地獄発、地獄行き 作:有森
「…?どなたですか?」
「“うーん、まあホシノをさらった張本人だね”」
「なら敵ね!」
血気盛んに銃を構えだしたセリカさんに、慌てたように両手をあげる黒服さん。
「ああ、お待ちください。見た目通り私にはヘイローがありませんので銃弾一発でも死んでしまいかねません。それに、敵対するために来たわけではありません。ただ
「対価…ですか?」
アヤネさんの声に合わせて、チラ、と黒服さんがこっちを見た。
………それは…あんまりよろしくないのでは?
「“!!まさか…!”」
「…黒服さん、その言い方は不味いですよ」
そんな言い方されたらまるで私そのものを対価としてるように聞こえるじゃんね☆
…やめよう。私には合わない。
「契約は私の戦闘補助、それと連邦生徒会とヴァルキューレの撤退報告、対価はビナーの死骸です。というかこれ持ち帰れるんですか」
全長観測しきれないくらい大きいんですけど。
これ砂に埋まってる部分含めたら数十メートルどころか数百メートルはあるよね…
「まあ持ち帰るわけではありませんからね」
と、パチン、と指を鳴らすとビナーの真下に青い光で縁取られた穴が現れてそこにビナーが吸い込まれていった。
…どうなってんのそれ…?
「では私はこれにて失礼…」
「“待って”」
と、そこに先生がストップをかけた。
砂を踏みしめながら黒服さんとの距離を縮めていく。
「“それを回収してどうするつもり?”」
「…我々の目的は神秘の探求です。ビナーに残された戦闘データや、残留した明日シグレさんの神秘──研究するには困らない代物ですので」
「“…その結果をどうするの”」
「更なる研究に役立てるまでです」
「“それを使って生徒を傷つけるつもり?”」
「必要に応じて、とだけ」
「“私がそれを許すと…!”」
さっと向けた右手には、一枚の黒いカード人差し指と中指に挟まれていた。
…大人のカード。単なるクレジットカードとしての効果も持つカードだけど、その本質はいかなる戦況をもひっくり返せるような最強格のメタオーパーツ。
ただ、その代償は少なくない。
「…黒服さん、契約違反ですよ」
だから、それを使わなくて良いように私からも縛りを設ける。
「“シグレ…?”」
「一番最初に結んだ契約では、私から得られた情報、及びデータはキヴォトスの住民に対して危害を加えない範囲で使用を許可する、というものだったはずです。それは契約を破棄するという意志の表れと取っても良いですか?」
「………これは一本取られましたね」
この人が言うと本気で言ってるのか冗談で言ってるのかわからないからね…釘を刺しておくに越したことはない。
信用はするけど信頼はしない…それくらいの立ち位置が一番楽でしょ。
「ではそちらは配慮しますので、契約は継続していただけると。先生、先日も申し上げましたが…我々はあなたのこと
と、ビナーの吸い込まれた穴と同じような穴に黒服さんも吸い込まれていった。
……気が抜けた。
トス、と砂に腰を下ろすと少しずつ力が抜ける。
あー…ずっと緊張しっぱなしだったからね…そろそろ体に限界がきたか。
…というか普通に体が痛くなってきた。アドレナリンが切れてきたな…まああんな至近距離でミサイル食らって熱線くらいかけて巨躯に体当りされた状態で、アドレナリン程度で立っていられるレベルならまあどうってことはないかな。
後ろから体を支えられる感覚がありつつ、少しずつ遠くなる音を聞いていた。
目を覚ますと見覚えのある場所だった。
まあ覚ますと、というか覚めても、というか。
「!あ、起きました!」
ノノミさんの声と、ドタドタと走っていく音が聞こえる。
アビドスの保健室だ。どうやら普通に気を失っていたらしい。
窓から見える日の高さがそこまで変わってないのを見ると、そこまで長い時間は眠っていなかったか丸一日寝てたかの二択かな、と思いつつ体を起こす。
…多少痛みはあるけどまあ、元々そこまで重症でもなかった身、問題なく動く。
右側の棚を見るとドライバッグが置かれていた。中を確認すると、ご丁寧に制圧用煙幕弾の殻だけ抜き取られて。
黒服さんかな、と思いつつまあ紛失してなかっただけ一安心。
ベッドの左側には
とか考えていると、ガラガラとドアが開けられて見知った七人が入ってきた。
「うえっ、もう起き上がって大丈夫なの!?」
「まあそこまで重症ってわけでもなかったですし」
「いやいや、結構重症だったよ!?打撲跡とか爆発の跡とか凄かったし!!頭から血も出てたんだよ!?」
なんだその程度か。
別に腕がもげたわけでも目が潰れたわけでもあるまいに大袈裟な、なんて思いながら、まあ認識の違いかと向き直す。
「ご迷惑をおかけしました」
「いえ、それは…」
「ん、どちらかといえばホシノ先輩のほうが迷惑かけてた」
「うへぇ〜、シロコちゃん容赦ないなぁ…ごめんねぇ」
何気ない日常、か。
やっぱりそれが一番だ。
「“シグレ”」
と、私より少し高い位置の先生から声がかけられた。
「“体は大丈夫なの?”」
「はい。もう二日も経てば完治するでしょう」
「“そっか。…詳しい話、聞いても良いかな”」
「…はい」
…うん、多かれ少なかれ怒られるだろうとは思ってたけど、そこまで目の笑ってない笑顔を貼り付けられるとちょっと怖いよ。まあ、覚悟しようかな…
というわけで一部一部ははぐらかしつつ、大まかなところは話した。
2年前にビナーと交戦した時に、顔を覚えられてしまったらしいこと。
数日前に黒服さんに呼ばれてそれを直接伝えられたこと。
ホシノさんの救出の障害にならないように裏で交戦し、ついでにカイザーPMCの基地も一緒に巻き込んで壊滅させたこと等々。
「………」
「………えぇ…」
「“ええ……?”」
と、そんな感じの反応をもらった。
なんですか、なんか文句あるんですか。
「いや…うーん…」
「“はぁ…これに関しては黒服にどうこうというより…いや、責任の所在はどこにもないか”」
だね。
誰のせいかと言われても2年前に私が干渉してなきゃユメさんが死んでた(かもしれない)し、必然というかそんなところかな。
「でっ、でも!でもなんでその事教えてくれなかったの!?私達だって多少は力に──」
「あー…それはちょっと厳しいかもしれないですね」
確かに一瞬それは考えた。
特にホシノさんやノノミさんなんかの攻撃は重装甲兵に対しても関係なく貫通するようなダメージ。ビナーともかなり相性はいい。
ただ…相性勝負だけでどうにかなる相手じゃなかったのも確か。
「…皆さんのことを弱いと言っているわけでは無いんですが…正直なところ、アレに対して有効打が与えられると言い切れないのが現状でした」
ホシノさんならともかく、他四人…いやアヤネさんは後方支援だから別だけど、ともかく並の火力じゃまず攻撃が通らなかったであろうのも確か。
相性不利だったとはいえ、この中で瞬間火力だけならトップクラスと自負できる私の火力でも神秘を剥奪してない状態下で有効打を与えるのは至難の業だった。
接近戦に持ち込んで力任せに攻撃すれば一応通ったけど、基本的にキヴォトスは銃社会だし、あまり接近戦が強いと言えるような人はそんなに多くない。
それに、数を増やしたところでビナーの攻撃は全体に対する攻撃が多い。
砂嵐やミサイルなんか、慣れていないと対処も難しかっただろう。
それに…アビドスのみんなが来るということは先生も来る、ってことで。下手すれば先生が巻き込まれて死ぬなんてこともあり得た。
だから、単独で一番やりやすい状況を作り出して戦った、それだけ。
「“だとしても、だよ。私にはシッテムの箱もあるし、協力を頼んでくれたら存分に助けた。そんなに、信頼できない?”」
……違うんです。信頼していないわけじゃないんです。
でもそれ以上に貴女のことが大切なんです。
怪我をしていないのに、胸が痛い。
「………すみません」
「まあまあ、シグレちゃんも反省はしてるみたいだしさ、シグレちゃんにはシグレちゃんの考えがあったんでしょ?それも、おじさんたちのことを思った。なら責めるほどのことじゃないんじゃない?ねー」
と、ホシノさんが間に割って入ってきた。
「でもね、まあ…こんな事を起こした私が言うのもなんだけどさ、もっと頼ってもいいと思うよ?というかみんな頼ってほしいって思ってるはず。だーかーら、
!!
『ごめん、ね…お願い、あの子達に…
フラッシュバックする。
死にかけの…いや、
先生の代わりとして託されたお願いが、知らず知らずのうちに理念に取って代わっていた。
「し、シグレちゃん?」
「!すみません」
咄嗟に目尻を拭って向き直す。
「…分かりました、それじゃあ…これから少しずつ頼らせてもらいますね。
とりあえずアビドス編は最終回(?)です。
ちょっとした後日談をやってパヴァーヌに行きます。
……書いてから思ったけど今話ユメ先輩一言も喋ってないな…