包帯令嬢の恩返し〜顔面難病の少女を助けたら数年後美少女になって俺に会いに来た件〜   作:pelca

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第144話 前日

 終業式の日。

 

 今日は四時間授業だった。

 三時間目までは通常の授業、最後の四時間目に終業式が行われることになっていた。

 

 いつも通りに授業を済ませると全員揃って体育館へと向かう。

 校長先生の話や冬休み中の注意事項などを生徒指導主事の先生から聞かされ、終業式が終わる。

 

 最後にホームルームで担任の牛窪先生からの話を受けて、今日の学校の日程が全て終了した。

 

 

 ――つまり、この瞬間から冬休みに突入したのだ。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 どんよりとした灰色の曇り空。

 ほんの少しだけ青空も見えるが、全体的に空は雲で覆われていた。

 

 しかしこの雲は、悪い意味での雲ではないと思っている。

 今にも雪を振らせてやるぞという気概を感じる曇り空。

 

 俺には雪に何か思い出があるわけではない。でも明日雪が降るなら、その雪は特別なものになるかもしれない。

 

 

 終業式のあと、俺は冬矢と二人で下校していた。

 彼と一緒に見ておきたい場所があったからだ。

 

 アスファルトの歩道をしばらく歩いて行くと見えてくる場所。

 

 もう、ここには何度来たかわからない。

 恐らく目を瞑ってもここに辿り着ける、そう言えるくらい通った場所だ。

 

 

 周囲は木々に囲まれ、入口の両サイドにはレンガ調の低い壁。

 砂場にブランコ、鉄棒に滑り台にジャングルジム。

 

 様々な遊具がある中、一際目立つのがドーム型遊具。

 

 

 ――ここは、俺とルーシーが出会った公園。

 

 

「明日、本当に来るんだよな」

「うん。必ず来る。……約束したんだから」

 

 冬矢が最後の最後に、少し心配したようにそう言った。

 あの手紙と動画。俺は来ると信じてる。だから俺も何があってもここ来なくてはいけない。

 

「冬矢、付き合ってもらって悪いね」

「気にすんな。俺たち何年の付き合いだと思ってんだ」 

 

 このセリフも何度言い合ってきたかわからない。

 冬矢にお世話になる度にこんな会話になる。

 

 本当にここまで長かった。

 

 彼がいなければ、俺は今ここに立っていなかったかもしれない。

 冬矢だけではないけど、俺の背中を押してくれたのはいつも冬矢だった。

 

 その事を思うと、やはり彼なしでは辿り着けなかった場所だ。

 だから、彼への感謝の意味も込めてこの場所に連れてきた。

 

 

「ルーシー。必ず行くからね……」

 

 

 俺は最後に一言だけそう呟いて、公園を後にした。

 

 

 

 ――そんな時だった。

 

 

 

 公園に背を向けた光流のすぐ後ろ。

 冬の冷たい風に乗ってふわりと何かが飛んでいった。

 

 

 それは、この曇り空の中でも強い印象を持たせる細い糸のようなもの。

 するとその糸は風に煽られ、バッと空高く舞う。

 

 空の彼方へとぐんぐん上昇していく糸は、雲と雲の隙間に見える小さな青空に向かって消えていく。

 

 そしてその糸が青空の下まで飛んでいくと――、

 

 

 ――明るい太陽に照らされ、綺麗な金色に光り輝いた。

 

 

 

 …………

 

 

 

 公園からの帰路。

 冬矢と二人で歩いている途中、一つ質問をしてみた。

 

 

「――冬矢は明日、予定あるの?」

「あ〜、少しだけな」

 

 一応あるらしい。

 その予定は女子と過ごす予定なのか、それとも違うのか。

 はっきり言わないところからしても、話したいわけではなさそうだった。

 

 ただ、冬矢の手には去年から使い続けているものが装着してあった。

 クリスマスパーティーのプレゼント交換で深月が用意した手作りの手袋だった。

 

 深月が持っている手袋は冬矢が用意したものだとは深月本人に教えたが、冬矢には深月が用意したものだとは教えていない。

 それを知ってか知らずかはわからないが、冬矢は今年もその手袋をつけていた。

 

 深月を誘ったりしてないのかな……。

 そう思うものの、二人きりだとわかれば深月は行かない気がする。

 

 

「――明日寝坊すんなよ」

「もちろん――というか十七時だからさすがに寝坊とかはないと思うけど」

 

 昼寝をして寝坊するなんて最悪だ。

 眠たくならないためにも、今日はしっかりと睡眠時間を確保したい。

 ただ、既に心臓がバクバクしていて全く眠れそうになかった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 夜、リビングでの夕食の時間。

 

 俺の大好きな料理の一つである豚汁を啜る。

 

「あったけ〜」

 

 豚汁が外で冷えた体の芯まで温めてくれる。

 

「明日は雪らしいね」

 

 姉がエビフライを一つ箸で掴みながらそう呟いた。

 

「雪なら交通機関が大変なことになりそうだなぁ」

 

 父は職場までの通勤は電車移動。

 その為、交通機関について不安がるが、明日は土曜日なので父の仕事も休み。気にするほどではなかった。

 

「東京の電車はすぐ止まるもんねぇ。北海道なんかこの程度じゃ止まらないのに」

 

 そう呟いたのは母。

 母の生まれは北海道だ。母の両親でもある俺の祖父母は現在も北海道に住んでいる。

 ちなみに母はこちらに移り住んでからは長いので北海道弁も消えている。

 

 俺も北海道へはなかなか都合がつかず久しく行っていない。

 母の実家の場所が富良野ということもあり簡単には行けない。東京からの移動と考えると移動時間だけで大変なことになる。

 

 行った時期も俺が本当に小さな頃であり、記憶も曖昧。

 ただ、これまでテレビ通話を通して顔を見せたりはしていたので、祖父母が元気なのは知っている。

 

 話は戻るが、北海道の電車は雪ではそうそう止まらないらしい。

 聞く話によれば、線路自体に除雪設備が備わっており、圧縮空気での氷塊の吹き飛ばし、ヒーターでの融雪装置などもあるらしい。

 ただ、その全てを設備に頼ることはできず、長い線路の除雪のためには多くの人員が割かれるそうだ。

 

 そういえば、ルーシーはどうやって公園まで来るのだろう。

 ルーシーの実家の場所がどこにあるのかも知らないが、いつも彼女は車移動だった。それなら今回もそうかもしれない。

 

 雪が降ることでの車への影響はどうなるのだろうか。

 ともかく無事に辿り着いてほしい。

 

 

「――光流、明日はちゃんとシャワー浴びてから行きなよ」

 

 豚汁を啜っていた姉が明日、俺がルーシーと会うことを話題に出す。

 もちろん家族全員が明日のことを知っている。

 

「身綺麗にしなってことね」

「そうそう。臭いって言われたくないでしょ?」

 

 今まで誰にも臭いとは言われたことがないので、大丈夫だとは思うが……。

 

 そもそも俺には一日に二度お風呂に入る習慣がある。

 

 朝起きた時には、どうしても寝汗が気になるので必ずシャワーを浴びる。

 ただ、朝のシャワーでは軽くボディソープをつけて体は洗うが、髪は寝癖をとるためにお湯で流すだけ。

 どこかで洗いすぎは良くないと聞いたことがあるので、基本的に髪を洗うのは夜だけにしている。

 

 一方の夜は、体の隅々まで洗うことはもちろんのこと、できるだけ浴槽に浸かっている。

 シャワーだけの時よりもずっと疲れがとれるのだ。

 今の時期なんて、シャワーだけでは体が全く温まらない。体の芯から温まるにはやっぱり浴槽に浸かることが一番だ。

 

「明日の夜の予定はわからないんでしょ?」

 

 姉に続いて母がそう聞いてくる。

 

「うん。いつ戻るかもわからないけど、連絡は入れるね」

 

 ルーシーと再会しても、その後どうするかわからない。

 わかっているのは十七時にあの公園で会うということだけ。

 

「大事な日なんだから、ゆっくりしてきなさい」

「ありがとう」

 

 

 

 …………

 

 

 

 夕食を済ませ、少しだけ受験勉強。

 筋トレを行ったあとにプロテインを飲み、気分転換に軽くギターに触れる。

 

 いつもと同じようなルーティンを行い、夜の時間を過ごした。

 

 お風呂に入って髪を洗う時、浴室にある鏡で自分の顔を見る。

 少しだけ長くなってきた前髪が気になった。

 

 明日は髪型どうしよう……そんなことを考えながら、シャンプーを髪につけて泡立てる。

 基本的には髪型なんて変えたこともなく、ヘアセットもこだわりはない。

 

 だから結局はいつもと同じ髪型になると思うが、ルーシーに会うとなると急に自分の見た目が気になりだす。

 

 温かい浴槽に体を入れ、首から下を浸からせる。

 俺が浴槽に入ったことでその分、少しだけお湯が溢れて、排水溝へと流れていく。

 

 ルーシーに会うと決まってから二週間ほど時間があったが、今になって何を話そうかわからなくなっていた。

 話したいことがありすぎて、一つに決められない。

 

 明日はどれくらい一緒の時間を過ごせるのだろう。

 どうあれ、できるだけ長く一緒に過ごしたい。

 

 浴槽に浸かっているというのに、体や手から汗が出ているような感覚になる。

 体の内側がきゅっとなり小刻みに震え、ずっと緊張状態だった。

 

 お風呂から上がると体の水滴をタオルで拭き取り、ドライヤーで髪を乾かす。

 パジャマを着ると軽く水を飲んで、歯磨きをする。

 

 寝る準備が整う。

 俺は部屋の電気をリモコンで消した。

 

 

「本当に明日なんだ……」

 

 

 お風呂に入った影響で体はまだ火照っているが、そのままベッドに横になり一人呟く。

 

 

「ルーシー……」

 

 

 ちゃんと話せるだろうか、ちゃんと名前を呼べるだろうか。

 

 

 しばらくベッドで横になっていると、ずっと落ち着かなかった心臓の鼓動が徐々に落ち着いていく。

 それと同時に意識が薄れていった。

 

 

「何があっても……公園に……」

 

 

 うわ言のように微かな声で呟く。

 そして――、

 

 

 

 ――俺はいつの間にか眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

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