地獄発、地獄行き 作:有森
ヴェリタスにG-Bibleのデータの入ったスマホを提出してゲーム開発部室へ戻ろうとしたところに、後ろから声をかけられた。
「明日シグレ様ですね」
「…何方でしょうか」
長身でクリーム色の髪をしたメイド服を着た人──トキさんだ。
ミレニアムの生徒会長であるリオさんの専属メイドであり、その実力もかなり高い。
「生徒会長のリオ様がお呼びです。ご同行をお願いいたします」
「………」
なるほどね、ここでも差異か。変に暴れすぎたみたいだね。
そのままトキさんについていき、生徒会長室へと案内された。
「リオ様、件の方を連れてまいりました」
部屋の中から入って頂戴、と声が聞こえた。
ただ、室内からは気配が二つほど感じられる。…となるとリオさんとヒマリさんかな?
そんな事を考えながらトキさんに続いて入ると、予想通り、黒髪に黒スーツと言った一見社会人でも通りそうなスタイルのリオさんと車椅子に乗った全体的に白いヒマリさんがいた。
「リオさん、それにヒマリさんも。いきなり何の用ですか?」
「ええ、まあとりあえず…久しぶりね」
はいお久しぶりです。
と言っても元々そこまで深い関わりがあったわけじゃないんだけどね。
「今日貴女を呼んだのは二つほど用件があったからよ」
二つ…二つ?
「まず1つ目…これはこちらから協力を申し出たいということよ」
「協力、ですか?」
「えぇ、私達は今とある一つの目的の為に一時的に協力関係を結んでいるの」
と、さっきまで黙っていたヒマリさんが口を開いた。
「シグレさんの知っている通り私達の相性は最悪の一言に尽きます。云わば水と油、リオが下水道に流れる水なら私は澄み切った純正のミネラルウォーター……」
「……分かっていると思うけれどヒマリの話は無視して大丈夫よ、まあでもとにかく学内でも私達の相性が悪いのは周知の事実だと思うけれど」
「そんな二人が手を組むレベルの事態……このタイミングでわざわざセミナーの生徒会長、そしてヴェリタスの部長であるお二人がということは、廃墟で見つけたアリスさんのことですね」
「…相変わらず凄まじい頭の回転速度ね。理解が早くて助かるわ、貴女達が廃墟から連れて来た者の正体を判明させたいの」
正体…か。
「えぇ、貴方達が廃墟にある謎の施設から連れて来たAL-1Sという名の少女の姿をしたナニカ……私達はその正体を明かすために現在手を組んで動いているの」
「…粗方事情はわかりましたが、協力と言われましても。確かに私の学籍はミレニアムにありますが現在所属はシャーレです。顧問である先生が賛同しない限り表立って何かしら動くのは難しいのですが…」
「いえ、難しいことではないわ、出来る事なら何もしないで欲しい──それだけよ」
「何も…?」
…?
あ、そういうことか。
そういえば、今はヴェリタスの解析システムの通称鏡がセミナーに差し押さえられてるから、G-Bibleのパスワードを解析するためにはそれを取り戻さないといけない。
だからモモイさん達はそのためにセミナーを襲撃してC&Cとやり合うことになるんだけど…これは裏側でリオさんとヒマリさんが仕組んだことなんだっけ。アリスさんの力を見定めるため、ということも相まって。
考えながら説明を聞いてみると、まああらかた同じようなことらしい。
「しかしシグレさん、貴女の力は強すぎるんですよ。ですから普通に協力されては彼女の力は観測できません」
「だから何もするな、と……」
…いけるかな?いやー厳しそうではあるけどなぁ、先生変なところで勘が鋭いから。
いっそのこと何もしないというよりはその場にいない方が良いかもしれないね。
「まあ、分かりました。ここ数日はミレニアムに関わらないようにしておきます」
「あら、それで良いんですか?件の先生から何か言われるかもしれないのですが…」
「先生は基本的に生徒の自主性を重んじてますからね。どちらかというとごねるのはゲーム開発部の人たちじゃないですかね…」
特にモモイさん。
目の前でそれなりの力見せちゃったからなぁ…
「まあ、とりあえずは協力してくれるということで良いのね?」
「はい。まあとりあえずは」
「…意外ね、もう少しごねられるかと思ったけれど」
まあね、そりゃそういう印象になるよね。
「何かしら考えがあるんでしょう?お二人が揃ってこうした方が良いと考えているのであれば、別にまだ直接的に誰かを傷つけようとしているわけでもないんですし、協力しますよ」
その真意は、二人にも一応伝わったらしい。
「…そこらへんも分かっているのね」
「まあ、話の節々から。おそらくアリスさんの攻撃性やその実情を計測した上で野放しにしておくとまずいと結論を下した場合何かしら手を打つ、といった感じでしょう。今は経過観察中といったところですかね」
やれやれと言ったふうに肩をすくめられた。
「そしてまあ2つ目なのだけれど、それはこっちからね」
と、ヒマリさんがカラカラと車椅子を移動させて封筒を一つ机の上に置いた。
「?…これは?」
「開けてみてください」
厚さ的に紙が1枚くらい入ってる感じかな…?何の…?と思って糊付けされていない封筒から中身を出すと、思った通り一枚の紙が出てきた。
…しかも、白紙の。
「…あの、これは一体…?」
照明に透かしてみても特に何かあるわけでもなく、本当にただの紙。コピー用紙かなこれ。
「少し前に
!!
「まあその時に関しては、なぜか厳重にロックがかかっていたようでしてそこは開かれませんでした。ですが、その後に更に準備を重ねてもう一度アクセスを試みたようでして…その時に出てきたのが、このページだったようです。……ええ、白紙。何も書かれていなかったんですよ。おかしくありませんか?そもそも確かに貴女はミレニアムに転入という形で入学してきた…その情報は残っているのに、それ以前の情報が全く残っていないなんて」
……連邦生徒会長だ。
生徒情報は全て連邦生徒会が収集、データ化し、その内学園別に分けられたデータベースを各学園が管理するようになってる…となると、多分あの人が私の過去を秘匿という形で保存したんだ。
まあ一応生徒情報に嘘は書けないからね。
「外からキヴォトスへ入ってきたならばその情報も残されるはず…なのに、まるで特定の日、特定の時間にいきなり現れたように貴女の情報が入り込んでいるんです。───明日シグレさん、貴女は何者ですか?」
…不味い。
私が元々この世界の人間じゃないというのはできる限り秘匿しておきたい。確かに
それに、どこでどういうバタフライエフェクトが起こるかわからない以上下手なアクションは起こしたくない…
とはいえ。
後方ではトキさんが出入り口を押さえていて、前にはヒマリさん、それにここは生徒会長室なんだからAMASだって居るだろう。
…まあ制圧できなくはないけど、それをやったら完全に敵側だ。
どうするか……
「何かやましい事情でも?」
「……」
やましいなんてレベルじゃない背景があるわけだけど…まあ、だから。
「黙秘、では駄目ですか?」
「それでは何があったかわかりませんからね」
「でも、
「……」
「まあでも余程のことがない限りは敵対はしませんよ。余程の事が無い限りは、ね」
ト、と地面を蹴って横へ跳躍、突然の行動で二人…いや、三人からの視線を切ったところでトキさんの後ろへ滑り込む。身長が低いからできた技だね…
「では、また」
「!」
…んー、さて…じゃ、先生に連絡だけ入れて今はミレニアムから離れておこうか。じゃあこの時間に何をするか…ま、カヤさんに談判しに行くのが先決かな。後々だいぶ面倒そうなことになりそうだし、あの人も外にわざわざ自分の失態を言いふらしたりはしないだろうから外部で変な差異が起こるとは考えづらいし、早いところ手を付けておいて損はない。……と、思う。
▽
「“ん?シグレから連絡だ。えっと…急用ができたから二、三日ミレニアムに行けなくなりました、あとはお願いします…”」
「えぇ!?それじゃ戦力大幅ダウンだよ!?」
「お姉ちゃん、まさかとは思うけど…」
「うん!シグレさんがいればC&Cの人達がいても簡単に蹴散らせるはずだし、もしかしたら一人で全部やれちゃうかも!って思ってたんだけど…」
「シグレさんの負担が大きすぎる…!?」
「やってのけそうなのが怖いところでもあるけど…」
「?…つまりシグレさんはレイドボスなんですね!」
「違うよ!?」
「じゃあ総力戦ボスですか?」
「何の話!?」
「シロ&クロ…?」
「“ゴズ…?”」
「ユズ!?先生も!?何言ってるの!?」