地獄発、地獄行き 作:有森
「大将は送ってきたわ!私達も参戦するわよ!」
砂の上で高らかに宣言するアルさん。
『ここで便利屋の参戦ですか…ええ、まあ失念していたわけではありませんが、カヨコさんまでいる状況で悠長にお話なんてしている場合ではありませんでしたね』
と、アコさんが呟いてからパチンと指を鳴らすと、遠くから足音が聞こえてきた。
『ッ!?12時の方向、それから6時の方向…3時、9時…風紀委員会のさらなる兵力が四方から集結しています!!』
援軍。
確かに後衛にもある程度ちょっかいはかけたけどそこまで減ってないな…まあ、アビドスの皆と便利屋の皆なら問題はないだろうけど、問題はスタミナ切れかな。いくら個が強くても物量で押し切られる可能性もなくはない。
『連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。どう考えても怪しい匂いがしませんか?』
さらに包囲された状態でアコさんは話を続ける。
『シャーレという組織はとても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすのか分かったものではありません。ですから、せめて条約が無事締結されるまでは、わたし達、風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせて頂こうと思いました。そういう訳で大人しくついて来て欲しいのですが……どうもそういう訳にはいかないようですね』
やれやれ、というふうにでもわざとらしく首を振るアコさん。
…ちょっといらっときた。
いやまあそもそもアコさん自体がちょっと苦手なのもあるんだけど…いやだってさ、
いや悪いとは言わないけどさ…
「当たり前でしょ!そんな理由で私達が「はいそうですか」なんていうとでも!?」
「むしろ戦う理由がシンプルになった」
そんな私の斜め後ろで好戦的な意思を見せるセリカさんとシロコさん。
と、アコさんは小さくため息を付いてチラ、とアヤネさんのホログラムの方に向いた。
『はぁ…奥空アヤネさん』
『……なんでしょうか』
『ゲヘナの風紀委員は必要でしたら戦力を行使することもあります、私達はその判断を一度したら一切の遠慮はしません』
『…!!』
「どうする社長?風紀委員会はアビドスと私たち、いっしょに殲滅するつもり。今なら包囲網の薄いところから突破はできるけど──」
「…ふふッ、ふふふふ…カヨコ貴女はもう私の性格分かってるんじゃなくて?」
「こんな状況でこんな扱いをされて逃げる?しかもあの子達や何度も助けてくれた恩人を身代わりにして?そんな三流小悪党みたいな真似、私達便利屋がするわけないでしょ!!」
「…あははっ♪」
「アル様っ…!!」
「それに、あの生意気な風紀委員会に一発食らわせないと気が済まないわ!!」
その傍らで便利屋の人達も話を纒めてた。
やっぱりこういうところだよなー。
まあそれはそれとしてとりあえずハルカさんがトリップから戻ってきてくれててよかった。
「よっし便利屋!覚悟は聞かせてもらったわよ!挟み撃ちよ!!この風紀委員会こてんぱんにしてやらないと!!!」
「ん、先生の盾になってもらう」
「先生をみんなで守りますよ!」
…流石だなぁ…
いや早くない?そんな簡単に打ち解けれる?ほらカヨコさんちょっと拍子抜けしちゃってるし…
「ホシノちゃんがいない以上、こっちの前衛は私に任せて!」
『後方支援は私に任せてください!』
…こっちもかぁ。
「ふふっ、ふふふあははははっ!任せなさい!!信頼には信頼で報いる──それが私達便利屋のモットーだもの!!」
高らかに笑うアルさん…これは適応能力が高いというべきなのか何なのか。
若干アコさんも呆れたような表情をしている気がするけど、そこは置いておく。
『風紀委員会攻撃を開始します、対策委員会と便利屋を制圧して先生を安全に確保してください。先生はキヴォトス外の方なのでくれぐれも傷つけないように』
「(…問題は無い…無いはずなのに)」
通信越しに天雨アコは戦況を見つめていた。
こちらは一個中隊分、念には念を入れて後方待機させていた第八中隊までも投入しての二個中隊レベルの戦力、相手はアビドス高等学校の委員会の一人を除いた五人と便利屋の四人、シャーレの先生と明日シグレの二人、計11人だ。おおよそ300対11…いかに圧倒的な個を持っていようと、それを上から押しつぶす数があれば何の問題もない…筈だった。
現に、画面の向こうでは相手側はその数に押されて徐々に押し込まれ始めている。
…なのに。
「(この違和感は一体…)」
シャーレ所属、明日シグレ。
書類上ではあるが相手の戦力把握はしっかりしていた。
だが、彼女に関しては書類上ではここ一年ほどの交戦記録がほぼ全くと言って良いほど無く、それ以上前はよほど大規模な抗争でもない限りそもそも記録が残っていなかった。情報部で調べてもらっても争いのあの字も見えなかったのでてっきり戦いが苦手なタイプかと思っていたのだが…
『何なんですか、喧嘩売ってるんですか』
本当に心の底から出た言葉だ。
確かに、彼女の敬愛するヒナレベルの力があれば二個中隊分程度相手取るのは訳ないだろう。
だがそれでもある程度一定の距離を取ったうえでなら、だ。まあそもそも近づけさせないのが彼の人の強さなのだが、近距離、それも自分の間合いの内側に潜り込まれて次から次へと襲い掛かってくる数百人を相手取るのは流石に骨が折れるはずだ。
それに、確かに風紀委員会はヒナが戦力の大半を担っているとは言えこちらにはイオリや、それには及ばずともそれなりの腕利きの者もいる。
なのに。
手を負った状態で間合いを自分から詰め、戦況を撹乱し、明らかに脅威となる者を手玉に取って次々に数を減らす。
二種の武器を両手を扱うように完璧に機能させ、近、遠距離どちらにも対応、そしてその気になれば現時点のほぼ主力と言ってもいいイオリを一撃…いや、二撃か。まあ片手間に処理してしまえるほどの実力。
……圧倒的な、個。
「全く一体…!」
そんな彼女だったが、増援が駆けつけてから全くと言って良いほど前線に出てこない。
先生の側で待機し、SRを構えて徹頭徹尾遠距離から数を減らしてくる。
いやまあそれだけでも全然厄介なことに変わりはないのだが、あれだけ暴れられるスペックを持ちながらこの動き方は何かしら考えを勘ぐってしまう。*1
何か、考えがあるのではと…
その時、連絡端末が声を上げた。
そこに、映し出されたのは───
「『アコ、これはどういう状況?』」
個人で持っている連絡端末とアビドスへ回している連絡端末、両方に映されたのは彼女が最も敬愛してやまない、風紀委員長──空崎ヒナの姿だった。
あっぶな。
やっと到着してくれたか…風紀委員が攻め入ってきたなんて聞いた時に独断でそんな事するかと思って念の為連絡取ってて良かった。
もうちょっと攻め入られてたら
生徒相手にアレはねぇ…あんまり良くないしね…
『ひ、ヒナ委員長…!?い、いえ、これは、その…素行の悪い生徒たちを捕まえようと──』
「便利屋68の事?どこが?私の目にはアビドスとシャーレ…その二つと対立しているようにしか見えないけど」
バッ、とこっちに顔を向けるアコさん。
あ、便利屋の皆はそそくさと離脱しました。事前に情報共有できてなくてごめんね…後でご飯奢るから…
「…大体はここに来る前に把握してる。ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除、そういう政治的な活動の一環ってところでしょ?…アコ、私達は風紀委員であって生徒会じゃない。そういうのは万魔殿のタヌキ達にでも任せておけばいい」
タヌキ…いやまあ、マコトさんはヒナさんが関わったら脳内思考が乱れるだけだから…ゲヘナの生徒会長としては結構致命的か、それ。
「詳しい話は帰ってからよ、通信を切って校舎で謹慎してなさい」
ヒナさんが言うと萎れた子犬みたいな返事を残してアコさんは通信を切った。
「さて…久しぶりね、シグレ」
「お久しぶりです、ヒナさん。2年ぶり…くらいですかね」
「…ええ。あまりに見ない連絡先だったから一瞬誰かと思ったわ」
「あー…それはすみません」
「“え、ちょっと待ってシグレ、知り合い…?”」
横でうろたえる先生と、通信越しにぽかんとしているアヤネさん。
他の人達は何が何だかわかってない。いやユメさんは知っててくださいよ。
「はい。…まあ、知り合いと言えるほど関係が密なわけでもありませんが一応モモトークは交換してますね」
二年前のあの便利屋の人達を助けた時に交換したんだよね…ほんとに危なかったなぁ…策を講じて攻撃は貰わないようにしつつ交戦するのほんとにきつかった。
しかも温泉開発部と誤解されて交戦する羽目になってたっていうね。めっちゃ謝られたなぁ。
「ふーん……それじゃあ改めてやる?」
『いや、待ってください!?風紀委員長はキヴォトスでもトップクラスの強さなんです、ここは一旦交渉するのが吉です!なんでそんな戦うのが好きなんですか!?』
「ご、ごめん・・・・・」
頭アビドス…って考えかけて引っ込める。
いやまあ結構アビドスの人達頭のネジが吹っ飛んでる人多いからさ…アヤネさんの胃が割と本気で心配。
と、アヤネさんが咳払いをしてヒナさんに向かい直した。
『こちらアビドスの対策委員会です、ゲヘナの風紀委員長ですね?初めまして・・・・この状況については理解されてますでしょうか?』
「…ええ、事前通達無しでの他校自治区における無断兵力運用、及び他校生徒達との衝突……けれどそちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実、違う?」
『それは……』
「それは確かにそうだけど」
「だから?」
「私達の意見は変わりませんよ?」
うーん、血の気が多い。
正直今のヒナさんと真っ向からやり合って勝てるビジョンが…まあ見えないわけじゃないけど結構無茶しなきゃいけないからキツそう。
『ちょっと待ってください!便利屋の人たちは居ない、あっちの戦力は変わってない、私達には先生達しか……味方は何故か戦う気マンマンだし!あうぅ、こういう時にホシノ先輩がいてくれたら…』
と、その言葉にヒナさんが反応した。
「……ホシノ?アビドスのホシノって……もしかして小鳥遊ホシノの事?」
『……はい?』
「うへぇ、こいつは何があったんだか……凄い事になってんじゃ~ん」
「!!」
『ホシノ先輩!?』
「ごめんごめん、ちょっと昼寝してたら寝過ごしちゃった」
「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!」
「ホシノちゃん!もーう!せめて連絡にぐらい出てよぉ!」
「ごめんね〜ユメ先輩。んで…ゲヘナの風紀委員会かぁ。便利屋を追ってここまで来たの?事情はよく分からないけどこっちは勢揃いだよ…という訳で改めてやり合ってみる?風紀委員長ちゃん」
その様子を見て、ヒナさんは考え込むような、訝しむような表情をした。
「……一年の時とは随分変わった、人違いじゃないかと思うくらいに……」
「……ん?おじさんの事知ってるの?」
「情報部に居た頃に各自治区の要注意人物達をある程度把握してたから……生徒会長が卒業した後からパタリと音沙汰も無くなって、てっきりアビドスを去ったものだと思ってたけど」
あ、多分ユメさんの教育の賜物ですね、それ。
「……」
『……』
「……まぁいい、私も戦うために来た訳じゃ無いから…イオリ、チナツ、撤収準備。帰るよ」
「えっ!?」
『帰るんですか!?』
突然の言葉に、風紀委員の人達もアビドスの皆も驚いたような反応をした。
まあヒナさん色々噂とかされてるけど、素は結構普通の子なんだよね。人並みに傷つくし人並みに寂しがる。別に戦闘狂とかってわけじゃない。
むしろそれだけで言ったらシロコさんとかの方が戦いに対する意欲は高い。それもそれでどうよ…
と、ヒナさんはアビドスの皆の方に近づいて頭を下げた
「……え?」
「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと……この事については私、空崎ヒナよりゲヘナの風紀委員長としてアビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する。今後ゲヘナの風紀委員がここに無断で侵入することは無いと約束する、どうか許して欲しい」
「ま、待って委員長!あの校則違反者達はどうするんだ!?」
と、声を上げたイオリさんがヒナさんに睨まれて縮こまった。
うーん、こっわ。眼光で気絶させられそうな目してる。覇王色かな?
「ほら、帰るよ。遅れたらその分後で私と組手ね」
「「「「!!?」」」」
あ、帰還準備のスピード上がった。
うーん、こういうアクションの少ないところ書くのが難しいなぁ…頭の中ではもうPMC理事のところまで行ってるのに…