地獄発、地獄行き 作:有森
「えっ、と…ホシノさん、ちょっと」
ちょいちょい、と手招きして一度こっちに来てもらう。
「ホシノさん、なんですかその喋り方」
「……ユメ先輩監修の甘々ボイスです」
「…はい?」
「…ユメ先輩監修の「あ、いえ、聞こえてはいます。理解できてないだけで…」…後輩に怖がられないようにこの喋り方にでもしておいたほうが良い、と」
曰く、ユメさんが卒業して新一年生が入ってくるとなったときにユメさんが「そんな喋り方じゃ怖がられちゃうよ!ほら、ホシノちゃんも私の真似して〜!」*1という指導をみっちり一週間程受けさせられたらしく。
……それでその喋り方に…どーりで何処かユメさんに似てると思っ…あれ?
…でもこれ
いや、何か事情があったんだよ。ウン。まさかそんな重たいとかいうレベルじゃない背景があるわけない。というかあってほしくない。
「ホシノせんぱーい?どうしたんですかー、あとその方どなたですかー?」
「あっ、すみません。いやぁ〜、ちょっと久しぶりに会ったものだからちょっぴり秘密のお話的な?」
切り替えが早すぎる。私も感情を隠すのは得意な方だけどこんなすぐは出来ないよ…
「あっ、シグレも来たん…」
「先生、」
と、彼女らの後ろからひょこっと出てきたのは我らが先生で。
「アビドスは広い砂漠が広がっていて非常に迷いやすい」
ビクッ
「だから地図をしっかりと確認しておいたほうが良い、と私言ったはずなんですが…どうやら何処かで抜け落ちてしまったようで」
ギクギクッ
「その上訪問先の生徒を助ける前にそもそも迷惑をかけると…」
「ほんっとにごめんなさい」
0.2秒の五体投地…美しい本気の土下座だ、私でもこの域に達したのは20代後半の頃…待って、なんか変な電波入ってきた。
「め、目が笑ってない…」
そんな声も聞こえた気はするけど、気にしない気にしない。この件に関しては先生が悪い。
さてそんな一幕もありつつ、一旦校舎の中に戻って「アビドス廃校対策委員会」と書かれた紙の貼られた会議室のような部屋の中で私と先生、それとアビドスの生徒みんなが座っている。
「──それでは、改めてご挨拶させていただこうかと思います」
そう言って、アヤネさんは私達の方を向いた。それに合わせて、他のアビドスの生徒たちとOGであるユメさんも姿勢を正す。
「──私たちは、アビドス対策委員会です。私は、委員会で書記とオペレーターを担当している、一年のアヤネ」
その言葉と共に、エルフ耳のアヤネさんは深々とお辞儀をした。見た目通り、真面目な子。
「こちらは同じく一年のセリカ」
「…どうも…?」
アヤネさん同様に真面目な印象も受けるけど、頭を下げつつなんか微妙に釈然としてない感じがするセリカさん。
「二年のノノミ先輩とシロコ先輩」
「よろしくお願いします~、シグレさん、先生☆」
「さっき先生と道端で最初にあったのが、私───あ、別にマウントを取ってるわけじゃない」
金髪で、その…体のメリハリが強いノノミさん。ちなみにこの人は
そして銀の狐耳を持って、少し感情薄めのオッドアイ、シロコさん。この人もこの人で銀行を襲おうとする。
そして…
「そして、委員長の──三年のホシノ先輩とOGのユメさんです」
「よろしく〜とは言ってもシグレちゃんは元々おじさんのこと知ってるもんね」
「私もだね。先生とは初対面だね、よろしくね〜」
二人して緩い雰囲気である。
でも分かる、多分ホシノさんちょっと心のなかで多少箚さくれてるよね。
髪も伸びてユメさんと同じくらいになってるし……まさか…いや…うん。大丈夫。
「うん、私は先生だよ、よろしくね」
「シャーレ所属部長、明日シグレです。よろしくお願いします」
「んも〜、シグレちゃん硬いなぁ〜。もうちょっと肩の力抜いてこーよー」
「…これが一番楽なので…」
にしてもあの状態のホシノさんをたった一週間でここまでするって…ユメさん一体何したんだろう…
まあ今聞くことじゃないか、と思い直してアヤネさんの声に耳を傾ける。
「先ほどご覧になっていただいた通り、我が校は現在危機にさらされています……。そのため、『シャーレ』に支援を要請し、先生がいらしてくれたことでその危機を乗り越えることができました……先生がいなかったら、さっきの人たちに学校を乗っ取られてしまったかもしれませんし、感謝してもしきれません」
そう言って再び先生に向けて頭を下げた。先生はすぐさまアヤネさんに顔を上げるようにお願いして、アヤネさんが顔を上げたことを確認すると、抱いた疑問を口にした。
「"えっと、それで対策委員会って一体…?"」
「そうですよね、ご説明いたします。…対策委員会とは、このアビドスをよみがえらせるために有志が集まった部活です」
「うんうん!全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです!…全校生徒といっても、私たち五人だけなんですけどね」
アヤネさんの言葉に続いて言葉を発したノノミさんは、苦笑しながらそう言った。
…在校生徒に変動はなし、ユメさんの存在はそこまで大きくなかった…かな?いや、大きかったは大きかったんだろうけど、学校の人数を増やすほどのキー要素じゃなかったか。
まあ元の路線を辿りやすくなったって言う点ではラッキーな要素か。
「あんな奴らに負けるつもりはないけど……現状だと、私たちだけじゃいつまで学校を守り切れるかわからない。在校生としては恥ずかしい限りだけど……」
「はい、最近はヘルメット団の襲撃頻度も上昇しており…もし『シャーレ』からの支援がなかったら、今度こそ万事休すっていうところでした」
「そうだね~。補給品も底をついてたし、流石に今回はもう素手でやるしかないかなって覚悟したよ~。なかなかいいタイミングに現れてくれたね、先生」
ホシノさんなら素手でも十二分に強そうだけどね。
知ってる?あの人ビナーのレーザー生身で耐えるんだよ。人間じゃない。たしかに盾があるとはいえ、あれ神秘使ってる最中の私でも多少は傷付くんだよ。盾がすごいのかホシノさんが凄いのか…ホシノさんがすごいんだろうね。キヴォトス最高の神秘だよ?
にしても、ほんとに何でヘルメット団相手にホシノさんが苦戦するのか謎でしょうがない。ユメさんも相当強いみたいだし、そもそもヘルメット団なんてそこら辺にチンピラをかき集めた程度…連携も何も有ったものじゃないような者達のはず。
…いや、後ろにカイザーがいるからか。統率者がいるなら話が変わる、先生みたいに。
いやー…でも正直な話私が変に手を出すところじゃないんだよね…無論、カイザーを壊滅させたりする程度なら私一人で十分事足りる。でも、それじゃあ先生や生徒たちが成長しないし為にならない。
となると私は徹頭徹尾裏方に回ったほうが得策なんだけど…先生がそれを許すかと言われると微妙なんだよね…
「あっ、シグレちゃんもね〜…シグレちゃん?」
「えっ、あ、はい」
おっと、思考にハマってた。
「も〜、お話はちゃんと聞かないと駄目だよぉ〜?」
「…はい、そうですね」
うーん、何処か目の奥が笑ってない。
「ま、そんなわけでさ〜、ちょっと計画を練ってみたんだよね〜」
「嘘っ…!?」
「あのホシノ先輩が…!?」
「その反応はちょ〜っとばかしおじさんも傷ついちゃうなぁ〜」
信じられないような目でホシノさんを見るアヤネさんとセリカさん。よよ…と泣くふりをするホシノさん。
…まあ、この面しか見てなかったらそうなるよね…私もそうなる。ちょっとだけ、その風景に懐かしい感じがする。
「あっ、もしかして、それって──」
「およっ?もしかしてユメ先輩も考えてた?」
と、どうやらユメさんも作戦を考えていたようで。
「この場を凌いでもまたヘルメット団はやってくる…ここずっとそんなサイクルでしょ?」
「そう!だから、消耗してる今こそこっちから仕掛けて前哨基地を襲撃しちゃお〜って」
俗に言う、不意打ちである。
まあおおよそ30キロという、キヴォトス人には多少の距離だけど生身の先生には少し遠い距離なのもあって、ユメさんの車に乗り込んで近くまで接近、そこから突撃という形をとるようになった。
「そういえば…ホシノ先輩とユメさんはシグレさんとお知り合いなんですか?」
で、その準備中にアヤネさんに聞かれた。
「知り合いといっても、二年前に一度会っただけですよ。それ以降は会う機会もなかったですし…というか忙しすぎて顔も出せませんでしたから」
「いやいや〜、それでもその一回が大きかったんだよ〜?なにせシグレちゃんはユメ先輩の命の恩人だからね〜」
「え、えぇっ!?そ、そんなことが…ユメさんも十分お強いはずなんですが、もしかしてシグレさんってそれ以上の…」
横からぬっ、と出てきたホシノさんの言葉に驚いたアヤネさんには、首を横に振る。
まあ、買いかぶられても困るしね。
「運が良かっただけです。別にアレは強さが云々の相手じゃなかったですし」
行動パターンが分かってて、正体がわかってたからこそ取った退避行動。多分何も知らない状態で会ってたら中途半端に攻撃したあとに神秘が尽きて詰んでただろうからね。
それに、アレの相手だけなら別にユメさんだけでもできないことはなかったはずだし。勝てるかとは言われて首を縦には振れないけど。