地獄発、地獄行き 作:有森
砂色の視界の中、硬質な音が次々に鳴り響いた。
何とか黒服さんのバリアが間に合ってくれたみたいだけど、不意打ちが過ぎる…!
と、砂嵐の中から確認できる閃光が見えた。
「!まさか、!」
砂の中でのレーザーの照射。
ビナーの体が見えない以上どの方向に発射してくるかわからない。
なら…確実に当たらない場所に回り込む!
足に重点的に神秘を回して速度増強、背中の方へと回り込む…と、
「!ミサイルか…!」
次は普段の量の2倍くらいのミサイルを放ってきた。
こっちの動きを読んできた…!
なら、ともう一度ビナーの腹部に回って装甲にしがみつき、ミサイルをやり過ごしてそこから装甲を蹴り飛ばして自分の体を前方に勢いよく弾き飛ばす。
あの日と同じように、装甲にヒビが入ったようだ。
砂に降り立って前に一回転、体勢を立て直してその場から走って撤退、相手の目に見える…攻撃のギリギリ射程圏外を走ってそのまま誘導する。
案の定、傷つけられたことに嫌な記憶を掘り起こされて怒ったのか、ビナーはレーザーや砂嵐を起こしながら猛追してきた。
そのまま誘導して…向かうのはPMC基地の方!
だけどかなり離れた場所で戦闘してたからどれくらい時間がかかるか…!
「黒服さん!ここからPMC基地までどれくらいか分かりますか!」
『おおよそ2キロといったところですね。そのままのペースでいけば数分で到着するかと思いますよ』
ドローンが小さなカタカタという音と一緒に答えてくれた。
ならOK…!と背中に迫るレーザーの光を感じながら速度を調節し、攻撃が当たらないように気をつけていかにも敗走しているように装う。
そしてそろそろ疲労が溜まって動きが鈍くなってきた頃…
「!見えた、!」
黒い外壁、有刺鉄線に囲まれた物々しい基地が見えてきた。
門は開け放たれてて少し遠くに人の塊が見えるから、アレがおそらく連邦生徒会とヴァルキューレの連合強制捜査陣だと思う。
あそこまで離れてるのなら、まだ中に人がいるようなことはないだろうし…なら、ここで私がするべきは…!
「突っ込む!」
そのままさらに速度を上げて跳ぶ。
ビナーからの猛追もさらに勢いを増す。
レーザーやミサイルはもうもはや距離を開ければ避けられるようなものじゃなくなってる。そのまま動いて狙いを定まらせないようにするしか回避方法がない。
でもソレでいい。ここまで来たらもう勝ったも同然!!
「ッ、ァア!」
そのまま跳躍、開きっぱなしになっている門を最高速度でくぐり抜けると、数秒後に激しい破砕音が聞こえてきた。
チラ、と後ろを見るとビナーが門を思いっきり破壊して追いかけてきていた。
と、ビナーは砂の中に潜り…基地の真下から施設を食い破って現れてきた。その隙に私は近場の基地の一番高いところに跳んでやり過ごし、更にビナーの顔の真ん前に出ていく。
「こっち!」
動きを誘導して次々と基地の設備を破壊、レーザーやミサイルの流れ弾で外壁や施設、諸々関係なく崩壊させていく。
ここで私は攻撃はしない。あくまでも逃げに徹して、破壊はビナーに任せる。
『!て、敵襲!敵襲ーー!!ビナーが現れ──誰だア』
と、ようやくサイレンから警報音と音声が鳴り響いた。
…まあでも普通に進行方向で邪魔だったから蹴りで圧し折って、サイレンの残骸をビナーに投げつける。
それだけでも挑発には充分だったようで、レーザーをやたらめったらに吐き出し始めた。
「撃て!撃て撃て!」
「ともかくヤツを押し戻せ!」
「待て!誰かいるぞ!?」
「人員が足りねえ!今向こうに出払ってんだろ!?」
と、やっとPMCのオートマタや戦車がゾロゾロと出てきた。
だけど、遅い。
ビナーの狙いはもう私に固まっている。だから私が移動すれば…
「な、何だお前は…ま、不味いッ回避!かい」
オートマタの群れの方に移動して一度着地し、衝撃で舞い上がった砂埃に紛れてそこからまた離れればビナーのミサイルがそこら辺にばら撒かれて大量のオートマタや戦車が沈黙する。
…まあそもそもだけど、ビナーの体の大きさと比較すればPMC基地も結構小さいもので。
その巨躯が暴れまわったらそりゃあすぐに壊滅するよね、という感想しか出てこない。
さて、ほぼ完全に基地が崩壊したところでそろそろトドメを差すか…と走り回りながら考える。
まあ正直な話、確実にトドメはさせるけど…半分自爆特攻なんだよなぁ…
今持ってる対神秘制圧用煙幕弾全てを抱えてビナーの口の中に突っ込んで全て爆破させて神秘を完全に強制剥奪した上で、EMP弾をばら撒いてその上で中でEXスキルを使う、こちらも脳筋戦法。煙幕弾は私の神秘を応用した武器だから私には無害。だけど一回食べられる訳だし、それだけレーザーの照射口に近付く羽目になるから下手すればレーザーが直撃する。
まあいっか、別に死にはしないでしょ。別にレーザーを照射される前に全部済ませればいい話だし。
というわけで暴れ回るビナーに急接近、口元に近づいて…おっと、思いの外反射神経がよかったか。
そのまま頭突きを食らわされて空中に体が放り出された。
まあでも勢いがついた分ビナーからは離れたけど…ま、こっちに向かってきてくれてるみたいだからその分余裕は…えっ、
え、あれって…
やばいっ!ここでそれは想定外すぎる!なんで、ここにまだ
しかも便利屋の人達と…ヒナさんとカンナさんにカイザー理事まで!?何で!?
あと対策委員会の人達と…あ、ホシノさんいる。助け出せたか…じゃなくて!!
「ッ、クソ、!!」
こうなればもう想定してた手は使えない。先生の目の前で自爆特攻なんてしたら後で何を言われるか分かったものじゃない。
なら…少し不確実にはなるけど、アレか!
空中で姿勢を制御、煙幕弾は全部スリングドライバッグに入ってるから、それを投げつける。
別に爆発するわけじゃないからそこまでボロボロになるような傷はつかないだろうし、後で回収すればいい!正直すごく心配だけど!!
「、れッ!」
ビナーめがけてバッグを投げつけると、大量の煙幕弾とEMP弾が同時に破裂した。
動きも止まった、今しか無い!
神秘を使用に回して、肩に掛けている
──壊れたらごめん。後で絶対なんとかして直すから。
「Morituri te salutant!!!」
今日一番の神秘をその一発に籠める。
くすんだ閃光を纏った銀弾は寸分違わず狙った通りビナーの顔面の中央を貫き…さらに神秘に耐えきれなくなった弾丸が大爆破を起こした。
…ちょうど、ビナーの頭を貫通した直後に。
つまり、顔面に大穴を開けたビナーの巨躯がこっちに倒れてきたわけで…
!!しかもさっきの一撃で
「ッ、一か八か!」
私の体も勢いを落として重力に引かれ始めてる。なら、これにかける!
私のEXスキルは一つじゃない。
あんまり大きな相手には効果が薄いけど…ビナーの倒れる軌道を変えるくらいはできるはず!!
と、その瞬間にまた神秘の限界がきた。
ええい…知ったことか!!そのまま撃て!!
「Argentum bullet!!」
「っ、は、ハァ、ッ…!な、なんとか、間に合った、…!」
神秘を平常に戻して…それから砂地に叩きつけられた。
あー……砂あっつい…けど、まあ…
地響きはもう鳴らない。砂嵐の気配も完全に霧散した。
完全にビナーが沈黙した証だ。
……やり遂げた。
やれたんだ。
「ッ…はぁ─────」
今はこの熱が心地良い。
なんか、すごい騒がしくなってきたけど…ちょっとだけ、ちょっとで良いから休ませて……
《先生》
「な…!?」
「あれ、って…!!」
ホシノを助け出す道中に大量のオートマタに囲まれて時間を取られていた所に便利屋68の皆が来てくれて、アルが「ここは私達に任せて先に行きなさい!!」と言ってくれたお陰でホシノを助け出せて。
まずは戻って便利屋68の援護に、と思っていた矢先、空に影がかかった。
曇ってきたのかな?と思って見上げると…巨大なヘビのロボットみたいなのが伸びていた。
「もしかして、梔子さんが前に言ってた…?」
「そう、そうです!でも、何でここに…!!待って、あそこ!!」
と、梔子さんが指差した先に…よく見ると、人影なようなものがあった。
まさか、交戦中!?と思って…よく見てみると。
「…シグレ…?」
よく見た白いコートに、背負われたスナイパーライフル。
よく知る人物が、ヘビのロボットの目と鼻の先で交戦していた。
と、シグレが背負っていた青いバッグを投げつけると…それから煙幕みたいな白い煙が舞い上がった。それに応じてヘビのロボットが動きを止めた。
その隙に空中でシグレが姿勢を整えて、背負っていたスナイパーライフルを構えて──あの仄暗い閃光を放った。
するとヘビのロボットの頭がその光に貫かれて大穴を開けられた。
「す、すご…」
「もしかして用事って…あれのこと…!?」
そうだ、元々シグレには急用で行けなくなったって言われてた。
なら、あの連絡をもらってからだいたい1時間…ずっとあんなのと戦ってた…!?
と、ヘビのロボットがこっちに倒れてきて…って!
やばいこのままじゃ巻き込まれる!
「“アロナ!シールドを皆に──”」
お願い、と言おうとして。
次はそれこそ目も開けられないような白光が起こった。
えっ、と思って光が止んでから光の方を見ると、ヘビのロボットの倒れる軌道が変わって…そのまま地響きを鳴らして倒れた。
それと同時にシグレが落ちてきて、少し遠くの砂地に叩きつけられていた。
「“!シグレ!!”」
「シグレさん!」
近くにいた便利屋の子達やアビドスの子達も含めてその方に駆け寄る。
幸いすぐに見つかった。けど…
「“ッ!!”」
尋常じゃない数の傷。
こんな状態で戦ってたの…!?
「…あ、先生…すみません、遅れました…」
と、シグレは、よっ、と言って上体を起こす。
…いや起き上がれるのか…なんというか、すごいな…
「な、馬鹿な…!?何故、何故これがここにある!?何故壊されている!!」
と、カイザー理事の声が聞こえてきた。
…そういえば、シグレがアビドス砂漠に兵器、それもオーパーツみたいなのがあるって言ってたっけ。
まさか、これの事…!?
「…簡単な話、私が壊した。見ればわかると思うけれど」
ボロボロの状態でシグレはカイザー理事の方に歩いて行った。
…止められない。止めようとすら思えなかった。多分アレは…本気で怒ってる。
「この期に及んで信じられないとは…言ったはず。あの駐屯基地程度なら私一人で壊滅させられる──って」
「!!ま、まさか…!!」
と、カイザー理事は連絡端末を取り出して番号をうち込む…けど、応答はないみたいだ。
「貴様…!こんな事をしてどうなっても…!」
「どうもならないよ。基地は私がただアレと戦ってるその途中で偶然巻き込まれて、その過程で崩壊した…それだけ。私が基地を攻撃した証拠はないし、まあ運良く生き残ってるPMC職員にでも聞いてみたら良いんじゃない?生き残ってるのがいれば、だけど」
悔しさに顔をしかめて歪ませる理事。…正直だいぶスッとした。
それからカンナに連れられて行くのを見届けて、さて戻ろうかとなった時。
「ほうほう、これは興味深い…神秘そのものを撃ち出している?いや、しかし重装甲であるビナーにコレほどまでの大穴を穿つとなると…もし特殊装甲を持った敵ならば一体どんなダメージになるのか…一度ミメシスの装甲を転用して…ふむ……」
…一人の黒が、ヘビのロボットを眺めていた。
…ん?
「!!」
「“黒服…!!”」
「おや?ああ、これは失礼。挨拶も無しに勝手な行動は慎むべきでしたね」
黒いスーツを身に着けた異形の大人、通称黒服。
ホシノを誘拐した張本人が、仰々しくお辞儀をしながらそこにいた。
ビナー戦、もうちょっと膨らませる余地があったかもしれない…
気が向いたら加筆修正します。