地獄発、地獄行き   作:有森

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交渉

とりあえず私もユメさんも怪我をしてるということでアビドスの保健室に連れてこられて、処置を施された。

…今のアビドスの全校生徒はユメさんとホシノさんの二人だけらしいけど。

 

……それにしても。

私が変に関わったことで、未来が変わってしまった可能性がある。

いやまあ当然だけど、そのまま世界が進めばまたあの悲惨な世界に逆戻り…いや、()()()()()()しまうから、私としても介入しない手はない。

…でも。

どこで何がどうなって世界を捻じ曲げるかわからない現状、正直今は下手な介入は避けたいところでもある。…というか、あった、か。もう既にかなり大きな改変を起こしちゃってるから過去形でしかない。

もしかしたらこれが原因でアビドスの誰かが入学しなくなる可能性だってあるし、逆に人が増えるかもしれない。または別なところでまた別の改編が起こる可能性もある。

…まあ、でも今はそれよりも。

 

「だいたい!ユメ先輩は勝手に動きすぎなんです!もう少し情報の共有と危険性をしっかり把握して───」

「ひぃん、ホシノちゃん…」

先輩にあたるはずのユメさんを正座させて、ホシノさんが目の前で説教をしてる。

…これが、あのホシノさん…?

え、何、もうなんか変な改変起こってたりする?え?

 

「はぁ…すみませんユメ先輩が…」

「い、いえ…」

なんとなく、表情筋が引きつってる気がする。

慣れない環境と、記憶と認識の間のズレに落ち着かない感じがして無意識的に愛銃を背負い直そうと肩に触って…

 

「あっ、まだユメさんの盾と私の銃置きっぱなしだ…」

すっかり忘れてたけどそういえば置いてきてた。

普段何らかあるたびにいじるのが癖になってたからか、なんとなく右手と背中が物寂しい感じしてたのこれか。

 

「あっ、そうだった!取りに行かないと!」

「……帰ってきたらもう一回正座し直してくださいね」

「なんで!?」

「まだ話が終わってないからです。……全く、どれだけ私が心配したと………っ!」

「?」

と、ホシノさんがふとこっちを見たとき若干目元がびくってした。ユメさんは気づいてない。…うん、本人は聞こえてないつもりかもしれないけど、私はしっかり聞いちゃったよ。

 

「とりあえず取ってきましょう。紛失でもすると面倒ですし…」

ここらへんはもう既にカイザーがうろついてる。変に回収、もとい盗まれたりでもしたら面倒だ。大切なものだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

幸い砂に埋もれて場所がわからなくなるようなこともビナーの影響でグダつくことも無く、盾も愛銃もそのままさっきの場所にあったため、取り戻せはした。

ただ機構部分の節々に砂が入ったのか振れば振るだけ砂が出てきた。…これ使って故障とかになると嫌だからなぁ…入学手続きできたらエンジニア部に持っていってみよ。

 

……なんて考えてたのが、1、2時間前で。

 

「…で、何の用ですか。こんな所で」

もうちょっとゆっくりしていきなよー!なんて喚くユメさんをホシノさんが押さえつけるのを見ながらアビドス高校を離れて、町中を歩いていると、見覚えのある顔が目の前に出てきた。

それでここでは話がし辛い、なんてことで一つのビルに入った。

 

「クックック…いやはや、少し気になることがありましてね」

頭の先から足先まで真っ黒。更に黒スーツを着込んで黒手袋をつけるとかいう字面だけなら1000%不審者…いや、字面だけじゃなくても事実完全な不審者。

顔は右目のあたりを中心にひび割れたみたいになっていて、白い光がヒビから漏れ出ている。

通称、黒服。

件のゲマトリアに所属している、そんな悪い大人が何を以て私に接触してきたのか。

 

「アビドス砂漠の中に潜むデカグラマトンの預言者、ビナー。アレを単騎で退ける実力者ともなれば注目もされるでしょう」

…見てた、ってわけか。

いや待って、これは多分カマをかけられてる。あくまでも今の私は一介の生徒でしかない…そこを通さなきゃ。

 

「ビナー…砂漠のあの蛇みたいなロボットですか?」

意識して神秘を貯める状態にしていたのを一旦解除する。

栓を締めて普通の生徒と同じく、神秘を流す。

 

「ええその通り。本来ただの一介の生徒が相手になるような代物ではな「見てたんですね」…ええ」

「見てたのに、ユメさん…あの人を助ける気もなかったと。あの場で、目の前で人が死んでいたかもしれないのに」

「……」

こいつらの目的は知ってる。

ホシノさん…暁のホルスと呼ばれる程の最高の神秘をもつ彼女を実験台に……神秘を、反転させる実験を施そうとしている。

その一環で彼女と繋がりの深いユメさんも観てたってところだろうか。

 

「…一度お聞きしましょう。貴女は…何者ですか?」

「何者?」

「あの瞬間的な神秘の増幅…稀にそういうことのできる手合の者はいますが、あそこまで爆発的な上昇というのは見たことがありません。瞬間的な出力という意味ならば、かの暁のホルスですらも凌駕し得ます。…そして、そんな生徒を私達が見逃すはずがない」

「たまたま見逃しただけじゃないですか?そもそもあれ、人前で使ったことありませんし」

この世界ではまだ、という意味だけど。

ペースを相手にのまれればその時点でほぼ負けは確定、下手すれば籠絡される可能性すらある。屁理屈でも良いから口を動かすことを心掛ける。

というかそもそも、数分ももたない奥の手を実力判定していいのか微妙なところだしね。もっても4、5分だし、どう考えても私とホシノさんじゃ彼女の方に軍配が上がるのは目に見えてる。

 

「ふむ…まあ良いでしょう、本題に入りましょうか。私とある契や「断ります」くを…はい?」

「軽率に知らない人と契約なんて結べばどうなるか、少し考えれば分かりますから」

 

「……クックッ…クックックッ…!」

何がおかしいのか、黒服は白い靄を揺らしながら机に肘をついた。…でもなぁ…

 

「いやはや…普通内容くらい聞こうとするでしょう」

「道端の明らかに怪しいセールスマンの話なんて聞こうともしないでしょう」

「…クックックック!」

 

「と、まあ普通なら言うのでしょうが」

「クッk…はい?」

気の抜けた声が聞こえた。

正直、私としてもこんな手なんて取りたくない。だけど…私だけでできることには限界がある。

幸い、目の前のヤツはそっち系統の実力もあるし契約内容自体はしっかり果たす。その上嘘はつかない。…言ってないことは多すぎるけど。

 

「…契約、と言いますか依頼と言いますか。頼みたいことならあります」

「…ふむ?」

それは、色彩に触れた人間…すなわち恐怖(terror)へと反転してしまった人間を元に戻す…言ってしまえば、一度着いてしまった色彩の影響を引き剥がす方法が本当に無いのかを探してもらいたいというもの。

…対価には気をつけないといけないけど。

 

「…貴女、本当にどこまで分かっているんですか?」

「少なくとも、この世界が滅ぶ所まで」

だけど、もし。もしもゲマトリアを仲間に引き入れられたとすればそれはかなり大きい。

リスクも相当に大きい賭けだけど…ゲマトリアとてやったことはアレだけど、世界を滅ぼしたい(バッドエンドを望んでる)わけじゃないっていうのは‘先生’から聞いてた。あの人の言う事だから、多少甘い見解はあってもそういうところを見間違える人じゃないのは知ってる。

 

「!!…クックックッ、良いでしょう。というか、貴女ゲマトリアに入りませんか?」

「そっちはお断りします。…私には私なりにやらなければならないことがありますので」

そんな胡散臭いところに入ってなるものか。

 

その後はその対価について話したりしたんだけど、拍子抜けなくらい軽いものだった。

月一回の私の血液や皮膚片などのサンプル採取と、ドローンの追従による戦闘情報の提供。それだけ。

 

裏を色々考えてみて、採取する身体情報の量とかドローン追従による情報提供の内容、その情報や採取物を使ってキヴォトス住民達に危害を加えないことを約束させてとりあえず契約は成立となった。

…なんか軽くない?気のせいか…?ホシノさんの時とか生徒としての権限全部掌握するような契約結ばされてた気がするんだけど…

とまあそんな事直々に聞けるわけもないからそれとなく聞いてみると、「あなたに関しては直接私達が研究するよりその行動を観察したほうが有意義な気がしまして」とのこと。

うーん、見た目も相まって胡散臭い事この上ないけど…信じるしかないか。さっきも言ったけど契約はちゃんと果たす人だからねこの人…

 

「あ、それと一つだけ。これは、契約ではなく単なるお願いですので、別に聞かなくてもいいのですが」

…ま、あの胸糞悪いヤツに牽制できるならこれくらいは言ってもいいでしょう。あとで絶対にボコすけど。

 

「はい?」

「ベアトリーチェに、‘調子に乗るのも大概にしておけ’と伝えてください。誰が言っていたのかは伝えても伝えなくても構いません」

「………何故貴女が彼女の事を知っているのかはさておきましょう。何故そんな事を?」

「さあ。とはいえ、貴方方の邪魔はしませんよ。…後々どうせ彼女はボロ負けして貴方方に追放されるみたいですし」

驚いたように白い靄が揺れて、黒服さんは机に肘をついて手を口(と思われる場所)の前で組んだ。

 

「…貴女は一体何を…いえ、分かりました。伝えておきましょう」

それを聞いてから、解散した。

…さて、これからどうしたものかな…

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