限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです   作:蒼魚二三

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第5話 おじさん、幼女と友だちになる

「こわかったぁー」

「そうだね、怖かったね。よしよし」

 

 幼女たちの頭を撫でていると、肩をぽんぽんと叩かれる。

 振り向いたら白いマスクを付けた黒髪の女子高生が立っていた。

 カラコンでも入れているのか、黄色い瞳をしている。

 

「はい、何か――」

「私が通報したの」

「ああ、ありがとうございま――」

「これ」

「え?」

 

 彼女が差し出したのは『のびのびマジカル☆ヒーリングシップ』という、胡散臭そうな商品名とイラストがパッケージに書かれた十四枚入り湿布だった。

 

「これは?」

「怪我の治りが早くなるシップ。使って」

「ど、どうも」

「バイバイ」

「あ、え?」

 

 彼女は応援に駆けつけた警察官二名と入れ替わるように去っていった。

 お礼を言う暇がなかったなぁ。

 

「おねーちゃん」

「うん?」

「しっぷはってあげる。おせなかみせて?」

「ほんと? ありがとー」

 

 なんて優しい子たちなんだろう。

 湿布を彼女たちに渡して貼ってもらうことにした。

 

「ん、ん? わあー」

「えいっ」

 

 ぺりぺり、ぺちんっ。ぺたっ。

 幼女先輩たちは小さいおててを器用に使って、腰や背中に湿布を貼ってくれた。

 心が洗われるくらいに優しくて温かい手付きだ。

 

「みんな器用だねー」

「みんなね、お父さんのおせなかに貼ってあげてたのー」

「お父さん?」

「うん。この近くでおしごとしててね、会ったあとね、お昼休みになるまでいそがしいから、ここで待ってたんだー」

「そっかぁー」

「はい、あまったしっぷです」

「わ、ありがとうね」

 

 貼り終えたらしく、パッケージごと返してもらえた。

 しかし、そうか。だからこんな寂れた公園に彼女たちがいたわけだ。

 そして運悪く、先ほどの二人組に絡まれたと。

 

「そうだ、お母さんは近くに居ないの?」

「おかあさんはあそこにいるよ」

 

 幼女先輩が指さしたのは、社畜御用達の公園前コンビニだった。

 警察に事情説明を受けている品の良い奥様たちがいるから、多分あの人だろう。

 あ、青ざめた顔でこっちに来た。

 

「はるかごめんねー!」

「おかあさぁーん!」

 

 私の側を離れた幼女たちは、奥様方に抱きかかえられた。

 すぐさま私の方を向いて深々とお礼をしてくれる。

 

「本当にありがとうございます」

「いえいえ、出来ることをやっただけですから」

 

 とても品のいい、このような下町には似合わない高貴な服装の方々だ。

 意外と良いお身分の御方なのだろうか。

 

「お子さんが無事で何よりです」

「あの、失礼ですがお名前は」

「夜見ライナです」

「あの、ライナさん。良ければ何かお礼をさせて欲しいのですが」

「お気持ちだけで十分ですよ」

「でしたらこれを」

 

 奥様は一枚の切符を渡してくれる。

 行き先は『梢千代駅』。

 最近江戸川区の海沿いに出来た、ニュータウンに入るための切符だ。

 地域の治安維持のために選ばれた国民しか入れないと噂の。

 

「何かありましたらこの駅で遠井上(といかみ)家をお探し下さい。いつでも歓迎しますから」

「いいんですか?」

「娘を守って頂いたお礼です。いつでもお越しください」

「ありがとうございます」

 

 切符はポーチに収納した。

 

「おねえしゃーん!」

「おねえちゃんあそぼー!」

「わーぃ!」

(可愛いいいいいいい!)

 

 すると幼女たちが嬉しそうにじゃれついてくるので、私は三人を撫でたり愛でたり、いないいないばあやけんけんぱーで遊んだりして、彼女たちの父親が来るのを待った。

 

「あの、すみません。被害者の夜見ライナさんですよね?」

「はい!」

 

 その最中、女性警官さんからの事情聴取を受けて、湿布の下にあるアザを見せた。

 

「腕にケガはなさそうですねー」

「あれ?」

 

 しかし、腕にあった擦り傷や打ち身の痕は綺麗に治っていた。

 ただ背中には多少残っていたようで、よく耐えられましたね、と驚かれる。

 耐えるのは得意なんでと答えると、凄いですね、とにっこり微笑まれた。

 

「えー被害者は背中に複数の打撲痕あり。罪状は暴行罪から傷害罪に変更。至急、犯人の逮捕を――」

 

 そして無線通信によって加害者の罪状が『暴行罪』から『傷害罪』に昇格した辺りで、幼女たちのお父さん登場。

 

「な、何があった!?」

「あなた! 実は――」

 

 どこかの役員、もしくは起業家らしき若いお父さんたちは、奥様方や警察からの説明を受け、同じように深く頭を下げられたのち、彼らの名刺と、人気ファミリーレストラン『デミグラッセ』の無料お食事券――これから家族揃って昼食に行くのだろう――を送ってくれた。

 私は両親に幼女先輩たちをお返しして、お別れすることになる。

 

「またねライナおねえちゃーん!」

「またあそぼうねー!」

「うん! 今度はこっちから遊びに行くねー! ばいばーい」

 

 手を振って別れたあと、警察官に付き添われてパトカーの中に消えていく私。

 違う、これはただの護衛車じゃ。性犯罪者として捕まったわけじゃない。

 

「……あれ?」

 

 そう言えばダント氏はどこに行ったんだろう。

 周囲を見渡してもオレンジモルモットの姿は見当たらない。

 乗るのを一旦止めて、背後の女性警官さんに尋ねる。

 

「あのすみません、警察官さん」

「なんですか?」

「オレンジのモルモット見ませんでした?」

「モルモット? どこでですか?」

「ここの近くで」

「いやー見てないですね。ペットですか?」

「ペット……」

 

 いや、まぁ、扱いとしてはそういうことになるのか。

 

「多分、そういう感じです」

「ペットのお名前と特徴を教えてもらえますか?」

「ダントって言います。かわいい天使の翼を付けたオレンジのモルモットです」

「なるほど分かりました……付近は我々で捜索しますので、ライナさんは警察で被害届の提出をお願いしますね」

「ありがとうございます」

 

 ダント氏がどこに行ったかはわからないが、今は警察の方々に――

 

『……夜見さん、夜見さん!』

「え?」

「どうされました?」

「今、ダントさんの声が」

「ぷいぷいと?」

「いや……」

 

 ふとダント氏の声がしたので周囲を見渡した。

 すると公園の生け垣の中に隠れているのを見つける。

 回収してくれと目で訴えていたので、警察の方々をすみません、すみませんと押し分けて近づいた。

 

「ダントさんどうしてこんなところに」

『今はしゃべれないから後で説明するモル! 家で!』

「わ、分かりました」

 

 ダント氏をペットのように持ち上げて、「見つけましたー!」と笑顔で宣言したあと、パトカーに乗って警察署に向かう。

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