地獄発、地獄行き 作:有森
シグレ『アルさん、今どちらにいらっしゃいます?』
アル『今?アビドスの柴関ラーメンにいるけれど…』
シグレ『分かりました、今からそちらに向かいますね』
アル『え!?え、ちょぁ、ちよまむとまって!?』
直近のモモトーク履歴である。
多分相当焦って誤字したまま送ったんだろうなぁ…と思いながら電車に揺られる。
悪い大人達とのいつもの定期会議のあった次の日、私はアルさん達に件の
というかお金あるのかな、アルさん達。…まあ大将さんがかなり気のいい人だからあの子達に悪意がないことくらいは見抜いて奢ってそうだけど…何気にあり得るなぁ。
そんな事を考えながら最寄り駅で降りて歩くこと10分ほど。柴関ラーメンが見えてきた。ちなみに先生には連絡済み。
正直、結構色んなところに移動するからバイクとか買っても良いんだけど…いくら自分のためにはお金使ってないと言っても、多方面には使ってるから、自分のためだけに使うにはちょっと心許ないしね…
レンタルするにもアビドスに行くとかなったら砂漠も楽に走れる車とかになるとあんまりないだろうし。
「こんにちはー」
「おぅ、らっしゃい」
「あ、シグレさん、こっち」
と、カヨコさんが手を招いてくれた。
その横でアルさんがなにやらぐぬぬ…となりながら何かやってる。
その前でムツキさんが面白そうに眺めつつ、ハルカさんが応援してる。
「……家計簿?」
「うっ、ええ…」
「…今ですか?」
ここで?なんで?といろんな疑問は湧いてくるがとりあえず。ハルカさんの隣に座らせてもらう。
「まあまあ、シグレちゃんにああ言われて流石にちょっと反省したのか付けるようにしだしたんだよー」
「そ。気付いた時につけないと忘れるから、って言って持ち歩いてね」
ムツキさんとカヨコさんがそう言う。
あーなるほど…それでここで…いやラーメン屋でいきなりつけだすのはどうなんだろう。まあ確かにお客さんは他にいないし迷惑になってないなら良い…のかな?
まあ追い出されてない感じ容認されてる感じか。
「まあ反省してるみたいなのでいいですけど…ちゃんと続けてくださいね?特にアルさんは社長…他の三方を引っ張らないといけない立ち位置ですから」
「う…分かってるわ。社長たるもの私がしっかりしないといけないものね」
根はちゃんと良い人なんだよ…損得勘定が抜け落ちててポリシーがちょっと根強すぎるだけで。
……そういえば先生も浪費癖あったよなぁ…ユウカさんがめっちゃ怒ってて家計簿つけさせてたのが印象的。
今はまだそこまでは行ってないけど…ま、先生のそこら辺はユウカさんに任せようかな。
「…まあ、今日のラーメン代くらいは出しますよ」
「いえ、それはできないわ。いつまでも人の好意にしがみついていられないもの」
「ア、アルさま、流石です…!!」
「気にするのであれば、その下地のための投資だと思っておいてください。出世払いで返してくれれば、それで」
と、大将さんがメニューを差し出してくれた。
…そっか、飲食店だもんね、私も注文しなきゃいけないか…
うーん…どうしたものか。
「……じゃあ───」
できるだけ量が少ないものを選ぼう──として。
違和感。
「…?」
「ん?どうした?」
大将さんの声が若干くぐもったように聞こえる。耳の奥が、詰まるような感覚。
耳鳴りが──する…?
ッ!違う!!
「伏せてッ!!」
咄嗟のことに大声を出す。
これは耳鳴りじゃない!何かの飛来音だ!!
反射的に神秘を【蓄積】から平常に戻して、更に
できるだけ神秘が外側に出ないように…体の内側で完結させるようにイメージしながら、天井に向かって
ヘイローを持つ便利屋の4人ならヘイローもあるし戦闘慣れしてるのもあってさっきの一声で動けるだろうし問題はないだろうけど、大将さんは一般人…戦闘にも慣れていないだろうし申し訳程度の耐久しかない…なら…!
「Morituri te salutant!」
使える神秘を瞬間的に籠めて発砲、飛来してきた
…けど。
「ッ!!」
柴関ラーメンの出入り口近くの天井を突き破って巨大なナニカが地面に衝突、着弾した瞬間大爆発を引き起こした。
「く、ッ!」
大将さんを突き飛ばすように抱えて横に飛ぶ。
体中に爆炎が吹き付けられて高熱と痛みに襲われるけど、手は離さない。しっかり目を閉じて息は細く、長く。
さっき横目で見た所アルさん達は机の下に潜ってやり過ごしたみたいだ。良かった、怪我はなさげだ。
神秘の使用についても多少威圧感は与えちゃってるみたいだけど、一昨日ほどの凄まじい重圧って感じでもなさげだから良かった。このまま慣らしていけばいずれ漏出もロスも限りなく少なくした状態で使えそうだ。
…相変わらずヘイローは突っ張った感覚があるけど。
爆炎と爆音が収まったのを確認して神秘を平常に戻して、周りを確認する。
「大将さん、大丈夫ですか」
「あ、あぁ…なんとかな、助かったよ…ありがとうな」
「アルさん!そちらの皆さんは無事ですか!?」
「ええ!なんとか!」
「な、何何何なのー!?」
ムツキさんの混乱するような声も聞こえるけど、まあ無事ではあるみたいだ。
「ッ…つつ…流石にホシノさんみたく防御全振りみたいな真似はできなかったか…」
できるだけ神秘を体に回して防御力を固めた筈だったけど、爆発をモロに食らってしまった影響でロングコートが完全にズタボロ、カッターシャツも背中部分が焼け落ちて皮膚が多少焼かれてる。
まあ爆炎に直接飲み込まれてこれで済んだならまだマシな方か…
「シグレさん、は…!!シ、シグレさん!!」
悲鳴のようなアルさんの声が上がった。
あぁ、まあ外から見たらかなり痛ましいだろうし…キヴォトスじゃ血なんてそうそう見るものじゃないし、怪我という概念がかなり遠い存在だからね…
まあただ幸運なことに、痛みには慣れてるしこの程度なら全然軽症の域だ。
「心配いりません、これくらいならすぐに治ります。それより何が起こったのか……ハルカさん?」
と、視界の端でハルカさんが死にそうなくらい青い顔をしていた。
え、なんで?大丈夫、ですか?
「す、すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません…!!!」
「ち、ちょっと待ってください落ち着いてください」
トリップして震え始めたハルカさんを宥めつつ、周りを見回す。
…完全に瓦礫の山だ、店の様相はもうほとんど残ってない。
強いて言うなら向こう側の壁はなんとか残ってるけど…
となるなら、飛来してきた何かは反対の向こうから飛んできたのか…?
単眼鏡を覗いてみると確かに、何か…というよりは見知った顔もある集団がズラッと備えていた。
「…あれは……ゲヘナ風紀委員会?」
そう言えばゲヘナの風紀委員との交戦もあったって聞いてたな…って今!?こんな感じで開戦したの!?風紀委員ほんとに大丈夫!?というか、自治区…は確かにカイザーに買い取られててアビドスじゃないにせよ、ヒナさんがこんな大規模侵攻許可する?
…可能性としてはアコさんが独断で動かしたか…あーそこら辺の記憶は曖昧だ…そもそも聞いてなかったのかもしれない。
「嘘っ!?な、何でここに!?」
「まさか、私たちを捕まえに…?けどここ、アビドスの校区だよね!?」
「…………」
慌てるアルさんとムツキさん、深く考え事をしているようなカヨコさん、トリップしているハルカさん。
……よし、
「皆さん、大将さんを近くの安全区画まで送ってください」
「!ちょっと待って、それって」
カヨコさんに静止されかけたけど、その手を躱して
さっきちらっと偵察したところ…おそらくさっき撃ってきてたのは迫撃砲だ。民間の家に迫撃砲撃ち込むとか…正気の沙汰じゃない。
さっきも考えた通り、これは多分ヒナさんの判断を完全にすっぽかした──おそらくアコさんあたりの独断の侵攻作戦だ。
目的までは覚えてないけど…多分碌でもないであろう事は確か。
内容によっては
「…随分と豪勢なお出迎えですね」
相手の目が驚愕に染まった。目的はアルさん達だったかな…?
「あな、たは…」
あ、チナツさんだ。
「お久しぶりです、チナツさん。先日のシャーレ奪還時振り…いえ、あの時は直接顔は合わせられませんでしたね」
サ、と隊内の戦力を確認する。
ヒナさんがいない以上、実質的な主力はイオリさんだろうか。
彼女が得手とするのは中、遠距離からの高火力制圧…まあ勝てなくもないか。
「それで、どういう了見ですか?何かしら目的はあったのでしょうが、いくら何でも民間人の営業している店に迫撃砲を撃ち込むなんて──私が弾道を反らせていなかったら下手すれば死者が出ていますよ」
ジリ、と少し殺気を飛ばす。
前衛の風紀委員たちがたじろいだ。
「…誰だ?」
…あ、そういえばイオリさんとはこっちでは初対面だっけ。
「名乗り遅れました。私は…連邦捜査部シャーレ所属部長、明日シグレと申します。以後お見知りおきを」
「連邦捜査部…?シャーレ…?なんだそれは」
あ、そうか。
シャーレってまだ一般にはそこまで浸透してないのか。連邦生徒会に連絡しようとして見つけることはあっても、普通の話題に上がるほどじゃない…そんな感じかな。
「シグレさんはどうしてこちらに?」
「便利屋の方々に少し用事があったものでして。それと、シャーレとしてもアビドスの問題に首を突っ込んでいる最中ですのでそのうち先生も到着するかと」
「ハッ、関係ないね。私らを邪魔するってんなら部外者だろうと手加減しない」
「…そうですか」
「!!駄目ですイオリ!この戦闘行っては…!!」
「相手接近中!!発砲します!!」
チナツさんの声は聞こえたけど、こっちが近寄ってる最中の声だったから報告に紛れたみたいだ。
こっちへ向けられた風紀委員達の
「消えた!?」
「こっち」
ザリ、と砂を踏みしめて再度跳躍、最大速度で
「向かってくるとは、いい度胸だ…ッ!?」
…気付いたね。
これだけの大隊が私一人に群がってるせいでまともに攻撃がしにくい筈だ。特に高火力のイオリさんの攻撃は生身の状態で食らうわけにいかないから常に他の風紀委員さんで射線を切るように動いてるし。
私の最大得意分野は超遠距離射撃…なんだけど、次点で得意なのは一対多における接近戦。
敵が入り乱れてる状況下で常に動き続けることで敵は同士討ちを警戒して迂闊に手が出せなくなる。
こっちは一だから周りを気にせず、適当に打っても誰かには当たる。頑張れば跳弾で複数ヒットも狙える。
相手の耐久力が高いなら鳩尾辺りに
こういう時の主武器は
この子爆炎モロに食らった状態でこんな動いてるんですよ。ほんとに人間?キヴォトス人か。そっか…