地獄発、地獄行き 作:有森
一度アビドスで解散してから。
まずはサンクトゥムタワーに戻ってきた。
エントランスでリンさんに用事があるという旨を伝えて待っていると、十分くらいで来てくれた。
「忙しい中すみません」
「いえ、構いません。何かあったのですか?」
肯定の意を伝えて、アビドスで起こったこと、そして要求内容を伝える。
「なるほど…機能している校区への侵略行為…これを皮切りにしてグレーな部分を洗うために協力を、ということですか」
「はい」
少しお待ちください、とリンさんは答えて向こうの方に歩いて行った。メモのようなものを確認したり電話をかけたりして…
「…認可は得られました。連邦生徒会からも人員をそれなりに派遣します」
「ありがとうございます。戦力自体は外へおびき出すので
「…?分かりました」
よし、次だ。
「……で、うちに来たと」
次に来たのはヴァルキューレ。
少し目つきの怖いカンナさんに協力をお願いしに来たのだ。
「はい、相手はブラックマーケットにも手を広げているグレーな会社です。連邦生徒会からも人員は派遣されますが、そこまで多くは出せないでしょう。それに、連邦生徒会そのものは行政機関ですから逮捕権はありません。そこでヴァルキューレに協力をと思いまして」
「なるほど…分かりました。ただ、あまりに急な事ですから流石にそこまでの量を連れて行くことはできないと思いますが…」
「!いえ、協力していただけるというだけでもすごく助かります。ありがとうございます」
「い、いえ、シグレには治安維持の手伝いや逮捕術の指導やでかなり世話にもなっていますから。おかげでうちの連中の対人戦闘能力も伸びに伸びていますし」
あー…あれか。あれほんとに力になれてるのかな。私とカンナさんのインファイト見せつけてるだけみたいになってたんだけど。
「では、当日は外におびき寄せられたカイザーの理事の捕縛及び連邦生徒会と協力したPMC基地内の捜査、よろしくお願いします」
「ええ、任せてください」
「…あ、連邦生徒会の方にも既に連絡はしているのですが、
「?…は、はぁ…」
よし。次は…
「あ!シグレちゃーん!こっちこっち!」
そして更に場所は変わって公園。
…うん、公園。
おかしいな…あの人達今どこで活動してるの…なんて思いながらキョロキョロしてると見覚えのある人がぴょんぴょんして手を振ってくれていた。
「お久しぶりです。ムツキさ、ん……もしかして、現事務所ってここですか?」
そう、便利屋68である。
が…見たところ段ボールで組み立てられた秘密基地みたいな場所になっている。
…ッスゥー…えー…
「!あ、あら!久しぶりね!」
「お久しぶりです、アルさん…えっと、これ…」
どう反応しよう。正直すごく困る。
「………いえ、本題に入りましょう。依頼です」
とりあえず話の方向を変える。ここで足踏みしてるとだいぶ話がズレそうだし。
「!依頼ね!何の依頼かしら!?」
と、アルさんの目がキラキラし始めた。お、おぉ…
「実行日は明日、アビドス砂漠にてカイザーと正面からやり合います。その援護をお願いしたいんです」
「…カイザーと?随分と大胆な動きにでたね」
「ふ、吹き飛ばせば良いんですか?それとも自爆でも……」
と奥からカヨコさんとまた物騒なことを言うハルカさんも這い出てきた。
…そのスペースに四人入ってたのか…流石にちゃんと建物借りよ?
「あー、まあいっか。実は──」
ホシノさんが誘拐じみた行動に巻き込まれ、さらに今日は午前中にカイザーから襲撃を受けた旨を伝えた。
と、
「なるほどね…」
「…社長、どうするの?」
「決まってるでしょう。その話、便利屋68として正式に受けさせてもらうわ!」
「良いのー?一応元とはいえ依頼主だよ?」
「ふっふっふっ…甘いわね、ムツキ…一度くらい依頼主を裏切ってこそアウトローなのよ!」
「!!さ、流石ですアル様!付いていきます!」
……ちょっとだけからかってみよう。
「となると、こちらを裏切ることも視野に入れたほうが良いですか?」
「い、いやっ!そ、それはそういう意味じゃっ!」
「アハハ!アルちゃん墓穴だよ〜♪でもまあそんなの聞かされたらさぁ…正直良い気はしないよね…!」
どうやらどちらにせよやる気になってくれたらしい。
「では、弾薬などの費用は後々シャーレの経費で落としますから──報酬はこれくらいで」
やる気を出している中に報酬を書き入れた紙を差し出すと、4人全員の顔が固まった。
「………シ、シグレさん?こ、これ本気で…」
「ええ。…まあ、ちょっと無茶はしてますけど」
「こ、これ、ぜ、ゼロの数、間違えてませんか…!?こ、これ、柴関、ラーメン、何杯分…!?」
「え、ちょーっとこれは…えー…?」
「…それ、大丈夫なの?」
まあ、破格も破格な報酬よね。私が生活を保持できる範囲内で今使えるお金のほぼ全リソース割いてるし。
ゼロの数を必死に読み直してアルさんがわなわなと手を震わせ…
「ええ、報酬に見合った働きはするわ!!私達に任せなさい!!」
そう言い切ってくれた。
ちなみに、シャーレに入ったことで給料が入るようになったからこそできる暴挙でもある。七桁はちょっと無茶だわ…まあでもそのくらい動いてもらわないといけないから、頑張ってもらいたい所存。
「当日は先生の指示に従ってください。おそらく
「ええ!…え?」
言質は取った。
その足でそのままサンクトゥムタワーに戻ってリンさんに当日の協力者やしてほしい動きなどの通達を済ませてから自室に戻る。
「……久しぶりに使うな」
白地に青い革の付いたセーリンググローブ、青地に黒いかけ紐のついたスリングドライバッグ、小型タッチパネルのついたダイバーウォッチ。
まるで海に行くみたいな装備だけどむしろ真逆の砂漠に行くんだなぁ、これが。見た目はともかく、これらを着けてると──気が引き締まる。
グローブに手を入れて数回握ったり軽くその場で戦闘を仮想した動きをしたりして問題ないのを確認、それから
バッグには弾や予備の武器をいつでも取り出せるように大量に入れておく。
腕時計に腕を通してバイタルを表示させ、バッテリー等に問題がないのをしっかり確認…よし。
これで準備は完了。
やれることはできるだけやっておきたい。
当日はどれだけ連邦生徒会とヴァルキューレの人達が迅速に押収を終えたくれたとしても最低でも30分くらいは戦い続けなきゃいけないはず。あのビナー相手に、だ。
一応黒服さんから支援は受けさせてくれるとのことだったけど、それもどれくらいのレベルかわからない。あまり不確実なものに頼りすぎるのは良くない。
ならそういう面で信用できるのは己の実力のみ。まあ幸いなのはそれなりに強いと自分では思えてるところかな。
翌日。
アビドス砂漠、その特に奥地…PMC基地からもそれなりに離れた場所に私はいた。
視界の端には黒い、なんか特徴的な形のドローン。中心部分に縦長の八面体が周りの円形の黒い円環に囲まれたような形をしてる。
『PMC基地の方での強制捜査が入りましたね。では、準備はよろしいですか?』
「…はい」
多少機械音声の混じった黒服さんの声を聞きながら返答をすると、円環が割れて、小さい正八面体がいくつか生まれ、それが真ん中の八面体の周りに集まった形になった。
その瞬間。
「…来る」
咄嗟に後方に弾かれたように飛び、体勢を整える。
二年ぶりに見る大蛇が姿を現した。
「さぁ…再戦と行こうか」
周りに人はいない。というか野良オートマタすらいない。
手加減する道理は、もう一片もない。
佳境です。