地獄発、地獄行き   作:有森

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き、キツイ…


正念場

《先生》

「“…来ないね”」

「シグレさんが遅刻とはあまり考えにくいですが…流石にそろそろ行かなければいけません…」

「“…あ、連絡が来た。…「すみません、急用で行けそうにありません。連邦生徒会とヴァルキューレと便利屋68の皆さんに援護を頼んであるので先生はそちらの指揮をお願いします」……え?”」

そんな一幕があったりなかったり。

いやはや…あの子は本当に想定を超えてくるね…

……うん、ほんとに…

 

「ヴァルキューレ警察学校の尾刃カンナです。シグレからお話は聞いています。あまり人数は集められませんでしたが、20人ほどは連れてきました」

「連邦生徒会行政官の七神リンです。ご協力ありがとうございます」

まさかリンちゃんまでここに来てくれるとは思わなかったけどね…。行動力すごいね、あの子。行政機関と警察巻き込んじゃったよ。

 

「こ、これすごい人数…」

「連邦生徒会は早速カイザーPMC基地内にて強制捜査を開始します。ヴァルキューレの皆さんはそれに乗じてカイザー理事の捕縛及び証拠品の運び出しの手伝いをお願いします。小鳥遊ホシノさんの救出の方の指揮は先生、よろしくお願いします」

「“任せて”」

基地の近く、まだ敷地内には入ってない場所で確認事項を確認して、そこから一気に前進する。

 

総勢50を超える人数を引き連れて進み、閉じられた前門でリンちゃんが声を上げた。

 

「連邦生徒会です!カイザーPMCにおいて、機能している学園への侵略行為、多数箇所における生徒の誘拐、及び違法武器の生成販売等の件で強制捜査令状が出ています!速やかに門を開きなさい!!」

よく通る声が響くと、門が重い音を鳴らしながら開いた。

中でかなりの数のロボットたちが慌てたようになっている。

 

「行きましょう。先生方は…小鳥遊ホシノさんの居場所は分かっていらっしゃいますか?」

「“うん。大丈夫だよ”」

「そちらに理事がいる可能性もあります。私はそちらに同行しましょう。お前達!ここからは連邦生徒会の指示に従って動け!動きは分かっているな!」

カンナの声にヴァルキューレの子達が一斉にはい!と返事をしてリンちゃん達に続いて基地の中に入っていった。

 

「“私たちも行こう”」

アロナを起こして皆の返事も聞いて、昨日…業腹ではあるけど、黒服と名乗る悪い大人に教えてもらった場所に直行する。

トリニティとゲヘナの皆も協力を約束してくれてる…必ずホシノは助け出す。

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 

 

 

《明日シグレ》

「ッ、は、ァッ!」

またビナーが光線を吐き出そうと口を開けた。そこを狙って砂を蹴ってビナーの至近距離まで接近、口の中に小型EMP弾を叩き込む。

ちなみに黒服さんのドローンはそういう電磁波対策もできている、らしい。けど…

 

「ッ!だよね、!」

それがこちらにできるということは相手にもできるということ。一瞬動きは鈍りこそすれどすぐに立て直される。

ッ、これほんとに難易度上がってる…2年前戦ったのとはまるで動きが違う。

 

とりあえず現状の把握をしよう。

ビナーの攻撃はおおよそに分けて四種類…

まず一つ目は単純な巨躯を活かした直接攻撃。

普通に捌ききれないけど回避は比較的楽だから問題なく対処できる。

 

二つ目は口から放たれるレーザービーム。

直撃はしちゃいけないけど、一回吐き出したら吐き出してる間は多少無防備な時間ができるからある意味隙ではある。範囲もそこまで広くはない。

が、当たると当たったところがジクジクとしばらく痛むし、そもそも攻撃は当たらないに越したことはない。

 

「ッ、やば」

と、ビナーが体を反らせるような動きをした瞬間、無数のミサイルが飛んできた。

HG(Memento-mori)でこっちに向かってくる危ないものだけを撃ち抜いてなんとか対処する。

これが3つ目。普通に痛いし範囲も広いから避けづらい。しかも着弾したらしたで爆発して砂埃が起こるから視界も悪くなる。

対処にかなり手間取らされる。

 

そして4つ目が大砂嵐。そのまま。

地面に潜ったかと思えば砂を大量に巻き上げてぶつけてくる。視界が悪くなるだけじゃなく砂やら石の破片やらが大量に飛んでくるから基本直撃して巻き込まれたらまず回避不可能。今のところ砂嵐よりも高く跳躍して影響範囲外からその隙にダメージを与えるようにしてる。

 

特に後者二つの攻撃が本当に面倒すぎる。範囲も広いし威力もかなり高い…!

その上ずっと砂嵐が吹いてるせいで狙いにくい上に重心もブレるから体勢が定まらない…

 

「は、ッ!」

ミサイルによる砂埃が薄れてきたところらへんでもう一回神秘を使用に回して急接近、コートの内ポケットから筒型のモノを引っ張り出す。

 

…ビナーにはヘイローがある。それは神秘を持っているということの証拠でもあり、機械でありながら神秘を持った存在ということだ。

確かにEMP弾なんかの対機械用の対策はされてるらしい…なら、()()()()()()()()()()()()

 

「それッ!」

ビナーの顔に向けて思いっきり振り抜いて投げ飛ばす。流石にその巨躯じゃ回避はできないだろう。というかそもそもその小さな筒一つでどうにかなるとも思わないだろうから回避行動すら取らないはずだ。

 

筒がビナーの頭に当たり、そこから煙が爆発するように広がった。

 

「当たった、!」

そこから一瞬下がって体勢を立て直し、ビナーの背中へと回り込む。

SR(Moriens)を構えてしっかり狙う。

 

死にゆく者より敬意を(Morituri te salutant)!!」

神秘を過剰なまでに詰め込んで煙の覆ったビナーの頭部に照射、仄暗い光が着弾して…貫通した。

 

「…!よし、効いてる…!」

対神秘制圧用煙幕弾。

私の神秘の特性を利用した、悪い大人製の対神秘用の武器。

周囲の煙は触れた神秘を吸い取り奪い、煙そのものに蓄積させる。数分経てば戻るけど、許容量以上の神秘を吸い込んだ煙は…

 

お腹の底に響くような爆音を鳴らして煙が青白い光を発して爆発した。

 

「…ハハ、まじか」

が、ビナーは生きている。

確かに損傷しているがまた砂に潜ったのだ。

不味い、砂嵐が来る…と思った瞬間。

 

「ッ!」

無理だ、神秘が保持できないっ!

反射的に神秘を通常に戻してしまい、思ったような動きが取れなかった。

その瞬間大量の砂が私の方を襲った。

 

…?

咄嗟に顔を守って目を瞑って…数秒。思ったような衝撃が来ない。

恐る恐る目を開くと、周りに青い半透明の障壁が展開されていた。

 

『クックック、ある程度は読めました…あらかたのタイミングがわかればこちらから電磁障壁を張りましょう』

!支援…!

ありがたい、けどあまり頼りすぎないようにしないと。

と、足元の砂が蠢いた。

下から来る!

飛び退いた…のとほぼ同時にしたからビナーが勢いよく飛び出てきた。

躱しきれずに下半身を鈍い痛みが襲う。

 

「っ、知ったことか!」

別に空中でも銃は撃てる。

再度神秘を使用に回して出てきたばかりのビナーの頭を狙う。

…自己修復機能がついてるのか、穴が塞がってきてるけど関係ない!

 

撃って、撃って、撃って…口が開かれた。奧に黄色い光が見える。

不味い、空中だと回避体勢が…いや、迎撃する!

 

「死にゆく…愚者の敬礼!!」

また神秘をありったけ籠めてレーザーに合わせて撃つ。

仄暗い光が閃光とぶつかって…弾けた。

なんとか相殺はできたらしい。が…

 

「ッ!やば、」

手元から一瞬嫌な音がした。SR(Moriens)にそろそろ限界が来そうだ。

そもそも、銃に対してこんな大量に神秘を詰め込むことも、こんな連続して何十回もEXスキルを使うことも想定されていない。

多分あと二回も同じ威力で撃ったら耐えきれずに大破する…そうなれば有効打点は無いに等しくなる。

私自身もそれなりにダメージを受けてきてるし…………よし、それならこう行こう。

SR(Moriens)を背負っていつもの状態になる。HG(Memento-mori)は左手に、ナイフは保持して右手に。

 

「近づけば攻撃方法は少なくなるでしょ…!」

脳筋戦法である。

実際、ビナーの攻撃方法はほとんどが中、遠距離だ。近距離にまで近づいてきた相手に関してはその巨躯で押しつぶすか弾き飛ばして距離を置くかの二択の行動しかしない。

ならば弾き飛ばされないように神秘で体を強化して無理やり近づく。

 

「第二戦と行こう…!」

と、空気が微弱に揺れた。同時に体から痛みが抜ける。

ドローンからパルスのようなものが流れてきていた。

 

「ッ!」

地面を踏み込んで次の一歩で肉薄、手に集中的に神秘を回して…

 

「たッ!」

充分に近づいた状態で愚鈍に回避行動を取ろうとしたビナーの体に左手で衝撃を叩き込む。最小動作で最大の破壊力を生む──寸勁だ。その衝撃で若干バランスが崩れたところを…

 

「ッ、ァァァァアア!!」

HG(Memento-mori)を内ポケットに戻して左手で装甲を掴んでその接続部をナイフで切り裂き、そのまま次の装甲へ跳んで掴んで──と右手のナイフで装甲の間、若干弱い接続部を次々切り裂きながらその巨躯を駆け上がっていく。

違和感を感じたのかその体を振り回して払い落とそうとしてくるが、こちらも対抗してより強く掴んで離さない。

そのまま頭まで駆け上って空中に自分の体を放り投げ…

 

「そう来るよね!」

好機と思ったのかレーザーを吐き出そうと口を開いた瞬間。

筒型の物をその口の中に投げ入れる。

と、学習してあの煙の爆弾は不味いと判断したのかレーザーの照射を急いでソレを相殺しようとしたビナー。だが…

 

「残念、ブラフ…!」

さっきのはただの煙幕弾。煙は確かに出るけど何の効果もない。そうして視界が消えたそこに、本命を叩き入れる!

必死に煙から逃れようと暴れ始めたビナーに、本物の対神秘制圧用煙幕弾を投げ入れる。

当たる当たらないに関わらず必ず発動できるように、そこから引き出したHG(Memento-mori)で筒を狙い撃つ。

 

「─────!」

金切り声のような叫び声が上がった。

苦しんでる!ならかなり効いてるはず!

 

そんな攻防を何分続けたか、そろそろ分からなくなってきた頃。

 

『シグレさん、そろそろ()()()です』

!!

黒服さんから連絡が来た。

時間…ということは連邦生徒会とヴァルキューレが強制捜査を終えたということ。

手元のダイバーウォッチを確認すると戦闘を始めて優に30分は過ぎている。だいたい1時間弱位だ。

まあでもこれでも早いほうだろう。

でもここからが一番の正念場だ、ここでミスすればここまで私が命をかけた意味がなくなる。

 

と、改めてビナーに向き直した直後。

 

視界が砂に呑み込まれた。

 




次回アビドス編決着。予定。
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