地獄発、地獄行き 作:有森
躱す、躱す、撃つ、当てる。
ものの1、2分で風紀委員の大隊…というか、よく見れば後方待機してる人達も含めて小さめの大隊(表現合ってる…?)位だったから、前線にいた一個中隊位の人数のおおよそ四割方がグロッキーになってる。
まあそりゃああんだけ固まってれば変に撃ったら同士討ちにもなるし、それを恐れて接近戦仕掛けた所で投げ飛ばされて撃たれるしで相手からしたらやりにくいことこの上ないだろう。そうなるように立ち回ってるんだから。
足を強く地面に叩きつけて砂埃を巻き上げ、その隙にリロード。そこから後方隊まで走り抜ける。
「!!」
さっきまでいたはずの姿が無い事に一瞬動きを止めた風紀委員達に向かって
前線にいた盾兵もほぼフル無視で中枢まで突っ込んで後ろから全滅させたし…まあこんなものかな。
「クソッ、たった一人にこのままじゃやられるだと…!?」
そして主力のイオリさんからはできるだけ射線から外れるように動いてる関係上、狙いを定めようとしても距離を詰めようとしても絶妙に逃げられてもどかしい思いをさせられている感じ。
後方から一旦前衛まで戻って再度暴れる。
撃つ、撃つ、リロード、撃つ。インファイトも混ぜながら次々と数を減らしていく。
「…さて…ここまで暴れましたけど。まだ出てこないんですね、アコさん」
「!?おまっ、何で、!」
「それは…何故そこでヒナさんじゃなくアコさんが出てくるか、ですか?それとも何故イオリさんを含めた風紀委員の主要メンバー全員のことを知っているか、ですか?」
「両、方!」
と、風紀委員の数も減ってきたのもあって、流石に射線を切るにもちょっと厳しくなってきた隙を見たのかイオリさんは横っ飛びに跳躍して、一発撃ち込んできた。ちょっと危なかった。と、そこから少し前に飛んで二発目を撃…とうとした所で体勢を低くして肉薄、銃口を向けて…
カチッ
「ッハ!そこだ!」
空撃ちの音。
向こうがそれを隙と捉えて構えて
リボルバーのロックを外して
「ッ!」
そこでいきなり目の前に飛んできた異物に体勢が崩れたところを見計らって、
「ッ…ッ!!」
体をくの字に曲げて膝をついたイオリさん。まあそりゃそうなるか。その隙に予備のリボルバーを付けて装填完了。さっき飛ばしたのについては後で回収する。
…さて、そろそろ来るかな?
「“到着し、た…けど何この状況…?”」
ジャスト。
声の方を向いてみると先生とアビドスの皆…いや、ホシノさんとアヤネさんを除いた皆が走ってきていた。
「先生、」
「シグ、ッ!それ、大丈夫!?」
?、あー、この傷のことか。
「別にそこまで大したものじゃありませんよ。防御はしましたし、見た目ほど傷ついてもいません」
服はあくまで服だから耐久性はその程度でしかない。
まあ確かに銃弾が貫通したりはしないから傷つきにくく見えるかもしれないけど、爆発とか燃焼とかは普通にくらうんだよね。
「“そ、そっか…いや、それよりこれどういう状況?”」
慌てたような先生の方に行って事情を説明しようとして。
『それは、こちらからお話いたしましょう』
「…やっと出てきましたか。ほとんど壊滅状態になるまで顔を出さないなんて、なかなか余裕ですね」
通信機器にホログラムのような形で、横乳のはみ出ている服装をした青い髪と目の女生徒──アコさんが現れた。
『あなたの戦力が規格外すぎて通信整備に手間取ったんですよ…!急すぎる戦闘に通常用の通信機器が壊れて緊急通信を回す羽目になったんです!なんなんですか、たった一人、しかも手負いの状態でこの量の風紀委員を相手にして圧勝とか喧嘩売ってるんですか』
喧嘩売ってきたのはそっちからだろうに…と言いかけたけど流石に口をつぐむ。
と、アコさんは咳払いを一つして声のトーンを一つ落とした。
『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、天雨アコと申します』
仰々しくお辞儀をするアコさんの前で、アビドスの皆は敵意を含んだ目を向けていた。
先生も内心ちょっと穏やかじゃない、といった感じに見える。
『イオリ、反省文のテンプレートは私の机の引き出しの左に。知っていますね?……まあ、かなり手痛くやられてしまったみたいですが…』
あ、イオリさん復活した。まあお腹押さえた状態でなんとか起き上がったみたいな感じだけど。
やっぱり二発はちょっと多かったか…一発でもうちょっとだけ神秘込めるとかのほうが良かったかも。
『行政官ということは…風紀委員会のナンバー2……!』
『あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして……』
「本当にそうなら、そこの風紀委員達がそんなに緊張するとは思えない」
「だ、誰が緊張してるって、ッ…!」
あれ、アヤネさんの声…?あー、通信か。
と、無理に声を上げたイオリさんがちょっと顔をしかめた。
…ほんとすみません、やりすぎました。ゼロ距離で撃っていいものじゃなかった…
『なるほど、素晴らしい洞察力です。確か……砂狼シロコさん、でしたか?』
「……」
『アビドスに生徒会の面々だけが残ってると聞きましたが、皆さんのことのようですね。アビドスの生徒会は5名、そしてOGの方が一名と聞いていましたが、あと一人はどちらに……?』
アコさんは聞きながらアビドスの皆の方に目を向けた。
おそらくだけど、ホシノさんは黒服さんが交渉中…かな?
『今はおりません。そして私達は生徒会ではなく対策委員会です、行政官』
『奥空さん……でしたよね?それでは、生徒会の方はいらっしゃらないということでしょうか?私は、生徒会の人と話がしたいのですが』
「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの!事実上、私達が生徒会の代理みたいなものだから、言いたいことがあるなら私らに言いなさい!こっちも言いたいこと、山程あるんだから!!」
「私は一応元生徒会長だけどあくまで元だからね。今はただのOGだし。でも…」
「こんなに包囲して銃を向けられたまま『お話をしましょうか〜』なんていうのは、お話の態度としてはどうかと思いますけどね?」
それはそう。
確かに半分くらい削ったとはいえ前衛は一個中隊レベルの大人数。囲まれるような状態になってて、その全員から銃を向けられてるわけだからね。
『…それもそうですね、失礼しました。皆さん、銃を下ろしてください』
と、アコさんが合図をすると包囲していた風紀委員の人達が銃を下げた。
その様子に困惑していると、アコさんがまた一つ咳払いをした。
『先程までの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』
「なっ、私は命令通りにやったんだけど!?アコちゃん!?」
『命令に、まずは無差別に発砲せよなんて言葉が含まれてましたか?』
「い、いや…状況を鑑みて必要な火力支援、その後に歩兵の投入……戦術の基本通りにって…」
…うん、これは…ちょっと弁護できないかもしれない。
となるとこれ、アコさんが独断で侵攻開始して、その中でイオリさんが独断で攻撃を開始したってことに…これほんとに風紀委員大丈夫?報連相ちゃんとしましょ?
『ましてや、他の学園の自治区
…他の学園の自治区付近、ね。
あくまで付近だってことをわざわざ薄く強調してきたか。
通信の向こうのアヤネさんも微妙に疑問を抱いてるみたいだ。
『失礼しました、対策委員会のみなさん。私達ゲヘナの風紀委員会は、あくまで私達の学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし……やむを得なかったということで、ご理解いただけますと幸いです』
…やっぱりか。嫌な予想が当たっちゃったなぁ。つまるところ「自治区付近での戦闘は謝る。でも自治区そのものには立ち入っていないから別に問題じゃないよね」っていう事だよねこれ。
うーん、これに関しては穴を突かれたというべきか…グレーゾーンだから黒ではないとしか言いようがないんだよなぁ…
…ま、そんな言い分通すわけないけど。
そもそも今回の行動だっておかしいところだらけだ。
「そういうわけにいかないでしょう」
一歩踏み出る。
「そもそもアコさん、もっともらしい意見こそ出していますが、それだと説明がつかないところが多いですよ」
1つ目──便利屋68の皆を捕まえに来た時期。
ここまでアビドスのことを調べ上げられるのはゲヘナ学園にある情報部、及びアコさん本人の情報把握能力によるもの…ならば、ある時点の便利屋68の居場所なんてすぐ分かるはず。
なのにも関わらず、この間のアビドスへの襲撃に関してはノータッチ…あの時は校舎に向かって攻撃を仕掛けていたんだから、今こんな兵力を差し出すよりも前の方がもっと優先度は高かったはず。
2つ目──明らかな過剰戦力。
確かにゲヘナ風紀委員の主力である風紀委員長、ヒナさんはいないにしても、ただでさえ治安の悪いゲヘナ内部の治安維持を任されている風紀委員…どう考えても弱いわけがない。
それをたった4人の制圧のために二個中隊レベルの戦力を割き、更に風紀委員の中でも特に実力派のイオリさんと救急役のチナツさんまで派遣するのは明らかに過剰戦力がすぎる。
3つ目──そもそも、こんな大規模戦力の投入をヒナさんが認可するわけがない。
アビドスとゲヘナはかなり離れている。
確かにゲヘナ外で問題を起こした生徒を追いかけて他学園区域内に赴くことはあっても、その学園とのいざこざを減らすためにそこまでの大隊を派遣することはせずに少数精鋭で対処するはず。
それが仮にトリニティやミレニアムなんていうマンモス校なら尚更のこと。
つまり……
「アコさん、貴女はアビドスなんて言う現時点では零細校としか言えない場所ならそこまで大きな問題にはならないと踏んだ───」
「そしてシャーレ、もっと言えば先生を目的として、その能力を警戒してこんな大所帯で攻め込んできた…ってところかな」
!
声の方を振り向くと、カヨコさんがいた。
その後ろから残りの三人も追いついて、便利屋68の面々が揃った。
ちゃんと帰ってくる辺りやっぱり根が良いんだよなぁ…
長くなりそうなので一回切ります。