地獄発、地獄行き 作:有森
「ちょっ…これいくら何でも多すぎない!?」
「…これは、ちょっとキリがないなぁ」
囲まれた。
ある程度押してはいたのだが、無尽蔵に溢れ出てくるオートマタの群れに消耗戦を仕掛けられてるのが現状だ。
更に…
「──え─すか─!─こから─囲網を抜け──また──が不安定──退却───が接近───」
ブツ、と通信まで切れた。
「絶体絶命?」
「私が出張ります」
こうなった以上先生からの指示も期待できない。
コートの中にあるいくつかの武器類を探りながら前衛に出よう…とした時。
一台の車が走ってきて停まり、その中から他のオートマタとは雰囲気の違う…かなり大柄のオートマタが出てきた。
…見覚えがある。他でもないカイザーの理事だ。
このまま吹き飛ばしてやろうかとも思ったけど今それをしてもメリットはない。
…いや、無いわけじゃないけどリスクのほうが高い。
「侵入者とは聞いていたが…まさかアビドスだったとはな」
「な、何よこいつ……」
「……」
ソイツが出てきた瞬間に周囲からの攻撃が止んだことといい、その不気味さに皆も警戒レベルを引き上げている。
「君達の襲撃によって出た被害……君達の学校の借金に加えても良いのだが、まぁ大して変わらないか」
「…カイザーコーポレーションの…まあそれなりの上の地位の人って所ですね」
「か、カイザー!?まさかそれって・・・・・」
「その通り、私はカイザーコーポレーションの理事を務めている者だ……そして君達、アビドス高等学校が借金している相手でもある」
「……!」
と、ソイツは
「古くから続くこの借金について話し合いでもするとしようか?」
『か、カイザーコーポレーションの理事……』
「正確に紹介するとカイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ……それとカイザーPMCの代表取締役も務めている」
その情報今いるかよ。
「要は貴方がアビドス高校を騙して搾取した張本人ってことで良い?」
「そうよ!ヘルメット団と便利屋仕向けてここまで私達をずっと苦しませてきた犯人がアンタってことなんでしょ!?」
「やれやれ…最初に出てくる言葉がそれか。勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員たちを攻撃しておいて…くくっ、実に面白い。だが…少し口の利き方には気を付けた方が良い、ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所、君達は企業の私有地に不法侵入しているという事を理解するべきだ」
肩で笑って、それから心底不愉快といったように返した。
「それと…アビドスの土地についてだったかな?確かに買ったとも。ただし全て合法的な取引、記録もしっかりと存在している。まるで私達が不法な行為をしているような言い方はやめてもらいたい。まさかそんな挑発でもしに来た訳ではないだろう?ここに来た目的は……私達がここで何をしているか、そして何故土地を買ったからを知りたいからか?」
「……!」
軽蔑するような、心底腹が立つ物言いだ。
これだから私はコイツラが嫌いなんだ。
「それならば教えてやろう、私達はアビドスの何処かに埋められているという宝物を探しているのだ」
高らかに宣言するようにソイツは言った。
確かにこんな物言い信じるとは言えないだろうね。まあ事実ではあるんだけども。
「はぁ!?そんなでまかせ信じる訳無いでしょ!」
「…それはそう。それに、仮にそうだとしてこの兵力の説明が付かない……この兵力はアビドスを武力で占拠するため、違う?」
それに対してやっぱりセリカさんとシロコさんは反論する。
まあ正直妥当だよね。これくらいないと武力制圧はきついと思うし、土地の利さえあれば先生がいる現状むしろ少ないまである。
「数百機もの戦車、数百人もの選ばれし兵士達、数百トンもの火薬に弾薬…たった5人しかいない学校にこの兵力を使うとでも?冗談じゃない、あくまでこれは何処かの集団に宝探しを邪魔されないようにするためだ。君達程度ならいつでもどうとでも出来るのだよ、例えばそう、こういう風にね」
そう言うとソイツは何処かに電話をかけ始めた。
「何をしたの?」
「ふん、残念なお知らせだ…君たちの学校の信用が落ちてしまったようだよ」
と、その携帯端末の画面をこちらに見せてきた。
「変動金利4000%!?利子が、1億2000万!?」
「これで分かったかな?君達の首に掛けられた紐が今、誰の手にあるのか」
…なるほどね、あらかたの道筋は知ってたけどこういう感じだったのか。それなら、まだなんとでもなるか。
……いや待って、なんか金額上がってない?気のせい?億の話とか聞いてないはずなんだけど。
「しかし…これでは些か面白みに欠けるな…そうだな、9億円の借金の保証金として1週間以内に4億円、我がカイザーローンに預託してもらおうか。この利率でも借金返済ができるということを証明してもらわねばな」
…やっぱり、何かが変わってる。
まさか…ユメさんの生存分かさ増しされた?
「そんなお金、払えるわけが…」
「ならば学校を辞めればいいだろう」
「!?」
…不味い、不味い…!ここまでは想定してなかった…もっとよく考えるべきだった…!
金額がかさ増しされただけならどうとでもなるけど最悪…!
「自主退学でもして転校すればいい。そもそもこれは君たちが背負うべき借金ではない…学校の借金だ。ならば君たちがわざわざ背負う必要もないのではないか?」
取り返しのつかない話を持ち出してくる可能性もある…!
「そんな事出来るわけないじゃないですか!」
「そうよ!私達の学校なんだから見捨てられる訳無いでしょ!そもそもその借金…!」
「アビドスは私達の学校で、私達の街」
「ならばどうする?何か良い手でも?」
何か、何か手は無いか…!
「……皆、帰ろう、これ以上言い争っても意味が無い」
「!ホシノ先輩…」
「うん、きっとこのまま良いように弄ばれるだけだよ」
「ユメさんまで…」
「ほう、流石は副生徒会長、君は賢そうだな…それに元生徒会長も少しは頭を使い始めたか?もう少し早くその頭を使っておくべきだったなぁ?」
「ッ!!」
………あ、
ブツリ、と頭の中で何かが切れる音がした。
視界の前でソイツに向けられたホシノさんのSGの持ち手に手を添えて、下ろさせる。
「…シグレちゃん…?」
「…ずっと気になってはいたが、君は何だ?アビドスの生徒でもなければ関係者でもないようだが…制服もここらへんのものではない」
一つあったな、手。
ザリ、と右足を少し下げて学生証を出す。
あまりこういう形で強権を使いたくはないけど…ま、先生も許してはくれるはず。
「連邦生徒会編成、連邦捜査部シャーレ部長、明日シグレといいます」
その言葉に、さ、とソイツの顔色が変わった。
「連邦生徒会…?」
「とは言っても実際に連邦生徒会からの指示で動いているわけではありませんが。今はただシャーレの活動として様子を見に来ただけです」
嘲笑を、侮蔑を、最大限収めてソイツの前に立つ。
萎縮なんかしない。むしろ胸を張って事実を伝える。
「二年前──アビドスへの借金は一億円肩代わりという形で返済されていたはずです。そこから金利は変動せずにずっと年利10%程…それなのに返済として充てがわれていた金額と、計算が合わなかったんですよね」
「何…!?」
「それに応じて。抜き打ちの視察としてこちらに訪れた訳なのですが…ええ、しっかりと聞かせていただきましたとも、その理不尽な──子供の癇癪のような理論から生み出される権力の濫用」
自分の姿に、自分が知っている一番胡散臭い大人の影を被せる。嘘は言っていない──ただ、言っていないことがあるだけだ。
「何を言って、どこにもそんなものの証拠は…!」
「ありますよ。なんなら現在連邦生徒会へ提出中です。…ええ、早いところ荷作りでもしておいたほうが良いと思いますよ。あなた達の組織はトカゲの尻尾を切るのがとても…ええ、それはもうとても得意だと知っていますので」
カイザーの上層…プレジデントやジェネラルと呼ばれていた奴等は都合が悪くなればすぐに尻尾を切る。
要するに捕まえられれば利は大きいが戦闘能力はかなり低く、逃げ足だけ速い…うざいメタルスライムみたいな奴等だ。
その言葉を聞いて、ソイツの様子が変わった。明らかに憔悴し始めている。
「馬鹿を言え、そんなものどこにもない…全てでまかせだ!そんなものを認めるというのか!?連邦生徒会も堕ちたものだな!!」
あぁ、もう聞く価値もない。
そのうちコレは子どものようにイヤイヤを繰り返すだけの装置に成り果てる。
「信じられないならば今のままご自由にどうぞ。それとも──また武力に物を言わせて制圧しますか?」
「貴様ッ…!!」
煽る。煽る。
相手の理性を削って思考を短絡的に堕とす。
「どうしたんですか、先程までの余裕が幾許も見られませんよ?図星を言い当てられて困りましたか?」
「貴ッ様…!!」
「何か?」
「ッ……!」
ほら、思った通り封殺された。
ここまでなればもう手玉に取ったも同然。
「では、またそのうちに──次は令状も持ってきますので。……戻りましょう。コレが捕まった所で借金が減るわけでもありません」
アビドスの皆の方を向いてそう言う。
若干遅れた返事を聞いて──もう一度振り向く。
「あぁ、そういえば言い忘れていましたが…ジェネラル、プレジデント…まあそちらの上司に言伝を」
言葉を詰める。
贈り物を、持ちうる殺気を乗せてぶつける。
「…船を求めて塔に登るつもりなら…私が全力で相手になる。そもそもこんな小基地程度なら10分あれば余裕で片がつく…そうしなかったのは、別にやった所で意味がないからというだけ。ただし、これ以上私の守るものに手を出そうものなら───容赦はしない、と」
では戻りましょう、と声をかけて基地から踵を返す。
よし、私としては言いたいことが言えた。後は元通り進むように見守るだけ。
ちょっと…なんか違う気もする。