地獄発、地獄行き   作:有森

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なんか二次創作日間50位内に入ってたらしいですね。
ヤバ。本当にありがとうございます。


鼠壁を忘る 壁鼠を忘れず

結局、問題が問題というのもあってその解決のために私もアビドスに泊まることになった。

とはいえ急すぎることで宿なんか取れないし、そもそもここらへんに宿なんてない。

市街地の方には一応あるにはあるとはいえそこはアビドス地区じゃないし、なんかカイザーの敷地でお金を落とすのが癪。

ってなわけでアビドスの空き教室を借りて泊まることにした。先生には“別に私のホテルの部屋に泊まったらいいのに”なんて言ってもらえたけど…それには甘えられない。

空き教室の一つの机に座って申し訳程度の栄養補給ゼリーを吸う。

 

………

 

まともな食べ物が食べられなくなった。

そもそも胃が随分と縮まった。

   

何も考えずに散歩をするのが好きだった。その合間に何か食べ物を買って、食べながらふらふらして…それでたまにその隣に先生がいてくれたら、その日は何物にも代えがたい日になった。

なんてことのないただの日常。他の人が聞いたらそんな事、なんて言って鼻で笑われそうな事。

その時間が、どれくらい大切だったことか。

 

先生が()()()()()()…意識不明になってから、何かを食べようとするとフラッシュバックが起きるようになった。

 

隣で笑っていた先生が、血に塗れて倒れていたあの姿が。

本当なら近くにいれたはずなのに、休みだからと()()()()()()()に時間を割いてそばを離れたその隙に。

 

…………

 

それを抜きにしても、あれから…色彩のせいか、色んなモノが湧いて出てきて対応に追われてたし、栄養補給のために最小限のゼリーとか固形栄養食とかで済ましてたら胃が縮みに縮んで…こうなった。

 

勿論、今の先生は生きているし傷も負っていない。

 

だけど。

だけど、私は…違うから。

ここに私は、いないから。

あの人は‘先生’ではあるけれど、‘私の知る先生’じゃないから──

 

「ッ!」

パン、と両頰を叩いて思考を改める。

駄目だね、一人でぼんやりしてると余計なことばっかり考える。

 

…気晴らしに外にでも出よう。ついでにカイザーの巡回兵士でもボコろう。

 

 

 

……なんて、思ってたんだけど。

 

「こんな時間にどうしたの〜?」

正門の前に昼間と変わらない…いや、変わらないように努めているように見えるホシノさんがいた。…校舎をじっと見つめながら。

 

「少し気晴らしに散歩でもと思いまして。ホシノさんはどうしたんですか?」

「ん〜?おじさんもそんなところかな。でもここら辺は歩いてもなんにもないよ?砂しかないから夜はだいぶ冷えるし足も取られるし」

「……」

…そうだった、こういう人だった。

 

「…ホシノさん、」

「ん〜?」

「アビドスは好きですか?」

「…うへ、急に何さ〜、それ先生にも聞かれたよ。似たもの同士だねぇ〜」

若いねぇ〜、お似合いだ、なんて言いながら質問はのらりくらりとかわされる。

懐かしい、なんて言い方をするのは変だろうか。

 

「ま、でも…好きじゃないものに対してこんなに必死になるようなことはしないよね」

「それは、ホシノさんの命と引換えにするほどですか?」

「ッ!!」

慌てたようにその目が向けられた。

視線の鋭さが、私が()の最初に向けられたあの目と重なった。

 

「……シグレちゃんは、どこまで知ってるの?」

同じこと聞かれるなぁ…そっちも似た者同士か、と思いながら同じ反応を返す。

 

「質問が抽象的すぎますよ。何を、どういう意味でかが分かりません…まあ、おそらく悪いようにはなりませんよ」

「…そっか」

それからホシノさんはまた沈黙した。

…気まずいと言うかなんというか…

 

()ね、」

と、ホシノさんが口を切った。

声がさっきまでとは違う。真剣な声だ。

 

「最初はシグレちゃんのこと少し警戒してた。色々あってピリピリしてたし、今のアビドスに来るような人は皆自分たちを騙しに来てるものだと割り切ってたんだ」

空を仰いだ。

少し冷たくなった風が吹き抜けた。

 

「でも…まあ、ユメ先輩を助けてくれたのは素直に感謝してた。私ね、あの時ユメ先輩と喧嘩してたんだ。……ただでさえ切羽詰まってたのに、奇跡とか夢物語とかそんなのばかり提案してくる先輩に腹を立てて酷いこと言っちゃったんだ。だからもしあの時、シグレちゃんがユメ先輩を助けてくれてなかったら、私は一生後悔する羽目になってたと思う。だから…ありがと」

サラ、と砂を鳴らしてホシノさんは薄く笑った。

それから目を少し伏せて、声のトーンがまた落ちた。

 

「…そんなシグレちゃんに、またこんなお願いをするのはあんまり気が進まないんだけどね…これを頼めるのはシグレちゃんくらいしかいないから。…もし私がこの先皆と敵対することになったら…私のヘイローを壊して。それができる人はそんなに多くないからね。ほら、私って結構強いから」

…買いかぶり過ぎだ。

私は、そんなに()()ない。

 

「…ホシノさん」

だから、それならこう言おう。

 

「皆さんは貴女のことを諦めないと思いますよ。勿論ユメさんも含めて…貴女を助け出します」

「……止めないんだね」

「止めて止まるようには見えませんから。それに…部外者の私がここでとやかく言ったところで薄い言葉になります。そういうのはもっと適役の人がいるでしょう」

「…そっか。それじゃあ待っていようかな」

ホシノさんは困ったように笑って、じゃ、と砂の中を歩いて行った。

 

……それじゃあ、私も準備をしよう。

 

ホシノさんがいなくなることで明日、カイザーからアビドスへの襲撃が始まる。その次の日にホシノさんを直接取り返しに動く。

その裏で私はビナーを叩き、そのついでにカイザーを潰す。

 

…書き出せばこの程度、されどその難易度は私が一番良く知ってる。

準備は、しておくに越したことはない。

 

 

 

 

 

          

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

さっさと起きて対策委員会の部屋へと足を進める。

ドアを開けると他には誰もいないようで、机の上には手紙と一枚の書類が置かれていた。

 

「……退学届、か」

自主退学という形での退学届。本人が埋めるべき記入欄は全て埋められている。

…左下部の顧問印を除いて。

これでホシノさんを助け出す口実は作られるか。あとは…

 

「おはようございます…あ、シグレさん」

と、ドアを開けて入ってきたのはアヤネさん。

と、きょろきょろと教室内を見回しながら近づいてきた。

 

「他の皆は…まだ来ていないんですか?いつもなら誰かが…」

彼女の前に手紙を差し出す。

 

「…え、これ…これ、は…!?」

眼鏡の奥で黄色い目が見開かれた。

それと同時に、さらに他の人達が全員来た。タイミングどうなってるの…?

 

「おは、よー…どうしたの、アヤネちゃん」

「?何かあったんですか?」

「ん、シグレも、何か変」

「シグレちゃん?アヤネちゃん?大丈夫?」

「“何があったの?”」

その言葉に、アヤネさんは力なくそこから一歩下がった。

それから机の上の書類と便箋を指差した。

 

「「「ッ!!」」」

「“…これ、は…”」

手紙の内容は、カイザー側(正確に言うと黒服さん)の勧誘に乗る事、先生やユメさんがいて、対策委員会のみんながいればアビドスはまだ大丈夫だろうという旨の事、借金もすぐとはいかないが何とかするという事、そして…敵として現れた時にはヘイローを壊してほしいということ。

黙って読み進めていると…セリカさんがわなわなと震えだした。

 

「何なの!?あれだけ偉そうに話しておいて!切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分で分かってたくせにっ!……こんなの、受け入れられるわけないじゃない!」

「…助けないと。対策委員会に迷惑が掛かるし、私一人で…」

「落ち着いてください、今はまず足並みを揃えないと…!」

シロコさんも今にも飛び出しそうになっているのをアヤネさんが止める。

 

「…ホシノ、ちゃん…」

ユメさんも少し息を荒そうにしている。

と、その時。

遠くから爆発音が響いてきた。

 

「な、何々!?今度は何よ!!」

急いでアヤネさんがドローンを飛ばして映像を確認すると…

 

「場所は…ッ!し、市街地に無差別攻撃をしながら数百近いPMCの兵力が此方に進行中です!!」

「カイザーPMC!?なんでこのタイミングで!?」

「お、応戦しないとです!!何はともあれアビドスが攻撃されているのを見過ごす訳には!」

「考えてる時間が惜しい、すぐ行こう!」

 

「待ってください」

「何!?」

うーん…よし、これは私が引き受けよう。どうやら少し近道をしてるのがいるらしい。

 

「私はここに残ります。皆さんは近づいている兵たちを全て無視して市街地に直行してください。そうですね…ここらへんの窓から出れば邂逅もしないでしょう」

「!!何言って、」

「市街地に敵が特に集まっているのはそちらが主力だからでしょう。それならこっちをいちいち相手取るよりも二手に分かれて早々に指揮官を叩いたほうが早いはずです」

そうこうしてる間にも市街地の方の被害は拡大する。

 

「“…シグレ、任せて大丈夫なんだね?”」

「はい、任せてください」

「“…分かった、皆、行くよ!シグレ、お願い”」

他の人からも頼んだ、という意の言葉をもらって私は校庭に出る。

そこにはズラッと並んだPMCの兵士たち。

 

「…なんか既視感あるな…あ、あれだ。風紀委員の人達のときと同じなんだ。豪勢な出迎えだね」

 

「貴様一人か?」

と、リーダーと思しきPMC兵が聞いてきた。

 

「ええ、そうですが。あいにく他の人達は用事がありまして今は私一人です」

嘘は言ってない。

 

「そうか。この状況を見れば分かるだろうが…こちらは中隊レベルで来ている。これがどういう意味かわかるな?」

「ええまあ。この数には勝てないだろうから早いところ学校を明け渡せ──そんなところでしょう」

「物わかりが良いな、さあ、我々にその校舎を明け渡すのであれば痛い目は見なくて済むぞ」

…うーん、そうだなぁ…

 

「ちなみに一応聞きますけど、どうしてここに来たんですか?」

「…?何を言っている、先程貴様が言ったはずだが…」

「あーううん、違う違う」

ざあ、と風が吹く。

平常の神秘を維持しながら、殺気を込めて言う。

 

「少し話がそれるけどね…ネズミって知ってる?」

「…は?」

何を言ってるんだ、と言わんばかりの返答。

 

「そ、よくいる齧歯類のあのネズミ。実は結構賢くて…何度も苦痛を味わうと学習してその苦痛を回避する術を身につけるんだよねー。ま、それを学習するまでに少し時間がかかるらしいけど─」

カチャカチャ、とHG(Memento-mori)を右手、変形させたナイフを左手に構える。

カイザー、そっちは私たちを追い詰めたと思っているのかもしれないけど…

 

「─ねえ、あなた達はそんなネズミよりも賢いのかな?」

袋の鼠はどっちかな?




アビドス編も終盤。
頑張って飛ばします。
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