限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです   作:蒼魚二三

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第17話 おじさん、湿布の人と校外のビーチで再会する

 副会長と私は気まずい雰囲気のまま、校外にある大きな白い階段を降りて砂浜に出た。この人工島がリゾート地として建造された頃の名残である。

 

「わ、わぁ、びっくりするくらいに白い砂浜ですねー」

「ああ。聖ソレイユ女学院の支援者の中には、エモ力を利用した自然環境の改善を行なっている企業があるんだ。だからこのビーチは砂質も水質も、南国のリゾート地とほぼ同等まできれいになっている」

「エモ力ってすごいですねぇ」

「応用出来る企業も凄いんだぞ、夜見」

「は、はい」

 

 サクサクと砂浜を歩いて、『海の家』と書かれた綺麗なお店のテラスに出た。

 ビーチパラソル近くのサンベッドでは、サングラス姿のマスクさんが昼寝していて、どうして制服を脱がないんだろうと疑問に思った。

 

「赤城、起きろ」

「ふあ」

 

 副会長さんに起こされたマスクさんは、サングラス越しに相手を見る。

 とても残念そうな目をしていたと思う。

 

「こんにちは陽子(ようこ)ちゃん。会長は元気?」

「しっ、ししし下の名前で呼ぶな! 苗字か役職で呼べといつも言っているだろう!」

「ふふ、つれないなぁ。じゃあ場所を変えよっか」

 

 パチン。

 マスクさんが指を鳴らした瞬間、周囲の景色が白い砂浜のビーチサイドから、木製でシックな雰囲気のどこかの店内に切り替わった。

 

「なにモル!?」

「どこですかここ!?」

「夜見落ち着け。これは赤城の魔法少女としての力、自動転送魔法(オートテレポート)だ」

「オートテレポート!?」

 

 私やダント氏はびっくりしすぎて店内で叫んでしまうも、副会長は冷静だった。

 

「ここは……市内のデミグラッセか? 梢千代店だな? 赤城」

「うん、そーです。みんなで食事したいのでセッティングしてました」

「みんなとは誰だ?」

「1000エモ以上出した子」

「……彼女たちの担任はお前だけじゃないんだぞ、赤城」

「お誘いは出しました」

「な、なら、良いが」

 

 副会長はしぶしぶ納得したようだ。

 

「それで赤城。君の生徒の件だが」

「あ、すいませーん。予約してた赤城ですー」

『いらっしゃいませ、あちらの席へどうぞー』

「はーいっ」

「こら、赤城……! 私は誘われてない!」

「副会長の分も予約してるよ」

「えっ……?」

「ふはは、私は未来が見えるのだ」

「っ、変なことを言うのはよせ。席を多めに取っていただけだろう」

「君を仲間はずれになんてしないから。こっちにおいで」

「ああ、もう……」

「ほら新入生ちゃんもおいでー」

「は、はいっ!」

 

 マスクさん改め赤城さんは、副会長の手を引いて窓際のテーブル席に向かい、私たちも慌てて続いた。みんな席につくと副会長が指示を出す。

 

「はぁ、仕方ない。夜見、会長からの手紙を渡してくれ」

「あ、はい」

「手紙? なにそれー」

 

 私は会長からの手紙を渡した。

 サングラスを外した赤城さんは、開封してじっくり読み、

 

「ふふっ、会長のいじわる」

 

 手紙を折りたたんで胸ポケットに入れ、笑顔を向けてくれた。

 機嫌が直ったようで良かった。

 

「で、担任になるのはいいけど、方針とかある?」

「協力に感謝する。方針は……まぁ、マイルドに教育してやってくれ」

「しょうがないなぁ、会長の頼みだし。分かった任せて」

「頼む」

 

 頭を下げた副会長を見て、私も慌てて頭を下げた。

 

「もーヨーコちゃん硬いよー。私とあなたの仲じゃーん」

「うううっ、全部昔の話だ! とにかく、夜見の教育は任せた! 私はまだ仕事があるから戻る! ではなっ!」

 

 とても不機嫌になった副会長が、ぷりぷり、ぷんぷんとこの場から去っていった。

 マスクさんはくすっと笑って、ソファーにもたれ掛かる。

 

「ああいうとこ可愛いのになぁー。普段から見せてくれればいいのに」

「あ、あの!」

「どしたの新入生ちゃん」

「出会った時から気にかけてくれて、担任の先生にまでなってくれてありがとうございます! たくさん学ばせてもらいます!」

「君も硬いねぇ。でも、いい顔だね」

「がんばりますっ!」

「おー、いい返事。ま、それよりもだよ」

「はい?」

「もうお昼は過ぎておやつ時じゃん? 夜見ちゃん、今朝から忙しくて大変だったよね? 丁度いい機会だし、初顔合わせのパーティーも兼ねて一緒にご飯食べよっ?」

「はいっ!」

 

 私と赤城さんはデミグラッセで昼食を取ることにした。

 全員でメニューとにらめっこする。

 

「何食べますかダントさん」

「お子様ハンバーグプレートがいいモル」

「ん、聖獣用メニューで頼まないの?」

「飼われてるような気分になるから嫌なんだモル」

「へぇ、私の子と似てるね」

「似てる、とはどういう意味モル?」

「私の聖獣は何も食べないで過ごしてるんだ」

「あわわわ」

 

 そう聞いたとたん、ダント氏は私の影に隠れた。

 

「どうしたんですか?」

「す、凄い領域にいるお方だったモル。僕は怖いモル……」

「え? どうしてです?」

「このお方の聖獣様は、エモ力だけで生きている最上級の聖獣様なんだモル」

「会社で例えるなら?」

「重役。しかも社外取締役級だモル」

「なるほどそれで魔王様!」

 

 私はようやく異名の意味を理解した。

 赤城さんはにっこりと微笑んで、私の手を握った。

 

「やぁ新入社員くん。私が社外取締役の赤城だ」

「ハッ、ハッ、ハァッ――」

「え、え?」

 

 トラウマ級のクソ人事がフラッシュバックして過呼吸に陥ってしまう私。

 でも、ダント氏が耳元で『平社員の声を重視し、社内改善に取り組んでくれる良い役員さんモル。味方だモル』と必死に唱え続けてくれたおかげで、数十秒後には復活できた。

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