包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜 作:pelca
初詣のあと、カラオケに行くことになった俺たち。
深月に対しては少し強引だったかもしれないが、しずはが諭してくれた。
いつだって深月を動かせるのは、そして全幅の信頼をおけるのはしずはくらいだろう。
俺たちは駅の方へと向かいカラオケ屋に入ると、大部屋に通された。
「へ〜、こんな感じになってたんだ。なんか暗いのね」
カラオケの部屋をぐるっと見渡したのは深月だ。
確かにカラオケの部屋は照明や黒いソファが多いせいか暗い部屋が多い印象がある。
「別にかしこまるところじゃないからね。我々庶民の憩いの場だよ」
千彩都が深月にリラックスするようにそう言った。
言い方は少し変だが、かしこまるところではないのは確かだ。
「ほら、最初にドリンク頼むぞー。光流が好きなもん飲んで良いってさ」
テーブルの上でメニューを開く冬矢がにやけ顔でドリンクのページを眺めていた。
「好きなもの!?」
「驚きすぎだろ。良いよ。好きなので」
なぜかしずはが過度に驚く。
そもそも俺にはお金の使い道があまりなかったので、ある程度貯まっていた。
だから余裕はあった。
「じゃあ〜私はメロンクリームソーダ!」
「あっ! それ俺も飲みたいんだけど!」
千彩都がドリンクを決めると冬矢も同じものにした。
ドリンクの上にアイスが乗ってるとか卑怯だよな。うまいに決まってる。
「深月どうする? なんでもだってさ。高いの選んじゃおうよ」
「高いのじゃなくて飲みたいもの選びなよ」
しずはがとんでもない事を言い出したので軽く注意した。
「光流が奢るの初めてだもん。ここはお金を使わせるしかないっ」
それは事実だけど。
お金持ちのしずはに言われると、なんだか変な気持ちだ。こうして世の中は上級国民に搾取されていくのだろうか。
そういやコンクールの賞金は、しずはが自由に使って良いのか、それとも親が管理しているのか結局わからないんだよな。
「あっ……」
「深月、何か飲みたいものあったの?」
二人の会話を注意深く聞いていると、深月が気になる飲み物があったようだ。
「……いちごミルク」
可愛いかよっ!
もう……なんなんだよ。
普段の性格とギャップありすぎるんだよな。
「あ、でもいちごミルクフロートも良いかも」
アイス追加してきたっ!!
「好きなの選びなよ。フロート付きの方絶対美味しいぞ」
「そうだよそうだよ。深月はいちご好きだもんね」
そうだったのか、いちご好きなのか。
そういや冬矢の手袋も可愛いものだったし、実は可愛いものが好きなのかもしれない。
「……俺はコーラフロートにする」
「俺もそれにする〜」
俺と開渡は同じドリンクになった。
そして――、
「私はミルクティタピオカフロート〜っ」
しずはがよくわからないドリンクを選びだした。
普通にタピオカミルクティーのことだよな?
それにアイス乗せたものってことか?
てか七九〇円!?
人気カフェのドリンクより高いじゃねーか。
「…………」
「い・い・よ・ね?」
「あ、あぁ……」
しずはから圧を受ける。
こいつ……遠慮ないな。
確かにお金に余裕あるが、なかなかの出費だ。
勝手に俺が感じているだけたが。未だにしずはに対して申し訳ない気持ちもあるし、このくらいでは足りないと思っている。とりあえず今日くらいは好きなもの飲ませてあげよう。
結局このあと、ポテチやチョコ系のお菓子も頼み、さらに出費がかさんだ。
◇ ◇ ◇
「夕焼け雲の形は〜フランクフルト〜♪」
俺達はそれぞれ好きな曲を歌っていった。
今はちょうど冬矢が歌っていた。
深月はとりあえず皆の歌を聴いているだけになった。
「――深月、大丈夫か?」
冬矢が歌っている途中、俺は深月にこっそり聞いてみた。
「……このメンツなら問題ないわ。さっきは悪かったわね……」
ぶっきらぼうながらもちゃんと謝れるところが深月の良いところだ。
せっかくだから、余計なことも言ってあげよう。
「深月、ちょっといい?」
「な、なによ……」
冬矢の歌声が室内に響き渡る中、深月の耳元で囁いた。
「深月がプレゼント交換でもらった手袋。あれ、冬矢が用意したものだよ」
「――っ!?」
すると、深月は俺の顔と冬矢の顔を交互に見た。
冬矢は視線に気づいたのか、何も知らずに適当なピースをしてきた。
深月の顔は少し赤くなっていて、恥ずかしそうにしていた。
「あ、あいつのセンス……むかつくわね……っ」
褒めていると言っても良いだろう。
プレゼント交換した時に普段は言わない"可愛い"って言葉を言ってたもんな。
「……良かったな」
「別に良いとかないしっ」
「へ〜、冬矢のだったんだ」
深月の隣にいたしずはにも俺の声が聞こえていて、少しニヤニヤしていた。
「……さっきの話に戻るけど、深月も一緒の学校だったら楽しいと思う。……だから考えておいて」
「……わ、わかったわよ」
結局俺は、このメンバーと一緒の学校に行きたいという気持ちが強いようだった。
小学校から一緒なんだ。離れ離れになるのはやっぱり寂しい。
「おいおい〜、そこ何コソコソ話してるんだ〜?」
歌い終わった冬矢が俺達のことを気にしてくる。
「気にすんなって」
「なんだぁ〜? まっ、いいか」
冬矢は切り替えが早い。
◇ ◇ ◇
俺はただカラオケに皆を誘ったわけじゃなかった。
皆に一つ、意見が聞きたかったのだ。
「――ねぇ、俺と冬矢。どっちがカラオケうまいと思う?」
「急にどうした?」
俺がそう質問すると開渡が聞いてきた。
「まぁまぁ……とりあえず忖度なしに言って」
するとそれぞれ考える間もなく、答えをくれた。
「どっちもどっち!」
それが俺と冬矢以外の四人の意見だった。
「そんな気がしてた」
俺も薄々感じていた。
「光流〜、お前アレ、決めようとしてるな?」
冬矢が俺の真意に気づいたようだった。
そうだ。アレだ。
「アレってなんだよ」
開渡が聞いてきた。
「バンドだよバンド。それはもう言ってるだろ?」
「あぁ、少しくらいはな。それでアレって?」
バンドでカラオケ。導き出される答えは一つ。
「どっちがボーカルやるかって話だ」
そういうことになる。
ただ、俺は一ミリもボーカルをする気はなかった。
そもそも俺は人前に出るような性格ではない。
でもバンドをすると決まれば嫌でも前に出る。
それなら、できるだけボーカルはしたくなかった。
一番注目されてしまうポジションだからな。
「歌唱力的には一緒ってことなら、俺は冬矢にやってほしいな」
今の冬矢の歌の実力が酷すぎるものなら、多少は考えたけどそうではない。
なら、ボーカルはお願いしたかった。
「ん〜。まぁ俺が誘った手前もあるしな……」
冬矢もボーカルをやっていいような雰囲気を出してくる。
「でも冬矢がボーカルってなんっか、つまんない!」
「なんだと!?」
千彩都がズバッとそう言った。
「だってさ。冬矢って学校だと目立ってるほうじゃん。それがそのままメインになるって、面白みにかけるんだよなぁ〜」
「それは俺も同意見だ」
「開渡ぉっ!?」
面白いってだけで決めて良いのか?
「私も光流の歌ってるところ見てみたいな〜っ」
「私はどっちでも……」
しずははそういうが、これは完全に忖度が入っていると見て良いだろう。
深月の場合はその点に関しては本当に興味がなさそうだった。
「いや、俺だよ? バンドのボーカルはイケメンってのが鉄則だろ」
「ははぁ〜。イケメンって言ってくれて嬉しいぜ光流」
なんかムカつくなこいつ。
「ただな。そんなのかんけーねえ。ギターで黙らせろよ」
「ギターと歌はまた別だろ?」
冬矢はかっこいいことを言ったつもりだろうけど、俺は騙されないぞ。
「いや、総合的なものだろ。正直ベースやってるボーカルってあんまり聞いたことないし」
開渡にそう言われて気付いたが、確かにベースボーカルのバンドは少ない気がする。
もしかして、ベースやりながらのボーカルはギターボーカルより難しいのか?
しかし、色々な意見が出る中、しずはが爆弾を投げ込んだ。
「――私、光流がボーカルやるなら、今年の文化祭の時だけキーボードやってもいいよ」
「ええ!? 嘘だろっ!?」
「おいおい!! 世界様が降臨だぞ光流っ!!!」
いや、え? なんで?
冬矢はしずはか深月を誘おうとは話をしていたけど、まだ話すらしていなかったはず。
まさか自ら手を挙げてくれるとは……。
「ええと。しずは……それはマジなの?」
「マジだよ」
「あなた様のような実力者が、俺達みたいな弱小バンドのキーボードしても良いの?」
「学校生活の中だもん良いに決まってる。公式なものじゃないしね」
本当に良いのか?
しずはがやってくれるなら、演奏のクオリティはグッと上がるだろうけど、レベルが低すぎて、申し訳ない気がする。
「……なんか余計なこと考えてるようだけどね。最近楽器やり始めて私に追いつけるわけないじゃん。だからそんなの気にしなくて良い。文化祭だよ? ただ楽しくやればいいじゃん」
「そうだぞ光流。文化祭ってのは楽しむ行事だ」
しずはと冬矢。二人にそう言われると、俺は余計なことを考えすぎていたような気もしてきた。
「……ボーカル? 俺が? いや、マジで? 全然想像つかないんだけど……」
「俺だって全然想像つかないよ。でも俺が歌うより面白そうってのは確かだな」
楽しい、面白い……せっかくやるなら確かにそれが良いような気もしてくる。
「しかもギター弾きながらか……」
「そんなのは慣れでしょ。あと一年近くも準備期間あるんだから」
俺の呟きに突っ込んできたのは深月だった。
「こんなに準備期間があってできなかったら、逆に尊敬しちゃうわね」
手厳しいことで。
俺は冬矢としずは、二人の顔を交互に見た。
いつぞやに言われた俺の凄いところ。正直未だによくわかっていないけど、『光流ならできる』と言われているような気がした。
一年近くも準備期間があるなら、途中で方向転換もできるはずだ。
俺がダメだとわかれば、冬矢がやってくれるだろう。
「……無理だったら冬矢変わってね」
「あぁ」
「マジだよ?」
「あぁ」
「絶対だからな!?」
「しつけぇっ!!」
確かにしつこかった。
「じゃあ、しずは。キーボードお願いしてもいい?」
「もっちろんっ」
俺達のバンドのキーボード担当は満面の笑みで返事をしてくれた。
「しゃーないか。ここまで言われたらやるよ」
俺はギターボーカルとして、バンドで一番目立つポジションに就任してしまった。
「細かいことは俺に任せとけ。曲の打ち込みとか、裏方の準備とかな。ツテならいくらでもある」
「それは助かる」
そう言ってくれてありがたい。
やることが多くて気が回らなそうだからな。
「ちなみにオリジナル曲は最低一曲はやるからな! 歌詞は光流に任せる!」
「俺ぇ!?」
「こういうのは歌うやつが書いた方が一番心がこもるだろ」
そう言われるとそうかもしれない。
「ならあとはドラムだな……」
俺、冬矢、しずは。後は最低限ドラムがほしい。
「なら、あいつはどうだ? お前らと同じクラスのやつ。東……なんだっけ?」
「陸のことか? 東元陸」
「あー、そいつそいつ」
開渡が突然、陸の名前を出してきた。
「ふーむ。確かにあいつは帰宅部だしな……どうせ彼女としか遊んでないだろうし」
彼女とは小学六年生の時に俺と同じクラスだった山崎さんことだ。
もう付き合って二年が過ぎているが、今でも仲良くしているらしい。
「彼女にかっこいいところ見せようぜって言えばやるかもな……」
「いや、文化祭は他校呼べないじゃん」
「……そうだった」
陸なら確かにやりそうではあるのだが、誘い文句が見つからない。
「ビデオ撮れば良いんじゃない? 無理なもんは無理なんだから」
「あー、そうかもな。生じゃないのは我慢してもらうしかないけど」
千彩都の意見に冬矢は前向きだった。
「とりあえず冬休み明けたら陸に聞いてみよっか」
「そうだなっ」
こうして、俺の想像以上に色々なことが決まってしまった。
元々はボーカルのことだけ決めるつもりだったが、しずはがキーボードをしてくれて、ドラムには陸を誘うという話が出た。
最初は冬矢と二人でカラオケに行こうとも思っていたが、皆に相談して良かったと思った。
◇ ◇ ◇
俺がトイレに行くために部屋の外に出たその帰り道。
しずはが通路に立っていた。
バッサリと切ったショートの髪も少しずつ伸びてきてボブっぽくなってきていた。
「ひかるっ」
ご機嫌な様子だった。
「キーボード、ありがとな」
再度お礼を言っておく。
「この私を顎で使えるなんて贅沢な男だ」
「顎で使うつもりないけど!?」
そんな最低野郎がいたら俺がとっちめる。
「ふふ。こういうことできる機会って少ないじゃん? 少しくらいは光流との思い出作らせてよ(ルーシーちゃんがいない時くらいはね……)」
しずはが何か含むような言い方をした。
「そうだな……文化祭も今年で最後だしな」
「高校もあるけどね」
同じ高校に行けたら、な。
いや、中学とは違って高校は別々になったとしても外部の客はOKだから制限はないのか。でも……。
「今は今だ」
「そうだねっ」
「……せいぜいたくさん練習するんだよっ」
「あぁ。しずはの演奏を引っ張らないように頑張ることにするよ」
話を終えると俺達は部屋へと戻った。
…………
そのあとはそれぞれ普通に好きな歌を歌って残り時間を過ごした。
しずはがお願いして、深月が一曲歌ったのだが、歌声がとても可愛かった。
うまいとは言えなかったが、歌声になるとなぜかアニメ声っぽい感じになって、それが逆に良かった。
ちなみにしずはも普通に歌声が可愛かった。
千彩都もだが……。
というか女子とカラオケに来るのが初めてだった。
女子の歌声というものは、なぜこんなにも可愛く聞こえるのだろうか。本当に不思議だ。
俺も冬矢も開渡もちょうど声変わりをしてきている時期で、徐々に声が低くなっていった。
なので、高音が多い曲はなかなかきつかった。
「――深月、カラオケどうだった?」
カラオケの時間が終わり、俺達は帰路についていた。
ずっと気になっていたことを深月に聞いてみた。
「……想像していたより悪くはなかったわ」
深月のこの言い方は五段階評価で四はいっているだろう。
ちなみに冬矢の手袋で可愛いと言ったのは五段階評価を突破して七くらいの評価だと個人的に思っている。
「なら、また行こう」
「しずはがいるなら……」
「光流が奢ってくれるかもしれないしねっ」
そうしずはは言うが、今回のカラオケ代は合計で七千円を突破していた。
六人分の利用料金に全員アイス付きの高いドリンク代、そしてお菓子代だ。
いやいやいや、エグすぎるだろ!!!
俺中学生なんですけど!?
お年玉とかも大体貯めてきてたから良いけど。……良いんだけどさ!
「――奢るって言ったのは俺か……」
「キーボードにしずはをゲットできただけでも良かったろ」
「そう、だな……」
冬矢にフォローされる。
払ってしまったものは今更考えてもしょうがない。
姉に今度何か買ってもらおうかな。
バイトしてるから金持ちだし、いつも何かプレゼントしてくれようとしていたものの、俺は欲しいものがなかったので、拒否してきた。
今なら何か欲しいものが思いつくかもしれない。
「あー、今日は一段と寒いっ!」
低い気温も相まって、俺の財布の中身も寒くなり風通しが良くなっていた。
100話まで読んでくださっている皆様、いつもありがとうございます。