限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです   作:蒼魚二三

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第8話 おじさん、新しい家族との団らんを楽しむ

 大粒の涙をこぼし始めた私に、遠井上家の方々は『苦労したんだね、もう大丈夫だからね』と優しく声をかけてくれて、それが嬉しくてまた泣いて。

 ああ、思っていたよりも心に傷を負っていたんだな、私は寂しかったんだな、と歓迎会の中で気づけた。

 

「ライナおねえちゃん?」

「なんですか?」

「夜ご飯のあとはね、おちゃをのんでゆっくりするじかんなんだよ?」

「そうなんですね」

「テレビはね、夜のはね、きんどーにちだけ見ていいの」

「おもしろいけど、夜はアニメを見すぎちゃ、めっ、だよ?」

「ふふ、気をつけます」

 

 それからずっと私に寄り添ってくれる三名の幼女たちは、義理の妹になった『遠井上(といかみ)遙華(はるか)』、お隣さんの『西野上(せのかみ)夏向《かなた》』、同じくお隣さんの『北神《ほかみ》光莉《ひかり》』というお名前だ。

 三人とも黒髪で、整った顔なのに子供らしく小さく丸っこくて、まるでお人形さんのように可愛らしい。

 

 そしてお隣さんの夏向ちゃんと光莉ちゃんは、私でも知っている東証一部上場の大企業、『西野上製作所』と『北上E.E.セラミックス』の娘さんだと言う。

 この梢千代市は選ばれた人間しか住めないという噂は本当だったと驚いた。

 

「しゅごいでしょー?」

「うん、すごいです。ちゃんと言えましたね。よしよし」

「んへへ、えへへ、もっとナデナデしてー」

「わぁ、よしよーし」

 

 でも正直に言えば、拙い言葉で説明しようと頑張る三人への萌えや可愛さが勝っていたので、私は愚かな幸せものだ。

 

「おねーしゃん、モルモットしゃん触っていい?」

「んーどうかな。ちょっと聞いてみるねー」

「うん!」

 

 私は、膝の上にいるダント氏に、どうでしょうダントさん、今の気分は。お触りしても良いですか、と問いかける。

 ダント氏はしばしの沈黙のあと、『……今はダメモル』とテレパシーで答えた。

 

「うーん、今日のダントさんはちょっと緊張してるみたいです。みんなと一緒にもう少しここに住んで、ダントさんが落ち着いたらもう一度聞いてみましょう。それでいいですか?」

「うん分かった! 私たち、がまんできるよ!」

「おおっ、みんな我慢を頑張れるえらい子なんですね。すごいっ」

「でもね、私ね、もっと遊びたい……」

「じゃあ、おねえちゃんと一緒に手遊びしましょうか! お手々を結んで開いて、は知ってるかな?」

「しってるよ! おゆうぎ!」

「良かったぁ、じゃあお歌を歌いながら遊ぼうね?」

「「「はーい!」」」

 

 それから一時間くらい、たしかお風呂の時間が来るまでお遊戯会をして遊んだ。

 義理の父と母が、安心した顔でこちらを見ていたのが印象深かったかも。

 

 一緒にお風呂に入ったあとは、みんな疲れて眠くなっていて、執事さんの『見事なお手前ですライナ様』という尊敬の念を込めたお辞儀で、頑張ったかいがあったな、と感じた。

 社畜なので活かす機会がなかったが、私は子供のお世話が得意なのだ。

 

「みんな、普段はどんな子なんですか?」

「ワガママ――失礼、わんぱくでございます」

「あはは」

 

 執事さんの裏評価で、彼女たちも年相応なんだなと知った。

 私は家政婦さんに寝かしつけられた三人の姿を見たあと、執事さんに誘われて、義理の父母との静かな夜会に参加することになる。

 

「ライナちゃん、実は聞いておきたいことがあったんだ」

「なんでしょうか」

「この世界には魔法があるって言われて、君はそれを信じるかい?」

 

 父の願叶さんの言葉の意図は掴めなかったが、私はダント氏を見た。

 

「私は、信じますよ」

「どうして?」

「だって、魔法があった方が楽しいじゃないですか」

「そうか、たしかにそうだね。その方が楽しい。素晴らしい答えだ」

 

 願叶さんは満足した様子でお酒を飲んだ。

 次は母の凪沙さんの番だった。

 

「ライナちゃん。もし魔法を使えるとしたら、何に使うのかな?」

「んー……何に使う、というと語弊がある気がするんですよね」

「というと?」

「私にはこれといった願いごとはありません。私がここに生きていて、周りに居る人と気軽に楽しく話せて、愚痴を共有できるくらいの関係があればそれでいいと思っています。でも、それでも魔法を使うとすれば――」

「すれば?」

「誰かが苦しんだり、悲しんだりしている時ですね。私はそういう人の笑顔のために魔法を使いたい。だから自分のために使いたいとは思えないんです」

「すごい……びっくりするくらいにいい子……!」

 

 凪沙さんは感動したのか、ぽろぽろと涙を流した。

 かなり酔っているようだ。

 

「でも、どうして魔法があったら、なんて質問をされたんですか?」

「その続きは私が説明いたします」

 

 私の言葉に対応したのは執事さんだった。

 

「ライナ様、あなた宛に聖ソレイユ女学院からの入学許可証が届いています」

「入学――えっと、ソレイユ女学院とは?」

「魔法を学ぶための女学校でございます。今から八年ほど前、梢千代市から東京湾アクアラインに繋がる人工島の上に造られました」

「へ、へぇー……」

 

 おっと、いきなりのことで思考が追いつかない。

 

「もちろんですが、複数の小中高大一貫の私立学校からも入学のお誘いが来ています。ライナ様は遠井上家のご令嬢ですので」

「は、はぁ」

「ですのでライナ様。どの学校に通いたいか、明日の朝までにお決め下さい。私どもが夜会にお誘いし、魔法に関しての質問をしたのは、以上の理由があったからでございます」

「そんなに急ぎの用なんですか?」

「選択する時間は短いほど的確に下せます。失敗を恐れて迷うことこそが失敗なのです」

「ええっ? わ、分かりました……考えておきます」

 

 執事さんの熱弁を受け、私は今夜中にどちらの学校に通うか選ぶことになった。

 案内された自室の机には大量の入学願書が置かれていて、過去の記憶がフラッシュバックしてしまい、動悸と息切れを引き起こした。

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