地獄発、地獄行き   作:有森

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かなりみじかめ。


デフレーション

まさか…ここまで押さえつけられるとは…!

 

「?あん?どうしたんだアンタら」

いきなり様子の変わった私達を見てネルさんもおかしいと思ったらしい。

 

「…いえ、何でもありません…先生、大丈夫ですか?」

「“なん、とか…!”」

ならオーケー。

ジリ、と汗が浮かぶのを感じながらなんとか体勢を立て直す。

 

「言っとくが…本気出せずに無様に負けました、なんてことになったら本気でぶっ潰すからな」

やばいかもしれない。(二回目)

次の瞬間、ネルさんの姿が掻き消えた。

 

「ッ!」

勘で体を逸らしてその方向に発砲、だけどそれも体がうまく追いついてこない。

 

と、やっと先生の指示が飛んでき始めた。けど…

 

「ッぶな…そこ、と…そこ!」

先生の指揮のタイミングと私の行動のタイミングが絶妙に噛み合わない。

否、端から見れば噛み合っているようには見えるだろうけど、戦っている当人からしてみればどこかで微妙にズレが出てくる。現に…

 

「また…!」

ネルさんが懐に潜り込んできた。

そこに先生の指揮が一手遅れた。

自己判断で手を差し入れてその肘を掴み、投げ…ようとしたところで体勢を整えられて至近距離でARが火を吹いた。

膝で片方は打ち上げて照準を外させる。

 

「っつ、」

が、片方は避けきれずに肩に当たった。

反動で倒れそうになる体を無理やり体幹で押し戻し、若干重心のズレた体でハイキックを打ち出して一度距離を取らせる。

 

「…ふぅ……」

少し、慣れてきた。

いやまあ相変わらず体は動き難いし指示にもノイズが混じるしでやりにくいことはやりにくいけど…この状態でもまあ、取れる手はある。

 

(先生、)

シッテムの箱との通信を利用してこちらから先生に通信、策を伝える。

 

「“…分かっ、た、お願い…!”」

でも、先生も正直結構限界っぽい。

…ま、ならできるだけ早く終わらそう。

 

体を縮めて両足に力を込めて…その力を解放するように跳躍する。

 

「ッ!」

体は重くともちゃんと動いてはくれる。右手のHG(Memento mori)を構えて神秘を決める。

そのまま空中で体勢を整えてネルさんに肉薄、当然反応してくるけど…

 

「ここだ…起点を作る!」

HG(Memento mori)から白光が吐き出された。その先には…壁。

六発の弾丸が跳弾し、逃げ道を塞ぐ。更に閃光で視界を一瞬でも良いから塞ぐ。

その視界を奪った一瞬、それと同時にSR(Moriens)に持ち替えてその銃身を突きつける。

 

「ッ、面白ぇッ!」

「外さない、ッ!」

ARを構えたネルさんを鈍い光が数瞬早く吹き飛ばし、体勢を崩す。そこから立て直してくる場所、時間を予測して足を出すとその足に反応してネルさんが空中に跳んだ。

ここだ。

 

「ッ…Morituri te salutant!」

照準を上げて、天井に向かって灰の閃光を打ち出す。

普段の威力なら確実に貫通するだけだろうけど、出力もかなり落ちてる今なら…削れるような音と同時に天井にヒビが入った。

SR(Moriens)はネルさんを捕らえて外さないようにしつつ、そのヒビの中心に向かってHG(Memento mori)を左手で持って発砲する。

 

「ッ…!?この、」

流石に気づいたらしい。だけどもう遅い。

疲労の溜まりに溜まった体を放りだし、右手の袖に()()()を隠し持っておく。

と、天井が崩落し…

 

「自爆でもする気か…!?」

肉薄した私が袖から筒状の物を取り出して抱えたのを見て防御を取ろうとしたネルさん。

だけど…

 

「私の、勝ちです」

バシュ、と吹き出したのは、煙。そのままネルさんの頭を支えに飛んで上を通り過ぎ、その途中で頭にロックをかけて地面に叩きつけた。

…無論、普段ならこの程度でダウンなど取れない。が…

 

「ッ、クソ、こりゃァ…!?」

体が地面に吸い付いたように動けない、というような状態のネルさん。

範囲を極限まで絞って放った対神秘制圧用煙幕弾を破裂させたのだ。

神秘を吸収しすぎると爆発するけど、吸わせきる前に離脱させてしまえばそこまでは行かない。

 

「つ、疲れた…」

神秘による身体強化状態がデフォルトのキヴォトス人において、神秘が剥奪された状態…先生みたいなヘイローがまともに働かない状態で普段通り動くのは難しい。神秘のおかげで見た感じ華奢な人が多いのに人並み外れた膂力を出せたりしてるわけだし、それが無くなればただの人レベルの力しか──場合によっては身体強化が取られることでただの人以上に動けなくなる。

まあ私に関しては普段から神秘を‘蓄積’状態にして体に流れる量を最低限に留めたりしてる関係上慣れてるけど…他の人はそうもいかない。

 

…とは言え、こっちも無傷じゃない。

神秘を使わないっていう縛り上、私の戦闘能力は並よりは高いけれど真っ向から戦えばネルさんには到底及ばない。

まあ、だからこんな搦手しか思いつかなかったわけだけど。

 

「“し、指揮を、終了…”」

と、先生も片膝をついた。

…いや、正直あの状態で指揮もやってのけたのすごいと思うよ。

私はヘイローがあるし、重疲労状態にもある程度慣れてはいるけど…先生生身なんだよなぁ…。精神力だけ見たらホントに超人だ。

 

その後はとりあえずネルさん以外のC&Cの人達にネルさんを回収してもらうように言って、私は先生を連れてゲーム開発部室へと移動することにした。

…連れて、というか抱いて?お姫様抱っこで。シッテムの箱との接続が切れたら力も戻ってきたからある程度消耗も回復した。

 

「“…シグレ”」

「?なんですか?」

と、腕の中で先生が呼んだ。

…よくよく考えたらサイズ的にも立場的にもこれ本来逆なんだよね…

 

「“シグレは…こうなること分かってたの?”」

「微妙です。ここまで押さえつけられるとは思いませんでしたが、まあある程度制限は食らうだろうなとは思ってました」

「“それは…私の実力不足?”」

「…まあ、そうですね」

ぶっちゃけて言ってしまえばそうだ。

ゲーム風に言うなら先生の扱えるレベルと私の本来のレベル差がつきすぎたせいで私のレベルを無理やり制限してシッテムの箱に扱える程度まで落とした、でもその落としたレベルの分の演算はしないといけないから負担はその分くらった、って感じかな。

だから正直ネルさんが初手からガン詰めして速攻を仕掛けてきてたら普通に負けてた。一旦様子見でやってくれたのと、あとはそんなに広い室内じゃなかったっていうのも大きかったかな。広いと簡単に煙幕弾も避けられちゃうからね…

まあ、運要素が上振れて、かつラッキーパンチで何とか勝ったって感じかな。

 

「“…もっと強くならないとね”」

「ええ。私を存分に使えるようになるくらい強くなってください」

というか、なってもらわないと困るんだけど。後々シッテムの箱の支援無しじゃ流石に厳しい戦闘がいっぱいでてくるから。

 

「普通の生徒よりも、私は扱いづらいですよ?」

「“…扱う、っていう考え方はしたくないかな”」

苦笑いしながらそういう事を言う。まあ、そういうところも先生らしいけど。

 

その後ゲーム開発部室に戻った所先に戻ってた四人に心配された。特に先生が。熱も結構出てたし、何より目眩が酷そうだったからね。

一旦ソファに寝かせて冷えピタを貼って安静にさせていると、ふとなんか先生がなんか呟いた。同時にどこからともなくセリナさんが出てきて処置し始めてたけど…あれはツッコミ待ちだったんだろうか。

いや、どこから出てきたとか音もなく入ってきたとかじゃなくて、気づいたらそこに()()んだよね。わけ分かんなくない?ドアはちゃんと閉まってたしなんならその前に私いたし、ゲーム開発部の四人も確かにいたはずなのに知らないうちに視界の中にセリナさんが現れて…というより、さっきまでもいたのに気付かなかったと言うか…表現が難しいな。

案の定ゲーム開発部の皆もビビるし、アリスさんが「テレポートですか!?」って目をキラキラさせるし、いきなり現れた見知らぬ人にユズさんがロッカーに閉じこもっちゃうしで大変だったよ…うん。

で、処置終えたらちょっと経過観察してまたいつの間にかいなくなってた。だからなんなのあの人。もう怖いんだけど。ネルさんより怖かったよ。




まあ要するに生徒レベル90のシグレさんを先生レベル20〜30の先生が扱おうとしたら生徒レベルは強制的に先生レベルまで落とされるし、その揺り戻しが先生に来る、っていう話です。
例えるなら推奨512GBのソフトウェアを256GBのスペックのパソコンで起動したとしたら死ぬほどCPUは熱くなるしソフトはまともに動かないよね、って感じですかね。詳しいところは合ってるのかは知りませんので、まあだいたいそんな感じか〜くらいの感覚でお読みください。

ちなみに、一応ゲーム内ではここで主人公シグレさんを操作できる(扱えるとは言ってない)フェーズとなってる想定です。が、UIにモザイクがかかってたり背景がぐにゃぐにゃだったりで先生方からは「酔う」と言われた模様。一応放置でも勝てるようになってるため救いはある。つもり。
生徒詳細?……まあ、後々ね。(現実にはそもそも存在してないけど、この小説内では)まだプレイアブル化されてないですし。
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