包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜   作:pelca

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第126話 中学三年生 文化祭その1

 ――文化祭二日目の朝。

 

 

 俺は、いつも通りにベッドの上で目覚めた。

 

「んん……まぶし……」

 

 片手を伸ばしカーテンを少し開けると、窓から眩しい太陽の光が目に刺さり、覚醒を促される。

 

 ぐっすりと眠れたようで、さほど眠たくはないが、寝起きというのはどんな時でも少しは眠たいものだ。

 

 五分ほど毛布の中でもぞもぞする。

 そうした後になんとか起き上がり、一階へと向かう。

 

 朝食の前に風呂場の洗面台で軽く顔を水洗いし、さらに自分を覚醒させる。

 同時に口の中を水でゆすいで唾液を洗い流し綺麗にする。

 

「おはよ〜」

 

 リビングへ入ると俺が二階から降りてくる音を聞いてか、既に母が淹れたてのコーヒーが入っているコップをテーブルの上に置いてくれていた。

 

「光流、おはよう」

 

 母が挨拶しつつ、朝食の準備を進めていた。

 

 椅子に座るとコップを持ち上げてコーヒーを一口飲み、喉に通す。

 ……この苦味がたまらない。

 

 ゆっくりとコーヒーを飲んでいるうちに、父と姉も起きてリビングにやって来た。

 

 全員が揃うと、ちょうど母が朝食をテーブルに用意。

 今日は焼き立てのトーストとブルーベリージャム。プチトマトとレタスのサラダに目玉焼きだ。

 

 俺はどちらかというと朝はそれほど胃に食べ物が入らない。なので朝はお米よりパンの方が嬉しかった。

 

「光流は特別にこれねっ」

 

 次々とテーブルの上に朝食が置かれていたはずなのに、俺だけメニューが違った。

 他の三人は普通のトーストだったが、俺だけはフレンチトーストだった。

 しかもそのフレンチトーストにはハムとチーズがサンドされていた。横から漏れているとろけたチーズがこれまた食欲を刺激してくる。

 

「母さんありがとう」

「今日はライブだもんね。頑張りなさい」

「うん。頑張る」

 

 文化祭やバンドのことはもちろん家族皆に話している。だから今日がその日だと知っている。

 

 日曜日なので、父も姉も早起きする必要はないのだが、俺に合わせてくれたのか一緒に朝食をとってくれている。

 

 そうして、皆でいただきますをした。

 

「それ、ただのフレンチトーストじゃなくて、クロックムッシュ風フレンチトースト……カナダではモンティクリストって呼ばれてるものなのよ」

「あっ……そうなんだ」

 

 そういえばそうだ。フレンチトーストってハムもチーズをサンドしないよな。

 

 まず、モンティクリストにかぶりつく。

 直前にフライパンで焼いたのか少し表面に焦げがついていた。卵と砂糖で味付けされたモンティクリストの熱さと、とろけているチーズにハムのしょっぱさ、上にふりかかっているバジルの爽やかな風味が絶妙なハーモニーを奏でていた。

 

 そして、コーヒーを口に運ぶ。

 あまじょっぱさが、コーヒーの苦味で中和され良い感じに口が幸せになる。

 

「うめ〜」

 

 最高の朝食だ。

 

「ふふ、良かった」

 

 母が満足そうにそう言った。

 

「光流、ビデオもらったら教えるんだぞ」

 

 父がトーストにジャムを塗りながら聞いてきた。

 

「うん。DVD焼いてもらうから、それもらったらね」

 

 そういえば、二回分のリハーサルの映像もあるはずだけど、あれも焼いたりするのだろうか。一度目のリハーサルは、絶対やばい映像になってるだろうな。

 

「あー、なんで見に行けないのよ〜。つまんないっ」

「しょうがないじゃん」

 

 姉がパンにかぶりつきながらぶーたれる。

 

「高校の学園祭楽しみにしてるから」

「高校までやるかわかんないし……」

 

 そもそもしずはと陸は今回限りだしな。

 冬矢がこの後どうしたいかという話も聞いてないし。

 

「冬矢くんならやるって言いそうだけどなー」

「まぁ、そうかもしれないけど」

 

 もし同じ学校に行けたのなら、あいつならそう言う可能性が高い気はする。

 そういえば秋皇学園って軽音部はあるんだろうか。あったら先輩の演奏とか見れるのかな。

 

 

 

 そうして、穏やかな朝食を済ませたあとは、軽くシャワーを浴びて歯磨きも済ませる。

 制服に着替え髪を整えて、カバンを持つ……準備万端だ。

 

「光流、はいこれ」

「ありがとう」

 

 玄関で母さんから弁当箱が入った袋を渡される。

 

「じゃあ、行ってくるね」

「気をつけて行ってらっしゃい」

 

 母に見送られ、俺は文化祭二日目が開催される学校へと向かった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 この日は、生徒が中心となって作った展示物や出し物、ゲームなどがプログラムとして行われる日だ。

 

 俺たちのクラスは『ダンボールパズル』。複数体のあるキャラが出来上がるダンボールのパーツを散らばらせ、それを各クラスで選抜された生徒に時間内までに組み上げてもらうゲームだ。

 

 今年も俺は特に運営としてやることはなく、他クラスのゲームに参加するだけ。

 

 そうして、流れるようにプログラムが進んでいき、昼休みとなった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 俺たちバンドメンバーは一ヶ所に集まり、一緒に弁当を食べることになった。

 千紗都や開渡、深月も一緒だ。

 ちなみに理沙たちはいつもの三人で食べるようだった。

 

「――調子はどうなのよ」

 

 お弁当を食べながら千紗都が聞いてくる。

 

「さぁな。お楽しみだ」

 

 謎に隠す冬矢。昨日までの時点では完璧だったから、そう行っても良かったのに。

 

「なによそれ。でも皆の顔つき見ると大丈夫そうね」

 

 俺たち四人。少しうずうずしてる感はあるか、それは緊張からきたものではない。本番が楽しみという意味のうずうずだと、表情から読み取れた。

 

「光流、あんたリハーサルで大失敗したそうじゃない。大丈夫なの?」

 

 痛いところを平気で突いてくる深月。

 冬矢と同じクラスだからか、一度目のリハーサルの話をしたのかもしれない。

 

「はは。大丈夫だと信じたい」

「この藤間しずはを顎で使うくらいなんだから、失敗は許さないからねっ」

「顎って!? 一度もそんなことしてないけど!?」

 

 これ絶対冬矢が余計なこと吹き込んでるだろ。というかどちらかといえば、俺が顎で使われる立場だし。

 

「ふーん。まぁいいわ。王様気分になって足を掬われないようにね」

「王様って……考えたことないよ」

 

 確かに日本一のジュニアピアニストがメンバーにいるなんて、これほどの贅沢はないだろう。

 

「リーダーはしずはだしな。光流は家来だろ」

 

 深月にどこまで話しているかわからない冬矢がそう言った。

 

「それ、まだ言ってるの? 私リーダーやってる感覚全くないんだけど」

 

 前々からことあるごとにリーダーだと、しずは以外の三人が言ってきてはいたが、本人はずっとそれを認めていない。

 

 合わせ練習中も指摘したり指示するのも基本的にはしずはだけ。それを考えるともう完全にリーダーだというのに。

 

 バンドをやろうと言い出したのは冬矢なので、冬矢でも良いんだろうけど。

 

「まぁまぁ。そろそろ諦めろよ。お前の実力見たら、観客皆そう思うぜ」

「ふーん? 本当に実力見せても良いわけ?」

 

 少し意味深なしずはの言葉。

 確かにバンドの演奏はピアノの独奏とは違う。だから一人だけ目立つなんて難しいとは思うが。

 

「あぁ、見せてくれよ」

 

 冬矢が煽る。

 

「言ったわね!? ふふ、見てなさいよ……私が一番ロックだってところ見せてやるんだからっ」

 

 陸に続いてしずはもなんだか不穏だ。

 まじでこのバンドの本番大丈夫か? 人の心配をできる立場ではないけど。

 

 そうして、昼食を終えて午後のプログラムが始まる。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 俺たちは早めに舞台袖へと移動し、順番を待つ。

 

 するとそこに理沙と朱利、理帆がやってきた。

 

「光流……皆。頑張ってね」

「演奏、楽しみにしてる。カメラは任せて」

「最高の舞台にしよっ」

 

 三人がそう俺だけではなく皆に声をかけてくれる。

 

「あんたら……以外と良い子よね」

 

 今まで三人に自ら声をかけることはなかったしずは。

 

「藤間さんに褒められたっ」

「今日はなんかあるぞ……」

 

 理沙と朱利がいつもとは様子が違うしずはに驚く。

 

「心外ね……しずはで良いわよ」

「……え?」

「名前っ! 同級生なんだからしずはで良いって言ってるの」

「ほんと!? なら私は理沙で良いよ!」

「私は朱利でっ!」

 

 お互いに下の名前で呼ぶことになった。

 

「理帆……だっけ? 音響よろしくね」

「うんっ! しずはちゃんっ」

 

 松崎さん――理帆も同様だ。

 

 そうして、理沙と朱利がカメラを持って自分たちの仕事へと向かった。

 同時に理帆も音響操作する場所へと移った。

 

 

 

 体育館で行われるプログラムの合間には、ちょくちょく休憩時間が挟まれる。

 

 演劇が終わり、その休憩時間のあと。

 今はちょうどダンス部が始まったところだ。

 

 俺たちの番はこの次となる。

 

 ちらっと舞台袖から体育館を覗くと、全校生徒の四分の一ほどが集まっているようだった。

 

 音響からはテンポ早めの音楽が流れ、舞台上でダンスパフォーマンスをしていく。ただ、観客の生徒たちはどうやって盛り上がれば良いのかわからずにいた。

 

 しかし、一つ一つのダンスが終わるごとに大きな拍手が起きていた。ダンス部も良いパフォーマンスができているようだ。

 

 徐々に迫りつつある本番。

 俺は心臓の鼓動が高まってきていた。

 

 これは緊張ではない。いや、やっぱり緊張かもしれない。

 でも、一昨日のようなものとは全然違うと体が訴えている。

 

 言うなれば武者震いだ。

 俺は戦いが楽しみで、今か今かと望んでいるのだ。

 

 

「――よーし、お前ら。円陣組もうぜ」

 

 

 すると舞台袖で冬矢が俺たち三人に声をかけた。

 

 言われるままに四人で肩を組み、腰を落とし円陣を作った。

 

「光流、わかってるな……?」

 

 冬矢が一番の心配である俺に言葉少なく、そう聞いてきた。

 

「あぁ。楽しむ……だろ?」

「わかってるなら良い」

 

 合ってた。俺だってあれだけ言われたらちゃんと理解してる。

 

 

「じゃあ一言ずつ、意気込みを言おう!」

 

 

 あの決起集会の時のように。

 今度は最後の意気込みだ。

 

「じゃあ、俺から! ……俺のベースを皆の脳みそに叩き込むっ!!」

 

 冬矢が最初に意気込みを円陣の中心へとぶつける。

 

「私は実力を見せつけて、会場を沸かせてやるっ!!」

 

 昼食の時に言ったこと。何か気になりはするが、円陣の中にしずはの決意が響く。そして、彼女の顔は今、とても楽しそうな表情をしていた。

 

 

「俺はこのバンドを皆の記憶に刻み込ませて、蓮ちゃんをもっと惚れされるっ!!」

 

 陸も何かを考えているようだが、悪いことではないはず。

 そういや山崎さんはちゃんと潜り込めているのだろうか。陸からはその話は聞いていない。

 

 

「なら、俺は……」

 

 一呼吸だけ置く。

 

「――お前ら三人を楽しませるっ!!!」

 

 声高らかに円陣へと意気込みをぶち込んだ。

 

「なんだよそれっ」

「ふふ。光流らしい」

「観客は無視かよ」

 

 せっかく意気込んだのに三人が俺の意気込みに苦笑する。

 

「自分たちが一番に楽しめてないと、観客も楽しめないだろ? 冬矢が言ったんだよ。楽しもうって」

 

「はは。お前ってやつは……さいこーだぜ!!」

「だねっ」

「ああ」

 

 四人が見つめ合う。

 

 

 そして、リーダーではない冬矢が、最後に声を出し――、

 

 

「――行くぞっ!! 赤峰小ぉ〜〜〜ファイトぉぉっ!!!!」

「「「オ〜〜〜っ!!!」」」

 

 

 俺たちの円陣での掛け声と共に、ダンス部のパフォーマンスが終了した。

 

 

 舞台の幕が閉まっていく。

 

 ここから二十分間の休憩だ。

 

 

「では、皆さん。準備お願いしますっ!」

 

 司会進行の志波さんが俺たちに声をかけてくれる。

 

「志波さん、ありがとう!」

 

 そうして、俺たちは機材を舞台へと運んでいく。

 

 

 二度もここで行った準備。

 さすがにスムーズに全てが準備され、楽器のチェックに入る。

 

 それぞれがチューニングや音出しで確認をしていく中、幕の外の人が増えていき、ガヤガヤしていくのを感じとれた。

 

 これはおそらく、しずは目当ての生徒たちがごっそりと観客として増えたのではないだろうか。俺はそう思った。

 

 冬矢だってどこで交友関係を増やしているかわからないが、かなり顔が広い。演奏を見に来いと言い回っていた可能性もある。顔はイケメンだしな。

 

 陸……の集客能力は全く不明だ。

 友達の多さも俺とさほど変わらない気がする。彼は山崎さんさえ来てくれれば良いと思っているかもしれない。

 

 ちなみに今回は特に衣装などを用意しなかった。なので制服のまま。

 ただ、冬矢と陸はブレザーを脱ぎ、二人共腕まくりをしている。

 一方の俺としずははブレザーを着たままだ。

 

「皆さん、あと五分で開演しますっ」

「わかった!」

 

 志波さんがタイムキーパーをしてくれる。

 

 

 もう、あと五分。

 

 五分で始まってしまう。

 今回は心の準備ができている。

 

 俺は大丈夫だ。冬矢に教えてもらった秘策がある。それに、透柳さんに言われた言葉もちゃんと覚えている。

 

 

 冬矢、しずは、陸。千紗都、開渡、深月。理沙、朱利、理帆。そして、鞠也ちゃん、奏ちゃん。

 

 特に仲良くしてくれている皆のために、そして、俺たちの演奏を聴きに来てくれた生徒、先生……皆のために。

 

 俺を最高の状態にしてくれる、心の中のルーシー。

 その、ルーシーのために。

 

 

 俺は一度ギターを下ろし、舞台袖で音響操作する理帆のところまで足を進める。

 

「理帆、頼んだ」

「うんっ! 任せてっ!」

 

 俺は右手の拳を突き出すと理帆も同じく拳を突き出してくれる。軽くコツンと拳をぶつけ合う。

 

 舞台に戻ると今度は三人のポジションへと足を進めた。

 

 そして、右手の拳を突き出して、冬矢、しずは、陸へと軽く拳同士をぶつけ合った。

 

「やってやろうぜ」

「光流、見てなさい」

「楽しい一日にしようぜ」

「あぁ、やってやろう!」

 

 

 俺たちは本当の最後の意気込みを終えた。

 

 そうして再びギターを持ち、自分のポジションへと戻る。

 

 

「――時間です! 開演しますっ!」

 

 

 一瞬、幕の隙間から外を確認した志波さんに、ついに開演が告げられる。

 

 俺たちはそれぞれアイコンタクトを交し、頭を縦に振って頷いた。

 

 

 そして――、

 

 

「――次は赤峰小学校出身メンバーによる、バンド演奏です」

 

 

 志波さんがマイクでそう伝えると、ビビーっという電子音が鳴り、赤茶色の舞台の幕がゆっくりと開いていく。

 

 

 俺は目を閉じた。

 

「すぅーっ……はぁ……」

 

 深く、深く深呼吸。

 

 

 ガヤガヤとした声がより近くに聞こえた。

 

 幕が開いていくとどんどん前方にいるであろう生徒たちの声が響いてくる。

 

 

 俺は目を開けた。

 

 

「――――っ」

 

 

「……絶景だな」

 

 

 すぐ横で、冬矢の呟きが聞こえた。

 

 

「ひかるーーっ! ひかるーーっ!!」

 

 舞台の最前列。一番いいところに鞠也ちゃんがいた。

 

「しずは先輩っ! しずは先輩っ!!」

 

 その隣には奏ちゃん。今まで見たこのないような興奮した表情、そして大きな声を出していた。

 

「藤間さーん!」「藤間せんぱーいっ!!」「冬矢〜っ!!」「池橋せんぱいっ!!」

 

 俺と陸以外の名前を呼ぶ声が多方向から聞こえた。

 

「りっくーんっ!!」

 

 最前列ではないが、前の方に山崎さんがジャージ姿でいるのを発見した。

 無事潜り込めたようだった。

 

 

「はは。すげーな……」

 

 

 体育館全体を見渡す。

 ダンス部の時には四分の一が埋まっていたこの会場。なんと今は四分の三以上が埋まっていた。つまり人が三倍に増えたのだ。

 

 ぎゅうぎゅうとまではいかないが、とてつもない人数が目の前には広がっていた。

 

 

 緊張……大丈夫。

 手のひらをグーパー……手も指も動く。

 

 そして、目の前……数百人のルーシー。

 

 

「ふふ……っ」

 

 

 ――完璧だ。

 

 

 準備は整った。

 舞台の幕も完全に開いた。

 

 いつでも始められる。

 

 

 

 ただ、観客が俺たちの名前を呼ぶ喧騒の中。

 

 一人、ずっとニヤついていた人物がいた。

 

 

 それは――、

 

 

 

「――お前らぁぁぁっ!!! 私たちの歌を、聴けぇぇぇぇ〜〜〜っ!!!!」

 

 

 

 突如しずはが、目の前にあるマイクに向かっていつもは使わない言葉遣いで叫んだ。

 

 

 そして――、

 

 

 とてつもない速度で、キーボードを速弾きし始めたのだ。

 

 

 これ……どこかで……。

 

 

 キーボードを弾いていくしずはの表情は、興奮に満ちていた。

 

 

「――ベートーヴェンの『熱情』だ……」

 

 

 あの指の動きがどうなっているかわからないくらいの速度で演奏する曲。そのラストの部分だった。

 

 そうして、それを弾き切ると――、

 

 

『わぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 大歓声が上がった。

 

「しずは先輩っ! しずは先輩っ! かっこよすぎるぅぅぅっ」

 

 最前列にいる奏ちゃんが、これでもかとぴょんぴょん飛び跳ねて興奮していた。

 

「ねぇ鞠也ちゃんっ! 私今日死ぬかもっ!!」

「ふふ。奏ちゃん。まだまだこれからだよっ」

 

 奏ちゃん以外にもしずはの演奏に興奮し、讃える声が複数上がっていた。

 それもそうだ。しずはが学校の皆の前で、こういう実力を見せたのは初めてなんだから。

 

 あれ……実力?

 

 まさか、これのことか?

 

 先程までスマホをいじっていた生徒たちも、ほぼ全員がしずはの演奏によって舞台を見上げていた。

 

 一気に注目を掻っ攫い、ガヤガヤとしている皆の中途半端な意識をちゃんと舞台へと集中させてくれた。

 

 はは。やっぱすげーよ。

 お前が一番ロックじゃないか。

 

 

 しずはのおかげで会場が温まった。暖機完了だ。

 

 なら、あとはエンジンを吹かすだけ。

 

 

「――行くぞっっ!!」

 

 

 陸が声をあげ、ワンツースリーフォーとスティック同士を四度ぶつけた。

 

 

 そして、始まる。

 

 

 ――中学三年生、最初で最後となる俺たちの文化祭のステージが。

 

 

 

 

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