地獄発、地獄行き 作:有森
数日後。
先生もあの戦闘の次の日には復活していつもと同じく業務を進められるようにはなっていた。
そして、今日がミレニアムプライスの結果発表の日。私達はゲーム開発部のモニターの前で座って結果発表を待つ……はずだったんだけど。
「見てくれたまえ!これが私たちの作った最高傑作さ!!」
今私はエンジニア部の方に来てます。
コトリさんはミレニアムプライスの解説の方に回ってるらしいからいないけど、ヒビキさんとウタハさんが目の下にくっきりした隈を作って若干キマった目で笑いながら奥から装置を取ってきてくれた。…ちょっと怖いんだけど…というか、
「…あの、私一応一月後辺りまでに、っていう注文したと思うんですけど…もしかして言ってませんでしたっけ…?」
「いやいや、ちゃんとそこは聞いていたとも。でもね…こんな面白そうな題材を見て私のマイスターとしての魂が早く着手しろと騒ぎ立てたんだ!」
あ駄目だコレ深夜テンションだ。無理し過ぎでは?ちゃんと寝るのは寝てください。
「反動を軽減させる装置なら確かに従来にも存在はした…だが、聞けば今回の依頼はブレを限りなくゼロに抑える装置!しかも君の持つただでさえ反動の大きい銃の!ああ構造を考えるところからワクワクして眠るなんて勿体ないと考えてしまうほどだったとも!!」
…半ば濁った目をしながらトリップし始めたウタハさんは置いておいて…そう、今日呼ばれたのは、この間私がエンジニア部に頼んだ私の
で、私の前にあるのは…なにこれ?ちょっと言語化しづらい何か。黒いでかめの銃みたいではあるけど…でかくない?
「これはSRを包み込む形で装着することで反動を内部で緩衝させて最大限までブレを少なくさせる装置だよ。そしてこっちが…」
と、ヒビキさんが説明しながらサイレンサーみたいな形の筒を後ろから取ってきた。
「威力の増強用の発射補助装置だね。銃撃の威力なんて強くなればなるほど心を動かすものじゃないか…!」
ち、注文してないものまで…!やっぱりこっちの人も深夜テンションかっ…!
…でも確かにこれがあれば割く神秘の量も調節できるし、安定はさせやすいかも。
「これ、試し撃ちしてみてもいいですか?」
「「もちろんだとも!!」」
あ、圧が…
ずいっ、と顔を近づけて意気揚々と準備を始める2人。私はウタハさんの指示に従って
なるほど…側面部二つを合わせて一つの殻にするみたいな感じなのか。で…腕入れたままで装着するんですか。抜け…はしないね。…これ片手で取り外しできるかな…まあビスとか使ってるわけじゃないからなんとかはなるだろうけど。あ、換装はできないんですね。なるほど。
で、先端の照準器の前に筒状の補助装置も付けてと…よし、ごっつ。
元々結構細めのシンプルな作りだったはずなのになんかものすごいゴテゴテしたデザインになったね…まあいいけど。
と、ヒビキさんが人形の的を五つ出した。
ちなみに今装填してるのは件の577T-rex。これの反動が無いに等しくなってれば大成功、無くなってはなくても軽減されてれば成功だ。
…よし。
チャキ、と構えてスコープの倍率を合わせる。
いやまあスコープ覗くような距離じゃないけど、狙った位置とどれくらい近い位置に着弾できるか調べたいからね。
右から距離約850、800、900、820、790…よし、右手親指、首、左手小指、右手首、左膝の右端スレスレにしよう。
軽く息を吸って…今。
マズルフラッシュと共に放たれた弾丸。
着弾位置を確認さるよりも早く次の的を確認して即発射、連続で五発の弾丸を放った。
「…これは…」
結果は…大成功だ。
「これ…すごいですね。反動が全くと言って良いほどなかったですよ」
多少押し付けられるような感覚はあったけどそれはどんな銃を使ってもある。しかもさっき扱った弾はヘイローの無い人が普通に撃てば下手すれば肩が脱臼することもあるような弾だ。それに反動が全くと言っていいほどなかったとなれば…これならいける。
……でもそれより。
「…的、なんかばらばらになってるんだが…?」
唖然としたウタハさんが言うように…うん、ばらばら。
全体では無いにしろ当たったところから砕けたみたいに破砕されてる。ほら2番目の的なんて首狙ったせいで上半身消し飛んだみたいになっちゃってるし。ちょっと神秘込めすぎたか…威力増強用の発射補助装置のお陰でさらに威力が上がったっぽいし。訓練用にやる分には調節必須かな…
「ちょっとやりすぎたみたいですね…すみません」
「いやまったくだよ…そういえばずっと聞きたかったことなんだが、そのSR…いやHGもだが、見たことのない内部構造をしているんだ、いったいどこで作られた銃なんだい?」
………それ聞かれるか。作られたの、
そもそも安定性ガン無視で威力だけ追い求めたロマン銃とか作り出すのこの人達くらいでしょうし。
「……オーダーメイド、とだけ」
「一体どこでだ!?HGはともかくこのSRの内部構造は全く新しいものなんだ…SRなのにここまで軽量化された上で連射ができる構造なんてそう思いつくものじゃない…!ぜひその技術者とは話をしてみたいんだ…!!」
横、もしくは鏡に向かって話してくださいどうぞ。
「…たぶん…無理じゃないですかね。その…まあ、いろいろ事情があるみたいですし」
「くっそぉ…!」
あーウタハさんの目に変な火がついちゃった。ヒビキさんも目の奥が妙に光ってるし…それよりやっぱり2人とも早く寝てください。いやまあ注文入れた私が言えることじゃないんですけども。
まあそんなこんなはありつつ最終調整をするからと一旦補助装置は戻して、途中離脱したゲーム開発部の方に向かっていると。
「あれ、ユウカさん?」
「!あれ、シグレさん?ゲーム開発部の方にいるんじゃなかったんですか?」
何やらユウカさんが走っていた。声を掛けると急ブレーキをかけてこっちを向いた。よく止まれますねそれ。
「今向かっているところです。エンジニア部の方に呼ばれていまして」
「なるほど。私も向かっているところです」
何故?と聞く前にスマホの画面を見せてくれた。
「…あー、テイルズサガクロニクル。特別賞、ね…」
「あら?あんまり驚かないんですね」
「まあやるだろうとは思ってましたし」
そういえば確かに発表のほぼ直後にユウカさんが部室に駆け込んできたんだっけ。
止めていた足をゲーム開発部室の方に向けて進めつつ、話を続ける。
「…反省しなきゃですね。あの子達の大切なものを馬鹿にしてしまったことも含めて」
「発破をかけるという意味では適解だったんじゃないですか?何でもかんでも努力賞で良いのなら苦痛は存在しません。偶には結果も必要でしょう」
…ま、言い過ぎな部分はあるかもとは思いましたが、と加えて前を向くと、視線の先に見えてきたゲーム開発部室から何やら騒がしく暴れる音が聞こえてきた。
「…こ、これは…」
「中々荒れてるみたいですね。鎮圧も頑張ってくださいね」
数歩下がって後ろからユウカさんが部室に飛び込んでいったのを見送る。
とりあえずはこっちもある程度の問題は解決…ケイさんの問題はエデン条約の後だし、今はまだ良いか。多分リオさんから何かしら言われるとは思うけど。
それよりも…エデン条約かぁ。気が重くなるなぁ…だいたいあと一月半くらいか。
FOX小隊の移籍作業はまだ欠片も見えてないからもう少し後として、まず補習授業部か…いや、そもそも私呼ばれるかな。
結構目に付く範囲で暴れちゃってるから今の疑心暗鬼な状態のナギサさんだと呼ばれなさそう。
まあ補習授業部内にいればそこまで危険にさらされることは…いやあるわ、全然あったわ。ゲヘナで温泉開発部に爆撃食らうしミカさんとアリウス兵達と普通に戦うわ。
…いや待って、まさかとは思うけどベアトリーチェが私の存在を警戒して兵数増やすとかないよね?いやまあ増えたところで勝てるだろうけど、アレの直後にテストあるわけだし、仮にスクワッドが動かされるとかなり不味い。
……念の為準備しておこう。あの4人も十分に強いけどタンクの役割を果たせる人がいないから怪我でもしたり疲労が色濃く残るとテストに支障が出る。
もしそれが原因で退学にでもなったら…エデン条約でETOを成立させるのがかなり面倒になる可能性がある。確かあの時はヒフミさん達が先導して気を引いたことでその隙に先生がETOを成立させた…んだっけ。確か。
…そろそろ細かいところは記憶も曖昧になってきてる部分が多い…あんまりあてにし過ぎるのも良くないかな。
とは言え不安要素は排除しておくに越したことはない。また色々手回ししておくか…
そんな事を考えながら部室の方に私も足を進める。部室内を見ると、ユウカさんが四人に頭を下げているところだった。
「…ごめんなさい。ここにあるゲーム機の事をガラクタなんて言って……貴女達のお陰で思い出したわ、小さい頃に遊んでた色んなゲームの事。久しぶりにあの頃の……新しい世界で旅をする楽しさを感じられた、ありがとう」
少し恥ずかしさもあるのか多少上ずった声でユウカさんは言い切り、部室内にいる先生含めて5人の反応もまたずに部室から出ようと…あっ
「そ、それじゃ、部活の申請書はセミナーの方にゅっ」
「あ、」
…普通に入ろうとした私と正面衝突した。
そして身長は私のほうが低いのに何故かユウカさんのほうがコケた。
体幹の差かなぁ。
「…なんか、すみません」
締まらないなぁ…と思いながら、一拍遅れて大笑いしだした皆(8割方モモイさん)の声を聞きながら盛大にコケたユウカさんと苦笑いをした顔を合わせる他なかった。本当にすみません。
数日後。
ミレニアム周辺のことはあらかた片付いてそろそろ補習授業の招集があるかなーと言った頃合い。
「…何ですか?」
いつもの定期連絡で指定されたトリニティの廃ビル内から黒服さんのところに来たんだけど、何やらソワソワしている気がする。
視線…視線?いやまあちょっと正確にどこが目なのかはわからないけど、感覚的に視線も合わないし、どこか余所余所しい。
と、短く息を吐いた音がして少しだけ黒い頭が揺れた。口の前で手を組み、二、三度呼吸の音が空間に満ちる。
「…隠し続けるのは誠実さに欠けますね。…明日シグレさん、一つお聞きしても?」
「?何ですか、妙に改まって」
また若干間を開け、黒服さんは────
「キヴォトスの敵となる覚悟は、おありですか?」
…そんな爆弾を投下した。
かなり間が空いたりしたら何かしら用事があるか体調拗らせてんのかなとでも思っておいてください。現状は可能な限り週に一回は投稿できるように頑張ります。