地獄発、地獄行き   作:有森

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サブタイ考えるのが正直一番面倒なまであります。

誤字報告ありがとうございます。



Cogito ergo sum(我思う故に我在り)

とりあえずカヤさんとの交渉は終わった。

あの人のことだから期限を設定すればその期限ギリギリまで所有権を主張するだろうと判断して、期限は一ヶ月とした。

なんで一ヶ月かって?だいたい一ヶ月とちょっとの後にエデン条約があるからだよ…ほんとにあそこは肝が冷えるからやめてほしい。

その後にはアリウス関連のアレコレもあるし、アリスさん──もといケイさんの事件もある。RABBIT小隊…は私ほぼ関わらないから良いとして、その後にはカイザーのサンクトゥムタワー襲撃。イベントが目白押しなんてものじゃない…

いや、アビドスのカイザーの支部って私が潰したから襲撃は遅れる可能性もあるのか…?

まあでもすぐに新しい戦力が投入されてウトナピシュティムの本船捜索に駆り出されてる可能性もあるよなぁ。後でホシノさんかユメさんに連絡して確認してもらおう。

その後にカイザー…はもうカヤさんを脅……話をしたし抑制してもらうから考えるのは最低限で良いとして、百鬼夜行の問題があって……一番の問題の、アビドスとハイランダーとのいざこざにシャーレの爆破と無名の司祭の復活、それに伴うシロコさんの反転…アレだけは絶対に起こさせちゃいけない。でも無名の司祭だけなら別にどうとでもできるし、先生さえ生きていればアビドスの問題も解決…とまでは行かなくても何とかはなるはず。

…最悪、色彩は私が飲み込んで自爆でもすれば消滅させられたりするのかな…どうだろ、そこら辺は詳しくないし、もうすぐある黒服さんとの定期連絡で聞いてみよう。

…ただ、裏で()()が暗躍してそうな気がするんだよね…あまりにも偶然と言うには不運が重なり()()()()気がする。まあでもそれを探すのはまだ早い。情報が無さすぎる。

ひとまず今は、そのためにも力を蓄えておくに越したことはない。

ゲマトリアを協力関係に持ち込む事はできたし、口約束とはいえ弱みを握ってる状態下、FOX小隊はシャーレに引き入れられたも同然、リオさんをミレニアムに留まらせるように注意もしつつこのまま順調に行けばミレニアム、トリニティ、ゲヘナの三大校とのパイプもつなげるし…アリウスの人達を指名手配犯からキヴォトスの住民として引き入れる手も考えてある。

奇跡的にうまく行けばカイザーも手駒に入れられるかとも画策してたけどまあ正直無理だろうし、考えてみればそもそもアレらを手に入れたところで大した強さもない数ばかりの人形が手に入るだけだろうから、旨味はないかな。武器とか弾薬の供給もクラフトチェンバーがあるし、それなら知り合いに片っ端から声をかけて招集したほうがよっぽど強い編隊ができる。

 

「…さて、」

デスクに座って開いたノートを眺める。

現状分かってる()との差異、これからの展望、起こり得る可能性。

今できることはそこまで無い。というかエデン条約までやらなきゃいけないことはもうそう多くはないし…まあ強いて言うならゲマトリア関連かな。

さっきも言ったけど裏で何かが手を引いてる可能性は極めて高い…そこで一応睨んでるのがゲマトリア。

知り合いとして存在してるゲマトリアは黒服さん、マエストロさん、ゴルコンダさん、デカルコマニーさん、まあそれと…ベアトリーチェ。ただ、ちょくちょく話を聞いてると言い振り的に他にもいそうなんだよなぁ…

でも直接的に関わり自体は無さげだし、聞いたところでどれくらい情報が得られるか…下手に疑ってるのを感づかれると拙いし、あそこ一番扱いに困る…

 

…つくづく嫌になる考え方だ。

 

まあでも、そんなモノ今に始まったことじゃない。

やれることはできるだけやる…目指すのは最低でもベターエンド、The greatest happiness of the greatest number(最大多数の最大幸福)ってやつか。

 

「…残り時間はそんなに多くない」

情報の整理を終えてノートをデスクの引き出しに入れて鍵をかけ、シャーレの部室から出る。

スマホを取って連絡する先は…

 

「…もしもし、黒服さんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、私のところにかけてきた、と」

用事がなければそうそう来ることもない場所。今日はD.U.地区のビルの一角にあった()()()に足を踏み入れると空気が一気に変化する。

日の当たる無機質で明るい空気から、暗くぬるりとした人工的な空気へ。

 

「単刀直入に聞きます。ゲマトリアに所属、または深く関係している人数はキヴォトスにおよそ何人ほどいるのか教えていただきたいんです」

「…?所属人数?なぜそんな事を」

「必要だからです。必要でない事をわざわざ聞くためにこんな所まで来ません」

ふむ、と少し考えるような素振りをして、黒服さんは小さく息を吐いた。

 

「あいにくと、私とて全てを把握しているのではないのですが…そもそもゲマトリアは個々人の研究を組み合わせることができただけの名ばかりの集団、いわばスタンドプレーが複数人絡み合っているだけなんですよ。いきなり外部から人が入ることもありますし、人知れず消えるものもいましたから」

無論、消えるというのは文字通り、と零した。

…つまり、内部情報を外部に持ち出そうとした、もしくは各々の邪魔をしたと判断されれば文字通り()()()()、といったところか。

たぶんベアトリーチェもここに当てはまったんだろう。

 

「…まあ、関係人数ということですから貴女と先生も含めたとしましても、最低人数はわかりますが現状何人所属しているかなどさすがに把握はしきれていませんので…まあ、9人はいる、とだけ」

7か…私の知っているゲマトリアは5人、私と先生を除いて2人が不明か。

と、少し思考に入り込もうとしたその矢先、どろりとその気配が解けた。

 

「私たちのことを、疑っておられるので?」

心に滲み入り、強固に保った鎧を塗り替えんとするような気配が周りに充満する。

一歩思わず後ずさろうとして、足に力を入れて逆に一歩踏み出す。

 

「…自然なことでしょう。一応協力関係ではありますし信用はしていますが、信頼はしていません。あくまでものビジネスライク的な関係、それくらいがすわりがいいかと」

重要な所は人に任せず自分でやる、頭が悪くてもできるリスク管理だ。信頼しすぎて背かれた時のことを考えるのならそもそも信頼しきらなければいい。それが一番楽だからそういうふうにしている、それだけ。

 

「酷いですねぇ、私達としてはもう仲間のような意識も持っていたのですが」

「ゲマトリアへの勧誘ならお断りです。まだ私は私でやることがあります」

私の四肢を絡め取るような仄暗い糸を切り振り払う。

下手に籠絡されようものなら何をされるか分かったものじゃない。状況に振り回されるな、私の意思を認識しろ…

 

「…ふむ、やはりそう簡単には行きませんか」

「催眠まがいの勧誘はやめてくれませんか?」

ふっ、と空気が軽くなった。

…時折何かにつけてこの人はあの手この手で引き入れようとしてくる…本当にやめてほしい。

 

「酷いですねぇ」

クックッ、と喉を鳴らしていつもの笑い方をする黒服さんを尻目に、踵を返して帰ることにする。

別にもう少し情報を引き出そうとしても良いけどリスクのほうが大きくなりそうだし、色彩云々は次の定期連絡の時に聞いてみるとしよう。

 

「ところでですが」

と、その足を引きとめられた。

 

「貴女は結局、主要な所はずっとお一人で動かれるつもりで?」

「?…ええ」

何を今更なことを。

 

「仮に私が失敗したとしても、その責任を負うのは私だけで十分ですし。…まあ嫌いな人には多少押し付けるかもしれませんが、最低限自分の過失は自分で拭います」

カイザーとかベアトリーチェあたりには無茶言って多少は押し付けるかもしれないけど、それでも周りの人、ひいては先生に責任を負わせるような真似はしない。

というかそもそも、私はあまり他人を信用こそすれど信頼はしていない。

確かに普段から基本的に人を好意的に受け止めるしいろいろ任せることもあるけど、それは「この人ならこういう事はできる」っていう信用であって「自分のことを任せられる」というような信頼とはまた違う。

…ま、その例外が先生なわけなんだけど…今そこは別にどうでもいいか。

 

「わざわざ茨の道を行く、と?」

「茨であろうと道は道です。…では、次の定期連絡の日に」

「…ええ」

少し含みを持ったような返答を聞きながら部屋を出てD.U.の区内に出る。

 

「……信頼、か…」

それが簡単にできればどれだけ楽なことか。でもそれができないことぐらい私が一番良く知ってる。

唯一信頼していた先生も、私の方から一定の距離をとっている。

 

甘えたい心が無いわけじゃない。慰めてほしい気持ちも、認めてほしい気持ちも当然ある。

でも認められたら、慰められたら弱くなるような気がしてならない。だから甘えるのはもっと先、すべて終わった後でいい。もしその途中で行き倒れたのなら、それならそういう運命、残念でしたで済ませられる。

 

端から見ればお笑いだろう。実際私が()の先生を殺したわけじゃないし、()の先生に引け目を感じる必要はない。

でも()であろうと()であろうと、私が()()を殺すきっかけを作った事は言い逃れできない。

無論、全て吐き出してしまったとしても先生なら受け入れてくれると思う。否定もせずに笑って、何でもないことかのように慰めて、私の一番欲しい言葉を投げかけてくれるはず。

周りから見ればそれでも良いんだろう。そうすれば先生との繋がりも強くなるし、シャーレとしての力も使って堂々と対策を組める。

 

でも、そうしないのは私のただの自己満足。自分の過失を先生に拭わせるような真似、させられるわけがない。

そのために、私がここにいる。

もう甘える時間は既に過ぎた。やるべきことはとっくに明確化されている。その方法もほぼ組み立て終わったし、後はその場その場でのイレギュラーに対応しつつ先生を助けるのみ。なら、あとはそのやるべきことに向かって死力を尽くせばいい。そうやって尽くした後にもしも余裕があったのなら、その時少し甘えれば良い。

 

「…今度こそ、貴女を…」

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