地獄発、地獄行き 作:有森
作戦はこう。
①ユメさんの車で1キロ程近くまで接近。
②ユメさん、ホシノさんを先頭、ノノミさんとセリカさんを中距離、私と先生、アヤネさん、シロコさんを後衛に回して襲撃。
簡単なお仕事である。
先生は指揮に集中するから、私はその近くで完全遠距離用のスナイパーに徹することにした。
なお、前哨基地に接近中の時の観測手も引き受けてる。
「……ここからおおよそ2キロ先、前哨基地発見しました」
「了解です。………その単眼鏡何処で手に入れたんですか…」
車の窓から顔を出して確認したことを報告すると、アヤネさんにそんな事を聞かれた。
「一応以前はミレニアム所属でしたから、エンジニア部に頂いたのを使ってるんですよ。最初は性能確認のための試作品みたいなものだったんですが、使い勝手が良かったので譲っていただいたんです」
…まあ、余計な機能も山盛りについてるけど。
自爆機能とかBluetooth機能とか、1680万色に光るゲーミング機能とかナイフに変形したりする機能とか。もう意味分からん…
いやまあ性能も確かにすごいんだけどね…手のひらサイズどころか親指サイズに収まってるし、重量も50グラムない位だし。頭の良い馬鹿という表現がぴったりな人達はホントに彼女たち以外にいないと思う。…一応言っておくと馬鹿にしているわけではない。
「…そろそろですね。降りましょう」
と、そろそろポイントに着いたみたいで。
車を降りてさっきの通りの陣形を組み直してさあ出発。
……まあ正直過剰戦力ではあるとは思うけどね。
「“!見えてきたよ、戦闘準備!”」
先生の合図で、シッテムの箱の補助が展開された。
……ま、私にはついてないみたいだけど。
いやまぁこれにもちゃんと理由があってね?詳しい仕組みとかは知らないんだけどシッテムの箱の補助って先生と生徒のレベルが釣り合ってないとむしろ妨害になるみたいなのよ。
で、私は本来もう一年近く先生と戦ってきてて、そこら辺のレベルはもうそれこそ一線を画すレベルにまで上がってる。これじゃ先生が私を使いこなせないし、枷にしかならない。
だから、シッテムの箱への干渉をこっちから
「“…!?”」
…先生は驚いてるみたいだけど、まあ無視しとくとしよう。
とりあえず指揮に集中しだした先生の隣で、短眼鏡を覗く。ユメさんとホシノさんを先頭に、皆が先生の指示に従って動いているのが見える。
…さっきも言った通り正直私が変に手出しするまでもないんだけど…まあよろしくと言われたからにはやるしかあるまい。
単眼鏡からスコープに視線を切り変えて、スコープを覗いてない左目は瞑る。
ホシノさんとユメさん周りは当然のごとく安定してるからそっちに注意割く必要は無し…おっとセリカさんの近くに一人接近、ヒット。こっちはシロコさんの近くで三人急襲だ、撃っておこう。
「“……ねえ、シグレ”」
「なんですか、先生。あ、ちょっと待ってください…はい、何ですか?」
ノノミさんの近くに2人近づいていってたけどミニガンで殴り落とされてたからまあ問題無し。…まさかのあの間合いまで潜り込めたかと思えば肉弾戦に持ち込まれるとか…むしろ不憫。
「“なんでここからその体勢で的確なサポートができるの?たしかに私はシッテムの箱で戦況把握もできるけど、シグレその単眼鏡とスコープだけだよね…?”」
そんな体勢っていうのは立ち撃ちの状態の事かな?距離は…まあ、スナイパーだしなぁ。
「慣れですかね。スナイパーなんてだいたいこんなものですよ。戦況把握も…まあ感覚で?あと、狙撃自体は慣れれば立ったほうがやりやすいんですよ」
「“そうなの?…いや、それでも今のところ全部命中させてるからね君?”」
そりゃあんだけ敵味方が入り乱れてるところで外したらそれこそ致命的でしょう。そもそも200mも離れてないところで外すわけがない。
そんな感じにパシパシやることものの数分、問題なく制圧は完了した。
まあ元より負けるつもり無かったし…そもそも先生がついてる時点で負ける予想がつかない。シッテムの箱に、先生の奥の手と言える、文字通りの切り札である
視界の端でヘルメット団の武装や武器を物色しようとするシロコさんを止める先生を見つつ小さくため息をついた。
まあそんなこんなはありつつ、またユメさんの車でアビドスに帰ってきて。
「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです」
「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」
「うん!二人のお陰だね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!ありがとね!」
そしてこの発言である。
…いや、うんまあ…この部屋においてるホワイトボードの右下にある銃の書かれたポスターの裏、普通に「残り返済額9億6132万円!」って書かれてるんだよね…ポスターめくれたときに見えた。まあ先生の事だしそこまで気が回らなかったかな、目元の問題もかなり大きかったし…
にしても
「“借金返済…って?”」
「え?あっ、」
「それは…」
「ま、待ってアヤネちゃん!それ以上は…!!」
セリカさんは必死に誤魔化そうとするけど、ホシノさんとユメさんがまあ良いんじゃないか、となだめる。
「かと言って、別に話すような事でも…」
「別に私達がやましい事をしたって訳でもないし、先生もシグレちゃんも私達の事を助けてくれたんだよ?」
「ユメさんの言う通り、私もそう思う」
「そ、そりゃそうだけど…」
「まぁまぁ、ピリピリするのは私も分かるけどさ〜?一旦話してみたら何か解決策も出してくれるかもしれないよ?」
「ッ…!!それでも結局その人達だって部外者じゃない!私は、認めない!!」
「!せ、セリカちゃん…!?」
「私、追いかけてきます!」
ダダッ、と走って教室を飛び出していってしまったセリカさんを、ノノミさんが後ろから追いかけていった。
一瞬の喧騒の後、部屋の中に気まずい雰囲気が流れる中でそんな空気を断ち切るようにホシノさんが口を開いた。
「えーっと、簡単に説明すると……まあ既に察してると思うけどさ、この学校には借金があるんだよね~。や、まぁありふれた話なんだけどさ」
「でも問題はその金額で…」
「その、なんというか…9億円くらいあるんだよね〜」
「…9億6132万円、です。アビドス…いえ、私達『対策委員会』が返済しなければならない借金の金額です」
「“え、っ…!?”」
その大金に先生は目を剥いた。
…そりゃそうだ、ただの学生が背負うにはあまりに大きすぎる金額と、責任。
私も最初に聞いた時はビビるなんてレベルのものじゃなかった。人一人の生涯年収ですら3億円程度だというのにその3倍近くだ。
……その借金の問題もシロコさんがテラーへと反転した原因で…うっ、
「これが返済できなければ学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります…」
「でも実際に完済出来る可能性は0%に近くて、殆どの生徒は諦めてこの学校と街を捨てて他の場所へと出て行っちゃったんです」
「それで、私達だけが残った」
アヤネさんもユメさんもシロコさんも、神妙な面持ちで話してくれた。
先生がその経緯を聞いたところ、砂嵐の件から、悪徳金融に借金をせざるを得なくなった経緯まで話してくれた。
……カイザーローン…どうしよう、本気で先回りして半壊させてこようかしら。
「セリカがあそこまで神経質になってるのは、この問題に真面目に向き合ってくれる人がいなかったから。…そう、あなた達が初めてなんだ」
「…ま、先生達のお陰でヘルメット団っていう厄介な問題もなくなった訳だし…これからは借金返済に向けて全力投球出来るって事だよ〜」
先生も、顧問になったからって無理に首突っ込まなくてもいいからねー、とホシノさんは言うけれど。
「“…ううん、こうなった以上みんなを見捨てるような真似はできないよ”」
…そうだよね、貴女はそういう人。
自分への損得じゃなく、常に生徒のことを考えて生徒のために動く変わり者。
だから、私は──……
「“シグレもそうでしょ?”」
「…えっ…私に振りますか。まあ同意しますけど」
おっと、反応が遅れた……うん、それは良いんですよ、それは。
ですけどね…
「先生、それでもその間書類仕事は溜まっていきますからね?」
「“…………”」
うん、忘れてたねこの人。
書類にデスクが埋め尽くされるってほんとに現実にあるんだなって思った記憶がある。
「…ある程度はこっちに任せてください。前に出張るのは得意ではないので、サポートしつつ雑務は進めておきます。先生は今はアビドスの問題に向き合ってください」
「“…はい”」
よろしい。
ストックの霊圧が…消えた…?