百 合 の 間 に 挟 ま る 男   作:剣亡今日助

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怒れる百合豚

「今酒先生、頼まれてた物を持って来ました」

 

「お〜ありがと〜。そこら辺に置いといて〜」

 

 今日は日直だ。クラスの皆が提出したレポートを集めて、職員室に居る今酒先生のもとへ届けるだけの簡単な仕事。今酒先生の顔色は今日も悪い。

 

「さてさて〜授業で行くダンジョンというダンジョンを不活性化させている破竹の勢いの我がクラス、その中でキルスコアが断トツ1位、そんなパーティーの一員であるキミはどんなレポートを書いたのかなぁ〜?」

 

「や、やめて下さいよ……」

 

 ダンジョンの不活性化、それはダンジョンに入れなくなる現象。ダンジョンに居るモンスターが減り過ぎた時や、重要そうな施設を破壊した時に不活性化は起きる。きっとその裏では管理者が必死に復旧作業に勤しんでいるのだろう。ざまあみろ。ちなみに、その復旧作業が終わりダンジョンが再活性化するまでに、数年の歳月がかかると言われている。

 

「あ、そう言えば今酒先生、和奏と央華の実家って名家の上、お互い仲が悪いんですよね」

 

「ん?そうだね〜、私も知ったのはごく最近だけど」

 

「名家なら所謂圧力とかかけて来たりしなかったんですか?」

 

「キミは名家についてどう思ってるのかな……まぁ、あったけど」

 

「あったんですか!?」

 

「この学校と付き合いの深い企業の株主だからね〜、お金渡して売らせないとかやって来たね〜」

 

「ガチじゃないですか!?どうしてそれでも僕達を引き合わせたんですか?」

 

「圧力については何とかなるんだよ〜。手の及んでない会社と付き合えば良いだけだから。で、キミ達を引き合わせた理由だけど……」

 

 そう言って今酒先生はニヤリと笑った。

 

「──言ったでしょ?冒険者界隈の損失だって」

 

「言ってましたね……」

 

 良い環境で学ばせて貰っている事を実感出来た日だった。

 

 

 

 

 

 基本的に、ダンジョンに潜るのは授業時間内だ。しかし、授業で潜るダンジョンはゴブリンの巣窟等、弱いモンスターが生息しているダンジョンばかり。その結果、どうなったかと言うと……。

 

「それでね、央華を服屋に連れて行ったのだけれど、色々とよりどりみどりでね、まず始めに……」

 

 探索中に雑談出来る程余裕になってしまった。いや、やめた方が良いのは解っているんだけど……余裕過ぎるのだ。弓手等の遠距離攻撃系ジョブは感知能力も優れている事が多いのに対してゴブリン風情に感知能力なんて上等なものは無い。先にこっちが発見すれば、それは当然先制攻撃のチャンスが出来る。そうなれば後は簡単、先制ハウンドアローで終了、猟犬の矢が全てを食い散らかしてくれる。

 

「──それでね、今度は映画を観に行くのよ。逆襲シリーズの最新作ね。今度はどんな悪党に刃を突き立てるのか楽しみだわ」

 

「へー、逆襲シリーズかー、僕好きなんだよね。ネタバレにならない範囲内で感想教えて欲しいな」

 

「へー、あなたも好きなのねー、……そうだ!」

 

 そう言って和奏は央華とひそひそ話し出す。ひそひそ話はそれ程長くなく、あっと言う間にケリがついたみたいだ。

 

「亮斗!三人で映画観に行くわよ」

 

 ……何だって?

 

 

 

 

 

 デパートの表にあるオブジェ付近で二人を待つ。……それにしても、何故僕が二人のデートに文字通りお邪魔する事になったのだろうか。謎でしか無い。厚意を無下にするのも……そう思って了承したが、もしかして断るのが正しい対応だったのだろうか……。そんな事を考えていると、二人がやって来た。恋人繋ぎをしており今日も非常に仲睦まじい。やはり今からでも帰るべきじゃ無かろうか?

 

「ごめん、待った?」

 

「ご、ごめんなさい。待ちましたか?」

 

「ううん、今来た所だよ」

 

 そして何でデートのお決まりの台詞を言ってるのだろうか?デートをしているのはそこの二人なのに……。

 

「遠慮しなくて良いと言ったのに……」

 

「まあまあ……早速映画館に行こ?」

 

「そ、そうね……付いて来なさい!今日は良い日にするわよ!」

 

 僕は先導する和奏に付いて行った。

 

 

 

 

 

「いやー、面白かったわね逆襲。今回もド派手なアクション満載で楽しめたわ」

 

「ストーリーも良かったね。大切なものを奪われたヒロインの哀愁と孤独、心の隙間を埋めてヒロインの代わりに逆襲を果たすヒーロー……胸がときめいちゃった」

 

「ああ、そうだな。あの監督の撮る作品にハズレ無し、大したもんだよな」

 

 映画を見終わった後、カフェにて映画の感想を語り合っていた。

 

「はい央華、あ〜ん」

 

「あ〜ん……ふふ、ありがと。ほら、カナちゃんもあ〜ん」

 

 ナチュラルにお互いの食べてる物を食べさせ合う二人。映画を観てる時も手を握り合っていたし……本当に、良くイチャつく二人だ。

 

「……はっ!やっちゃった!大丈夫?ウザくない?」

 

「なんでウザいと思うんだい?恋人同士が愛し合うのは良い事じゃ無いか。僕も見てて暖かい気持ちになるよ」

 

「そ、そう……?」

 

「ふふ、リョウくんって良い人ですね」

 

 顔を赤らめる和奏と、微笑む央華。そんな感じで以後もイチャつく二人を眺めながら、ゲームセンターで遊んだり、服を見繕ったりして、この楽しい一日は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

「六人部亮斗!六人部亮斗は居るか!」

 

 数日後、昼休みにスマホを弄っていると、太くて背の高い巨漢が教室に入って来た。

 

「ぼ、僕が六人部亮斗だけど……何か用でも?」

 

「そうか、お前が……、一つ訊いておく。猿石さんと犬渕さんのデートにお前が付いて行ったというのは本当なのか?」

 

「……数日前のアレの事かな?」

 

「心当たりがあるんだな!?百合の間に挟まる不届き者が居るという噂は本当だったんだな!?くぅ〜〜〜、許せん!」

 

 男は顔を茹で蛸のように真っ赤にして、僕の胸ぐらを掴んで来る。

 

「なぁ……模擬戦しようぜ?キレちまったよ……久し振りに……」

 

 僕はこの場を丸く収める為、了承するしか無かった……。

 

 

 

 

 

 専門学校に併設されている大きな体育館内にあるリングにて、僕はプロテクターと模擬戦用に作られた木製の剣と盾の調子を確かめる。

 

「ククク……怖いか?これからお前をボッコボコにボコし、二度と彼女達の恋路を邪魔しないと宣言するまでボコし続ける、この俺の存在が……!」

 

「確かに怖いね……どうしてそんなに、和奏と央華の事を気にかけてるんだい?」

 

「名前を呼び捨てだとぉ……!?くっ……良いだろう、冥土の土産に教えてやろう」

 

 そう言いながら男はショルダータックルを繰り出して来た。

 

「それは俺が……百合豚だからだ!」

 

「いっそ清々しい告白だな!?」

 

 タックルを盾で受け止めながら叫ぶ。そして木剣を振るって攻撃を繰り出すが、彼には左手ではたき落とされる。

 

「どうせ……どうせ俺も混ぜてよ、とか言ってるんだろ!」

 

「言って無いけど!?」

 

 右腕を振るい、連続でチョップを放つ男に対して木剣で迎え撃つ。

 

「どうせ下半身に脳味噌があるんだろ!」

 

「ちゃんと上半身の頭部に詰まってるけど!?」

 

 木剣を掴まれ抑え込まれる。抵抗しようにも、こちらは右手しか使えないのに対して、向こうは両手を使えるので当然分が悪い。空いてる左手で殴りつけるが、びくともしない。

 

「純粋で美麗な百合の世界に、土足で足を踏み入れるな──!」

 

「──ガハッ!?」

 

 掴まれた右腕を肩に担がれ、投げ落とされる。衝撃で肺が押し潰され、息が押し出される。しかしこれは軽傷だ。直ぐ様立ち上がって構える。

 

「──僕だって!二人の邪魔をしたく無いさ!」

 

「ぬぅ!?」

 

 木剣をやたらめったらに打ち込む。木剣と素手じゃリーチが違う。攻撃を飽和させて、近付けさせない。それが唯一の勝ち筋!

 

「アレだって何だよって言いたいのは僕の方だよ!デートなんだよ!?態々邪魔者を入れる彼女達が理解出来ないよ!」

 

「ぬ、ぬぅ……!」

 

 そうやって連撃を繰り出していると、ミシリという音が聞こえた気がした。

 

「なのに二人はまるきり僕を気にせずイチャつくし!もしかして彼女達にとって僕は空気と同じなのかな!?なら連れて行くのも納得──出来るかぁ!」

 

「フンッ!」

 

 男が木剣に拳を叩き込むと、木剣は折れ飛び先端がリングの外へ落ちて転がる。

 

「ちょっと!あたしの大切なパーティーメンバーを虐めないでよ!」

 

 タイミング良くリングへと踏み込んで来る人影が二人。和奏と央華だ。

 

「止めないで下さい猿石さん!二人の恋路を邪魔する不届き者を、この俺が!」

 

「余計なお世話だって言ってるの!彼は逆に、あたし達の恋路を助けてくれてるわ!」

 

「リョウくん……彼のスキルがあるからこそ、私達は活躍出来ているんです!」

 

「もう一度言うわ、あたしの大切なパーティーメンバーを虐めないで!」

 

 彼女達の剣幕に、彼は狼狽え、意気消沈し……冷静になったようだ。

 

「貴方達がそこまで言うなら……ごめん六人部、どうやら俺はお前の事を誤解していたみたいだ」

 

「理解して貰えたら嬉しいです……二人は家の事情で難しい立場にいます。肯定してくれる理解者の存在は二人にとって良い影響をもたらしてくれるでしょう。これからもよろしくお願いします」

 

「六人部……」

 

 僕は彼と和解の握手を結んだ。

 

「──ただし二人に手を出したら殺す」

 

「ヒエッ……」

 

 小声で呟かれた内容に震え上がってしまう。適切な距離感を維持しないといけない理由が増えてしまった……。

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