限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです   作:蒼魚二三

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第37話 おじさん、敵組織の構成員名簿を手に入れる

「おお、これが夜見さんが入門したという加速世界! 凄いモル!」

「でしょ?」

 

 ギフテッドアクセルの効果は依然として強力なままで、スロウダウンウォッチで弱体化したとは到底思えないほどに世界は静止していた。

 

「さて、職員室の金庫は、っと」

「こういうのって大体偉い人の側にあるモルよね」

「あーすごい分かりますそれ」

 

 私はあっという間に中等部の職員室に侵入し、超スローモーションで驚く先生方の脇を抜け、教頭先生のデスクの下にあった隠し金庫にたどり着く。

 

「どうします?」

「隙間から剣を差し込んでテコの原理で壊せばいいモル」

「なるほど物理学」

 

 バキッ、ガキン!

 一秒もかけずに金庫を開けた。

 すると内部に霧状の液体が噴射され、火がつく。

 

「あ、漫画で見たやつだ」

「証拠隠滅トラップモルね」

「私には無意味ですけど」

 

 そう、超加速している私には無意味。

 最強の断熱材である空気を味方につけているからだ。

 巻き込まれる前に全ての書類を回収することに成功した。

 

「この中に――ありましたね。最新版の支援者名簿」

「夜見さん、そろそろ制限時間だモル。逃げるモルよ」

「はいはいっと」

 

 私は名簿を持って逃げ去り、効果切れと同時に軽い息切れになった。

 

「ふぅ、ちょっと疲れました」

「でもあまりしんどく無さそうモル。スロウダウンウォッチの効果は絶大モルね」

『金庫破りは誰だぁ――――!』

「あらら、先生がお怒りみたいです」

「力は使えそうモル?」

「いけますよ」

「とりあえず青メッシュ先輩のところに逃げるモル。僕はその間にマジタブで名簿の写真を取るモル」

「オッケーです。ブースト!」

 

 私は廊下でブチ切れているのが松永先生だと確認したあと、緑陣営の拠点に逃げ帰った。時計の針を進めて加速を切る。

 

「ただいま戻りましたー」

「おぅわ!? ……あ、後輩!」

「青メッシュ先輩。敵の急所を手に入れましたよ」

「何をやったのだ!?」

「実は――」

 

 サクッと事情を説明した。

 

「――ほうほう、やるじゃないか後輩。これで紺陣営が我輩達から離反した説明がつくのだ」

「まだ誰も信用出来てないので名簿は渡せないモルけど、データのコピーならいくらでも融通するモル」

「くれないか? それをダシに学院側と交渉したいのだ」

 

 ダント氏はマジタブに、ネット回線を物理的に遮断したPCを繋いで画像データを吸い出した。青メッシュ先輩は数枚ほど覗いた。

 

「……これは、なるほど、交渉が決裂しても魔法少女として動けそうなのだ。後は、敵と協力関係にあった者の証言があれば完璧なのだ。心当たりは無いか?」

「知っていますが秘密です。これから回収して逃げます」

「分かったのだ。……これは吾輩の秘匿回線メルアドのメモなのだ。口頭での証言を取ったらここに送ってくれ。逃げる場所は誰にも明かすんじゃないぞ」

「分かってますよ。お達者で」

「君たちも。死ぬなよ」

「ええ。ブースト!」

 

 三回目の加速で緑陣営の拠点から逃げ去る。

 

「夜見さん、白衣の先輩がどこに居るか分かるモル?」

「恐らくは現場から逃げてないと思うんです。あの境遇で頼れる人なんて誰もいませんから」

「なるほど。いきなり頭が冴えてきたモルね。夜見さんに何があったモル?」

「ずっと敵の姿がぼやけてて、戦う理由に納得できてなかっただけなんですよ。やっとギアが入りました」

 

 キュッと腕時計を締め直した。

 半分に割れたレクリエーションセンターの内部に入り、第二体育館に来ると、数体の敵性怪人(ボンノーン)が解き放たれていた。

 

「裏切り者の処刑、と言った感じの状況ですね」

「僕たちが早すぎて相変わらず静止してるモルけど」

 

 当然のことながらギフテッドアクセルで加速した世界の中なので、敵怪人に動く権利は与えられていない。

 そして怪人たちの向かう方向には、ぼろぼろになった白衣先輩が座り込んでいた。

 

「ダントさん、この場面の写真撮影をお願いします。ボンノーンが学院に居たという現場を抑えたいので」

「分かったモル!」

 

 パシャ、パシャ、とさまざまな角度から風景が切り取られた。

 これで虚言や合成などと言い逃れはできないだろう。

 

「終わったモル」

「ありがとうございます。黒幕がここに居てくれれば楽なんですけどね」

「中々出てこないから黒幕モルよ」

「さて、倒しますか」

「やっちゃえモルー!」

 

 私は剣を両手で持ち、敵に狙いを定めた。

 

「そう言えばダントさん、剣を出した状態でボタンを一度押すとどうなるんですか?」

「敵を浄化する聖なるエモ力が宿るモル。斬撃の威力がアップするモル」

「そっちの方が使い勝手良さそうですね」

 

 一回だけタッチする。

 

『エモートタッチ! プリティフォトン!』

「これはなるほどライトセーバー」

 

 ブオンと音は鳴らないけども、ピンク色の発光エネルギーに包まれた剣に変わる。

 私は隙だらけの敵怪人たちを真っ二つに斬り伏せた。

 

「ふぅ、余裕です」

『グアアア――』

 

 加速が切れると、ボンノーンは小規模な爆発を起こし、ピンク色の砂になって崩れ去った。白衣の先輩は驚いていた。

 

「後輩くん……!?」

「迎えに来ました。一緒に逃げますよ」

「あ、ああ……!」

 

 私はボタンを三回押してステッキに戻すと、腰に差し、先輩をおんぶする。

 

「悪いんですけど加速します。気合で耐えて下さい」

「う、嘘だろう!?」

「ブースト!」

「あの加速うおお――」

 

 本当に時間がないので申し訳ない。

 

「夜見さん、どこに逃げるモル!?」

「遠井上家に逃げ込みます。敵が誰であろうと安易に手は出せないはずです」

「なるほど確かに! 急いで逃げるモル!」

 

 私は遠井上家に逃げ込むべく、学校からの脱出を図る。

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