限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです   作:蒼魚二三

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第28話 おじさん、女学院にバス通学する

 家に帰ったら執事さんが心底驚いていたので、事情を説明したら『さらに強固なセキュリティに変更致します』と言ってくれた。

 私とダント氏はそのまま寝室に向かって、ベッドに倒れ込んだ。

 

 ピピピピ。ピピ――

 それから数時間後の目覚ましの音と、眩しい朝日で目が覚めた。

 

「おはようモル……」

「おはようダントさん……」

 

 もう二度と窓の鍵を開けたまま寝ない。

 

 

「昨日は散々だったモル。もはや災害モル」

「ね。今日こそ幸運だと良いですねー」

 

 朝食や寝癖直しなど、諸々の身支度を終えて制服に着替えた。

 玄関で靴を履いていると執事さんがこう問いかける。

 

「ライナ様。送迎車でなくて本当によろしいのですか?」

「はい。昨日のことはともかく、やっぱり色んな人と出会うのは楽しみですので」

「畏まりました。ああ、生徒手帳は送迎バスの定期券になっておりますので、くれぐれも無くさないようお気をつけ下さい」

「気をつけます」

 

 無くさないように注意しよう。

 するとまだ眠そうな義妹、遙華ちゃんがトコトコと玄関に来た。

 

「おねーちゃん、もうがっこう?」

「そうだよ。遙華ちゃんは幼稚園かな?」

「うん! あのね、おねーちゃんがよかったらね、あそびにきてほしいの」

「どこにあるのかな?」

「このお家のちかくだよ! なまえはねー、わかば幼稚園だよ!」

「分かった。今日の学校が終わったら遊びに行くね」

「えへへ、うんっ!」

「じゃ、行ってきます」

「いってらっしゃーい! まってうよー!」

 

 大事な約束も交わしたので、今日一日を乗り切る気力が湧いた。

 

「とは言っても眠いモルね……」

「そうですね」

 

 私はまだ耐えられるが、ダント氏は慣れていないようだ。

 肩の上で大きくあくびをしている。

 

「自販機で眠気覚ましのコーヒーでも買いますか?」

「……ああ、丁度いい機会モルね。夜見さん。コンビニに行くモル」

「え? はい」

 

 私は市内に出ると、梢千代市限定のコンビニ『マジマート』に入った。

 そこでダント氏は店長に掛け合って手紙を受け取り、その場で開けて一枚のカードを取り出した。

 

「それは?」

「夜見さん用のデビットカードだモル」

「デビットカード」

「夜見さんはちゃんとした雇用契約を結んだ広告塔さんモルから」

「ああなるほど」

 

 とりあえず受け取って財布に収納した。

 

「もう支払われてるんですか?」

「今月の末からモル」

「つまりまだ、と」

「でも夜見さんの貯金は引き継いでるモルよ。キャッシュカードとしても使えるから確かめるモル」

「あーそれは嬉しいですね」

 

 コンビニATMで残高を確認したところ、中学生にしてはかなりの大金持ちだと知った。

 

「十数年も遊ばずに社畜してるとこんなに貯まるのか……」

「驚くような貯金額だモル」

「とりあえずコーヒー買います?」

「いや、エモーションエナジーを買って欲しいモル」

「どうして?」

「飲んでおけば夜見さんの加速についていけそうな気がするモル」

「あはは、分かりました。じゃあ買ったあとでバス停に行きますか」

 

 私はダント氏にエモエナを買ってあげたあと、コンビニ近くのバス停で待機する。

 昨日と同じ大鳥居が見える通りだ。

 

「夜見はん?」

「はい」

 

 振り向くと、茅色髪のおさげちゃんが立っていた。

 

「あんたはんもバスにしたん?」

「楽しいですからね」

「ふふ、今度は乗り遅れんように注意しぃや」

「あはは」

 

 最初は警戒してたけど、仲良くなってみるといい子だな、と思う。

 

「あ、ハンカチ返しますよ」

「もーええてー。うちが困った時に渡してぇな。律儀なんはええけど」

「なるほど。ではそうします」

「そやで? うちは気長にいつでも待ってるから」

「優しいんですね」

「人は選ぶけどなー」

 

 あはは、うふふ、という感じだが、他の女学生は私たちの会話を非常に高度な掛け合いだと勘違いし、怖がっているようで、それを見たおさげちゃんはふぅ、と諦めたように目を瞑っていた。

 

「人を選ばないといけない理由があるんですね」

「色々あんねん、うちにも」

「いつでも相談してくださいね」

「そういう優しいとこ、人につけ込まれやすいんやで?」

「でしょうね」

 

 かと言って直しようがない部分なのも事実なのだ。

 

「まぁ、欠点は誰にでもありますし、それが悪いって訳でもないと思うんですよ」

「どういうことなん?」

「だからきっと、全てに意味があることなんです」

「そらあるに決まってるやん。ふふっ、変なこと言うなぁ」

 

 二人で話していると、ようやく送迎バスが来る。

 中は昨日よりはマシだが、それでも女学生ばかりで、中々に混んでいた。

 

「夜見はん」

「はい?」

「倒れへんように支えてくれへん? か弱いねん。うち」

「しょうがないですね」

 

 おさげちゃんを守るように支えると、それを見ていた一部の女学生たちから小さく黄色い声が上がる。

 

「あーあ。勘違いされてもうたな? どうするん?」

「おさげさん。私が優しいだけだと思ってたら、取って食われちゃいますよ?」

「うぅぅ……そうやないわ、もうっ、あほぉ」

 

 やはり昨日の突然の告白が効いていたようで、すぐに恥ずかしがって顔を隠してしまった。可愛いものだ。

 

「夜見さんも女の子付き合いが上手くなってきたモルね」

「そうでしょ?」

「でも公然の場で口説くのはほどほどにするモルよ」

「それは相手の出方次第ですね」

「一理あるモル」

 

 バスは連絡橋を渡り、聖ソレイユ女学院前で停車する。

 おさげちゃんは恥ずかしそうにべっ、と舌を出して、先に降りていってしまった。

 私は彼女の後ろ姿に軽く一礼し、正門に向かって歩き出した。

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