それではお楽しみ下さい。
“偉大なる航路、とある島”
その島の天気が快晴なのは久方振りであった。とある古龍の襲撃を受けたその島は、暗雲に見舞われることが多かったので空から燦々と降り注ぐ日光は天からの恵みというに相応しかった。
そんな天気であれば活気に溢れていてもおかしくないが、今はむしろその逆、島に住まう人々のほとんどが緊張感のある表情をしており、不安気な声が度々上がっていた。
そしてその原因は街の港にあった。小さな街に不似合いなその巨大な帆船から大勢のスーツを着た人々が降りてきており、船に掲げてあるマストと旗にはこの世界において最も巨大な組織のシンボルを掲げていた。
その船に続く桟橋ではウエスタンハットを被り軽装のジャケットを着込んだ初老の男─“我らの団”の団長と、周囲と同じようにスーツに身を包み、サングラスを掛けた大柄の男性が向かい合っていた。
「……………」
側に手錠を掛けた─フィリアを連れて。
その様子を一瞥したスーツの男は、感情を感じさせない無機質な声で団長に向かって語りかけた。
「さて…それでは…先の連絡について…意図を問おうか、
「ええ、もちろんお話ししますとも─
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時は三日ほど前に遡る。ディアンとフィリアが意見を固め、一夜を過ごし、全員の目が覚めた次の日、ディアンから「話がある」と言って“我らの団”の全員を集め、フィリアを何とかして助けてやりたいということ、その為に力を貸して欲しいという旨の意見を伝えた。
「頼む。おれ一人じゃどうにもならない。力を貸して欲しい」
「…都合が良いことは分かっています。けどどうか、皆さんの力を貸して下さい」
二人が揃って頭を下げた姿を見た団長は真剣な眼差しを向けると、優しく肩に手を置いた。
「頭を上げろ、二人とも。ディアンは元より、嬢ちゃんにもデカい借りがある。今度はおれ達がそれを返す番だ。任せろ」
「そうですニャア。こーんなカワイイお嬢さんを野放しにしておくのも、政府のむさくるしいオッサン達や海賊どもに渡すのも勿体ないにも程がありますニャ。将来的にはワタシの店の看板娘になって欲しいぐらいですニャ」
「うんむ!ワシの見立てによれば将来1億ベリーを有に超える富を齎すじゃろう!それを犬死になど以ての外じゃ!」
「そうですね!男所帯の中で唯一の女友達なんですから!友達の頼みを無碍にはできません!」
「……策を練るぞ。時間が惜しい」
各々言い方は様々であったが、誰一人として二人の頼みを断る者はいなかった。早くも意見を出し合う彼らにフィリアが頼もしさを感じているとその肩に手を置き、ディアンは何処か誇らしげな様子で笑った。
「な?他人に期待するのも捨てたもんじゃねェだろ?」
「…うん!」
そうして二人も混じえた“フィリアをなんとかして助けよう作戦”の会議が開かれ、一日を使って意見をまとめ、団長が関係各所に手回しを行い、万全の体勢で世界政府との対面に至った。
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「……………」
…まあ、今はこうして錠に繋がれているわけだが、無論これも織り込み済みである。フィリアは自分の役目を果たすべく成り行きを見守った。
「彼女…マガラ・フィリアの身柄は我々世界政府ではなく、
「ええ、そうです。彼女を処刑するにしろ、牢に入れておくにしろ、その力を殺すような真似をするにはあまりに惜しい。彼らであれば、間違いなく彼女から益を引き出すことができるでしょう」
スーツの男─世界政府直属の組織、“
「知っているだろうが彼女は賞金首…それも3億を越える首だ。それを庇うということが何を意味するのか分かっているのかね?」
「それはもちろん把握しています。しかし彼女の辿ってきた足跡を振り返ると彼女自身は民間人に手を出すような真似は一切しておらず、これまでの被害は全て彼女の後を追うようにやって来た天廻龍によるもの。そしてその天廻龍は私の率いるキャラバンに所属している“破拳のディアン”が討伐しました。彼女の存在による危険性は取り除かれた状態であり、もし何かあっても古龍調査団の面々であれば十分対処が可能でしょう」
思考回路を疑うようにも脅しを掛けているようにも聞こえるエージェントからの問い掛けに対して団長は冷静に意見を返す。場に張り詰めた緊張感が更に強まるのを感じながらも、団長は目を細めて今度は自分から問い掛けた。
「それとも…天廻龍による被害とはまた別に、彼女が欲しい理由でもあるのですかな?」
先程までと変わらない声色で、しかしその瞳は鋭くして放った質問に対する答えが返ってくるまで、少し時間を要した。
「……我々“世界政府”は、“ハンターズギルド”を信用しきっていない。強力なモンスターの能力者や兵器を多数所持していながら我々の軍門に降らず、あまつさえ海賊─それも“四皇”に手を貸してさえいる。モンスターの相手のみに尽力しているのが現状たが…裏で何を考えているのか分からん以上、古龍種の能力者がそちらの手に渡ることについては、危険視しなければならん」
エージェントは“ハンターズギルド”という組織の危険性について言及する。強力な武具、兵器も多数所持しており、“四皇”に匹敵すると言われている実力者も在籍しており、現状組織としては“世界政府”に次ぐ勢力である。世界中で溢れているモンスターの被害も抑えているため民間人からの信用も厚く、世界政府に対して本気で牙を剥けば世界中を巻き込んだクーデターに発展しかねない。
本気で世界政府が倒せるかは置いておいて、端から見ればそれだけの影響力のある組織なのだ。その中でも有数の知見、実力者の多い“新世界古龍調査団”に古龍の力を宿したフィリアの身が渡るというのは確かに無視できない。邪推してしまうのもやむ無しと言えるだろう。
「私はギルドのトップでないので考えは答えかねますが…新世界で“四皇”と手を組むことがあるのはモンスターに対して効率的に対処するにはその方が利があります故。そちらの戦力、海軍に対しても武具や兵器の提供はしておりますのでどちらの味方というわけでもなく、時と場合によってどちらも手を組み得る相手というだけです」
「ならば我々に降らないのは何故だ?何もタダではなく破格の条件をつけたハズだが…我々が信用できないとでも?」
エージェントから感じる語気と圧の強さが更に増し、フィリアは思わず息を呑んだ。構えすら取っていないにも関わらず、喉元に刃を突きつけられているように感じた。
「それはギルドトップの意向ですので私には分かりかねます。ただ…ハンターズギルドの管轄には
「……………」
推測という形でお茶を濁すと何か思うところがあるのか黙って刺すような視線を向けていたが、ひとまず折れたのかため息をついて目を伏せた。
「……話を逸らしてしまったな。マガラ・フィリアに関しては…どうしても譲るつもりはないと?」
「無論、罪を犯した際にはそれ相応の措置を取ります。そして彼女を推したのは私とディアンなので、その時には我々もこの身体を差し出しましょう」
話を戻し、フィリアの処遇について今一度問い掛けると、団長はそれを肯定しつつも、罪を犯した際には自身も身を差し出すと躊躇なく言い切った。その声色には動揺はなく、かと言って欺瞞を述べているわけでもなく、本気で罪を被さるつもりだというのが感じられた。
「…分かった。調査団については彼女の身柄を調べて分かったこと、及びその動向は月に一度、我々に資料として提出してもらおう。我々が視察に赴いた際には必ずその姿を見せること。分かったな?」
「かしこまりました。調査団の方にも伝えておきましょう」
そうしていくつかの必要事項を話し合い、エージェント達は船に戻って去って行った。見送りに最後まで見ていたが、フィリアに対して刺すような視線が向けられなくなることは無かった。
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「─というわけで、なんとかなって何よりだな!」
「なってはないでしょ。ギリ見逃されたってだけで」
世界政府との会話後、ひとまず晴れて捕らえられることは回避したということで、ちょっとした祝いの席を開いた。とは言えあまりに騒ぎ過ぎるのは憚れるということで、キャラバンの荷車の内の一つを使って皆で菓子を食べていた。
「それにわざわざ首を差し出す必要はなかったんじゃない?意外とあっさり引き下がってたし」
「いやァそれは厳しかったと思うぞ。それらしく話してはいたが結局の所どこまで言ってもワガママなわけだからなァ。限りなく可能性はゼロに近いとは言え政府側が「それでも」つって強引に決定付けたら俺達はどうしようもなかった」
「…もしそう言われてたらどうしたの?」
「そりゃもちろん殴って海の藻屑よ」
「……つくづくそうならなくて良かったわ…」
何食わぬ表情で拳を上げたディアンの様子を見てフィリアは怒りを通り越して呆れた。ちなみに会議ではわりと早く方針は決まったのだが、政府を納得させる為に“団長とディアンが身を懸ける”ということに対してフィリアが中々首を縦に振らなかった為である。
「そう考えるとかなり綱渡りでしたニャア。むしろよく納得してもらえたもんですニャ」
「そこはやはりディアンとカシラの積み上げて来た実績じゃろうなァ。フィリア嬢も逃げ回ってこそいたがその過程で人々に危害は加えんかった。明確に付け入る隙がなかった故、向こうが取れる手段は“未来で起こり得る被害の話”ぐらいしかできん」
料理長が菓子の出来栄えを確認しながら呟くと、竜人商人は髭をイジりながら振り返る。立場こそ違えど、損得勘定に秀でた目を持つからだろうか。その言葉には確かな納得があった。
「ギルド側に関しても
「ん?ギルド側?」
団長の言葉にフィリアは少し違和感を覚えた。あの交渉の場にいたのは政府の役人とこのキャラバンに所属する人間と自分だけ。島の住人は遠巻きに離れて見ていた。特にディアンと同じようなハンターの姿を見た覚えはないし、そう言った気配も感じられなかった。
「…まァそういうわけだから、姿を見せちゃくれないか?何を企んでるわけじゃないってのは、ここ数日見てたら分かるだろう?」
フィリアの表情を見兼ねた団長は何処にいるともしれない“誰か”に向かって声を掛ける。
「━━━━━」
「!!」
キンッと、軽く金属同士がぶつかったような高い音が室内に響き渡った。その音が真後ろから聞こえたことと、
恐る恐る背後を振り返ると、そこには白銀の刃を煌めかせるナイフが落ちていた。獣、あるいは人獣型に変型すれば軽傷、ひょっとすれば弾くことも可能だろうが、素の状態で首に刺さればともすれば致命傷にもなりかねない。
「あ、ありがとう…」
「良いんだよ。それより…随分趣味が悪ィな?おい」
フィリアが狼狽えながらも礼を言うと、ディアンは威嚇するような低い声でナイフを投げた
「……そう言ってくれるな。職務上、彼女を完全に信用するわけには行かないのでな。そちらの方こそ、こちらにまた不安の種を植え付けたのだ。この程度は目を瞑ってもらおう」
するとまるで影から溶け出るように人影が姿を現した。
その者は全身を月白色の忍装束を思わせる装備で覆い、口元まで隠している為に表情の全貌は分からない。背には双剣と思われる二振りの武器を背負っていた。しかししなやかな身体でありながら装備越しに豊満な胸が確認できる為、恐らく女性であるということは推察できる。
「だからって
「“新世界古龍調査団”に所属しようと言うのだろう。ならば何時までも幼子のような状態でいられても困る」
納得の行かない様子で抗議するディアンに対して、女性のハンターは声色を変えずに淡々と言葉を返す。その態度にディアンが更に反論しようとする前に、団長が割って入った。
「こらこらやめろ味方同士で。…ルナの意見に関しては返す言葉もない。が、この子は殺されるべき子じゃなかった。…少なくとも、見捨てることはできなかった」
「いえ、決められたことであれば私は異を唱えることはありません。…が、彼女の存在がハンターズギルドと世界政府の関係にヒビを入れかねない存在である、ということは理解していただきたい。それを王立学術院の書記官であるアナタが庇うという行動の意味も」
「…肝に銘じておこう」
女性のハンター─ルナからの釘を刺す言葉に団長は覚悟を持った表情で頷く。元より簡単な道のりだと思っていたつもりはないが、より一層気合いを入れねばならないと。
「…おれに関しちゃ何も無しかよ」
不貞腐れたように唇を尖らせ、苦言を呈するディアンにルナは視線だけ寄越して言った。
「お前はどれだけ言葉を尽くそうが態度を改めるつもりなどないだろう。なら私に首を刎ねられることがないよう腕を磨いておくことだな」
「言われずとも。じゃあ気ィつけて帰れよ」
ディアンからの返事は聞こえていたのかいないのか、ルナの姿は気づいた時には消えていた。
「ったく、相変わらず愛想のねェ女だな」
「…あれもハンター、なんだよね?」
ディアンが呆れてため息を吐いていると、緊張の糸が切れたフィリアが脱力しながら聞いてきた。彼女としては鋭い気配を持った存在からずっと監視されていたような感覚だったので無理もないだろう。
「ハンターでもあるが、少し違う。実力は折り紙つきだがな」
「“ギルドナイト”。ハンターズギルド直属のエージェント…謂わば先程の“
ディアンから変わるように説明してきたソフィアの言葉にフィリアは耳を傾けた。
「人類を脅かし、被害を齎すモンスターから人々を守る為の組織が“ハンターズギルド”ですが、その中にも当然規則、クエストとして斡旋されるまでに様々な行程を挟みますが、普通のハンターであれば中々請け負うことのない仕事です。そういうのは私達ギルドガールズや専門の調査員の管轄ですから」
ソフィアの言う通り、ハンター達がいかに超人染みた実力を持っていようともどうにもならないことがある。彼らがモンスターを相手にすることができているのはギルドに所属している他の人員の協力があってこそであり、クエスト一つを斡旋するにしても対象のモンスターの調査から依頼人との交渉、受注したハンターを現場まで送り届けるための運び屋など、成功させる為に様々な行程をクリアせねばならない。
故にハンターと関わる上での仕事は職種、内容に関わらず非常に優秀な人材が求められる。ショップにアイテムを卸す商人も相当な規模を持つ団体あるいは審美眼を持つ者でなければ関わることすら許されない。それ程までにハンターズギルドに掛かる責任は重いのだ。
「彼女らギルドナイトはその中でも最上位の任務が任されます。世界政府加盟国、それも王族からの直々の依頼やそれに伴う交渉、何がいるどころか何があるかすらも分からない未知のフィールドの調査、同じく全く未知、あるいは新種のモンスターの捕獲、そして何よりそう言った任務を
「…すごい人達なんだね」
フィリアの知るハンターのサンプルはディアンしかない為イマイチ普通のハンターのイメージが掴めていないが、ソフィアの言ったことから凄まじい実力者であることは分かる。彼女─ルナもそうであるようだがあれと同格の人間があと11人もいるというのは恐ろしい話だ。
「まァそんなすげえハンター達だがアイツらにはもう一つ、任される仕事がある」
今まで黙って話を聞いていたディアンが菓子をつまみながら徐に話に入って来た。真剣というわけでもないがどこか圧を感じる表情にフィリアは思わず背筋を伸ばした。
「さっきソフィアがハンターの間にも規則があるつってたろ?おれ達ハンターはモンスターを狩るのが仕事だが、それは原則クエスト化されている、あるいは被害を齎すと判断された場合だけだ。何もしてないモンスターまで狩るような真似は基本的に許されちゃいない」
ディアンほハンターの規則を語った。基本的に人間よりもずっと強く逞しいモンスター達だが一々自らの都合で喧嘩を売って怒らせるような真似をしていてはキリがない。故に原則としてクエスト化しているモンスター、あるいはそのクエスト中に乱入したモンスターのみ、狩猟が許可されている。
「他にも色々と規則はあるんだが…もしこれを破って悪戯にモンスターを独断で狩猟─謂わば密猟を繰り返した場合、そのハンターは
「え…」
フィリアの想像していた言葉とは少し違う言い回しをしたディアンに対して呆気にとられた呟きを漏らした。
「失踪ってどういう…」
「そのまんまの意味だよ。いつの間にか姿さえ見なくなる。ただ…そのハンターのことを聞いたりしても、ギルドは捜索したりはしない。この時点でまァ想像はできるだろ」
「…なるほど」
直接的なことは言わなかったがそこまで聞けば流石に分かる。
独断での狩猟を繰り返せば恐らくギルドナイトに消されるのだろう。後始末に関してはどうにでもなる。永久凍土や火山地帯、何者も寄り付かない海原にモンスターは肉食であれば人間など構わず喰らう。故に真面目に探したとして死体も見つかるハズもない。
「ていうかそんな人にあんな口聞いて大丈夫なの?」
「流石に少し口が悪い程度で手出して来るほど短気じゃねェよ。ハンターズギルドは“ルールが厳しい”わけじゃなくて“ルールを破った奴に厳しい”だけだからな」
そんな躊躇なく人を殺せる堅物にかなり横柄な態度で接していたことを思い出し、秘密裏に消されるのではと心配するが、その点に関しては特に問題ないとのこと。
「ギルド側としてもハンター達は実力問わず大事な戦力なので、殺さなくて良いならそれに越したことはないんですよ。この人を消すことも…まあ可能でしょうけどそれをしてしまうと古龍に太刀打ちできる貴重なハンターが減ってしまいますから」
「おい、さもおれが負けるのが確定してるみたいな言い方するなよ」
ソフィアが念押しするように補足の言葉を掛けると、ディアンが“自分が負ける”という点に食って掛かった。それからまたやいのやいのと騒がしい空気に移っていったが、フィリアはソフィアの言葉は頭の片隅に覚えておこうと思った。
“ディアンでも敵わないような相手がいる”。ハンター全体で見ても上澄みに入るであろうディアンに優位を取れる相手は限られているだろうが、それでもゼロではないということだし、先程の説明からしてギルドナイトは真っ向勝負ではなく対象の“暗殺”を得意としているように思える。ルナに四六時中命を狙われるとなればディアンでもジリ貧になりかねない。
本人達は「気にするな」と言っていたが自分という存在の持つ意味は重いと、自身に戒めるソフィアだった。
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その後は何事もなく騒ぎ明かし、また数日街の復興を手伝いながら次の出発に向けての準備を進め、出港は1週間後となった。
「すごい船…」
フィリアは目の前に在る船の存在感に圧倒されていた。
赤い色鮮やかな船体は鯨を模したような形であり、船首にあたる頭部の口内からは巨大な螺旋状の槍─撃龍槍が顔を覗かせている。
「だろう?相棒とその弟子が協力して作り上げたんだ。今までも、そしてこれからも、おれ達の旅路を支えてくれる仲間さ」
側までやって来た団長は誇らしげに語る。実際船体を細かく観察して見ると荒波を越えてきたことが分かる傷跡がいくつか刻まれている。だが船体の維持に支障をきたすような破損は見られないし、かと言ってツギハギのような修繕の跡も見られない。大事にされているのが見て伺えた。
「そのお弟子さんは今どこに?」
「んー…2年前だったか?
「へー…」
感心と共に息を吐き、これまで荒波を越えて来たのだろう旅路を想像する。ただの船だが、なんだか見えない力を放っているようにも思えた。
「オラ、感動するのは結構だがこっちも手伝え。今日出港するようになるんだからな」
「ああ、ごめんごめん」
積荷を積んでいるディアンから声を掛けられ、出港の準備を進める二人。と同時に船の動かし方もディアンから教わった。
「フィリア嬢もモンスターの能力を宿してるだけあって力持ちですニャア。おかげで準備もサクサクですニャ」
「暇なら手伝ってくれねェかおかみさん。後輩パシリに使うとは先輩の風上にも置けねェ奴だ」
「“猫の手も借りたい”という諺があるように猫は普段働くような動物じゃないのですニャ。よって、私も料理以外で働く必要はないですニャ!」
「アンタアイルーだろうが」
既に積み込みが完了している為手頃な樽の上で準備を眺めていた料理長にぼやきながらもいつの間にか準備が完了し、いよいよ出港の時が来た。
「ああ…なんと礼を言ったら良いか…!本当にありがとうございます…!」
「いえ、完全な復興完了まで手を貸せず申し訳ない。何かあれば連絡を。すぐに駆け付けます」
そして港に集まった住民の代表者と団長が握手を交わし、他のメンバーはその光景を見守っていた。
「…本当に出ちゃって良いの?」
「まァ言いたいことは分かるけどな、おれ達にも都合や立場がある。いつまでも居座ってるわけには行かねェのよ。それに─」
そう言って向けたディアンの視線の先には、両手を振って笑顔で叫ぶ子ども達がいた。
「ありがとーにーちゃん!!!元気でねー!!!!!」
「かっこよかったー!!!!!」
「また遊びに来てー!!!!!」
「…いつまでも手助けが必要なほど、ヤワじゃねェよ。ここの人達は」
同じように手を振り返しながら呟く。子ども達だけじゃない。見える限り全ての住民達が、笑顔で大手を振っていた。その様子からは、自然と活力が溢れている。
「ほら、応えてやれよ。泣いちまうぜ?」
「え…」
フィリアがその言葉の意味を考え、また群衆達の方へ目線を向けると─
「おねえちゃーん!!!ありがとー!!!!!」
「!!」
─あの時助けた少々が礼を言いながら手を振っていた。側には母親も寄り添い、何度も礼を言いながら手を振っている。そしてよく聞いてみると、群衆から聞こえる声の中にはディアン程ではないものの、間違いなくフィリアに対する感謝の言葉も混じっていた。
その声を聞いたフィリアは両目が滲んでいくのを感じたが、それは一旦拭い去り、船から身を乗り出して叫んだ。
「どういたしましてー!!!元気でねー!!!!!」
これ以上ない笑顔と大声で応えると、更に大きな声が返ってくる。笑顔で手を振り続けるフィリアの様子を見たディアンは、安堵の表情を浮かべてポツリと呟く。
「…なんだ、まだしっかり笑えるじゃねェか」
数え切れない程の声援を受けながら、赤い鯨は空を泳ぐ。その身の上にまた一つ、新たな仲間を加えて。
目指すは“新世界”、そこで過酷な環境を生き抜き覇を競う猛者達の巣窟─“新世界古龍調査団”の拠点を。
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とある島。そこはまるで都市を思わせるきらびやかな場所であり、他の島では見られない近未来的な服装をした者達が慌ただしく行き交っている。
その島の一室、研究所のような場所で一人の男が電伝虫で誰かと話していた。
「ああ、私だ。どうした?…その事か、私に言われても
髪を鋭く後方へ撫でつけているその男は困ったような表情で言葉を返す。中性的な言葉遣いだが身体つきそのものはしっかりとしたものであり、実力者のそれであることが分かる。
「ああ、君の苦労も把握している。悪いと思っているよ……本当さ、誠心誠意ね。……それは問題ない。試作品もいくつか出来上がっている。…私の所感か?そうだな…感情的な部分を除いて言えば─」
そこで男は自信の背後へ視線を向ける。そこは壁ではなくガラス張りとなっており、巨大なゲージを思わせる。そこにいたのは─
「ある種…“禁忌”とも言える兵器だ」
「……………」
─飾り気のない白い体色、頭部から全身にかけて生えている体毛、翼も兼ねた前脚から伸びる鎖のような刃…異質な部分も多いが、チューブに繋がれたそれは間違いなく─“
しかし異常なのはそこではない。少々悪趣味な繋がれ方ではあるが、モンスターを研究するのはそう珍しい話ではない。真に異常なのは─
姿形は違えど、皆暴れることもなく不気味に俯いて沈黙している。それは眠っていると言うよりも─
その証拠とでも言うように、モンスターの首の下には“GD─”という型番のようなものが刻まれていた。
「流石に古龍やそれに匹敵する強者は荷が重いだろうが…大抵の者は一蹴できるだろう。ましてやこれが軍事的に利用されるとなると…いや、そこは今論じるべきことじゃないな」
男はそれらを横目にしつつ言葉を濁す。個人的にこの存在に対して思う所がないわけではないが、今考えるべきことじゃない。今はむしろこれらが何の滞りもなく運用できるよう守るのが仕事である。
「もう2、3ヶ月もすれば実戦投入が可能だろう。上の連中にもそう伝えてくれ……ああ、それなら何よりだ。…なんだ、まだ何かあるのか?……それは知らん。根気強く教えるのが良いだろう。それじゃあね」
ガチャリと受話器を置いて通信を切ると、一つ大きくため息を吐いてから呟く。
「“天才”、というのも…手放しに褒めて良いかは考えものだな…」
その呟きは誰にも聞かれることはなく、虚空に溶けるようにして消えた。
「……………」
否、彼のすぐ背後に鎮座していた竜は確かにその発言を聞いていた。僅かに開かれた瞳には一切の光が見られず、視線も分かりづらかったが─確かに、部屋から出て行く男を追っているようだった。
はい、今回はここまで。詰め込み過ぎた気もするけどこれぐらいしなきゃ進まない。
・フィリアちゃん
首の皮一枚で繋がった。これから居候しつつ“新世界”へ。
・ディアン
フィリアちゃん助けられてニッコリ。ちなみにもし政府がゴネたら今までの自分の功績でゴリ押し、それでもダメならガチで敵に回る気でいました。
・我らの団メンバー
ひとまず安心。全員修羅場を越えてきてるので肝っ玉が据わってる。
・ルナ
ギルドナイト所属。世界政府で言う所のCP0と同等の立ち位置。直接戦闘よりは諜報、暗躍がメインが得意だから単純な狩猟技術ならディアンの方が上かも。けどルール抜きのガチ殺し合いなら多分ルナの方が上手。
・研究所にいた男
一応ハンター(ギルドナイトではない)けど色々と多忙。一応原作主人公の内の誰かで能力者。良かったら予想してみて。
・研究所にいたモンスター達
これがオトモンちゃんですか()。原作(ワンピースの方)のアレを見るとこっちもできない道理はないよなって。禁足地関連は原作(モンハンの方)とはかなり違ってる。その辺は追々。
こんなもんかな。ワンピ原作の方は色々とゴタついてるみたいだけどこっちの方で活かせそうな要素はしっかり活かして行きたいと思います。
評価、感想もよろしければお願い致します。
それでは次回をお楽しみに。