地獄発、地獄行き   作:有森

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長め。


究極の選択

『それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます』

「…あの、」

『…本日は先生とシグレさんにもお越し頂いているので、いつもより真面目な議論が出来ると思うのですが……』

「あの?」

当然の如く進めないでほしい。

 

『“どうしたの、シグレ?”』

「…わざわざリモートで私参加する意味あります?」

書類もこなしながら端末越しにそんなことを返す。

…いや、私も先生も全くそんな気はなかったんだけど、アビドスの人たちからの希望で私も参加することになったらしいんだよね。で、私の前には立体投射されたアビドスの教室が。

……なんで?

 

『“まあ…意味はあるんじゃないかな?”』

なんか特にアヤネが推してたけど、と付け加える先生。私何されるの。

 

『コホン……では、早速議題に入ります。本日は私たちにとって非常に重要な問題……。学校の負債をどう返済するか、について具体的な方法を議論します。ご意見のある方は挙手をお願いします!』

おっと、始まった。もう…さすがに真面目に聞こうか。(ヤケ)

いかにもな感じの空気で会議が始まると同時に、すぐにセリカさんが勢いよく手を上げた。

 

『はい!はい!』

『はい、一年の黒見さん。お願いします』

『……あのさ、まず苗字で呼ぶの、やめない?ぎこちないんだけど』

『セ、セリカちゃん……でも、せっかくの会議だし……』

…あれ?思ったより緩い…?私の思い過ごし…だと良いな…?

 

『いいじゃーん、おカターい感じで。それに今日は珍しく、先生もシグレちゃんも居るんだし?』

『ん、初めて』

『ですよね!なんだか委員会っぽくてイイと思いま~す☆』

『はぁ……ま、先輩たちがそういうなら……とにかく!対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産寸前としか言いようがないわっ!このままだと廃校だよ!皆、分かっているわよね?』

あ、セリカさんって会計担当だったんだ…言ってたっけ?…聞いてない気がする。

そんな事を考えつつ、言葉に耳を傾ける。

…財政が破綻寸前。9億…いや、8億円か。まあどっちにしてもとんでもない借金を背負っているこの人達にとっては、とてつもない重圧だろう。

できることなら私もできる限りの支援とかもしたいところなんだけど…あいにく多方面に手を出してるせいであんまり余裕はないんだよね…ちなみに私の負担の半分はアリウス関連。定期的にトリニティに許可もらって件のあそこに物資を届けてる。

まあお金はそれなりにあるからね。シャーレからは給料も出るし、それが入り始めたら支援とかしてみようかな。

 

『毎月の返済額は利息だけで788万円!私達も頑張って稼いではいるけれど、正直利息の返済も追いつかない!これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアをするだけじゃ限界があるわ!このままじゃ埒が明かないって事! 何かこう、でっかく一発狙わないと!』

『でっかく……って、例えば?』

と、セリカさんは得意げな顔で大きくチラシを掲げて机の上に広げた。…でも、そこに書かれていたのは…

 

『これこれ!街で配っていたチラシ!』

『これは……!?』

『どれどれ……? 『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットで、あなたも一攫千金』ねぇ……』

…うん、マルチだね。

けどそれに気づいていない彼女は揚々と話し続ける。

 

『そうっ、これでガッポガッポ稼ごうよ!この間、街で声を掛けられて、説明会に連れて行って貰ったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売っているんだって!』

嬉しそうにセリカさんが言葉を紡ぐたびに、教室内の空気の温度が少しずつ下がっていく気がした。

見てるだけなのにこっちまで伝わってくることある?

ほら、先生がすごい笑顔になってるじゃん。

 

『これね、身に着けるだけで運気が上がるんだって! で、これを周りの三人に売れば……みんな、どうしたの?』

『却下~』

『えーっ!? 何で? どうしてっ!?』

と、ホシノさんがいつもどおりのように朗らかな声で言った。

…空気は戻った…かな。

 

『セリカちゃん……それ、マルチ商法だから……』

『儲かる訳ない』

『へっ!?』

『うん、これは…ちょっと…』

『そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな……こんな怪しいところで、まともなビジネスを提案してくれる筈がないよ……』

『そっ、そうなの?私、2個買っちゃったんだけれど!?』

それを見てユメさんがそっと目をそらしていた。

……思うところがあるん…だろうね。ほら、何気にユメさんポンコツ気味だから…思い当たるフシがありそう。

そこからふとセリカさんの方に視線を向けると、彼女は腕につけているブレスレットを恨めしそうに睨んでいた。

 

『くぅ、悔しいぃ……!』

『全く、セリカちゃんは世間知らずだねぇー。気を付けないと悪い大人に騙されて、人生取り返しの付かない事になっちゃうかもよー?』

『そ、そんなぁ……そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに……』

『大丈夫ですよセリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう? 私がご馳走しますから』

…ホシノさん、貴女が言うと言葉の意味がさらに重く聞こえてくる。

……ちょっとよく見ると、チラシには『お問い合わせはこちら!』と電話番号が記されていた。

…うん、事務所の電話番号が分かるならヴェリタスの人達に協力してもらって居場所は特定できる…後で連邦生徒会かヴァルキューレに通報しておこう。

 

『えっと……それでは、黒見さんからの意見はこの辺で、他に意見のある方……』

『はい!はい!』

『えっと……はい、3年の小鳥遊ホシノ委員長。ちょっと嫌な予感がしますが…』

と、今度はホシノさんが手を挙げた。

…この人もこの人でどんな案を出してくるのか。

でも正直、中身は()とは違ってあのツンツン状態っぽいし、多分まともな案も出してくれる…筈。

 

『うむうむ、えっへん!我が校の一番の問題は、全校生徒が此処にいる数人だけって事なんだよねー。生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒の数を桁違いに増やせば毎月のお金だけでもかなりの金額になるはずー』

『え……そ、そうなんですか?』

『そういうことー! だからまずは生徒の数を増やさないとねー、まずはそこからかなー。そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるしね』

お、おぉ…!まともな意見だ…!

いや会議なんだからまともな意見が出てくれないと困るんだけど。

…問題はその生徒数をどれだけ増やすかだよね…

 

『鋭いご指摘ですが、でもどうやって……』

『簡単だよー、他校のスクールバスを拉致すればオッケー!』

『はい!?』

あれ?何かがおかしい。

まさか真面目モードのホシノさんをユメさんの()()が上回った…!?

 

『登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないと、バスから降車出来ない様にするのー。うへ~、これで生徒数がグンと増える事間違いなーし!』

『それ、興味深いね。ターゲットはトリニティ?それともゲヘナ?ミレニアム?狙いを何処に定めるかによって、戦略を変える必要があるかも』

『お?えーっと、うーん……そうだなぁ、トリニティ?いや、ゲヘナにしよーっと!』

うん、ゲヘナなら問題児も多いし、そこまで咎められることも…あるに決まってるよね。流石にヒナさんと直接やり合うのはおすすめできないなぁ…いやホシノさんなら勝てそうだけど。

あとシロコさん、乗らないで。

 

『ちょ、ちょっと待って下さい!そんな方法で転校とかありなんですか!?それに他校の風紀委員が黙っていませんよ!?』

『“うん、私もちょっとそれは認められないなぁ…”』

流石の先生も許容できないらしい。

苦笑いしながら言う先生に、にへら、とホシノさんの表情が崩れた。

 

『うへ~、やっぱそうだよねー?』

『やっぱそうだよねー、じゃありませんよホシノ先輩。もっと真面目に会議してもらわないと……』

と、今度はシロコさんが手を挙げた。もう嫌な予感しかない。

というのも、前にも言ったとおり本来私はアビドス関連はカイザーPMCと直接やり合うまで基本的にノータッチだった関係上、先生とかから後で聞いた話を知っているだけに過ぎない。

そして、聞いた中でとんでもなく印象に残ってるのが…

 

『いい考えがある』

『……はい、2年の砂狼シロコさん……』

『銀行を襲うの』

『はい!?』

これなんだよね…

印象が強すぎてこれだけは忘れないだろうなと思った記憶がある。

 

『確実かつ簡単な方法。ターゲットも選定済み、市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから』

『さっきから一生懸命見ていたのは計画書ですか!?』

『5分で一億は稼げる、はい、覆面も準備しておいた』

何で無駄に用意周到なの…

確かに知ってたとは言ったけどそこまで周到だとは聞いてない。マジでやる気じゃないの。

…まあ、確かこの後銀行強盗しに行くんだけどね…割と本気でアヤネさんの胃が心配。

 

『…ごめん、先生とシグレの分はない…』

『“いらないしさせないよ!?”』

「やるにしても私も参加するの確定なんですか?」

私そうそう現地に赴けませんよ?

…あ、書類終わった。今日の所は少なめだったおかげで助かったね。

……書類より頭痛案件が残ってるけど。

まあ銀行強盗は流石に犯罪案件が大きすぎたのか、何故か数人乗り気だったけど却下された。

いやスクールバスジャックも犯罪なんですけど。

と、次に手を挙げたのはユメさんだ。

 

『じゃあーはい!私が!』

『はい、ユメさん…犯罪ではないものを…』

『もっちろん!』

『ユメ先輩、宝探しは流石に無謀だよ〜?』

『…………』

ホシノさん、もはや意見出す前に潰しましたね…流石というべきか早い。

 

『た、宝探し、ですか…』

 

『そ、そう!ほら見て!こないだ倉庫にあったの!この宝の地図!』

「…それ、いろんなところで売られてるやつですよ」

アビドスだけじゃなくてここらへんでも色々売られてる、アスレチックとかレクリエーション用の宝探しの地図。

無駄にハイクオリティで各学園の地形も反映させた代物だからイベント用として人気が高いやつだね。…残念。

 

『え、っ!?本物じゃないの!?』

「そこら辺で売ってますよ。10枚まとめて何百円とかで」

『ひぃん…』

シナシナ、とゆっくり椅子に戻っていくユメさん。

…どうしよう、今のところまともな意見が一つも出てない。あと借金の話いつ切り出そうこれ。

 

『あのーはい!じゃあ次は私が!』

『はい……2年の十六夜ノノミさん、犯罪と詐欺は抜きでご意見をお願いします……』

……アヤネさん疲れてるなぁ…

 

『はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!』

おぉ!と声が上がる。

いやそれだけで声が上がるのどうなの?どっちかに引っかかるものを案として加えるのどうなんだろう…

 

『アイドルです!スクールアイドル!』

『ア、アイドル……!?』

『そうです!アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!私達が全員アイドルとしてデビューすれば……』

『却下』

こちらも揚々と意見を提案していた所、ホシノさんが一瞬で却下した。

何でだろう。正直まともな案の部類なんだけどなぁ。いや他の案がネジ外れすぎてるだけな気もするけど。

 

『あら……これも駄目なんですか?』

『なんで? ホシノ先輩なら特定のマニアに大ウケしそうなのに』

『うへーこんな貧相な体が好きって云っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない』

人間としてときたか。あと視界の端でユメさんが若干陰の気配を漂わせてる。大丈夫ですか?

 

『決めポーズも考えておいたのに……水着美少女団のクリスティーナで~す♧』

『どういうことよ……。何が『で~す♧』よ! それに『水着少女団』って! だっさい!』

『えー、徹夜で考えたのに……』

ノノミさんとセリカさんが言い争う。

うーん、徹夜で考えてか…いやまあ人の意見をにべもなく否定してる時点で私に言えたことじゃないんだけど。

 

『…〜〜!シグレさん!シグレさんは何か無いんですか!?』

アヤネさんの必死そうな声が私に向いた。私に来るか……まあ、ちょうどいいといえば良い機会かな…

 

「…借金の返済というよりは…減額なら、一つ」

スピーカーの向こうからおおっ!と声が上がった。

…そんなに期待されても、別に私が何かするわけじゃないしアビドスの皆さんが頑張ってた結果を反映させるだけなんだけどね…机の端から用紙を一枚取ってきて、それを見ながら話す。

 

「…これから話すことの情報源に関してはお話できません、ご了承ください。ですが確実性のある話です。…まず、少なくとも私は、アビドスの現借金総額は9億6132万円と聞かされていました。ですが、調べた所2年前にそのうちの一億円が肩代わりという形で返済されていたんです」

!!とスピーカーの向こうから息を呑む声が聞こえた。

 

「ホシノさんとユメさんからコピーさせていただいた、カイザーローンとの契約書には年利10%…月利おおよそ0.8%の変動金利制での契約のようですので、今まで皆さんが支払ってきた分のお金とその差の分、さらに現借金総額から引かせることができます」

…昨日の徹夜はこれの計算をしてたんだよね。途中で計算式にミスを見つけて半分パーになったときは本気で恨んだ。電卓があってホントによかった。

 

「その分を加算しますと、おおよそ今知らされている借金総額からおおよそ1億2000万円分の返済…というより、元の総額に戻すことならできます。また、それに伴って利息もかなり減るので返済は楽になるのではないかと」

………あれ、声が聞こえてこない。スピーカーの故障?

 

『し、シグレさん、それ、どこで…』

絞り出したようなセリカさんの声がやっと聞こえてきた。

 

「さっきも言いましたが、情報源についてお話しすることはできません。ですが、改めて借金残高の確認をしていただければわかるかと」

カイザーPMC理事…アビドスが借金をしてる相手は、カイザーローンの理事でもある。

でも、集金は確かカイザーローンの特定の集金者がやって、その人がブラックマーケットの闇銀行にそのお金を届けて支払い、みたいな感じになってたはず。…その過程でヘルメット団にお金を流してたんだっけ。

だから、カイザー理事の息のかかった集金者が借金残高について話さなければ、その事をアビドス側がそれを知ることはなかった。

一応カイザーローンに問い合わせればその確認はできるだろうけど、わざわざそんな確認をする人なんてそういないはず。

なにせ今のアビドスの現状は利息の支払いだけで精一杯、借金総額はほとんど減ってないと思ってると思われてる訳だから。

 

『か、カイザーローンに問い合わせてみます…!!』

恐らく、PMCの方はそれを見越してその差を自分の懐に入れるとかして帳尻を合わせてカイザーローンに入れてたんだろう。

だから、読みが正しければカイザーローンから返ってくる金額は…

 

『……!!ほ、本当、です…一億円分、減っています…!?』

そう、現状の借金総額から1億円分()()減っている状態だろう。

………カイザー…バレないとでも思ったか。私は借りは返さないと気がすまない質なんだ、今度こそは徹底的に叩き潰す…!

 

「変動金利での返済みたいですし、借金の元金が減れば利息もその分減りやすいですからその分返済がしやすくなるのではないかと思います。ただ、そもそもその肝心の返済方法については……今まではどういうふうに返済していたんですか?」

 

『あー、さっきセリカちゃんも言ってたけど、指名手配犯の捕縛とか苦情の解決、アルバイトとかだね〜』

うーん、そういう感じか…

 

「…皆さんの利を活かして何かをするというので行けばパッと思いつくのは傭兵とかですかね…または……ちまちました内職にはなりますが、アビドスの砂を使ってのガラス細工なんてどうでしょう」

これはちょっと前から考えてたことだ。

…とはいえこれにも問題がある。

 

「まあガラスの加工技術と設備が揃えられればの話ですが…」

『無理だね〜。ガラスの加工制作って難しいんでしょ?』

売り物にするなら相当な精度が必要になるし、そもそも砂…というか硅砂をガラスにしたいなら1700度くらいまで熱さないといけない。しかもそういうの用の機械とかがないならそれを手作業でやらなきゃいけなくなる。ほぼ無理。その温度に耐えられる容器がまずそうないから。

まあ元手はタダ同然なんだけどそれをするための周囲環境にさらにお金がかかるんだよね…

自分で言っときながら、もう一方の傭兵も正直黒寄りのグレーだからおすすめできる方法じゃないし。

これもボツかなぁ…




これ一話で全体平均文字数を300文字増やしてた…なんでやねん…
借金とかガラス云々の知識は聞きかじった程度なんで何か間違ってても生暖かい目で「間違っとる間違っとる」と思っててください。計算は頑張ったんです…
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