地獄発、地獄行き 作:有森
突然だけど、私の体にはなんか地味に変な技能みたいなのが染み付いてる。
そのうちの一つに、自分に向けられた視線がどこらへんから向けられているのかとかが曖昧ではあるけど多少わかるというのがある。
…まあ、言わずもがな
いつどこから襲撃されるかわからない状態下、おちおちゆっくり寝てる暇なんてなかった関係上、寝てる状態でなんとなく周囲の気配とそれらからの視線がわかるようになった。
…まあ、何が言いたいかというと。
(………すごい見られてる気がする)
ゲーム開発部室で、アリスさんがゲームをしている横で寝たはずだ。一応だいたいどんな体勢でも浅い眠りにはつけるようになってるから、それは良いんだけど。前方から凄い密度の視線が送られてきてる気がする。
…まあ、敵襲な訳はないから別に慌てる必要もなし、と判断してゆっくり目を開ける。
「……なんですか」
見覚えのある緑と桃色、青と淡赤色の目。
ゲーム開発部の4人からの視線だった。
「あっ、いや、お、おはよ〜、シグレさん」
「…はい、おはようございます」
寝起きはテンションが低い。低血圧もあるんだけど、単純に眠りが浅いからっていうのもある。…三十分くらいの浅い眠りと意識の浮上を繰り返してる感じに近いから疲れが取れきれないんだよね…
「普段キチッとしてるシグレさんがちょっとふわふわしてる…!」
「き、気持ちはわかるけどお姉ちゃん、そのワキワキしてる手は何…」
「…ぁふ…」
目をむいむいとかいて、いい加減頭を起こす。一応後輩の前だし…ちょっとはぴしっとしてないと…
「…それで、今日はどうするんですか?」
「えっ、あ、とりあえずアリスの学生登録は済んだから、あとは学校の案内と武器探し…かな?
「…そうですね」
少し浮ついた頭に言葉が流れ込む。
……うん?待って、今なんて言った?
「え、いや、部員数はもう4人を達成してるんじゃ…」
「?いやいやシグレさん、さすがに私たちを見くびり過ぎだよ?私達だってやると決めたことくらいしっかりやるよ。それに…昨日先生とシグレさんがあんなに言ってくれたからね。クリエイターとしてその気持ちに応えたいっていうのはおかしくないと思うよ!」
………なる、ほど。多少変に変えちゃったわけか…いやまあこの程度の差異で済んでるわけだし、全然良しとしよう。
できる限り元の流れに沿わせるようにはしたいけど…どこにどう介入してどう弄れば未来がどうなるのかなんて分からないからなぁ。セイアさんみたいな能力があったらどれだけ楽か…
…あの人に一回バラすのもあり…かな?どうせミレニアムでの問題が終わったあとにエデン条約…トリニティの補習授業部の話が上がってくるし、現状セイアさんとは多少とはいえ面識がある。
…いやでも変なところでいじらない方が良いか。セイアさんが一瞬とはいえ色彩と接触したことでミカさんがアリウスに来ることになって、そのおかげでベアトリーチェの戦いがやりやすくなったように、意外とあそこらへんで下手な介入をすると最悪詰みかねない。
いや、ユスティナ聖徒会位なら私一人でも相手取れるけどね、相性良いし。けどね…ベアトリーチェは追い詰められたら何しだすか分かんないから。
「というわけで!服装と学生証、それに話し方…この辺は全部解決出来た訳だし、後は武器だね。よしアリス、折角だから案内するよ」
と、モモイさんがパチンと手を鳴らして宣言するように言った。
「私たちの学校、ミレニアムを!」
─────
「あれ、そういえばシグレさん、昨日は持ってなかった銃持ってますね」
「あー、昨日エンジニア部にメンテナンスに出してまして。主武器はこっちなんですよ」
「…サブの武器であんなに強かったの…?」
「まあ、どっちにも慣れてますから」
(背負ってるのSRだよね?)
(HGとは使い勝手も全く違うはずなんだけど…?)
「?」
─────
「……ふむ、なるほど、大体把握出来たよ。新しい仲間により良い武器をプレゼントしたいと」
「そうなんです」
「そういうことであればエンジニア部に来たのは素晴らしい選択だね。ミレニアムにおける勝敗というのは優れた技術者の有無に大きく左右されてしまうものだ……そっちの方に私達がこれまで作って来た試作品が色々と置いてある、そこにあるものであればどれを持って行っても構わないよ」
ということでやってきたのは昨日ぶりのエンジニア部。
床の一部がまだ若干赤い。
まあ別に何かあるわけじゃないけど、私も適当にフラフラしていると、後ろから袖を掴まれた。
「?」
「シグレさん、少し聞きたいことがあるんだが良いかな?」
ウタハさんだ。
「何ですか?」
「前々から気になっていてね…やはり聞いておこうと思ってね。やはり
………どうしたものかな。
そもそも、私の神秘の特性は基本的に周りに話していない。切れる奥の手は隠しておくに限るし、わざわざ自分の弱点を晒す真似をするわけがない。
「…少し無茶な運用をしてしまっただけです。それ以上でもそれ以下でもありません」
「……そうかい。悪いね」
それ以上詮索されることはなかった。
…少し扱い方を考えないといけないかな。毎度のごとくあんな壊し方させるわけにいかないし。
神秘の扱い…練習するかぁ…
そんな事を考えながら歩いていると、アリスさん達が一つの大きな銃の前にいた。
その前でコトリさんが熱烈なプレゼンをしている。
「エンジニア部は今ヘリコプターや汎用作業ロボットに続いて宇宙戦艦の開発を目標としているのです!このレールガンはその最初の一歩です。大気圏外での戦闘を目的として開発された実弾兵器!これはミレニアム史上明らかに類を見ない試みです!」
「かっこいい……聞いただけでワクワクしてくる!」
「流石ミレニアムのエンジニア部!今回は上手く行ってるんだね!?」
今回
「ふっふっふっ、勿論です!……と言いたい所なんですが、今は中断してまして」
「えええっ!?なんで!期待したのに!」
「いつもの事ながら技術者達の足を引っ張るのは何時の世も想像力や情熱の欠如では無く予算なんです……このレールガンを作るだけで下半期の予算の70%も掛かったのに宇宙戦艦そのものを作るには果たしてこの何千倍の予算が掛かる事やら……」
…あれ、本気で作る気だったんだね…正直ネタかと思うよね。たしかにミレニアムはマンモス校ではあるけど、宇宙戦艦なんて作るのには果たして何十億、下手すれば何百億のお金が動くか…さすがにそこまでの財力はないからね。トリニティならともかく。
…あそこなら全然用意できそうなんだよなぁ…怖いね。ある意味。
そんな事を考えながらフラフラしていると…ふと一つ妙なものを見つけた。
「…?」
一応ミレニアムは私の母校。
「…腕時計?」
が、見覚えのないものが一つ。
タッチパネル形式の白い腕時計のようなものが仰々しく台座に乗せられていた。
「気になるのかい?」
「へっ?あ、はい、まあ…」
いつの間にか後ろに立っていたヒビキさんに声をかけられた。いつの間に後ろに…
「それはね、いわばタイムマシン的なやつだよ」
「タイム、マシン…!?」
え、なにそれそんなの作ってたんですか!?
「最近新しい素材がかけら単位ではあるが手に入ってね…どうやらナノマシンが使われているみたいで自己再生機能が備わってるみたいなんだ」
…ナノマシン?自己再生機能?欠片…?
「それを組み込めば壊れてはいけない発明に使える!ってことになってね、まず壊れる可能性があるっていう段階で計画が頓挫していたタイムマシンの発明に乗り出したんだよ。何しろ万が一タイムマシンが壊れてしまえば元に戻れなくなってしまうからね」
…なんだろう、なんか嫌な予感がする。
「…一つ聞いてもいいですか?それ…どこからそんなナノマシンの欠片なんて…」
「おや?この間まで『シャーレ』がいたと聞いていたんだけどね。
………
……この素体まさか、ビナー!?
「そ、そうですか、少し、すみません」
急いでエンジニア部の開発室から離れて早足で電話をかける。相手は……
『クックック…どうしました?』
「黒服さん、まさかとは思いますけどビナーの死骸を撒いたりしてませんよね…!?」
『ええ、アレは私の研究材料ですから』
は、良かった…思い過ごしか…
『まあ一部いらない部分なんかは市場に流しましたが』
おい!!!!!
「何考えてるんですか!?デカグラマトンの預言者の遺骸ですよ!?そんなオーパーツが市場に流れ込んだらどうなるか…!」
『ああお待ちください、言ってもそこまで大量に流したわけではありません。貴女との戦闘時に欠けてしまって使い物にならなくなっていた欠片を市場に流した程度です。ほとんどの部分は再生する間もなく破壊されていましたし、ほんの数グラム程度の量ですよ』
自己再生ナノマシン程度の技術が流れたところで我々は痛くも痒くもありませんしね、と付け加えられた。
…正直自己再生ナノマシンの技術もなかなかとんでもないんだけどね。いや、全然従来にも存在はしてるんだけど燃費や再生率が悪かったりするから、ビナーのレベルの自己再生ナノマシンとなるとまあ欠片とはいえとんでもないし…まあゲマトリアからしたら確かにそうでもない技術なのかもしれないけど…だけどっ、そうなんだけど!
『ご安心を、その利益は貴女が生み出したものですので、アビドスの借金のカタにしておきましたよ』
「────っ……はぁ…もう…なら良いです」
…なんか、もういいや。言ってもどうにもならない気がしてきた。もう既に流れちゃってるし。なんなら使われちゃってるし。
まあそれを起点にしてビナーが再生するようなことにはならない…でしょ。流石に。うん。
ならないよね?え?
シ「ちなみにいくら位になったんですか?」
黒「まあ…3とだけ」
シ「……5…いや、6桁ですか?」
黒「7桁です」
シ「……………(あの人達どうやってそんなの手に入れたんだろ…)」