地獄発、地獄行き 作:有森
「“終わらなぁい!!”」
「減ってはいますよ。とりあえず先生が捺印しないといけない書類はこれで全部です」
まあ…多いけど。
ちなみに私の机の方にはまだ山が一つあるし、先生の机にはまだ1個半ある。
「“もぅ無理…ちゅかれた…”」
「幼児退行しないでください…」
書類の山の中に頭を突っ込んでモニョモニョと何かを言い続ける先生。
…うん、この人こんな感じだったね。
先生がキヴォトスに来てから早一週間。書類仕事の量は未だとどまることを知らず…
何とかサポートしつこなしてはいるものの正直キツイ。
まあ…連邦生徒会がほとんど機能してない現状、向こうへの依頼がほぼ全部こっちに流れ込んできてる状態だから最初のほうが多いのは自明…なんだけど流石に多すぎる。
確かに書類仕事は得意な方ではあるけど好きなわけじゃないんだよ。
「“シグレぇー…休憩しよぉ…”」
「…ですね。私も今思いました」
ともあれ、書類には先生の最終捺印が必要なものが多い。まあ全然関係のないものも混じってるから、それは私が弾いたりいろんなところに連絡したりで対処してるけど。
特にペットの捜索率の多さは異常。各自治区の生徒会に行ってもらって。
そんな愚痴を心の中で流しつつコーヒーメーカーで2人分のコーヒーを淹れる。
「先生、」
「“あー…ありがと…”」
こりゃ駄目だ、ダウンしてる。
まあ…最初期はともかく、特にここ2、3日はシャーレの存在がキヴォトス中に広まったせいで書類仕事も爆増してたからね…
なんとか徹夜はさせないように調整してるけど。先生ほら、無茶するから…
「“…っていうかこれ、シグレの負担大きくない?大丈夫?”」
「前にも言いましたけど慣れてますから。それにほとんど好きでやってるようなものですから、気にしないでください」
いや、ね…と微妙な顔をする先生。
まあ、かなり生徒の手を借りてるのが彼女的に納得いかないんだろう。責任感が強いのは良いけど、もうちょっとなぁ…
「“…ん?これは…”」
「どうしました?」
と、一つの手紙に目をつけた先生の目が鋭くなった。
…あ、アビドスの手紙か。
「“…シグレ、申し訳ないんだけど少しの間ここ任せても良い?”」
「ええ、彼女たちにも先生の手助けが必要でしょうし。一週間位なら何とかしますよ」
「“そうだnちょっと待って何で何読んだかわかったの?”」
秘密です、と誤魔化してそっぽを向く。
…あぶね。
「あ、アビドスに行くなら水筒は絶対持っていったほうが良いですよ。あと地図の確認を忘れずに。広い上にほとんどが砂漠なので」
「“ホントにバレてるし…”」
なんで??と言いつつ準備をする先生は、そのままシッテムの箱とシャーレの証明証を持って部屋を出ていった。
それから自分の書類を進めて、とりあえず今日の分は終了したのを確認して、先生のデスクの方に目をやる。
急に飛び出ていったから整理がちゃんとできてない…此方の整理もやろうかな、と先生のデスクに近寄ってデスクに散らばった書類をまとめようとして。
アビドスから送られてきたであろう手紙の後ろにまだもう一枚手紙があったのが見えた。
『P.S. アビドス砂漠は非常に広大ですので、大変迷いやすいです。そのため、◯月△日にこちらから送るOGに道案内を頼んであります。もしお越しいただけるのであればその方についてきてくださると───』
…クシャッ、と手元から紙が捻れる音がした。◯月△日は今日である。
手紙は、最後まできちんと読んでください先生…!
そんなときとほぼ同時。
「こんにちはー……あれ?」
ノックされてから掛けられた声が困惑していた。
…聞いたことのある声だ。
「こーんにーちはー?」
「はい」
扉を開けて返事をすると、やはり見覚えのある顔。
水色の長髪を括った女性が。
「あーっ!シグレちゃん!…えっ、先生ってシグレちゃんのこと!?」
「いえ、私は連邦捜査部部長の立ち位置です。先生は…さっき手紙をろくに読まずに身一つで飛んでいきました」
「…はい?」
同感です、と目の前の女性…ユメさんに返す。
それと同時にピコン、とスマホが通知音を鳴らした。
『迷った…ここどこ…?』
私はキレた。
「迷ったって言って位置情報だけ送ってくることあります?」
「あはは…大丈夫かな…」
ユメさんも少し引き気味ではある。
それはともかく、今私とユメさんはアビドスに向かっている所。もうそろそろアビドス地区に入る…けど、それより。
「ユメさん車持ってたんですね」
そう、車で移動中。
なにやら車体は塗り直したような感じがするけど、中古品を買ってカスタムしたのかな。
「うん、ヘルメット団の人達からちょーっと拝借してね」
拝借て。…え?拝借?
え、もしかしてユメさん
「まー向こうもその分こっちにも迷惑かけてるから問題なーし」
大アリですよ。
というか、ホシノさんがいてヘルメット団ごときに苦戦するのほんとに謎だよね…
ちなみに前ではアビドスの話は私ほとんどノータッチだったから聞いて知ってるだけなんだよね。触ったところといえばそれこそ最後の部分だけ。
カイザーPMCと直接やり合うときに援軍で呼ばれたっけ。まあ今回も私はそこまで触る気は無いんだけど…
「…あ、先生からモモトークが………」
「うん?どうかした?」
「…“アビドスの生徒に見つかったから連れて行かれてる”、と。…字面どういう状況ですか」
シロコさんだよね、確か。
「ありゃま。探しに行く必要なくなっちゃったね」
「ですね」
じゃあ私はここからシャーレに戻って…なんでスピード落とさないんですかユメさん?
「え、せっかくだからアビドス寄っていきなよー。ホシノちゃんも喜んでくれるよー?」
「ホシノさんがですか…喜びますかね?」
前のホシノさんならともかく、今のホシノさんあのツンツン状態だよね…いや、喜びそうもないんだけど。
「喜ぶよー。というか私が喜ぶっ!」
ユメさんがですか。
まあでも、さすがに走ってる車から飛び降りるような勇気は持ち合わせてないのもあって、そのままずるずると…いや、ブーンとアビドス高校まで連れて行かれた。
…まあ、連れて行かれたのはいいんだけど。
「…あれがヘルメット団ですか?」
校庭に、ぞろぞろと黒や赤のヘルメットを被った人達が侵入していた。校庭にはバリケードみたいに色んな者が散乱してる。
「そ。また来たなぁ〜」
と、ユメさんはどこからともなく
「こらァーーー!」
…車から飛び降りて突貫していった。
「げッ青い悪魔だ!」
「撃て!撃てぇ!」
青い悪魔とか呼ばれてるんですか、ユメさん。
まあ、私もこんなところでお客様するつもりはないし…しょうがないっか。
車内から身を乗り出し、
一秒に一発の速度で撃ち、ユメさんの死角に入り込んでいるヘルメット団を減らす。
そんなこんなで数十秒の内に…
「よしっ、制圧完了!」
ふいーっ、というようにユメさんが盾にSGを立てかけて額を拭う。
うーん、死屍累々。
「シグレちゃんもありがとーっ!すっごい戦いやすかったよ!」
「ありがとう…ございます?」
「…なんで疑問形?」
いや、私遠距離からパシパシしてるだけでしたし、正直私が狙わなくてもユメさん全然問題なくなぎ倒せそうでしたし…
良く考えればこの人、あのビナーと普通に交戦してたんだよね…アレ相手できてる時点で既にやばい部類なんだっての。
と、そんな事をやってると…
「あっ!ユメさん!と……?」
「あらぁ!先生に続いてまたお客さんですか?」
「ん、初めて見る顔」
セリカさん、ノノミさん、シロコさん…アヤネさんは教室の方から支援かな。それと…
「うへぇ、今日はお客さんが多いなぁ〜」
………ん?
今のって……
「ホシノさん?」
「うへ?うえぇっ!シグレちゃんじゃ〜ん」
……あ、あれぇ…?