保健室の先生曰く、敵に奪われたのは『ダミーマリオネット』という争奪戦用の操り人形らしい。
無人兵器に転用出来ることから、テロリストが強奪しに来たのだろう、とのこと。
「だから他の先生はみんな無事よ。君はベッドで休んでなさい」
「はい先生」
今の私は、体が回復するまで保健室のベッドで休むことになっている。
その間あまりにも青メッシュ先輩が懐いてくるので、保健室の先生からは、もはや恋人と同義に見られていた。
「まるで引っ付き虫ですね先輩」
「吾輩、君と結婚したいのだ。君となら一生無双出来るのだ」
「もーワガママまで言っちゃって――」
「失礼します! ここに緑陣営のリーダーが居ると聞いて回収しに来ました!」
「げぇ! ヒスイくん!」
保健室に入ってきたのは、入学式で見た緑髪の先輩だった。
「あ、どうも」
「後輩ちゃんごめんね、リーダーが迷惑かけちゃって。これから連れて帰るから」
「うわあああ嫌なのだあああああ――――」
しかし青メッシュ先輩は抵抗虚しく、ヒスイという名の先輩に回収されていった。
代わりに帰ってきたのがダント氏だった。
「夜見さんただいまモル! 成功したモル!」
「流石ですダントさん!」
ハイタッチしたあと、お互いの事情を知る。
「一年生は一時的にシェルターに」
「そうモル。なんでも、アクアラインに繋がる閉鎖された道路付近だとか」
「安全なんですか? そこ」
「赤陣営のリーダーさんが言うには安全らしいモル。理由はそこに副会長と会長が居るからだって」
「安全なのかなぁ」
生徒会の強さを詳しく知らない私には疑問だった。
「それで敵の状況とかは?」
「貴方が知る必要はありませんわ、夜見さん」
会話に割り込んできたのは、赤腕章で赤髪、聖獣がゴールデンハムスターの先輩だった。後ろには魔法少女に変身した先輩方が続いている。
「あ、どうも先輩」
「いいえ、お礼を言うのはこちらですわ。貴方の活躍があったから、中等部生を全員シェルターに収容出来ましたの」
「いえいえ。それで知る必要はない、とは」
赤髪の先輩はスッと青い鍵を差し出した。
「このままシェルターに向かいなさい英雄ちゃん。そこで皆を守りなさい」
「生徒会長と副会長がいるから大丈夫だと聞きましたが」
「いいから。これはゲームじゃありませんの。あとは私たちに任せなさい」
「んー……」
私はあえてこう聞いた。
「聞きたいんですけど、絶対に勝てます?」
「当然よ」
「一人も残さずに倒せますか?」
「余裕よ」
「だったら任せますね、戦うのは」
「いい子……なんですって?」
「私はマジカルステッキを奪還しますので、先輩たちは正面から敵を叩いて下さい。それだけ強く言い切れるなら出来ると思います」
「なっ……ななっ」
その発言に、ハムスター先輩は真っ赤になって怒った。
「遊びじゃないって言ってるでしょう!? 実戦経験もないのに! 変身も出来ないのに! 死にたいの!?」
「先輩、はっきり言います。実戦経験が無いからここで積むんですよ」
「相手は実銃で貴方は生身なのよ!?」
「だから何だって言うんですか? まだ役に立てるこの状況で、大人しく指を
「それは……」
「良いですか先輩。私だって魔法少女なんです。中等部だからって舐めないで下さい」
「ッ……」
そうして論破しきると、相手は涙目になってしまった。
「そ、そんなに、強く言わなくても……ふぇぇ」
「あ、あれ……?」
「可憐《かれん》ちゃん、変わって」
「うん……」
すると会話相手が別の先輩に切り替わった。
「ど、どういう事ですか?」
「あの子、びっくりするぐらい小心者なのよ。だから強い言葉を使いがちで、さっきのは意訳すると『戦い続きで疲れてるでしょ? 少しシェルターで休むと良いよ』っていう意味なの」
「意訳が優しすぎる」
「でも、その様子だとまだ大丈夫そうね。頑張って」
「は、はい! 頑張ります!」
グッとガッツポーズすると、ぽんぽんと頭を撫でられる。
ドクンッ、グラッ――
「あ、れ」
「でもごめんね。まだ寝てなさい――」
その瞬間、私の意識はブラックアウトした。
◇
「――はん、夜見はん!」
「ん……」
目が覚めると、私は暗い場所にいた。
周囲からは同年代らしき少女の声が聞こえる。
「ここは……ぐぅッ……!」
体を起こそうとして、酷い頭痛に悩まされた。
ずきんずきんと波打つような痛みから、片頭痛だと悟った。
「あかんて! まだゆっくりしとき!」
「うん」
私は言われるがままに体を寝かせ、枕に頭を乗せた。
ここはベッドの上で、腕には点滴の針が刺さっていた。
スタンドには栄養剤がぶら下がっている。
「夜見さん、大丈夫モル……?」
「この声、ダントさんですか」
「はいモル。夜見さん。どうやらギフテッドアクセルの制限超過起動、いわゆるリミットブレイクで、脳に負荷が掛かっていたみたいモル」
「そうですか。ここはシェルターですか?」
「合ってるモル」
「では、今は学校が占拠されてからどれくらいですか?」
「かれこれ半日くらい経過したモル」
「何時間気を失ってました?」
「だいたい半日モル」
「過労かなぁ」
諦めのため息をつく。
しばらく動けないと知ったからだ。
「ダントさん、どこに?」
「ダントはんはそこに居るやろ?」
指さされた方角を見ると、オレンジのモルモットが浮いていた。
目が霞んでいて見えていなかっただけらしい。
「何か思いついたモル?」
「はは、いや、ついに敵と同じように見えなくなったのかと思って」
「よ、夜見さんはそんなことにはならないモル! 敵みたいに見たいものしか見ない人間じゃないモル!」
「見たいものしか見ない、か。はは、気をつけないといけませんね……」
「夜見はん?」
「すみません、疲れたので寝ます……」
「ゆっくり休みよし」
私はどっと押し寄せてきた疲労感には勝てず、再び眠り込んでしまった。