怪獣至上主義カルト団体の偽聖女とラブコメ ~ちがう彼女はそういうのじゃないんだスゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子だけどたまに弱いところがあるから僕が支えてあげないと以下略~ 作:よよよーよ・だーだだ
僕らの目の前に再び現れた、侵略者ミレニアン謹製のミレヴィナちゃんモドキ。
そいつが言ったことを、僕は反芻する。
「交渉、だって……?」
僕が聞き返すと、ミレニアンが造り出したミレヴィナちゃんモドキはしっかり頷いていた。
「ええ、そうですとも」
そうやって返答する声もまさに本物、ミレヴィナちゃんそっくりの綺麗な美声だった。だけどどこか人工的な響きがあり、『人間味』ってやつをまったく感じさせなかった。
ミレニアンは言った。
「我々ミレニアンは知性ある霊長、冷静で理性的な存在であり、平和的な対話を重んじています。あなたと同様、無益な争いは我々とて不本意です。我々は怪獣と人間が共生できることを信じています。まずはお話を伺い、交渉し、理解し合いたいと考えています。どうか、感情を抑え、冷静に話し合いましょう」
この理知的な口振りは、無意味なエロ台詞を自動生成していただけの先ほどのミレヴィナちゃんモドキとは全然違っていた。なるほど、どうやらミレニアンは本当に僕と話がしたいらしい。
「……で、何の用だ。僕はおまえら怪獣と話したいことなんか無いぞ」
僕は冷たく突き放すのだけれど、ミレニアンの顔に浮かぶ笑みはどこか挑発的で、不気味に思えた。
不敵に微笑みながら、ミレニアンはなおも執拗に“対話”を試みてきた。
「あなたは、我々が所有している
「リソース、『対話を通じて解決』だってぇ?」
なにが“対話”だ、ふざけやがって。僕は危うくキレそうになった。拳を握りしめ、怒りを押し殺しながら努めて冷静に応えた。
「ミレヴィナちゃんをこれだけ傷つけておいて、なにが“対話”だ。ナメたこと抜かしてんじゃあねえ、このインベーダーが」
「なるほど……」
僕の反応に、ミレニアンは何やら合点が行った様子だった。どこか大仰に考え込むような仕草をとったあと、続いてこう言った。
「……サトー=キヨシさん、あなたにとってミレヴィナ=ウェルーシファは“特別な存在”なのだということを理解しました。しかし、
なんだってぇ?
怪訝に聞き返す僕に、ミレニアンはこんなことを言い出した。
「我々ミレニアンはミレヴィナ=ウェルーシファと合一を試みた結果、彼女の身体情報のみならず、記憶と意識をコピーすることに成功しました。そして分析の結果、我々は結論付けたのです。『やはり人間は愚か』だと」
……はんっ。そうやって訳知り顔で語るミレニアンの姿を、僕は鼻で笑って答えた。
「『やはり人間は愚か』? ついこないだまで海の底だかどっかに引き籠って寝てたような奴が、わかったようなクチ利いてんじゃねえよ。それに、そんなことがミレヴィナちゃんといったい何の関係がある」
僕はそう言い返すのだが、ミレニアンはなおもニコニコ笑っていた。その表情は本物のミレヴィナちゃんがいつも浮かべていた聖女スマイルだったけれど、なんだかまるで小馬鹿にしているかのように見えた。
ミレニアンは言った。
「……ああ、あなたはやはりご存じないようですね。ミレヴィナ=ウェルーシファの”本性”を」
本性? なんのことだ?
僕がそう思ったとき、ミレヴィナちゃんが声を挙げた。
「だ、だめっ……!」
その声は、切実で、痛々しいものだった。
そうやって必死に懇願するミレヴィナちゃんだったけれど、ミレニアンの奴は気にも留めない。ミレヴィナちゃんに構うことなく、ミレニアンはニコニコ微笑んだままおもむろに口を開く。
「……ねえ、サトーさん、よく聞いて。わたし、ミレヴィナ=ウェルーシファがあなたに近付いたのは、本当はあなたのためではないんですよ」
「……っ!?」
その笑顔と口調はまるで、僕が知っているミレヴィナちゃん本人そのものだった。
先ほどミレニアンはミレヴィナちゃんについて『身体情報のみならず、記憶と意識をコピーすることに成功した』と言った。さっきはハッタリだと思ったけれど、本当に“そう”なのだと思わせるものが今のミレニアンの仕草にはあった。
驚愕する僕に、聖女のような微笑を浮かべたまま、聖女のような穏やかな口調でミレニアンは語り出す。
「わたし、ミレヴィナ=ウェルーシファがあなたに近付いたのは、あなたがGフォースの帰還兵だったからです」
なんだって……?
僕は言い返そうと思ったが、滔々と語り続けるミレニアンを停めることなど出来なかった。
「あなたの心の傷? ええ、もちろん、ミレヴィナ=ウェルーシファには全部お見通しでしたよ。だからこそ、わたしはあなたを選んだ。弱くて、幼稚で、自尊心のないあなたなら、きっとわたしの思い通りに動いてくれると思いましたからね」
「そんなはずは……っ」
「元Gフォースでありながら、いざ社会へ戻ってきたら社会に馴染めない。そういう情けないあなたを利用して、陰で笑いものにして、そしてかつて自分の『村』を見捨てて逃げたGフォースの兵隊どもに報復してやりたかった。わたしは自分のトラウマから逃げて、ちっぽけでくだらない報復心を満たすために、あなたを利用しようとしていた。あなたを助けるような顔をして、実際にはあなたを弄んでいたんですよ」
「…………っ」
ミレニアンが語るその言葉の一つ一つにとてつもないリアリティがあって、まるで重い鎖が僕の心へと絡みついてくるかのようだった。
ただ黙り込むしかない僕に、ミレニアンはニコニコ微笑みながら語り続けた。
「別に驚かないでいいんですよ、サトーさん。わたし、ミレヴィナ=ウェルーシファはいつもそう。自分に都合のいい相手を見つけては利用して、優越感に浸りたがる。でも本当は誰のことだって信用していない」
「サトーさん、あなたのことはもちろん『団体』のことだって、ミレヴィナ=ウェルーシファにとっては所詮は自分の欲求を満たすための道具でしかない。日頃から聖女を演じているけれど、すべては自分が妄信する『天国』へ行くために利用しているだけ。どれだけ上辺を取り繕おうが、本当はあなたのような弱い人間を見下しているんです」
「『聖女様』? そんなものはマルメス=オオクボのプロデュースで作られた偶像、虚像に過ぎません。自分の特別な“力”を鼻にかけ『団体』のメンバーを洗脳し、彼らから金や人生を搾り取っている。彼らの信仰心を利用して、自分自身が安全であることを享受している」
「けれどそんなミレヴィナ=ウェルーシファが心の底で彼らをどう思っているか、知っていますか? 『哀れで惨めで愚劣で救いがたい、けがらわしい正真正銘のクズども』と心の底から軽蔑すらしているんですよ。本当はそういう自分自身こそ、いちばんけがらわしい詐欺師だと知っているくせに。そうですよね、“わたし”?」
水を向けられたミレヴィナちゃんの方を見れば、ミレヴィナちゃんは目を見開いたまま声一つ上げられないようだった。顔色は蒼白、完全に血の気が引いている。
……そんな反論一つできないミレヴィナちゃんの様子から、僕は確信した。ミレニアンが言ったことはきっと全部“事実”なのだろう、と。
さて、サトー=キヨシさん、とミレニアンは言葉を締めくくる。
「……これが怪獣至上主義カルトの偽聖女、ミレヴィナ=ウェルーシファです」
そして本物のミレヴィナちゃんそっくりのニコニコ聖女スマイルで、ミレニアンは勝ち誇るように僕へと告げたのだ。
「こんな愚かな人間に、はたしてそこまでの価値があるのでしょうか。我々ミレニアンと対立し、あなた自身の生命の安全を危機に曝してまで守るに値するとでも? 今後も含めて、よく熟考することをお勧めいたしますよ?……」
終わった、と思った。
もう終わりだ。わたし、ミレヴィナ=ウェルーシファの心の奥底にひた隠していた醜く歪んだ本性が、すべて赤裸々に曝け出されてしまった。ここまでやられてしまえば、流石のサトー=キヨシもわたしを見限るだろう。
……だけど一方で、どこか安堵している自分もいた。
サトー=キヨシとわたしの関係は、ずっとウソで塗り固められていたものにすぎなかった。いずれ破局するのは目に見えていたこと、それが予想より早く訪れただけ……そう思えば、傷つくことなんか何も無い。
そのとき“わたし”が、両親の声でわたしへと呼び掛けた。
「おねがい、行かないでくれ、ミレヴィナ!!」
「わたしたちを置いてゆくの、ミレヴィナ!?」
お父さん、お母さんっ……!
両親の幻影を垣間見て、わたしは思わず手を伸ばす。
「ミレヴィナちゃんっ! しっかりして!」
わたしが思わず縋り付こうとしたとき、すぐさま力強い腕に引き止められた。そしてわたしを引き止めたのがサトー=キヨシであることに気づき、すぐさま我に返る。
そんな愚かで弱いわたしを、ミレニアンは嘲笑った。
「……ほら、ごらんなさい、サトー=キヨシさん。ミレヴィナ=ウェルーシファはあなたよりも、とっくのとうに亡くしたはずの過去の幻影の方に執着しているようですね。これこそ、ミレヴィナ=ウェルーシファがあなたのことなどどうでもいいと思っている証左ではありませんか?」
そうやって冷淡に言い放つミレニアンの言葉に、わたしの心は酷く痛んだ。過去の行動が次々と蘇り、後悔と恥辱が押し寄せてくる。わたしはなんとか弁明したかったけれど、声は震え、言葉にならない。
そんな中、ミレニアンはなおも嘲笑うかのように言葉を紡ぎ続けた。
「『やはり人間は愚か』……でしたか。怪獣至上主義カルトの『団体』の連中の口癖でしたが、まさにこのミレヴィナ=ウェルーシファこそその典型例でしょう。ミレヴィナ=ウェルーシファこそ、我々ミレニアンの求める『人間と怪獣の共生』、我々の素晴らしい新世界、『
そしてミレニアンは「さあ、サトー=キヨシさん」と語り掛ける。
「いくら愚鈍なあなたでも、これでよく理解できたことでしょう。わかったら、ミレヴィナ=ウェルーシファを渡していただけますよね? 我々ミレニアンは平和主義の知的文明、暴力的手段を嫌悪します。何事もできれば平和的に対話で解決したいものです。しかし、必要とあらば……」
そう言って周りの触手を構えるミレニアン。まさに臨戦態勢、いざとなれば力ずくで目的を達するつもりのようだ。
そんな光景を目の当たりにしながら、わたしは思考を巡らせていた。
……わたし、ミレヴィナ=ウェルーシファのことはいい。『宇宙知性との合一』は元よりわたし自身が選んだ道、すべて自業自得だ。どうとでもなればいい。
けれど、サトーさん、あなただけは。
……ねえ、サトーさん。たしかに最初、わたしはあなたのことを利用しようと思っていた。一時はあなたのことを『救ってあげたい』なんて思ったりもしたけれど、それは結局あなたのことを見下していただけに過ぎなかったのかもしれない。
けれど、けれど。
ままならない人生を四苦八苦しながらそれでも一途に平和な暮らしを願い、足掻き、気高く生きようとしていたあなた。そんなあなたの姿に、わたしがいったいどれだけ救われていたか。あなたを救うつもりで、実際はわたしの方こそ救われていたのかもしれなかった。
……そのことを伝えることが叶わない。それがきっと、沢山の人を
そう悟ったとき、サトー=キヨシがゆっくりと口を開いた。
「……なあ、知ってるかい、ミレヴィナちゃん」
そして次にサトー=キヨシが発した台詞は、この場にいる誰もが予想だにしないものだったのだ。
「結束バンドのライブって、ホントマジでサイコーなんだぜ」
……は?
あまりに突拍子もない言葉だった。結束バンド、たしかサトー=キヨシが好きだと語っていた音楽バンドだ。あまりにもどうでもよかったからすっかり忘れていた。
その音楽バンドの話を、サトー=キヨシは場の空気も読まず唐突に語り出していた。バカなだけでなく、とうとう頭までおかしくなったのか?
戸惑うわたしとミレニアンに構うことなく、サトー=キヨシは話し続けた。
「ゴトー=ヒトリのギターが最高なのはモチロンだけどリョーのベースもイケてるし、ニジカちゃんのドラムも良い、キタちゃんのシャウトも最高で……」
「それが一体どうしたというんです。そんなものが……」
「うるせえ黙れタコ野郎。僕は今、ミレヴィナちゃんと話してるんだ。テメーはすっこんでろ」
口を挟もうとしたミレニアンを黙らせながら、サトー=キヨシは続けてこんなことを言い出した。
「……ねえ、ミレヴィナちゃん。君、結束バンドの生の演奏なんて観たことも聴いたこともないでしょ。今度、僕が連れて行ってあげるよ」
何を言われているのかわからないわたしに、サトー=キヨシは続けて笑いかける。その微笑みは相変わらずヘラヘラ情けなくて。
けれど誰よりも優しくて。
「結束バンドだけじゃあない、美味しいものだって、楽しいものだって、まだまだたくさんある。世の中にはさ、君の知らない素晴らしいものが、まだこんなにも、こーんなにも、こぉーんなにもっ! たーっくさん、あるんだぜ!!」
だからさぁ。
サトー=キヨシはわたしの手を取って、真っ直ぐ向き合いながら言った。
「『天国』なんか行かないでよ、ミレヴィナちゃん。君も独りぼっちで置いていかれて寂しかったんだろ。僕もそうだ。君だけ勝手に『天国』なんかに行っちゃったら、そしてそのまま置いていかれたりしたら、僕も寂しいよ」
「…………。」
そう言ってわたしを見つめるサトー=キヨシ。真っ直ぐ揺るぎなくこちらを見つめるその視線、その言葉。わたしは何も答えることが出来なかった。
それからサトー=キヨシは、ミレニアンの方へと振り返った。その目線はいつものだらしないヘラヘラした笑顔なんかじゃない。
「……やい、ミレニアン。おまえらがドコのドチラサマなんだか知らないけどな」
サトー=キヨシは、怒りに満ちた表情でミレニアンを睨みつけながら、断固とした口調で言い放った。
「おまえらなんてどうせ、ミレヴィナちゃんが本当はどんな人かなんてちっとも知らないし、ちっとも興味が無いんだろう。その程度で人ひとり“わかった”つもりになれるなんて、おまえら御自慢の『高次元宇宙知性』とやらもゼェーンゼン大したことないな? まるでネットの評判だけググって作品そのものを観たつもりになってる、通なオタク気取りのクソニワカ野郎みてーだぜ」
「なんだと……?」
人間らしい情緒までコピーした様子のミレニアンは苛ついたように表情を歪めたが、構うことなくサトー=キヨシは続けた。
「いいか、ミレニアン。コミケの特殊性癖エロ同人にしか出番のなさそうな、卑猥なスライムイカタコ淫獣触手の、薄汚い人でなしのバケモノめ。おまえらみたいなクソ野郎に、ミレヴィナちゃんの何がわかる。『怪獣至上主義カルトの偽聖女』だあ? いいや、ちがう、彼女はそういうのじゃないんだ」
「なにを言って……?」
理解しかねている様子のミレニアンに、サトー=キヨシははっきり力を込めて言った。
「ミレヴィナちゃんはなぁ、スゴく優しいし誰にでも笑顔の善い子なんだ。だけどたまに弱いところもあるから、僕みたいな奴が支えてあげないといけないんだ」
……まるで悪い女に騙されたバカな男が口にするような、アホでマヌケの戯れ言だった。
けれどそれらを口にしているとき、サトー=キヨシの表情には何の
「なにを言っている……意味不明……理解できない……」
「ふっふっふっ……わかんねーよなあ〜、わっかんねーだろ〜な〜、おまえらみたいな奴らには」
いいか、耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ。
サトー=キヨシは、ミレニアンへ言い放った。
「世界はそれを『愛』と呼ぶんだぜ」
言うや否や、サトー=キヨシはプラズマカッターの銃口を構え、ミレニアンめがけて銃爪を引いた。
あまりに素早い動きで、ミレニアンは咄嗟に反応できなかった。高温高圧のプラズマ光刃が空気を裂きながら射出されてゆきミレニアンの
「ごぶっ……!!」
さらにサトー=キヨシは、首を刎ね飛ばされたミレニアンめがけてプラズマカッターを連射した。鋭利な風切り音とともに空中で閃く、プラズマ光刃の斬撃。瞬く間にミレニアンの触手や手足が千切れ飛び、胴が切り裂かれ、バラバラになって崩れ落ちる。
ミレニアンを八つ裂きにしたのと同時、サトー=キヨシはわたしの手を掴んだ。
「さあ、行こうっ、ミレヴィナちゃんっ!」
「で、でも……ぐっ!?」
そうやってサトー=キヨシはわたしのことを立ち上がらせようとしたが、わたしは上手く立ち上がれないことに気づいた。
「あ、足が……っ」
ミレニアンと同化していた影響だろうか、足が痺れて力が入らない。これではここから逃げ出すことなど無理だろう。
そんな中、わたしは口を開いた。
「……逃げてください、サトーさん」
「えっ、でも、それだとミレヴィナちゃんが……」
……本当にバカな人だ。ここでどうすべきか、正解なんてわかりきってるだろうに。
なおもまごついているサトー=キヨシ、わたしはその手を振り払い、敢えて冷たい口調で告げた。
「……わたしは、あなたを騙していたんですよ? しかもあなたの心を勝手に盗み見て、見下して、バカにして、あなたの好意を食い物にすらしていました。ミレニアンの言うとおりですよ。こんなけがらわしい女、助けるに値しないでしょう?」
それは告解だった。
溢れ出るかのように止め処ない、わたしの言葉。一度吐き出し始めると、もはや止まらなかった。
わたしは潤んで震える声で喋り続けた。
「しかも怪獣を呼べば『天国』に行けるだなんて勝手に思い込んで、カルト団体でおだてられて調子に乗って、挙句の果てにこんなおぞましい怪獣まで呼び出して。完全に自業自得じゃないですか。放っておけばいいじゃないですか。こんなイカレたカルト思想の女なんか!」
……わたしだってわかってはいたのだ。わたしがいったいどれだけ愚かで、赦しがたく、そして罪深いか。
わたしの視界が滲んでいるのは、きっとわたしの目から涙が溢れているからだろう。本当はわたしにここで泣いていい資格なんかないのに。
わたしはいつからか声を張り上げていた。
「おまけにわたしは怪獣至上主義カルトの偽聖女で、薄汚い詐欺師と組んで、数え切れないほど沢山の人の心を操って、弄んで、不幸にしてきたんです! それから、それからっ……!!」
「もういいよ、ミレヴィナちゃん」
けれど、サトー=キヨシは途中で遮った。どうして、なぜ遮るの。わたしが見上げたその顔は、遠くの方を見つめていた。
「……僕、バカだからさ。そういうの忘れちゃったよ」
わたしの罪を事も無げに流したあと、ゆっくり振り返る。
「誰にも言えないことくらい、誰だってあるよ。誰だって自分がいちばん可愛いよ。ズルいことをするときや、間違ったことをするとき、悪いことをしちゃうときだってきっとあるよ」
「けど、けれどっ……!」
「だから君もいいんだよ、ミレヴィナちゃん」
「…………っ」
その顔に、穏やかで優しい微笑みを浮かべているサトー=キヨシ。そんな彼から向けられた言葉に、わたしはもはや何も言い返せなかった。
それとさ、とサトー=キヨシは付け加える。
「これは僕が昔世話になった人が、よく言ってたことなんだけどさ」
ここでいったん言葉を区切ったあと、サトー=キヨシはまるでカッコいい決め台詞でも口にするかのように自信満々、得意気な笑みを浮かべて言った。
「人間ってのは、諦められないことがあるから生きていけるんだぜ」
……よく考えてみると何を言っているのか意味がさっぱりわからない台詞だったが、なぜか物凄く説得力があった。
そしてサトー=キヨシは、わたしに考える余裕など与えなかった。
「はいちょっくらごめんよっ!」
「きゃっ!?」
わたしが呆気にとられた隙をつき、サトー=キヨシはわたしの身体を素早く抱き上げる。片腕はわたしの背に、もう片方の腕は下半身に回して支える横抱きの姿勢。
いわゆる『お姫様抱っこ』だ。
「ちょ、ちょっと、サトーさん……っ!?」
「ちょっとだけ我慢しててねっ!」
あられもない格好でわたしは思わず声を挙げてしまったけれど、サトー=キヨシは気にも留めなかった。そのまま真っ直ぐ走ってゆき、傍に停めてあったホバートライクの後部席へわたしをそっと降ろす。
それからサトー=キヨシはホバートライクにまたがり、発進準備を進めながら、ホバートライクのコンソールに向かって声をかける。
「オムライザー、ミレヴィナちゃんは足腰が弱ってるみたいだ。このまま落とさず飛べるか?」
「もちろんですとも、サトー元曹長!」
AIがそう応えた途端、ホバートライクの後部席からアームが複数本伸びてきて、わたしの腰から下をがっちりと固定した。
「“要救助者モード”を設定、後部席の女性の御身体を固定しました~!」
「グッジョブだぜ、オムライザー!」
「ただし完璧ではありませんので、女性の方の協力も必要です。女性の方、御手数ですが、両腕をサトー元曹長の身体へ回していただけますか?」
……つまり、『サトー=キヨシへ抱きつけ』と言っているんだろうか。流石のわたしも一瞬躊躇した。
「し、しかし……」
「急いでください、時間がありません! さあ、ハグを! 精一杯に心を込めて、全力で抱き締めてください! ハリーハリー!!」
「は、はいっ……!」
あまりの剣幕で言われるものだから、ついわたしも押し切られてしまった。
AIから言われるがままわたしは両腕をサトー=キヨシの身体に回し、上半身をすり寄せ、サトー=キヨシの背へとその身を預ける。
……この人の背中、こんなに大きかったんだ。内心でちょっと驚く。
「こ、こうですか……?」
「はい、オーケーです!」
わたしがしっかりしがみついたのを確認すると、オムライザーと呼ばれたAIは揚々と言った。
「では発進します!」
「オーライ! エンジン全力全開だッ、ブッ飛ばせオムライザー!」
「了解~!」
そしてホバートライクは急発進、プラズマジェットエンジンを吹かしながらシティセンタービルの屋上を駆け抜け、空高くへと飛び立つ。
去り際、切り落とされたミレニアンの生首が呻くように言葉を発しているのが聞こえた。
「交渉……決裂…………」
タイトルはサンボマスターの楽曲『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』から。
好きなキャラクター
-
サトー=キヨシ
-
ミレヴィナ=ウェルーシファ
-
シンジョウ=コージ
-
サエグサ=ミキ
-
マルメス=オオクボ
-
シキシマ=コウイチ
-
ユウキ=アキラ
-
ミレニアン
-
ゴジラ=スカーフェイス
-
オムライザー
-
弁護士
-
マリ=カエラ