包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜   作:pelca

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第141話 あの公園で

 その日の放課後、予想外の出来事が起きた。

 

 ちょうど俺としずはは掃除当番だったので他の数人のクラスメイトと一緒に教室に残って掃除をしていたのだが、途中から外に行列ができ始めたのだ。

 

 そして、その行列の先頭にいたのは鞠也ちゃんと奏ちゃんだった。

 

「ひかる〜、掃除終わったー?」

 

 ドアの外から声を飛ばす鞠也ちゃん。

 しかし俺はどう見ても箒でゴミを集めていた。

 

「もうちょっとだから待って〜」

 

 ちりとりでゴミを集め、ゴミ箱へとそれを流し込む。黒板も綺麗にしたし、あとは机を元に戻すだけだった。

 皆で机を元に戻していき、やっとのことで掃除が終わる。

 

「終わったよ」

「じゃあはいっ。サインっ!」

 

 俺が掃除が終わったことを告げると教室の外で待っていた鞠也ちゃんが、その場で文化祭のCDとDVDを取り出して俺の前へと突き出した。

 

 薄々気づいていたが、教室の外にあったこの行列は俺もしくはしずはにサインを求めるための行列だったのだ。

 

 俺はカバンから筆箱を取ってきてサインペンを取り出す。

 そうして、まずはCDからサインしようとしたのだが――、

 

「あれ、サインって何書けばいいの?」

 

 前々からサインの話をしていたくせに、実際その場面になると何を書けば良いのか全くわからなかった。

 サインなんて今まで書く場面なんてなかった。

 

 するとすぐ横でしずはがサインペンでスラスラと奏ちゃんのCDにサインをしはじめていた。

 

「えっ!? しずは自分のサインとかあるの!?」

「別にないよ。自分の名前を英語で書いてるだけ」

 

 俺は奏ちゃんのCDを覗いてみた。

 するとそこに書かれていたのは『Shizuha Fujima』と書かれた文字だった。

 

 達筆というわけではないが、サインっぽい感じになっている字体になっていた。

 

「これがプロか……」

「まだプロじゃないんだけど……」

 

 プロは本番にも強い。こういう場面を何度も経験してきたので、いきなりのことでも決断力があるのだろう。

 

「じゃあ俺も英語にしとこうかな」

 

 しずはが英語なのに俺だけ漢字ってなんか変だしな。

 

 そうして鞠也ちゃんのCDとDVDに『Hikaru Kudo』と書き込んだ。

 

「ひかるありがとっ! じゃあ、しずは先輩もお願いしますっ!」

 

 すると俺のサインをもらった鞠也ちゃんと奏ちゃんが位置を取り替える。

 

「光流先輩もお願いしますっ」

 

 なんと奏ちゃんからサインを求められた。しずはのだけ必要かと思っていたがそうではなかったらしい。

 

「俺のでいいの?」

「はいっ! だって四人のバンドじゃないですか。四人にサインもらってこそです! このあと冬矢先輩と陸先輩のところにも行く予定ですっ」

 

 今まで奏ちゃんはしずは以外は目に入らない子だと思っていたが違うことがわかった。

 彼女には彼女なりの考えがあるらしい。

 

「じゃあ……」

 

 俺は奏ちゃんのCDとDVDにサインをした。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 深々と礼をしてくれた奏ちゃん。ずっと変わらずに小動物のように可愛い奏ちゃんを見ていると、自然と手が伸びていた。

 

「わっ……」

 

 俺の右手は奏ちゃんの頭の上に乗っていて、勝手になでなでしてしまっていた。

 あくまで俺の右手が勝手に動いたのだ。しょうがない。

 

「あっ、ごめん。つい」

「い、いえっ……全然大丈夫ですっ」

 

 本音なのかどうかわからなかった。

 

「あーっ! ひかる私にもしてよっ」

 

 するとそれを見ていた鞠也ちゃんがツインテールを揺らしながら頭を突き出してくる。

 

「はいはい……」

 

 鞠也ちゃんの頭をなでなでしてあげた。

 

 今日の俺はルーシーのこともあり、特に機嫌が良かった。なんでもお願いを聞いてあげても良いという気持ちになっていた。しかしそれが良くなかった。

 

 鞠也ちゃんと奏ちゃんがその場から去ったあと、次に待っていた子たちもサインだけではなくなでなでを要求してきたのだ。

 今思えば掃除をしたばかりで汚れている手で鞠也ちゃんと奏ちゃんの頭をなででしまっていた。

 

 それを他の子に言ったのだが、そのままで良いと言われてしまった。

 しょうがないので、そのままなでなでしてあげた。

 

 途中、今日は頭を洗いませんなんて子も出てきたが、さすがに絶対洗ってくれとお願いした。

 

 

「つかれた〜っ」

「教室の外までずらっと三十人はいたかなぁ……」

 

 俺としずはは教室の机に突っ伏していた。

 掃除を終えたばかりで疲れていたのに、さらにサインとなでなでまで求められた。

 疲れるのも当然だ。

 

「あれ、鞠也ちゃんが広めたのかなぁ」

「ありえなくはない」

 

 鞠也ちゃんが本当にサインをもらうことを広めたのかはわからないが、俺のことを普段から話しているようだったので、意図せず広まっていた可能性もある。

 

「これ、明日以降も続くのかな」

「勘弁してくれ……」

 

 せっかく手にとってくれたんだから、サインくらいはしてあげたい気持ちはある。

 ただ、人数が多すぎるのも困りものだ。

 

 

「…………」

 

 

 数十秒、無言が続く。

 

 

「――私、ルーシーちゃんと友達になれると思う?」

 

 

 すると、教室には俺としずはしかいないからなのか、人がいる場所では言えない質問してきた。

 これは、もしルーシーが日本に戻ってきたらという前提の話だろう。

 

 

「今のルーシーなら……友達になれるんじゃないかな……」

 

 

 正直わからない。でも、自分でも変わったと言っていたなら新しく友達を作ることなんて容易になっている可能性もある。

 

「そう。ルーシーちゃんがそう思ってくれても……私は受け入れられるかわからないな……」

 

「…………」

 

 好きな相手が好きな人と友達になるということ、それは残酷なことなのかもしれない。

 

「ルーシーちゃんと仲良くなれなくても、許してね……」

「ううん。それはしょうがないよ……」

 

 それは強制することではない。

 ただ、思うことは――、

 

 

「でも……最後には仲良くできると思うな。根拠はないけど」

 

 だって、俺が大切だと思える人は、全員が全員、良い人だから。

 ぶつかり合うようなことがあったとしても、いずれ仲直りして友達になれる。

 

 例えそれが恋敵だとしても――。

 

 

「去年の文化祭の時、言ったよね。私、ルーシーちゃんにとっての嫌な女になるかもって」

「うん……」

 

 ルーシーと再会した時、俺の近くにはしずはがいて。ルーシーがもし俺を想っていたとしたら、それを見てどう思うかという話だった。

 

 ただ、そのためにしずはを遠ざけるなんて選択肢は俺にはできない。

 だから、ルーシーにはちゃんとしずはのことも伝えようとは思っていた。

 

「嫌な女ムーブしてたら、光流が私を拒絶して良いんだからね」

「だからそれは言っただろ。そんなことできないって」

「光流を嫌いになる要素が欲しい……」

 

 俺は考えた。嫌われたくはないが、どうすれば人に嫌われるのか。

 やっぱり下品な人って嫌われるよな。なら――、

 

「しずはの前で大きなオナラするとか?」

 

 百年の恋を覚めるというやつだ。 

 

「いや……それはっ……ふふっ……嫌いに、なるかもっ……ふふふっ。笑わせないでっ」

「結構真面目に言ったつもりだったんだけど」

 

 なのにしずはは笑いを抑えきれないのか、体を小刻みに震わせていた。

 

「知ってた? 大好きな人って、ちょっとやそっとじゃ気持ちは揺らがないんだよ。どうせ光流はそんなことしないんだから」

「しないけどさ……」

 

 俺だって、ルーシーが何か変なことをしても、すぐに嫌いになるなんてことはないだろう。

 それも含めて好きになれる自信があるから。

 

 

「あーあ。ルーシーちゃん羨ましいなぁっ」

 

「………」

 

 コメントしづらい。

 

 

「帰るっ!!」

「痛ぁっ!?」

 

 するとしずはが立ち上がったと思ったら、俺の頭をバシン叩いて教室の外へと逃げていった。

 

「なんなんだよ……」

 

 でも、この行動の意味も今では少しだけわかる。

 しずはなりの照れ隠し、どうしようもない心のやり場。そういうモヤモヤが今のような態度になっているのだ。

 

 

「ルーシーとしずは。二人が出会ったら、どうなっちゃうんだろ……」

 

 

 もし二人が出会ったとしたら、仲良くなれるのだろうか。それとも仲良くなれないのだろうか。

 仲良くなってほしいけど、複雑な心境になるかもしれない。

 

 まだ見ぬ未来に思いを馳せながら、俺はカバンからヘッドホンを取り出し、首にかける。

 そうして、一人で教室の外へと歩き出した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 二日後、テストの結果が出揃った。

 まだ学年順位は出ていないが、俺のテストの点数は全ての教科で九十点以上だった。細かく言えば九十三点以上、百点も二教科あった。

 

 正直、今回はいけるのではないかと思った。

 あとは学年順位の紙が配られる来週の三者面談を待つこととなった。

 

 

 

 …………

 

 

 

 誕生日にルーシーからの手紙をもらってから今日までの四日間。

 毎日、ルーシーへの返事の内容をずっと考えていた。

 

 ただ、ルーシーから伝えられた内容があまりにも衝撃的で、なかなか内容がまとまらなかった。

 

 

「――はい、これ光流に」

 

 

 そんな日の放課後。学校から家に帰ると、靴を脱いで玄関から上がったところで母から一つの封筒を渡された。

 

 

 ――エアメールだった。

 

 

「!?」

 

 

 思い当たる人物は一人しかいない。

 

 

 差出人を確認――――ルーシーだ。

 

 

「っ…………」

 

 

 名前を見るだけで嬉しさが込み上げる。

 

 俺はその場ですぐに中身を開けて手紙を取り出す。

 すると封筒に入っていたのは、たった一枚の手紙だった。

 

 しかし、つい先日手紙をもらったばかりなのに、なぜまた手紙がきたのかよくわからなかった。

 

 俺はその手紙に目を通した。

 

 

『――光流へ。十二月二十四日の十七時。私達が初めて出会ったあの公園で待ってます。もし、光流の時間が空いていて、私に会っても良いと思ってくれるなら、来て欲しいです。いつまでも待ってます。ルーシー』

 

 

「――え?」

 

 

 あの公園に……来る? ルーシーが?

 

 

「うそ……うそっ?」

 

 

 誕生日にもらった手紙に引き続き、衝撃的な手紙だった。

 その場で棒立ちになってしまい、混乱が頭を支配していた。

 

 あの手紙では、いつか会いに行くという文面ではあったが、それがいつなのかはわからなかった。

 しかし、今手元にある手紙はクリスマスイブの日に日本に来て会うということが書かれた文面になっていた。

 

 すぐに追加で送られてきたということは、ルーシーの心境が何か変化した出来事があったのかもしれない。

 踏ん切りがつかないルーシーの背中を誰かが押した……とか。

 

 

「――光流、ちゃんと応えてあげなさい?」

 

 

 母が優しい声音で俺に声をかける。

 手紙の内容は知らないはずだが、母の言葉は手紙の内容に対して正しい答えのように聞こえた。

 

 

「うんっ……うんっ……」

 

 

 俺がそう返事をすると、母は「よし」と言い満足した表情でリビングへと戻っていった。

 

 

 会える……会えるんだ!

 一ヶ月後にルーシーに会えるんだ!!

 

 心臓の鼓動が高まり、手紙を持つ手が震える。

 誕生日の出来事だけでも信じられないほど嬉しい気持ちになったのに、またすぐに嬉しい気持ちにさせてくれる。

 

 ルーシー、君はどれだけ俺を喜ばせれば気が済むんだ……。

 

 

 俺は家の階段を駆け上がり、自分の部屋へと飛び込んだ。

 カバンを床に置いて机の前に座ると引き出しに仕舞っていた便箋を取り出す。

 それを机の上に広げ、ペンを持って手紙の内容を書き始める。

 

 

 直接会えるなら、手紙で聞く必要はない。

 聞きたいことは会った時に聞けば良いんだ。

 

 なら書くことは簡単――もう決まってる。

 

 ルーシーへの感謝。エルアールや病気が治ったことについて驚いたけど嬉しかったということ。

 そして――、

 

 

 ――クリスマスイブの日にあの公園に行くということ。

 

 

 俺は手紙を書ききるとそれを母に渡した。

 翌日は朝から学校なので、すぐに手続きをしようとしてもできない。なので、母にエアメールの手続きをお願いすることにした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「――なんかあったのか?」

 

 翌朝。俺は冬矢に一緒に登校しようと予めメッセージしておいた。

 

 話したい内容はもちろん昨晩のこと。

 

 いつもの並木道を二人で歩いていく中、俺は冬矢にルーシーから追加で手紙が来たことを話す。

 

「クリスマスイブにルーシーと会えることになった……」

 

 俺は冬矢に言いたかったことを恐る恐る口ずさんだ。

 

「あ〜、もう驚かねーぞ!」

 

 しかし、冬矢の態度は先日の時とは違っていた。

 もう十分に驚かされたからか、彼には耐性ができていたようだ。

 

「そ、そう……」

「で、なんだって……?」

 

 あれ?

 なぜか再度聞いてくる。俺は再び同じようなことを言った。

 

「ルーシーが一ヶ月後に日本に来て、クリスマスイブに会うことになった……」

 

「…………」

 

 数秒、冬矢がその場で立ち止まり、黙り込む。

 そして――、

 

 

「――嘘だろ! マジかよ! お前うまく行き過ぎだろっ!!」

「だからさっき言ったじゃん」

 

 最初に言った俺の話が耳に入っていなかったのか結局驚いていた。

 情報過多だったのか、ルーシーの話は耳にいれるにも大変なようだ。

 

「いや……この五年間の空白があるから、うまく行くのが遅すぎたとも言えるのか……」

 

 冬矢が顎に手を当てて一人で呟き始めた。

 

「とりあえず良かった! 今年はクリスマスパーティーはなしだなぁ」

「あっ……そっか」

 

 去年は冬矢の家でクリスマスパーティーをした。

 ルーシーと会うなら、そういう会も開けないだろう。

 

 というか、俺がいなくても開催はできそうなのにそう言ってくれているということは俺がいないと開催しないということだろうか。

 

「まぁ二十五日は空いてる可能性もあるけどさ、ルーシーちゃんがいつまで滞在するかわからないだろ? ならもっと会う時間あるかもしれない。そのために時間はいくらでも空けておけよ」

 

 ルーシーの手紙にはいつからいつまで日本にいるのかということは書かれていなかった。

 しかし、ずっと日本にいるわけではないと思う。

 

 もしルーシーに二十四日以外にも時間があるなら……また会う機会もあるだろうか。

 

「冬矢の言う通りかも」

「あぁ。だから余計な予定は入れるなよ」

 

 そう言われなかったら、二十五日にクリスマスパーティーしようよなんて言っていたかもしれない。

 ルーシーをその場に誘うという手もあるが、それはルーシーが求めていることではないと思う。自分よがりな考えではルーシーを喜ばせることなんてできない。

 

ルーシーの予定はまだわからないが、空けておくに越したことはない。

 

「そうだ。クリスマスプレゼントも考えておかないと……」

「それは大事だ。時間はまだあるからちゃんと用意しとけよ」

「うん」

 

 冬矢に話すことで、これから先やっておくことが明確になってくる。

 

 クリスマスまで一ヶ月を切っているし、何をしておくべきなのか。恋愛先駆者の冬矢に色々と聞きまくろう。

 

 

 学校への道のりを歩きながら、首にかけているヘッドホンに軽く触れる。

 ヘッドホンを通して間接的にルーシーを感じている気持ちになる。

 

 エルアールのサムネイルから、ふんわりとルーシーの姿はわかる。

 でも、画面越しじゃない本物のルーシーを感じたい。

 

 今の君はどんな姿で、どんな性格で、どんな顔をしているのだろう……。

 

 俺たちが出会った始まりの場所。

 あの公園は今でも変わらないまま。

 

 話したいこと、話すべきこと、いっぱいある。

 あの綺麗な声でルーシーからもたくさん話を聞きたい。

 

 俺の知らない五年間の君はどう過ごしてきたのだろう。

 アメリカではうまくやれていたのかな。友達、できたのかな。

 

 

 

 

 ――ルーシー、早く会いたいな。

 

 

 

 

 

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