ホルン吹きの少女   作:衝角

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7/8 プロットを再確認したところ、ここで足した方がいいと判断した箇所があったので、加筆しました。


第4話 はじまりモデュレーション

 

『あんたたちのせいで、美弥先輩や真波先輩はコンクールに出れないのよッ! 今年が最後だったって言うのに!』

 

 暗がりの中、空き教室に金属音が響く。

 苛立ち紛れに蹴られた机がずずっと床の上を滑った。

 3人で取り囲んで感情的に詰る金切り声を朱莉は今でも思い出せる。……あまり思い出したい代物ではけしてないのだが。

 中学1年生の時分、朱莉と久美子はオーディションで3年生の部員をそれぞれ1人ずつ蹴落とした。その結果、その日の夕暮れに朱莉は2年のホルンパートの部員達に引っ立てられて、空き教室に軟禁されている。

 

『少し上手いからってあんたらは調子に乗りすぎなのよ。いい? あんたらペーペーの1年たちと違って、美弥先輩達はずっと部を支えてきたわけ。そんな先輩達のことをさしおいてあんたらがコンクールメンバーなんて許せない』

 

『先輩のことを考えたら、あんたらがメンバーの席を譲るのが仁義ってもんじゃない? 譲りなさいよ。そしたらあんたらの増長を見逃してあげる』

 

『そうよ、譲りなさいよ』

 

 口々に朱莉にコンクールメンバーの座を譲れと2年生たちは言い募るが、朱莉はろくに答えられずにいた。ただ、3人の敵意に飲まれてしまっている。

 

(怖い……。でも、コンクールメンバーはわたしが実力で勝ち取ったものでしょ? それをなんで譲らないといけないの……?)

 

 ただ敵意に飲まれても、朱莉は強情だった。いくら2年生に凄まれようとも、『コンクールメンバーを譲る』なんて言質を取られるようなことはなかった。

 

『言うことが聞けない子ね……。仕方ない、みなみ。外見張っといてー』

 

『はーい』

 

 3人の内、1人が空き教室の外に出る。

 そして、その後。

 朱莉はお腹に鈍痛を覚えた。

 殴られたのだ、と気づいたのは自分の視線が先輩から床に変わっていたから。

 

『……本当に、腹立つ。少し上手いからって礼儀がなっちゃいない。ここで自分の立場を思い知らせてあげないと、先輩方にもこの子のためにもならない』

 

 口ではそんなことを言いながらも、その実は自分たちの私怨でしかないことを朱莉は気づいていた。ただ、もっともらしい大義名分を並べて自分の行為を正当化しようとしているだけ。

 確かに今回、朱莉とコンクールメンバーを競合して敗れた3年生は人徳があった。だから、彼女のためだと念じれば2年生たちは進んで暴力を振るうことができる。元来、彼女たちはそこまで暴力的ではなかったのだが、閉じた空間の閉じた価値観に基づく排他性が彼女たちをそうさせた。

 空気に従うことに迷いすら感じないその姿勢は朱莉にはひどく恐ろしく映った。

 

『……ッあ、いたい……』

 

 教室に残った2年生のうち1人が朱莉を羽交締めにし、何度も何度も朱莉は腹を殴られ続け、しまいには床に寝かされて思いっきり腹を蹴られた。

 制服で覆い隠せるからだろう、暴力を振るっている2年生は執拗にお腹や背中に攻撃を加えた。

 

『……どう? コンクールメンバーの座、譲る気になった?』

 

 昼に食べたものすら吐き出させられ、床に伸びる朱莉を見下ろしながら2年生は問いかける。

 

『……嫌です』

 

 けれど、それでも朱莉は従わない。

 想像以上の強情さに2年生はため息をつく。

 

『ちぇ、ここまでやっても言うことを聞いてくれないんだ。じゃあ仕方ない。他パートだからめんどくさいけど、次は黄前をシメるか』

 

『……え?』

 

 何気なく呟いた言葉に朱莉はみじろぎした。

 わずかなりとも久美子の名に朱莉が反応したことに彼女は気づき、口の端を吊り上げる。

 

『……へえ。じゃあ、穂村。ここでコンクールメンバーを美弥先輩に譲るって言いなさい。そうすれば、黄前ちゃんは見逃してあげる。気に食わないけど他パートだから、関わるのやっぱりめんどくさいし』

 

 朱莉にとって久美子と秀一は特別だった。

 2人がいなければ、母を失って父すらもあまり目をかけようとしない朱莉はずっと1人のままだっただろう。

 ホルンにも、吹奏楽にも出会えたのは間違いなく2人のおかげだった。

 ……だから、いずれあの2人には恩を返さなくてはならない。自分がコンクールで吹きたいがために久美子にこのような責苦を与える訳にはいかない。

 朱莉が迷う余地はなかった。

 

『……わかりました。譲ります』

 

『いやに素直じゃん。なーんだ、最初からこうしとけばよかったんじゃん。わざわざ時間作って損したー。よし、みんな帰るよー』

 

 意外な展開に拍子抜けしながらも2年生たちは満足げに空き教室を後にしていく。

 朱莉はというとずっとお腹を抑えてうずくまっていた。

 

(これでよかったんだ。久美子を守れたならそれでいい。……ああ、でも)

 

 それでも、願わずにはいられない。

 

(これでろくに練習できる雰囲気じゃなくなっちゃったなぁ。今年こそ、ホルンソロで全国行きたかったんだけど)

 

 あの先輩達さえいなければ。

 そう思うと悔しさで涙がこぼれる。最初は声を殺していたが、次第に我慢できなくなって、大声で泣いた。

 この時に、天才奏者としての穂村朱莉は死んだのだ。

 

 紆余曲折を経てその年、大吉山北中は関西大会銀賞を獲得した。しかし、誰もがその結果を素直に受け入れられなかった。なぜならば、朱莉が辞退した代わりに入った白河美弥が盛大に音を外したからに他ならない。

 口さがないものは『穂村のままなら、全国に行けただろう』と美弥を責める。

 それ以降、部内の雰囲気は悪くなりしまいには翌年度からの抜擢人事……オーディションによる下級生の選出はなしとするといった宣言が顧問から出された。

 翌年の北中は停滞した。オーディションによるコンクールメンバーへの選出という目標が奪われた下級生は練習の熱を保つことが難しくなり、最上級生は安楽に逃げる。これでは結果なんて残せるわけもなくコンクールは府大会銅賞に終わった。朱莉のソロコンもまた1年時は関西銀賞、2年時は府大会ダメ金と全国からは遠ざかっていく。

 3年時ようやく自分達の代になり、本気で取り組もうとしてももう遅い。

 朱莉には周りの音色を伺ってそれに合わせ過ぎてしまう悪癖が残り、部内の空気は完全に腐り果てていたのだった……。

 

 1

 

 ブブブ、とスマートフォンのアラームが鳴る。

 寝ぼけ眼の朱莉は煩わしげに、スマートフォンに手を伸ばした。

 画面に表示される時刻は普段より遅い。ギリギリ遅刻にならないぐらいの時刻だった。

 

「うう……、長く寝た割には寝覚が悪い。今更あんな夢を見るなんて……」

 

 よたよたになりながら、朝の支度を終わらせて家を出る。

 坂を下り、宇治川沿いに出た辺りで見慣れた姿に出くわした。

 

「おっ、朱莉か。この時間にこの辺りを歩いているなんて珍しいな」

 

「あいにく秀一みたいに生活リズム崩れてないからね。今はいいけど、夏休みとか大丈夫? 絶対滝先生早い時間から朝練させると思うけど」

 

 秀一のひやかしにさらに冷たい目線を返す朱莉。ただ、1人そのまま歩き去る気分にはなれなくて、秀一に歩調を合わせる。

 

「滝先生と言えば、昨日呼び出されてたよな。そこでなんか言われたのか?」

 

 何気なく言った秀一の一言に朱莉の足が止まる。まさかいきなり核心をつくようなことを聞かれるとは思わなかったからだ。

 

「おい、急に止まるなよ」

 

「ああ、ごめん。秀一さ、それだれから聞いたの?」

 

「ホルンパートのツインテールの娘が話してるのが聞こえてきたんだよ。それで」

 

「……あぁ、ララちゃんか。あの娘、なんでも話すからなぁ……」

 

 思わず遠い目になる朱莉。

 瞳ララはホルンパートの中でもかなり話好きというか、口が軽いというか……。それでいて耳も早いのだから始末には負えない。

 ホルンの飲み込みもいいし、話してて楽しい相手だが、ちょっと朱莉の手に余る存在である。

 

(秀一に知られてるなら、仕方ない。話すか)

 

 諦めて朱莉は昨日の滝との話の内容を秀一にもらした。

 聞いた秀一はちょっと聞いたことを後悔した顔をしている。他パートの重大な方針転換の話を自分が聞いてしまっているということと、それが朱莉自身の問題ということになると中々すっと聴きづらいものがあった。

 

「昨日はさ、わたしとしては全国を目指すためならいいかなって思ってた。けど、今日は怖い。わたしの感覚だけど、沢田先輩達は本気で全国を狙ってるとは思えないし、また中学みたいなことになるのも嫌だし……。ほんと、どうすればいいんだろ」

 

 昨晩あんな夢を見た理由を、朱莉は朧げながらに理解していた。

 集団からの突出。そして、そこからの迫害。

 昨日の滝から持ちかけられた話は、まさしくそんな事態を引き起こす可能性があるものだ。だから、自分は無意識のうちに未来を予感し、近しい過去を夢として呼び起こしたのだろうと推測している。

 

「別に1回だけなら試してみていいんじゃないか? ダメなら前の演奏の仕方に戻せばいい。1回だけなら多分大丈夫だろ」

 

 考え込む朱莉とは対照的に秀一はぽりぽりと頭をかきながら言う。ちょっとどうでも良さそうで少し朱莉は苛ついた。

 

「なにその雑理論」

 

「中学の時、朱莉はあまり自分のことを話してくれなかったから何かあったことは知ってるけど、どう思ってるかわからん。沢田先輩達も正直、名前ぐらいしかわからないしな。けどまぁ、朱莉が好き勝手吹いてる時のホルンの音色は好きだった。高坂と遊んでる時だけじゃなくて、合奏とかでもそれが聞けるんなら、俺としても嬉しい」

 

 この男は、と朱莉は思う。

 ほんと、どうでもよさそうに軽々しくこっちが欲しがっている言葉を投げつけないでもらいたい。

 本当に好きな人に対しては気の利いたことなんてちっともできないくせに。

 

「1度だけ、ね。わかった。試してみるよ」

 

 思えば、あの時だってそうだった。

 

『一緒に金管バンドやろうぜ、朱莉。俺と久美子が一緒なら、お前ももう一人じゃないだろ』

 

 好きだった母を失った当時の朱莉に、秀一はかくもあっさり彼女が欲しかったものを与えてきた。

 

(秀一は多分覚えてないだろうけど、あれは嬉しかったなぁ……)

 

 秀一にとっては特別なことでは全然ないのだろう、けれども朱莉は確かにそれで救われていた。

 だから、朱莉にとって秀一は紛れもなく『特別』だった。

 

 2

 

 授業が終わり、部活の時間がやってくる。

 朱莉はホルンを手に取り練習場所に向かうがその足取りは重い。

 

(もし、先輩達が怒ったりしたらどうしよう)

 

 滝によるゴーサインは出てるが、沢田や加橋は滝に対して反発的だ。むしろ滝による差し金だと知られれば、彼女たちはさらに悪感情を抱くだろう。けして滝の後ろ盾はホルンパート内では助けになりうるかは微妙なところがある。

 

「よし、じゃあまずは合奏から始めるよ。準備して」

 

 逡巡する朱莉を尻目に沢田が音頭を取る。

 このままいつものように吹けば、いつもと同じように練習が進む。滝の言うところの関西までの演奏だ。

 実のところ、朱莉は自分のことだけを考えるなら関西でいい。自分自身はそう手を挙げたし、ソロコンで全国出場というかつてのリベンジも合奏コンクールの結果と完全に直結する訳ではない。

 

(……でも、ここでやらなかったら全身全霊でやり切りたかったあの3年間の後悔が晴らせなくなる気がする。……うん、それは嫌だな)

 

 朱莉は静かに目を閉じる。

 全身全霊というからには、何かに妥協した時点でそれはもう違うものなのだ。

 今になって朱莉はそのことに気づいた。

 ならば、迷うことはない。そもそも立ち止まってはいけなかったのだ。

 

「ワン、ツー、ワンツー、ハイ!」

 

 合奏が始まる。

 もう何度目かの海兵隊。

 沢田の音は変わり映えしなくて、加橋はどこか足踏みしている。

 岸部はどこか苦しそうで、森本はそつがない。ララは進歩が見えるがまだ楽譜を追うだけで精一杯だ。

 いつもなら、それらを包み込むように心がけて演奏していた。そうして、全体を整えて滑らかに聴き手の耳に入るようにしてきた。

 

(けれど、それじゃ変われない。それこそ中学時代のままだ。だから、わたしは一歩踏み込もう)

 

 意志を持った音色が、教室に響き渡る。

 わたしはここにいる。

 そう高らかに宣言するような、力強い音。

 調和なんてもう取らない、わたしについてこい。

 そう訴えかけるような独裁的な旋律。

 

(……ッ、この音……!)

 

 はじめに異変に気づいたのは、沢田だった。

 いつか聞いた溺れそうなほどの音の奔流と世界観の圧力。それを今また聴くことになるとは。合わせるとなるとその激流ぶりと重厚さに震え上がる。

 

(やっぱり上手い。……でも、これでもパートリーダーとしてのプライドがあるんだから……!)

 

 沢田は置いていかれないように必死になって食らいつく。これほど必死になったのはいつぶりかもう思い出せない。

 他のパートメンバーに関しては森本はなんとか合わせようと粘った。加橋はただ圧倒され、岸部も加橋と同様。ララに関しては振り落とされる。

 ただただそこには、穂村朱莉が創り出した小世界しか残らなかった。

 

 合奏が終わり、教室にはホルンパートメンバーが肩で息をする音しか聞こえない。

 

(……やっちゃったなぁ……)

 

 演奏している間はトリップしていたからそれほどでもないが、終わってから朱莉は自分がかなりしでかしたことに気づく。

 完全に麗奈に対してぶつける時の演奏をしてしまっていた。自分が合奏を壊してしまっている自覚がある。滝がいたならそれこそ『なんですか? コレ』と言われても仕方ない演奏だった。

 

「すいません、先輩方。ちょっと体調が悪くてぇ……!」

 

 とっさに頭を下げる朱莉。

 それにしても体調が悪くてこの激奏はちょっと無理があるんじゃなかろうと言ってて思ったが、もう吐いた言葉は取り消せない。ただ、沢田達のレスポンスを待つことしか出来なかった。

 

「穂村ちゃん、体調が悪いなんて嘘をつかないでよ。……ホントはずっと最初からこれぐらいはできたんでしょ?」

 

 沢田が見せたのは、寂しげな笑みだった。

 

「知ってた。あの試し吹きの時から穂村ちゃんは上手いことなんて。それこそ、あたしよりもずっと。多分、穂村ちゃんはあたしたちに合わせてくれてたんだよね」

 

「……すいません、怒りますよね。先輩方からしたらずっとわたしに手加減されてたことになりますし……」

 

 縮こまる朱莉に対して沢田は首を横に振る。

 

「あれを手加減なんて言わないよ。皆の音を繋ぐ、下支えする。それがホルンパートの役割。穂村ちゃんは誰よりもその役割を全うしていたから手加減だとは思わない。頑張っているフリをしているとも思わない」

 

 でも、と沢田は続ける。

 

「穂村ちゃんは好きなように吹いてるのが、一番いい。あの廊下で聞いた海兵隊を多分あたしは忘れない。きっとなんでもない時にふと思い出すと思う。たとえ大人になったとしても。あんな豊かな音をあたしは他に知らない。それをしまっておくなんて勿体無いよ」

 

 惜しげもなく捧げられる賛辞に朱莉はどう反応していいのかわからない。

 今まで中学の先輩には嫉妬されて排斥され、後輩は逆に畏れるあまり遠ざけられてきた。だからこそ、こんなまっすぐな言葉を受けることは久しい。

 

「みんな、やってやろうよ。きついけど、穂村ちゃんの演奏に食らいついていこう。そうすれば、あの鬼畜イケメン眼鏡もあたしたちに何も言えなくなるはず。それとも皆はあのまま言わせておいていいの?」

 

「樹里、本気? 今の朱莉ちゃんに食らいつこうと思うとかなり大変だと思うけど……」

 

 樹里の問いかけに加橋が逆に問いかけを返す。

 穂村朱莉の演奏は高校生にしてすでに超抜的だった。そこに並びかけようとするなら、相応の労苦と期間を要する。滝を見返すなんて短いスパンの話ではない。それこそホルンパート全体が本気で全国を目指すようなものだ。

 今までは楽しければ、それでよかったし、それで2年間を沢田と加橋は過ごしてきた。それを今になって変えるのか? 

 そんな確認の意を含んだ問いかけだった。

 

「……思えばさ、比呂。あたし高校に入ってからあんまり頑張ってないんだよね。頑張った振りさえもしてこなかったかも。ずっとあたしが1年の時からいちばん上手かったってこともあるんだけどさ。でも、ようやくあたしの目の前に確実にあたしより凄い奏者が現れたし、ムカつく顧問も現れた。今なら、あたしでも本気で頑張れるかもしれない。ずっとダラダラするのも楽しいんだろうけどさ、それってちょっとどうなんだろうって思うわけさ」

 

 らしくないとは思うけどさ、そう沢田は締めくくって加橋の方を見る。

 

「樹里がそう言うんなら、あたしは止めない。海松や美千代、ララちゃんはどう?」

 

 加橋が今度は下級生に確認を取る。

 上級生の2人が方針を決めたのが大きいのだろう。下級生3人から反対の声は上がらなかった。

 

「というわけで、頑張って穂村ちゃんの水準に近づけることに決めたから、穂村ちゃんの方からもあたしたちに色々教えて欲しい。歴も実績もこの場じゃ穂村ちゃんの方が上だから」

 

「もちろんです」

 

 半ば茫然としながらも朱莉は頷く。

 正直なところ未だに信じられない気持ちでいる。今まで排斥されたり遠ざけられたりするのが常だったからなおさらに。こうも沢田達が協力的になってくれるとは予想だにしてなかった。

 

『やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶ』それがうちのモットーなのは知ってるよね? 間違いなく、今が『やる時』だ」

 

「「「「おおーッ!!!!」」」」

 

 沢田の号令に反発するパートメンバーはいない。

 ぶわりと南風が窓から吹き込んで、熱気を孕んだ暑苦しい風が朱莉の頬を撫でる。

 風向きが変わったような、そんな気がした。

 

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