地獄発、地獄行き 作:有森
なんだろ。
「……なんか、すみません」
アビドスに戻って。
借金をどうするかという話の前に、やけに注目を浴びた状態にいたたまれずにそう口にした。
帰ってる最中もそうだったけど視線が痛いの…しょうがないけど…
「いえ、別に悪いとは言いませんし、私たちの前にあんなに怒ってくれたのはすごい嬉しいんですけど…ちょっと、見慣れなくてびっくりしたといいますか」
そして途中から通信も復旧してたみたいで、私のあの言動は全部先生とアヤネさんにも聞かれてたらしくて。
…完全にやらかしたよね…まだあんまり使えないや…
「…元が結構粗暴なんですよ、私。ですからできるだけ丁寧にいようと心がけてるのがこれなんですけど…まあ、はい」
どこかで読んだことがある気がするけど、最も恐ろしい人間は理性で本能を完全にコントロールしている人間なんだそうだ。
周りからどう思われるかとか今までがどうだったかなど関係なしに、一番効率の良い選択を脳内で出して実行する。
とある独裁政治家が、極めて冷徹に、合理的に、効率よく独裁政治を完成させていったように。
それを、真似た。
余計なことを考えなくていいなら、それが楽だから。
「それはともかく…一体何なのよカイザーは!」
「一体何を企んで…?」
「宝物を探しているとは言ってましたけど……」
「そんな物あるわけないでしょ!?でまかせに決まってるじゃない!」
「私も聞いたことないかも…宝探しとかはしょっちゅうホシノちゃんとやってはいたけど全部ハズレだったし、そもそも地質調査で何も無い事はもうとっくに分かって……」
「…いえ、あるにはありますよ」
「「!!」」
「“…シグレ、何か知ってるの!?”」
「そういえば、船と塔がなんとかって…あれ、どういう意味なの?」
セリカさんに聞かれて、少し今出せる情報を選んでから口を開く。
「…あれ自体は暗号みたいなものです。私からのカイザーに向けた警告…ま、そのまま動くつもりならキヴォトスそのものを敵に回すことになるぞっていうものです。それと、宝物が何かということについては……っ、ごめんなさい、私からは言えません」
「!!」
「というより、私もそこまで詳しくはないんです。アビドスの砂漠に何か…船のようなものがあって、それは兵器のようなオーパーツでもあって、起動させるためには同等のレベルのオーパーツが必要で、それを掌握してカイザーが何かをしようとしている事までは知っているんですが…そもそも
「兵器、ですか…そんなオーパーツレベルのものを…!?」
「いやいや、今はそれよりも借金の方でしょ!4000%とか言ってなかった!?」
「……私、もう一度行ってくる」
シロコさんの言葉に、皆が目を向けた。
「事前準備を更にしっかりしていけば、次はきっと、もっと上手くやれるはず」
「ま、待ってくださいそれは…!」
「借金はもうまともな方法じゃ返せない、何か別の方法を考えないと」
シロコさんが真剣な目で訴えた。
別の方法、なんて言うが、今の彼女が考えていることは法に触れることだ。下手すれば…最悪も考えられる。
「だ、駄目ですよ!それではまた……!」
「私はシロコ先輩に賛成!学校が無くなったら全部終わりなんだから……もうなりふり構ってられない!!」
「セリカちゃん!?」
「セリカちゃん待って!そんなことしたらあの時と同じだよ!?」
「そ、そういう意味じゃない!そうじゃなくて……でも!」
「あの時ホシノ先輩が止めてくれたのに自分から進んで犯罪者になるの!?」
「わ、私は……」
「……ッ、」
これも、一部は私のせいだ。
下手に未来を変える事を恐れてそこまで大っぴらに動かなかったくせに、いちいち中途半端に手を出したせいでどうなるかわからなくなってきてる。
それならもう少し後ろから、もっと強気に根本から動いてカイザーの不正の情報を更に引き出すべきだったかもしれない。
反対に、そもそもカイザー自体、ブラックマーケットにも手を伸ばしてるグレーな会社なんだから、もう少し慎重に動くべきだったのかもしれない。
もっと言えば…もう最初から武力行使でアレごと潰すべきだったのかもしれない。カイザーに対する情報はいつでも集められた、ならさっさと変な事が起こる前に始末して、それから通報手段を取るべきだった?
…正直、私が今こうしてやっていることも正しいのかと聞かれれば多分正しくはないだろう。そもそも今回の事件の黒幕の位置にいる黒服さんと繋がってる時点で半ばマッチポンプみたいなもの。
それでも、現状私にできるのは…できる限りこの話を元の流れに戻して、先の推測をしやすくすること。
でもまた中途半端な前提知識に振り回されて下手な動きをすればそれこそミイラ取りがなんとやらだ。
いや、でも最悪の場合は…私が正面切ってカイザーを潰すのも視野に入れよう。黒服さんとは新しく何かしらの契約をしてホシノさんへの干渉を絶たせるくらいならできる。
向こうも最初の発言から私の命を奪うような真似はしないだろう。まあシャーレをやめさせられてゲマトリアに引き入れられるくらいの可能性は全然あるけど最終そこらへんはもう誤差だ。
とりあえず現状の目標はキヴォトスの崩壊を防ぐこと…それができるなら私の身はどうなったって良い。
「ほらほら皆落ち着いて~頭から湯気が出てるよ~?」
と、ホシノさんがのんびりとした声を上げた。
「…はい、すいません…」
「……ごめん、こんな風にしたい訳じゃ無かった」
「皆ちゃんと分かってるよ、シロコちゃんも良い子だからねぇ〜。それにシグレちゃん、そんなに思い詰めなくっても良いんだよ?私としてはあのニヤけた理事の焦った顔が見れて大満足だったんだから」
!と目の前の顔を見る。
そんなに、酷い顔をしていただろうか。
「そうそう!ずっと余裕綽々だったのが崩れたあの顔!写真撮っておけばよかったなぁ」
「“ふっふっふ…実はね、ドローン越しの映像だけど私写真撮ってたんだよね。見る?じゃーん!”」
「!!ホント!?あっはっは!いい顔してる!」
「ええ、これだけでも結構スカッとしましたからね〜♧」
「ん、いい気味」
「ね〜」
シッテムの箱に、慌てふためいたようなアイツの顔が投影された。
……そっか。なら、良かった。
と、
「!あ…すみません、少し」
携帯が震えた。電話だ。
チラ、と他の人に見えないように確認すると…悪い大人からだ。
声が聞こえないように教室を出て更に離れて、通話ボタンを押す。
『クックック…お久しぶりですね。随分と怒っていらっしゃったようで』
「…何の用ですか、こんな時に」
『ええ、少し状況が変わりまして…雑談を挟む余裕はそこまでありませんのでさっそく本題に入りましょう。……ビナーが動き始めました』
!!まさか…!
『ああ、とはいえ、今回のあなたの行動のせいではありません。所謂痺れを切らした、といった状態でしょうか。ちなみにですが今はPMCの兵士たちと交戦しているようですね。かなり兵士たちの方が押されてはいるようですが』
そりゃそうだろうな、と思いつつ話を聞く。
『ホシノさんには既に契約の話はしてあります。恐らく彼女には乗っていただけるでしょう』
「…一応言っておきますが先生たちが取り返しには行きますからね」
『えぇえぇ、それで結構。ですが、現在ビナーは先程まで貴女方がいたカイザーPMC基地周辺を捜索しています。つまり…』
「…下手に私がホシノさんを取り返しにそこに行けばそのままビナーが現れ、共々巻き込まれる可能性が極めて高い…そういう事ですね」
『貴女との話は進みが早くて助かります』
なるほどね…
………………そうだね、ならこうしよう。
「…分かりました。一応聞きますが…
『!クックック…!えぇ、えぇ、むしろその返答を期待しておりました』
それなら…これを使ってカイザーPMC本基地及びビナー、両者を叩き潰す。そのためには…
「…では、新しい契約を──頼めますか?」
『!!貴女からそんな言葉が出るとは思いませんでしたね。貴女は誰よりも慎重で…誰よりも強かだと思っておりましたが』
「慎重に吟味して、最小被害で最大限の利益を得る方法を模索しただけです。内容は────────」
『………クックックッ…ええ、分かりました。では対価として…そうですね、ビナーの死骸でも回収させて頂きましょう』
…?
「…それで良いんですか?もう少し無茶苦茶なものを要求されるものだと。それではそちらが半分自力で手に入れるようなものでは?」
『えぇ、ですが私一人の力ではどうにもなりません。それに何度も言いますが、貴女とは良い関係でありたいのです。貴女方の先生と同様に…それならばこれが妥当かと』
…そうか、先生にはもう目をつけてるのか。まあ私にずっと追従してるドローンがあるから先生のことも知られてるか。割と有名にもなってきてるし。
「分かりました。ええ…では、ホシノさんを取り返しに来るアビドスの皆さん及び協力者たち、現場の証拠を回収しに来るであろう連邦生徒会及びヴァルキューレの
『ええ、確かに承りました』
これで良し。
後は…想定通り事が進んでくれればカイザーに更なる圧をかけられる。
それと…あー、時間を作ってカヤさんにもある程度話をしにいかなきゃいけないね。
あー忙しい。この上シャーレの書類業務も重なるって本気?
まあ良いけど。
アビドスの問題が片付けば少しの間フリーの時間ができるし、まずはそこまで頑張ろう。
今更ですけど、少し前に貼った主人公プロフにちょっとした仕掛けがあるの気づいた人どれくらいいるんですかね?