地獄発、地獄行き 作:有森
歩くことかなり長い時間。
まあ…学園都市って言うだけあってキヴォトス広いからね…ブラックマーケットからサンクトゥムタワーまでいったい何キロあると…
まあともあれ。
ぱぱっと見た感じ、サンクトゥムタワーは問題なく稼働中、連邦生徒会長もまだ在籍中みたいだし、先生は来てすらないか。
……ん?それって不味くない?
私今このシャーレの制服しか持ってないんだけど…シャーレ所属より以前はミレニアムにいたけど、今その制服なんて持ってないし…え、発足前のシャーレの制服しか持ってないって相当やばくない?
「………まさか、」
いやいやいや、待って待って、まさかと思うけど学生証…うっわ更新されたやつしかない、シャーレ所属だ…うわマジか…これじゃ身分証すらないのと同じような状況だよ。キヴォトスでちゃんとした学生証が無いってのはそもそも不法侵入に当たる可能性すらあるわけで。
これ、もし仮に本当に時間遡行だったとしてもただの遡行じゃないな…周囲時間の遡行…いや…もしくは……
「……み、…きみ、君!」
「へっ?」
と、後ろから肩をトントンされた。誰っ、と思ったら…
「れ、連邦生徒会長…!?」
私より少し高い位置で柔らかそうな雰囲気をまとった青い瞳と目が合った。
よりによってこのタイミングでこの人!?不味い不味い不味い…!どうしよう、どう言い訳したら…
「えっと、こんにちは…何か、用ですか?」
「…あっ、はい。見ない制服だなーと思ったのと、何か困ってそうでしたから声をかけたんですよ」
一瞬困ったような顔をして、すぐに笑顔に切り替えられた。
…うん、絶賛困っております、主に目の前の人のせいで。なんて…
いや、責任転嫁は良くないね。元はといえば…元は誰のせいだこれ?…うーん…うん、無名の司祭どもと色彩のせいにしとこう。元凶はといえばあいつらのせいだ。
「いえ、困っては…や、その…困ってはいるんですけど困っ…んゃ、その…」
にしてもどうしよう、どう説明しよう。未来から来ました!なんて言ったところでへー?って言われて質問が続くタイプのやつだと思う。そもそも連邦生徒会長とそんなに絡み無かったんだよね…多少絡みはあったとはいえちょっとした話をしたりするくらいで本名も知らないし、私の何に目をつけたのか後々先生の補佐として、シャーレ所属連邦捜査部長に任命されちゃっただけで。すぐこの人失踪しちゃったし…
「んー…とりあえずこっちで話しましょう。立ったままでは話しづらいでしょう」
あ、はい…
……まさかさ、こっちって言われて連邦生徒会の会議室連れて行かれるとは思わないじゃないですか。すれ違う人達に『何あの子…誰?』『どこの制服だろう…?』とかヒソヒソ話されるし、生徒会長は生徒会長でずっとニコニコしてるし…十数キロ歩いた後よりもえらくなんか疲れた気分…
……さて。
「ここなら話し相手は私だけですよ。会議の予定も今はありませんし」
「…お話しても信じていただけるか分かりません」
すっ、と生徒会長の目が細くなる。
「…連邦捜査部、S.C.H.A.L.E.所属部長、
「!」
名前と所属を言い当てられて反射的に背筋が伸びる。
もし手に愛銃を握っていたら、多分目の前の人に向けていた。背負ってて良かった。
柔らかく笑って連邦生徒会長は薄く目を開いた。
「さっき学生証を確認していた時に見えたんですよ。…連邦捜査部シャーレ…それは、存在すらしていない機関です。……まあ、実はといえば私が絵空事のように考えている程度の物にそういうものがあるので、私を除けば誰もその存在の計画すら知り得ません。肩書から名前まで全て合っていますし、わざわざ英語表記、及びピリオドで各文字を区切る書き方まで同じ…貴女、何者ですか?」
「………」
どう答える…どう答えれば良い?
「まさか未来から来た、なんて…」
「……はい」
「…えっ?」
ともかく、今の最善手は連邦生徒会から下手な嫌疑をかけられないこと。
そして分かった。これは夢なんかじゃない、絶対に。
なら私のするべきことは…先生を、そしてこの世界を…キヴォトスを、滅亡から守ること。
「……改めて自己紹介いたします」
なら、まずは目の前の人に信用して貰うしかない。
「連邦捜査部シャーレ所属部長、明日シグレです。…元、というべきか未来で、というべきかは解りませんが…お見知りおきを」
「………いくつか質問をさせていただいても?」
了承していくつか質問を貰った。
シャーレとはどのような機関か。役割は。所属している人はどんな人か。そして…未来はどうなったのか。
私は隠すことなく全て話した。
シャーレとは生徒会権限をほとんど移したような機関であり、キヴォトス中の問題や依頼を解決する役割がある。所属は初期的には大人である「先生」であり、そこから自由に生徒を所属させることができる。無論どこの生徒か、などの制約はない。
そして…未来のキヴォトスが崩壊したことも、伝える。
私が見たこと、感じたものを全て。
「………にわかに信じがたいですが…シャーレの役割などそう知る人はいません。それにキヴォトスの崩壊…やはりそうなるのですね」
「…!やはり…?分かっていたんですか!?」
「予測めいたものでしかありませんでしたが。…シャーレは万が一に起こり得るキヴォトスの崩壊及び滅亡に対する対抗策として作り上げる計画の側面もありましたから」
「ッッ…!!なら!」
なんで、貴女は急に行方をくらませたのか。
何故、キヴォトスを見捨てるような真似をしたのか。
‘先生’に全てを押し付けて、何故姿を消したのか。
…らしくない、冷静さを欠いた言葉を叩きつけた。生徒会長は一瞬目をそらし、小さく息を吐いた。
「姿を…そうですか───」
…言及するつもりはない、そういうところかな。
と、パチ、と彼女が手を叩いた。
「まあ、とは言ってもここだけで簡単に決められる事情ではありませんからね。…連邦生徒会長のところで話しましょう」
……ん?
…あ、待って今がどこかわかんないけど、よくよく考えたら連邦生徒会長がまだ会長じゃない可能性も全然あったわけで、でも初対面で私完全に連邦生徒会長って呼んじゃってて…っ!
…ん?全然何も不味くなくない?むしろ私が未来から来た証拠が出揃っただけでは?
そんな事を考えながら(未来の)連邦生徒会長について現連邦生徒会長のところに話をしに行く事になった。
「…面白い人ですね」
いきなり現れて、未来の人だ、と。
別に疑っているわけじゃない。むしろ、あれは本当だと思う。
…シャーレの存在を知っていて、自らをその所属部長だと名乗り、挙げ句私を連邦生徒会長と呼び、後に失踪することを知っていた…まだ私はしがない1年でしかないというのに。
「…どうなることやら、ですね…」
早い所計画を見直し、完全なものにして、‘先生’の役割を果たせる人物を見つけないと、ですかね。