限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです   作:蒼魚二三

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第35話 おじさん、最深部までたどり着く

『赤軍が来たぞー!』

『むかえうてー!』

 

 レクリエーションセンターの入り口は、外から見えるだけで二箇所ある。

 一つは一階の正面玄関で、もう一つは屋上の五階まで繋がっている大階段だ。

 赤陣営の先輩方は当然ながら下ルートを選んだ。しかし――

 

「紺陣営だ! 蹴散らせ!」

『ざーこざーこ♡ よわよわ魔法少女♡』

「何だと――」

 ガァンッ! ドンッ!

「ぐはっ」

「痛いぃっ」

 

 先陣を切った数名が何もないはずの空間に阻まれる。

 なんとそこには、紺腕章を付けた州柿(すがき)先輩が待ち構えていた。

 

『ざんねんでしたー♡ ここからは入れませーん♡』

「くっ、おのれ州柿《すがき》め……!」

 

 よくよく見ると、彼女を中心に限りなく透明に近いドーム状の壁が張られている。

 それが正面玄関ルートからの侵入を妨害しているようだ。

 

「リーダー! 紺の妨害チームが居るのでここからは侵入出来ません!」

「くっ、仕方がありませんわね……! 上から行きますわよ!」

 

 赤の先輩方は即座に諦めて、大階段を登っていった。

 

「ダントさんあの人って」

「間違いないモル。シミュレーションで会った人モルよ」

 

 遅れてきた私はチラ、と州柿(すがき)先輩を見たが、可愛くウィンクされるだけに留まる。

 

「あの、州柿(すがき)先輩! そこ通してもらえませんか!」

『もー実名で呼ばないでー! あと今はごめんだけど敵! 諦めてねー!』

「同じセクハラ被害に合った仲じゃないですか!」

『私にも深い事情があるのー! 大階段ルートから入ってね!』

「ダメみたいです」

「しょうがないモルね。階段を登るモル」

「分かりました」

 

 少し立ち止まって話しかけてみたものの、やはりというか事情ありきで敵になっているらしい。私たちも大階段ルートを選んだ。

 私が階段を登り切るのを確認すると、先輩方は一斉に内部へと突入した。

 

「対幻惑魔法用意!」

 

 最初に閃光弾のようなアイテムが投げられると、トリックアートのような内部空間がかき消されてショッピングモールのような見た目に変わる。

 

「制限時間は三分! 目的地の一階まで急ぎますわよ!」

「「「はい!」」」

 

 どうやら時間制限があるらしい。

 しかし五階から一階まで駆け降りるだけなので――

 

『魔法がかき消された! 赤陣営の排除急げ!』

『絶対に拳を握るなよ!』

 

「ちぃ、弁慶トラップだ!」

「弁慶トラップ……?」

 

 ――と思っていたら、階段前に、体を大の字に広げた紺の先輩方が立ち塞がった。

 数名の赤陣営の先輩は相手の胸に飛び込んでしまい、そのまま動かなくなる。

 

「ど、どうして、動かないんですか」

「違う、あれは立ったまま気絶してるんだ。お互いにな」

「どうして……?」

 

 突然のことに理解が追いつかない。

 

「もう、ただでさえ数が少ないのに……! これ以上カップリングが成立したら戦いになりませんわ!」

「後輩ちゃん気をつけて。あの胸の中に飛び込むと恋に落ちて動けなくなるよ」

「な、なるほど」

 

 そうだ、この学校はそういうところだった。

 つまり紺陣営のあれは、飛び込んだ先の敵と禁断の恋に堕ちるトラップらしい。

 

「「ここは私たちが抑えます!」」

「あなたたち、何を言って――」

「「ご武運を!」」

 

 しかし勇敢(?)な先輩方が走り出し、胸の中に飛び込んで敵の陣形に風穴を開けた。階段を降りられるようになる。

 

「くっ、犠牲は無駄にしませんわ! 今のうちに抜けるわよ!」

「「「はいっ!」」」

 

 全員で間隙を逃さずに飛び込むも、四階、三階と降りていく内に敵が現れ、トラップに引っかかってドンドンと脱落者が増えていく。

 

「もしかしてこの戦いってお見合いなんじゃ……」

「夜見さんそれ以上考えるのは止めるモル」

 

 何となく『一年生を助ける』以外の理由で先輩方は戦っているのでは、と疑問が湧いたところで一階に降り立った。

 

『よくここまでこれたねぇ、歓迎するよ』

「この声は……!」

 

 すると館内放送を使っているのか、とても印象深い人の声が響き始める。

 相手は楽しそうに笑った。

 

『あーっははは、いやはや何とも。こういう悪役ムーブも中々に楽しいじゃないか』

「ヒカリコさん! 一年生を開放しなさい!」

『その様子、大声で開放しろ、と言っていそうだが、この会話は一方通行でね。君たちの声は聞こえていない』

「ぐぅ……っ」

『はっはっは! その悔しそうな顔! いい表情だ! 見たかった!』

「あまり馬鹿にしないで下さいまし!」

 

 煽られてぷんぷん怒るハムスター先輩。

 この二人も実質恋人では?

 

「なんだか真面目に救出しに来た僕たちが間違っていた気がするモルね」

「私も帰りたくなってきました」

 

 次第にいちゃついてるようにしか見えなくなってきて、戦意が冷めてきた。

 

「――もうっ! 埒が明きませんわ! 第二体育館まで突撃しますわよ!」

「「「はい!」」」

『ゴールはすぐそこだ。頑張りたまえよ』

「もう聞こえませんわ!」

 

 ハムスター先輩はようやく会話を中断し、前進し始める。

 私もその後を追って――

 

「あなたは正気に戻りなさい!」

「痛いッ」

 

 ――行こうとすると、ハムスター先輩に強く平手打ちされた。

 

「酷い! どうしてビンタするんですか!?」

「洗脳されていたからですわ!」

「されてないです!」

「じゃあその戦意を失った目は何!?」

「だって、先輩達が敵とお見合いに来たような戦いを繰り広げるから!」

 

 その言葉を聞いて、先輩は諭すような声で話した。

 

「夜見さん、良いこと? 私たちは非常に禁欲的な世界で生きているの。手が触れ合っただけで恋に発展するほどに。敵はそれを罠として使うのよ?」

「……っ」

「あなたにはふざけてるようにしか見えないかもしれないけれど、私たちは真剣に戦っているの。これが魔法少女同士での戦いなのよ。お分かりかしら」

「納得、出来ません。私の知らない世界の話だから」

「だったら覚えておきなさい。これが聖ソレイユ女学院なのよ」

 

 先輩は行くわよ、と言って先に進み始めた。

 目の前には紺陣営の構成員が体を大の字に開き、相手を受け止める体勢で待ち構えている。

 

「道を開けなさい。私にお姉さまになって欲しいなら」

『はうっ……!』

 

 しかしその一言で敵陣形は瓦解した。

 あっという間に第二体育館までの道筋が確保されていく。

 

「……これがふざけている光景じゃなくて、何だって言うんですか」

「命短し恋せよ乙女だよ、後輩ちゃん」

「あ、隣にいた先輩」

「簡単に言うとね。殴り合って分かり合うのは男の子のすること。私たちは好意のぶつけ合いで分かり合うしかないんだよ」

「まだ分かりません、その考え方」

「だって、魔法少女の力の源はエモ―ショナルエネルギーだよ? 怒りで燃える拳よりも、愛に燃える拳の方がその何十倍も強いんだから」

「愛に、燃える拳」

 

 私は自分の手を見て、自分が何者になったかを再び思い出し、深く反省することにした。

 

「……赤城先輩が言ってました。もっと軽率に他人を信じろと。私は、今まで過ごしてきた世界の常識に囚われすぎていたのかもしれません。誰かを肯定し、されることが、魔法少女として真に強くなる道ですもんね」

「そうそう。やっぱり魔法少女には愛がないとねっ!」

『夜見さん! ルート確保が終わりましたわ! 後は任せますの!』

「ありがとうございます!」

 

 私は、赤陣営のリーダーが作り出した道を進み、それでも立ち塞がった紺陣営に抱きついて気絶した先輩方の意思を継ぎ、入り口の前に立つ。

 

「夜見さん、大丈夫モル?」

「いえ、新しい価値観に驚いていただけです。戦えます」

「最後の敵は謀略に長け、なおかつ乙女の扱い方を心得ている強敵モルよ。気をつけて」

「はい。……行きます!」

 

 私はたった一人で最後の牙城、第二体育館に足を踏み入れた。

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