限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです   作:蒼魚二三

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第18話 おじさん、知り合ったみんなと仲良くなる

「夜見ちゃん大丈夫? しんどくない?」

「じつはまるまるしかじかで」

「……あー、引き取ってくれたおじさんの死因が自殺だから……か」

「さっきは驚かせてすみません」

「いや、私もごめん。これから気をつけるよ」

 

 重い事情があると知った赤城さんは深く頭を下げてくれた。

 

「よし、気分を切り替えるためにドリンクバーで遊ぶモル!」

「おー!」

「うわお、思ってたよりもストイックだね夜見ちゃん」

「あはは、辛いことには慣れてるんで」

「っ、ごめんね……しんどくなったらいつでも私の胸に飛び込んでおいでね……っ」

 

 目元を抑えた赤城さんが肩に手を置いた。

 とても同情させてしまったようだ。

 この重い空気を振り払うには……

 

「じゃ、じゃあ、自己紹介しましょうよ」

「自己紹介?」

「いえ、お互いのことは知ってますけど、お互いの口で自分を紹介しあってないじゃないですか」

「待って」

「はい」

 

 赤城さんは大きく深呼吸してからこう言い放った。

 

「……それもうセッ○スのお誘いじゃん」

「えええ!? どどど、どうしてそうなるんですか!?」

「婚前交渉、てきな? うちらで自分から名前を名乗り合うタイミングってそれくらいしかないよ?」

「私の知らない新常識……!」

「んー、だからね、相手の名前を知る時は先生に聞かなきゃダメだよ? こういう風に直接聞いちゃダメ」

「えっでも、どうしてなんですか?」

 

 赤城さんはとんとんと頭を指さした。

 考えてみなさい、ということだろうか。

 少し考えても分からず、首を傾げると答えてくれる。

 

「ほら、華族制。そのせいで身分差の恋とか起きやすくて、名前を知ったら絶対にどっちかが遠慮して身を引いちゃうの。だから名前は絶対に聞かないし喋らない、っていう暗黙のルールがあるんだ」

「い、意外と重いご家庭の事情があったんですね……」

「そうそう。他にも、まだそんなに仲良くない時はチャームポイントで呼び合うっていうルールもあるんだ。そういう子を名前呼びでからかうと、すぐに顔が真っ赤になるから可愛くて、良いんだよねー」

「赤城さんって女たらしって言われません?」

「女学院の子が初すぎるだけだよ。ま、みんな幼稚園の頃からそういう環境で育ってるからだけどね」

「どうし――」

 

 また頭を指でとんとん、となされた。

 考えて、今度は答えらしき結論にたどり着いた。

 

「もしかして聖ソレイユ女学院の幼稚園だから?」

「うわお……正解。まだ中等部の一年生なのにすごいね」

「そ、そうですか? えへへ」

「うん。すごいよ君。君さ、やっぱり赤陣営に入りなよ。時代が君を必要としてる」

「うう……んー……」

「まぁそう悩まないで。学校の校則でね、入学して一年くらいはフリーランスだからさ、いろんな陣営に入って、その特色を肌で感じてみなよ。勉強になるから」

「でも……」

「だったらこう言います。先生からの課題です」

「……現場を体験してきなさい、ということでしょうか」

「そういうことです。一学期のうちに紺・緑・赤、三つの陣営に必ず一度は入りなさい。金銀紫への加入はそのあとです」

「なら、しょうがないですね……はぁ……」

「よろしい」

 

 少し憂鬱になったけども、赤城さんは先生なので指示に従おう。

 

「それでドリンクバーで遊ばないモル?」

「「遊ぶー!」」

「遊ぶなっ。お店に迷惑をかけてはいけませんわよ」

 

 ポカッ、と殴ってきたのは、赤い髪の女学生だった。

 私や赤城さんと同じか、少し低いくらいの身長で、赤い腕章から上級生だと分かる。

 

「どなた?」

「どなたとは失礼ね! あなたが呼んだんでしょう赤城先輩!」

 

 相手は怒って頬を膨らませた。

 私も見覚えがなかったが、聖獣がゴールデンハムスターなのを見てふと思い至る。

 

「あ。もしかしてジャンガリアンハムスターの子のお姉ちゃんですか?」

「せめて3000エモーションを記録した子の姉と呼んでくださいまし!」

『――ハムスターの子の姉で覚えられてるのウケるのだ。笑』

「人の聖獣を笑うな!」

 

 ハムスター先輩の背後にゲンコツが飛び、ゴッ、と鈍い音が立つ。

 すると誰も居なかった場所からスゥ、と黒髪にブルーのメッシュが入った緑腕章の先輩が姿を表し、鼻血を吹いて後ろに倒れ込んだ。

 

「暴力……反対……のだ」

「あっ、ごめんなさいまし。つい癖で。オホホ」

「自業自得ではあるよね。私は思ったけど言わなかった」

 

 ガッ、ギリリリ……

「思考が声に出てましてよ赤城先輩……」

「ぐるぢい……」

「あわわ」

 

 胸ぐらを掴まれて持ち上げられる赤城さん。

 私は見ていることしか出来なかった。

 

「全く、顔を合わせたらすぐこれだ」

「あ、ああ! 副会長さん!」

 

 そこに現れた救世主が銀腕章の副会長だった。

 後ろには魔力テストで1000越えを達成した同級生が揃い踏みだ。

 

「たすけて副会長さん!」

「待ってろ夜見、すぐに収める」

 

 副会長は有言実行し、あっという間に二人を制した。

 

「貴様らあとで反省文だ」

「理不尽、ですわ……」

「同感」

 

 紫腕章の赤城さんと赤のハムスター先輩は静かになる。

 

「ふふん、吾輩を殴るからこうなるのだ」

「どうして偉そうにしている緑。貴様もだぞ」

「なんでぇ!?」

「喧嘩両成敗を知らんのか」

「鬼ぃ!」

 

 最後に副会長は喧嘩両成敗を地で行く人なんだ、と私はほんのりとした恐怖を知った。

 

「それはともかくだ。パーティーを開くんだろう? 赤城」

「うん」

「お前が望む参加者を集めてきた。好きに楽しめ」

「ふふっ、うんっ……!」

 

 タッ――とっとっとっ、ぎゅっ。

「ね、副会長も一緒に混ざってくれるよね?」

「な、なななな……ぁぅ」

 

 赤城さんは満面の笑みを浮かべて副会長に抱きつき、耳元ささやきボイスで一撃ノックアウトしていた。エモーショナルエネルギーが力の源の魔法少女たちは、もしかしたら恋愛に弱い生き物なのかもしれない。

 

「夜見さん、訂正したいことがあるモル」

「はい」

「あれがいわゆる『本物』の女たらしモル」

「私もそう思います」

 

 なにはともあれ、赤城さんの開いた1000エモオーバー限定の親睦会は始まる。

 私は先輩方の情事から目を背け、同級生との交流にシフトすることにした。

 

「こ、こんにちはー」

「こんにちは。また会えたなぁあんたはん」

「同じく。というかそのグレーの腕章、何で付けてるのよ。教えなさい」

「あはは、噂通りだよ。知らない?」

「そ、そうなら……ほんとは凄かったのね、あなた」

「あんな? いちごはん、その噂で怖がったはるから優しゅうしてあげてな?」

「べべつにそんなことないわよ!? というか1500を略してイチゴーって呼ぶなぁ!」

「あはは。いちごちゃん、いいですね。私もそう呼ぼうかな?」

「もぅっ! ばかっ!」

 

 黒髪の子とおさげの子は、朝方のしがらみが解けたように普通に接してくれる。

 ただ、その、仕草とかがほのかに色っぽい気がする。

 流石に意識されてるようだ。

 

「あ、あの」

「ごきげんよう有名人さん」

 

 すると様子を伺っていた二人も話に入ってくる。

 

「こんにちは」

「……っ、こ、こんにちは」

「先に言うわ。私のことはサンデーと呼びなさい」

「はい、サンデーさん。ちなみに由来は?」

「ヒーローネームの一部よ。理由はチャームポイントが姉と被ってるから」

「ああ、確かにそうですね」

「それで、貴方のニックネームはなにになるのかしら?」

「うーん……」

 

 考えていると、代表生が手を挙げた。

 

「あの、私は、ミロで、良いです」

「ミロ?」

「この子のエモ値、3600なのよ」

「ああー」

 

 エモ値でニックネームを決めるの良いな。

 でももう、私って学院中で有名だし気にしなくていいや。

 

「私はニックネーム無しで良いですよ。夜見って呼んでください」

「え、本当に良いの? 本名でしょう?」

「はい。気軽に呼んでください」

「……分かったわ、夜見さん」

「よろしくですサンデーさん」

「夜見はーん?」

「はーい」

「緑茶取ってきてー」

「いいですよー」

「いや流されてるんじゃないわよ」

 

 いちごちゃんにビシっと突っ込まれる。

 関西方面の出自らしきおさげちゃんは、やるやん、と唸った。

 

「あはは」

「ふふっ」

 

 それが面白くて、堪えていた感情を開放するように、みんなで楽しく笑った。

 

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