。とは言いましても、ある一種の対価と言ってもいいですが』

対価…?何の…

 

『ビナーに残された貴女の戦闘記録、そして何よりあなたという存在を発見できた機会、それに対するちょっとしたプレゼントですよ、貴女の好感度を稼いでおいて損はないと思ったのもありますが。貴女はアビドスに少し気を寄せているように見えたので』

辛うじて聞き取れた。

だが、今私はそれどころじゃなかった。急いで聞かないといけないことができた。

 

「いつですか」

『はい?』

「いつそのお金を入れたんですか!!」

焦りと、好機。

その情報があれば、カイザーに一泡吹かせられる…!!

 

『2年前、貴女と会ったあとすぐですが…』

「わかりました。では」

『え、ええ。次の定期連絡の日は…』

「言われなくても、分かってます」

プッ、と通話を切り、体を反転させる。

早足で向かうのはさっきの会議室。扉を開けると、ホシノさんとユメさんがいた。

 

「ありゃ、シグレちゃん?どうかしたの?」

「…周りに人がいなくてもそっちなんですね…まあ良いですけど、ちょっとした用事…というかお願いがありまして」

?と同時に首を傾げる2人。

 

「借金相手って…カイザーローンですよね。ここらへんの悪徳金融といえばそれくらいしかないですし…その契約書とか、あったりしますか?」

急に何を言いだしたのかと思ったのか、ホシノさんとユメさんは顔を見合わせて首を傾げた。

まあそれでも、一応あるけど、と伝えてくれたのでそれのコピーを取らせてもらって、アビドスの今支払ってる利息を確認してから急いでシャーレに戻ることにした。

…業務もそうだけど、こっちの仕事もするかな…明日から…いや、今日からずいぶんと忙しくなりそうだね。

 

 

 

 

 

「──か、ユ───かホ──さん───を…!」

声が聞こえてきた。

アビドスを出ようとしていた時にふと耳を澄ますとシグレの声が聞こえてきた。

あまり盗み聞きするのも良くないかな、とも思ったけど、気になって近づいてみると…

 

「いつそのお金を入れたんですか!!」

(“……え?”)

焦ったような、聞いたことのない声色に一瞬心臓を掴まれたような気がした。

 

「…わかりました、では……言われなくても、分かってます」

少し震えたようなその声。

電話をしていたのか、相手はいなかったように思う。それにしても。

 

「“一体誰と…お金…?”」

一瞬、嫌な想像が脳裏をよぎる。

アビドスの借金について話が出た時のシグレの眉をひそめるような顔、そして、協力について聞いた時に珍しく一瞬遅れた返答…何かしら妙なことにシグレが巻き込まれているのではないか、もしくは…アビドスの問題の渦中にシグレがいるのではないか──

 

「“ッ!”」

パチン、と自分の頬を叩く。

駄目だ駄目だ、先生である自分が生徒を疑うなんてしてはならない。

まずは目先の問題、アビドスの借金の問題に向き合わないと。

それでもし、そこにシグレがいたとしたら…話して、説得して、ちゃんとした道に戻してあげるだけ。それが私にできる戦い方だ。




うへ〜何もしてないのに先生が覚悟決めてるよ〜
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